MUSIC 2025.06.06

Live Report : 「lit 4th Anniversary」

text by Renya John Abe
EYESCREAM編集部

福岡のローカルシーンから発信を続けるパーティー「lit」が、今年もアニバーサリーイベントを開催

現在進行形のヒップホップを軸に、最新のダンスミュージックやアートを交差させながら発信を続ける福岡発のパーティーコレクティヴ、lit。そんなlitが今年もアニバーサリーイベントを開催した。4月25日、26日の2日間にわたり、昨年に引き続きUNITEDLABにて行われた「lit 4th Anniversary “LIVE SPECIAL”」には、国内各地から気鋭のアーティストたちが集結。2日間で総勢15組のライブアクトが出演し、ジャンルやスタイルを超えた濃密なパフォーマンスを繰り広げた。さらに、2日目の夜にはMAGIC SQUARE BUILDING 1-3FとThe Voodoo Loungeを舞台に、全4フロアにてALL NIGHT PARTYを開催。DJやライブアクトが朝まで途切れることなくプレイし、熱気に満ちた一夜となった。本稿では、そんな2日間超の模様をたっぷりとレポートしていく。

DAY 1: 4周年の幕開けは、JJJの面影とともに

4月25日(金)、平日ながらも開場時間から人が続々と集まり始める。まずフロアを温めたのは、litのレジデントDJ陣。YOSUKEによるスムースなプレイから始まり、現行のヒップホップやアフロビーツ、ジャジーなR&Bなどが心地よく流れ、都会の夕暮れにゆるやかに火が灯るように空気が動き出す。ライブアクトを迎える準備が整い、litらしい一夜が、ここから本格的に動き出す。

初日の先陣を切ったのはSkaai。「BEANIE」のファンファーレとともに堂々と登場し、フロアの空気を引き締めた。TRIPPYHOUSINGで見せていたシャウトも随所に織り交ぜ、個人の活動でも熱量を増した姿を印象づける。MCでは自身とlitの歩みにも触れ、「Nectar. (uin Remix)」ではバックDJ、uinの即興プレイに乗せて4周年を祝福。後半には新曲「Runaway」の先行披露もあり、理想的なトップバッターだった。

次に登場したのは、lit初出演のBonbero。uinプロデュースの「Flafla」をラップしながら現れ、観客のテンションをさらに押し上げた。途中にはSkaaiも再登場し、ステージ上で自然な連携を見せる。「Me vs. Me」や「Ringdidiringring」では鋭いスピットを響かせ、アカペラを差し込む構成力も光った。さらにCampanellaとともに、新曲「maishu」も先行披露。 ラストの「Karenai」まで一貫してストイックなライブを展開した。

SkaaiとBonberoの熱気を受けて登場したdodoは、肩の力が抜けた佇まいで静かに空気を変えた。派手さを排し、淡々と紡がれるリリックには、どこか生活の隙間を切り取ったようなリアルがある。「town」や「thanks」では観客が自然と手を振り、「haha」では感情がにじむシャウトも。MCでは急に饒舌な一面を見せて笑いを誘い、ラップとのギャップで会場を和ませた。現実と地続きの言葉が、そのまま身体に染み込んでくるようだった。

dodoの余韻に重なるようにJUMADIBAが登場。MCは最小限に留めつつ、「Spike!」や「Assaji」などで空気をじわじわと掌握していく。独特な言葉選びと余白のあるスペーシング、感情をくすぐるような声のトーンがフロアに心地よく響く。「Haku」や、Only Uとの コラボ曲「Chrome Hearts」といった新曲も披露し、観客を軽やかに揺らす。音の波に身を委ねるように、しなやかに泳ぎきったステージだった。

15分の転換を経て登場したMFSは、所作、ダンス、シルエットのすべてが音に溶け込み、冒頭から観客の視線を自然に引きつけた。「Mind」ではビート上で滑らかにラップと歌を行き来し、「Don’t」では全身を使って高揚を生み出す。「I DONT KNOW」ではこの日2度目となるCampanellaが登場し、息の合った掛け合いで場を熱くした。「BOW」の前にふとこぼれた一言、「私は元気だよ、1日ずつ楽しんでいきましょう」。その言葉は静かに心に残った。

