DJを軸にマルチに活躍するLicaxxxとWONKのリーダー/ドラムスである荒田洸の二人が、リスペクトする人を迎える鼎談連載。第十五回はお笑いコンビ、ラランドのサーヤを迎える。音楽好きで、Licaxxxとは渋谷のクラブで初対面していたり、個人事務所の設立、会社員との二足の草鞋と、思考/生き方としては近いものがあるこの三人。時代感も透けて見える、軽やかで鮮やかなやりとりをどうぞ。
EYESCREAM誌面には載りきらなかった部分も含めて完全版でお届けします。
新しい学校のリーダーズにハマっている
Licaxxx:音楽の話からしていいですか。結構いろいろと聴いているイメージがあるんですけど、どうやって音楽を探すんですか?
サーヤ:基本、AIに侵食されている。SpotifyもYouTubeもレコメンド機能がどんどん精度上がってきているので、流れてきたものは無作為に全部聴く。数打ちゃ当たるというか。あとは友達に教えてもらったものをめっちゃ聴いています。
荒田:結局、友達にレコメンしてもらうといいですよね。レコメンド機能ばっかりだと視野が狭くなってくるじゃないですか。
Licaxxx:たしかに。絶対好きだけど、新しい感じはないもんね。
荒田:いまハマっているのは?
サーヤ:最近だと、女性シンガーのUMIとか、Audrey Nunaという女性のラッパーもよく聴いています。TikTokで流行った曲も、一回フルで聴いてみるようにしていたり。切り取られているのはほんの一箇所だけど、「Aメロ意外といいな」とか発見もある。食わず嫌いをしないように、なるべくなんでも聴くようにしています。
荒田:AIに侵食されないように。
サーヤ:はい。あと最近、新しい学校のリーダーズにもハマっています。曲もダンスも全部かっこいい。MVもイカついし。
Licaxxx:お、同じ事務所です! みんな小さい頃からやってきていたなかで〈88rising〉に見つけられて世界進出中。現在レーベルは〈88rising〉。
サーヤ:YouTubeのコメント欄を見ていても、海外のファン層も厚いし、日本人ファンもめっちゃいますもんね。
荒田:そうなんだ。「TikTok見てます」って言っておいてください。
「やっぱいいよね、その働き方」「ほらな」
荒田:個人事務所を立ち上げたんですよね。
サーヤ:はい。マネージャーは、大学時代の、別の大学のお笑いサークルの同期の人に。
荒田:WONKも、大学の頃からつながりのある人にマネジメントをしてもらっている。音源の権利の管理も、自分たちでレーベル〈EPISTROPH〉を主宰して、株式会社としてやっている。だから思想がめっちゃ近いなと。大手に所属しない理由はあるんですか?
サーヤ:大学のお笑いサークルで、デカい大会で結果を出すと事務所からスカウトが来たりするんですけど、話をするとあまり噛み合わなくて。私は、会社員をやりながら芸人もやりたかったので、そこも含めて考えが合わなかった。いまは伸び伸びとできています。
Licaxxx:会社員と同時にやりたいというのは私も近い。私も、“Licaxxx”としてASOBISYSTEMにマネジメントしてもらっているけど、いち社員としてASOBISYSTEMで働いてもいる。
サーヤ:そうなんですね。じゃあ同じ宗派だ。
Licaxxx:宗派(笑)。そうだね。
荒田:WONKのベースの井上幹も、平日は会社員として働いているから、(二足の草鞋という働き方は)当たり前な感じもある。
サーヤ:そうっすね、こっちがメジャーでいいですよね。マイノリティー感を出されるけど。初期の頃は、平日に働いて土日にお笑いライブに出て、という生活だったけど、べつに大変じゃなくて。平日の鬱憤が土日に発散されるから。土日スベっても「私、会社員やってるしな」って持ちこたえられるし、会社でなにかあっても「まあでも芸人だからな」って思える(笑)。そうやって逃げ道があるから、ストレスが分散される気がします。
荒田:いまも会社員はやっているんですか?
