藤井道人:けむりのまち
第十一回『ほしとすな』一問一答

Photography_Saki Yagi
Text_Michihito Fujii

藤井道人:けむりのまち
第十一回『ほしとすな』一問一答

Photography_Saki Yagi
Text_Michihito Fujii

日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第十一回は、恒例となった一問一答。藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。

あともう少しで2023年も終わりますね。皆さんにとって2023年はどんな一年でしたか?僕にとっては、とても素敵なこともありましたが、とても悔しいことも沢山あった一年でした。でも毎年新年が来ると思うんです。「今年こそはいい年になる気がする」って。『最後まで行く』の工藤祐司のように。そういえば、『最後まで行く』Netflixで週間1位をいただいたようで嬉しいです(12月10日現在)。年越しに、お酒を飲みながら、笑いながら見てください。そして、一緒に来年に想いを馳せましょう。『攻殻機動隊』も3週連続でミニシアターランキング1位との報告を受けました。こちらも観てくださった皆様、ありがとうございます。
それでは、質問コーナーに移りましょうか。

ー広島国際映画祭で流星くんとのトークショー拝見させていただきました。久し振りに流星くんとお話できていかがでしたか?あの後、2人で広島の美味しいもの食べられましたか?

トークショー、見てくださりありがとうございました。広島国際映画祭は毎年の恒例行事になっていますが、また来年もお会いできること、楽しみにしていますね。流星はあの時も撮影中だったので、日帰りで帰ってしまいましたが、トークショー後に美味しいイタリアンを食べました。胃を壊していた流星も、美味しい!とはしゃいでいました。

ーまもなくオリジナル脚本作品が発表されるとのことですが、オリジナルを思いつくのはどんな時ですか?また、アウトプット量の半端ない日々と思いますが、インプットはどのようにしていますか?

そろそろ発表されるオリジナル脚本は、大切な人を失ったときに3日で書き上げた脚本です。僕は、無理をしてインプットをしたりすることが得意ではないので、好きなものを好きなだけインプットしています。好きな人と付き合って、好きな人と沢山話します。映画の話、社会の話、税金の話、健康の話、下世話な話、未来の話。この全てが僕のインプットになっていて、それを意図せず脚本に反映されているのかなと思います。ヒットしているからとか、流行だからとかを重視せず、自分が観たいもの、聞きたいものを信じている感じです。仕事ではどうしても苦手な人とも会ってしまいますが、あまり気にせず、シナリオハンティングだと思って接しています。あと、「無理をしない」をとても大切にしています。

ーもし藤井さんが、世界の誰とでも対談させてあげるよ、と言われたら、誰と対談したいですか?亡くなった人でも可。

今、木村大作キャメラマンと仕事をしているから、というのはありますが黒澤明さんと話したいです。映画の話をお酒を飲みながら、色々と映画製作のことを聞いてみたいです。映画人の先輩の話を聞くのが、何よりも楽しいです。生きている人だったら、ユ・アインですかね。大ファンだったので。薬物問題があったときに供述で「合理化の沼に落ちた」と話していたのが、すごく心に残っていて、同い年として是非話してみたいです。

ー今回、北陸を撮影地に選んだのはなぜですか?撮影地を決める時、一番大事していることはなんですが?今まで撮影したロケ地で一番大変だった場所はどこですか?またもう一度撮影したい地はありますか?

北陸を選んだのは、キャメラマンの木村大作さんです。大作さんは、富山で10年以上撮影をしているんですよね。なので、知らないところはない!という感じでした。脚本に見合ったロケ地を僕が決める前に想像して提案してくれるんです。そのやり方は初めてでしたが素晴らしいなと思いました。普段は、原作ものならなるべく忠実に、オリジナルなら自分の足で回ってみて決めます。
今までで一番大変だったのは、『デイアンドナイト』の秋田県ですね。本当に寒くて。でもその分、秋田の人たちは心が本当にあたたかくて。撮影の時は本当に親切にしてくれました。いつか、もっと明るくて楽しい映画で再びお邪魔したいですね!笑

ー本当に監督は何人いるんだろうと思います(笑)が、何かを撮影している間にも次やその次の作品を考えたり脚本を書いたりしているのでしょうか?わからなくなったりしませんか?

そうですね。今日は、撮影が休みの日でしたが、撮影の予習を終えるとほかの作品のZOOM会議が連続で入ります。監督作品、プロデュース作品、脚本開発などなど。でも、全く辛いとか「ふー、俺、忙しいぜ、困っちゃう」みたいなことは無くて自分から進んでそう生きている気がします。仕事がないと、たぶんずっとNetflixを観ながらお酒を飲むか、寝ているかの人生なので。37歳になっても、夏休み終わる直前の小学生みたいな笑。急かされないと動かないんです気持ちが。

ー綾野剛さんとはプライベートでも現場でもたくさんの言葉を交わされていると思いますが、これまでに綾野さんから言われて一番嬉しかった言葉、忘れられない言葉をよかったら教えてください。

沢山の愛のある言葉をくれる兄貴ですが、「俺は、藤井道人が最高の作品をつくるためなら、何でもやりたい」と言ってくれたことですね。僕自身は、本当に大したことのない人間なので、こういう愛のある仲間たちに支えられて、今日も現場に立てています。

ーインタビューで、これからは若い人たちのプロデュースをしていきたいとおっしゃっていましたが、藤井さんにプロデュースしてもらって作品を作るためには、具体的にどのようにしたらいいのでしょうか?

まずは、会いたいですね!やはり、人間なので5回くらい会わないと、その人に情や興味が湧かないんです。ただ、僕も年の半分は地方にいるので、中々人に会う機会がなく、今その環境を整えているところです。僕以外にも、沢山の素晴らしい映画・ドラマのプロデューサーがいると思います。何気ないご縁が、ぐるぐると回ってお会いできる日が来るかもしれませんね。楽しみにしています。

ーいつも私たちを沢山楽しませて頂きありがとうございますっ!!難しい質問が多いと思うので。息する事も忘れるくらいにずーっと突っ走って来ている藤井監督。藤井監督の今の1番の『癒やし(心休まる事)』って何ですか??

今の一番の癒しは、撮影後のスタッフとのお酒の席と、帰って寝落ちするまで見る映画やドラマです。最近はディズニープラスの『マーダーインザワールドエンド』に恋をしました。弊社はNetflixと契約しているので、もちろんNetflixへのリスペクトが最も強いのですが、最近の海外のディズニープラスの作品の力が凄いです。『ビジランテ』もなんだか『アバランチ』みたいだな笑。って見てましたが面白かったです。Apple TVは一番お金かけてるんじゃないですかね。映画クオリティの凄い作品を連発している気がします。結局、癒しすら、映像のことなんですよね。つまらなくてごめんなさい。

ーお好きな作家が伊坂幸太郎さんと伺って仙台在住の身としてはうれしいかぎりです。著作も映画も沢山ありますが、なかでも監督お薦めの伊坂作品は何ですか?PS.勿論、映画『オー!ファーザー』は鑑賞済みです。

小説だったら『終末のフール』ですね。映画化された作品だと『フィッシュストーリー』ですかね。僕は『オー!ファーザー』前から伊坂先生の大ファンでした。なので、デビュー作は嬉しさ半分と、先生とファンに嫌われたくないみたいな怯えがあったことも事実です。なんとか、もう一度伊坂先生と作品を作りたいな。なんて、贅沢な妄想をする日々です。

ー藤井道人さんに質問したいことがあります。 彼の作品にはドラマがあり、見ていて楽しく、革命のように心を揺さぶります。 彼のアニメはまた、哲学的な方法で現在と未来を自分自身に問うように私に促します。 これらすべては、藤井道人氏が脚本・監督した『ブラック・ミラー』のエピソードを夢見る可能性があるかどうかという疑問につながります。(海外からの質問)

僕が『ブラックミラー』を監督できる日がやってきたとしたら、それは、人生にとって最良の日になることでしょうね。シーズン1からすべて見ています。まさに画期的な企画だと思いました。だからこそ、自分たちの手で『ブラックミラー』を超える企画を作りたい!という反骨精神が芽生えてしまうことも事実ですが。僕が『ブラックミラー』を監督することがあれば、その時は楽しみにしていてください。

ー監督は「名もなき一篇」を使った作品をいくつか発表していますがこの名前を使う特別な意味があるのかなと思っていて 教えていただきたいと思います。

これは、僕が大学を卒業して、「何者にもなれず東京で浮遊する青年」だったときに思いついたタイトルです。世の中で起きる大きな出来事に対して、自分の生活がとてもちっぽけに思えてしかたがなかった時期があって、でもそこで起きる小さな心の動きや出来事に、個人的に美しさを感じしてしまって。一杯180円のビール、奨学金滞納、自主映画、いつまで経ってもこない「いつか」。6畳一間で鬱屈してたときの感情を忘れたくなくて短編映画のタイトルに使っています。

ー既にどこかで答えられたことのある質問でしたら申し訳ございません。藤井監督の作品をきっかけに映画に興味を持ち、来春から映画関係のことを学べる大学に通う高校3年生です。大学生活の中で藤井監督がやってよかったと思うことや、やらなくて後悔したことなどありましたら教えていただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

まずば、僕の作品を観て映画に興味を持ってくれてありがとうございます。とても嬉しいです。大学生活の中で、やっていてよかったことはサークルに入って沢山の仲間に出会って、映画を沢山撮ったことです。やらなくて後悔したことは、授業に出ず、大人になってから観ておけば良かったと反省した映画が沢山あったことです。とはいえ、一日は24時間平等に与えられているものなので、そこまで後悔はしていません!映画製作において、大切なことは沢山あるし、人それぞれ違うと思いますが、僕が大事にしているのは映画として「どんな物語を描きたいのか」です。しかし、それと並行して、「撮り続けることでしか得ることが出来ない語り口や映像表現」があるということを身をもって知りました。失敗から学ぶことの方が、成功で得るものよりも多いと僕は感じているので、大学生時代は失敗したら「儲けた!」くらいの気持ちで沢山の作品を作ってください。大人になると、ミスや失敗が許されないこわーい世界が待ってますよ!(嘘です)

ー色んなメディアで答えられているかもしれませんが、藤井監督の2023年を振り返って如何でしたか?(できれば公私共に可能な限りで教えてください!)また、2024年に向けての抱負をお聞かせください。素敵なニュースがあることを願っています!

2023年は、冒頭にも書いたように、とても素敵なこともありましたが、とても悔しいことも沢山あった一年でした。映画産業に従事している身として、満足できる結果を出せなかった反省もありますし、悔しさもあります。ただドラマ「インフォーマ」がNetflixでヒットしたことや、横浜流星が「ヴィレッジ」で報知映画賞で最優秀主演男優賞を獲ったこと、台湾での映画撮影で最高の経験が出来たこと、「最後まで行く」が未だにNetflixで週間1位(12月10日現在)、「攻殻機動隊」のヒット、キャメラマン・木村大作さんとの出会いなど、沢山の作品・人に恵まれた一年であったと自負しています。ただ、まだまだ自分の実力不足を感じる一年ではあったので、来年は更に気を引き締めて精進していこうと思います。来年の目標は「心技体」ですかね。健康にも留意しながら、2024年も楽しんでいきたいと思います。何卒宜しくお願いいたしま。

少し早いですが、良いお年を。

※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。

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