サーヤ:はい。いまは転職して、めっちゃ働きやすい会社に在籍しています。リモートで全部やっています。午前中に会社の提案書をつくって、そのあとテレビの収録にいく、みたいな感じだったり。
荒田:働き方としてはいまの形が理想的ですか?
サーヤ:そうですね。コロナ前は向かい風だったんですけど、コロナを経て、芸人仲間もみんな仕事失っていったときに、「やっぱいいよね、その働き方」って急に180度、風向きが変わった瞬間があった。あれは忘れられない。
荒田:変わったとき、どう思いました?
サーヤ:「ほらな」って。
(一同笑)
仕事を選ぶとき、金額と熱意は大事
Licaxxx:時代によって、笑うポイントが変わってきているけど、そこの苦労はありますか?
サーヤ:ここ数年の“誰も傷つけない笑い”というのは、違うなと思っています。その人たちだけに向けてやっているのかと言われるとそうではないので。もともと、毒舌とか毒蝮スタイル的な、けなし笑いもありつつ、優しい笑いもありつつ、いろいろ共存していておもしろいね、だったのが、いまはどんどん淘汰していく形になっている。もちろん、配慮は必要。お笑いって男尊女卑が激しい業界だとは思うので、それが矯正されて、あるべき姿に戻っていくのはいいんですけど。なにを言っても傷つく人はいるなって。あとはそれをどれだけ和らげるか。女芸人に「ブス」って言うことはなくなったけど、相方はハゲいじりめっちゃされているのを見ると「何が違うんだろう?」っていつも思う。
Licaxxx:テレビだと、早い時間帯と深夜帯ではネタも変わるわけじゃん。
サーヤ:そうですね。早い時間帯だったら優しめのネタをしなきゃいけなかったりもする。そこはうまくチューニングしたいなと思っていて。だから、今年3月に個人事務所を立ち上げたのと同時に「大阪進出します」という宣言をした。東京の番組だけだと、やりたいことをやれてないことが多すぎたから。ボケシロを一切与えてくれない、淡々とモノを紹介するロケ撮影だとか、私たちがする必要ないなって。大阪だと、逆にボケないと「大丈夫?」って言われるような環境だから。そこでちゃんと結果を出してから早い時間帯に上がれたらと思っています。
Licaxxx:乗っかるメディアに対して、そういうことを考えながら取捨選択しているのはすごく感じる。
サーヤ:それは事務所に入ってないメリットかもしれない。
荒田:自分たちで全部、度合いを決められる、という。
サーヤ:はい。それは助かっていますね。最近思うんですけど、アングラの人たちが売れたときの“すんっ”ていう、あの空気感にどう立ち向かっていくかで、その人の技量が出るなって。音楽もそうだと思うんですけど。技術で黙らせるタイプなのか、とにかくデカい仕事をちゃんとこなしていって有無を言わさずみたいなタイプなのか。それとも、まぐれで当たっちゃって売れちゃったけど、案外うまくいかなくて、消費されるだけでファンも離れていっちゃうパターンか。とくに芸人は賞レースでそれがあるけど、一方で「売れてない人のなかからおもしろい人を発掘する大会」みたいな空気感が流れているのもよくないなって。売れている人も売れてない人も、一緒になって争って、そのなかでおもしろい人を決めるからいいのに。売れてない人を正義にしてしまっている。
Licaxxx:そうかもね。
サーヤ:ちなみに、仕事の選び方って意識します?
Licaxxx:めっちゃあるね。
サーヤ:自分でやっている人って、そこの感覚はみんな鋭いですよね。ニュアンスで仕分けできてきますよね。企画書とか、ぱっと見で。
荒田:気合いを感じるのはあるよね。
サーヤ:そうそう。熱量も見ますよね。とりあえず呼ばれているやつと、絶対に出てほしくて書いているやつとで伝わってくる熱量は違いますよね。
Licaxxx:うん、全然違う。“THE 仕事”のときはやっぱり金額と熱意を天秤にかけて見るよね。カラダは一個なので。
サーヤ:ほんと、金額と熱意は大事ですよね。