MFSの熱をやわらかく引き継いだのはiri。クリアで伸びやかな歌声で「Pick You Up」から観客の身体を揺らし、バックDJ、TAARのスムーズなプレイで高揚感の流れも途切れない。 3月リリースの新曲「Butterfly」ではアコースティックな音像とともに雰囲気が穏やかに切り替わり、iriの表現の幅がにじみ出た。「Wonderland」では合唱が起こり、多幸感がじんわりと広がっていった。

初日のヘッドライナーを飾ったのはSTUTS feat. Campanella / KMC。MPC、鍵盤、歌と自在に行き来しながら、「ORANGE」、「心」と2曲続けてJJJのバースを噛み締めるようにビートを鳴らす。「Rock The Bells」から登場したKMCもJJJに追悼を捧げ、感情の波を叩きつけるようなラップで会場を震わせた。「Expressions」以降はCampanellaが本日3度目の登場を果たし、2人だけの新曲も披露。そして最後に演奏された「Changes」では、スクリーンにJJJとfebbが交互に映るMVが流れ出す。今回のパーティにて、VJとしてMVがそのまま使われたのはこの瞬間だけ。ストレートな演出が、深い余韻をフロア全体に残した。

DAY 2: オーディエンスもステージも最高潮、パーティムードが加速

2日目は、快晴。チケットはソールドアウトということで、UNITEDLAB前には前日を上回る列が伸びた。オープンと同時に、litのレジデントDJ陣がヒップホップを軸にウォームアップを展開し、徐々に埋まっていくフロアとともに、会場の一体感と期待感は確実に上がっていく。オーガナイザー/レジデントDJであるSHOTA-LOWの「DAY2最後まで楽しんでいきましょう!」の一声で、2日目が本格的に幕を開けた。

2日目の口火を切ったのは、福岡出身のラッパーBANNY BUGSだ。「A24」のイントロとともに登場するや、フロアは大合唱。代表曲を軸に走り回り、拳を煽り、全身で盛り上げる姿からは、地元の大舞台に立つ意志と勢いがはっきりと伝わってきた。ラストには、「DIE FOR YOU」のドリル調リミックスを先行披露。今後リリース予定のアルバム『UNVEIL』に収録される見込みだという。ステージを通して、そのアルバムタイトルがVJにさりげなく映し出されており、短時間ながら強烈な印象を残すライブとなった。

BANNY BUGSからの最高のパスを受け取ったのは同じ九州は長崎出身のKohjiyaだ。1曲目「Kick Back」から観客のシンガロングが起き、「KJ Season Freestyle」では本人が歌わずとも声が響く。「Naked Eyes」と「Denied」では初日に引き続き登場したBonberoとの息もぴったりだ。終盤にはポカリスエットのCM曲「99 Steps」も先行披露。ラップのスキルとステージング、所作のひとつひとつに、“若すぎるチャンピオン”と呼ぶにふさわしい風格が滲み出ていた。

Kohjiyaの余韻を断ち切るように現れたのはC.O.S.A.。「POP KILLERS」から空気は一変し、「Don’t like summer」では重く鋭いラップが会場を包む。ANARCHYとの楽曲「Reach」の自身のバースをアカペラでスピットする場面では、“JJJみたいに痛みをRec”というラインに、自然と歓声が上がった。ラストはJJJプロデュースの「LOVE」。破壊力と繊細さを兼ね備えたC.O.S.A.のライブが、会場に深く刻み込まれた。

10分の転換を経て登場したkZmは、「Aquarius Heaven」、「Super Sonic」と続けて軽やかに突き抜けるようなスタートを切る。「DOSHABURI」では観客がJUMADIBAのバースを歌い、フロアに大きな声が響いた。「帰り道がない」など清涼感あるナンバーで温度をゆるやかに調整した後、「Dream Chaser Remix」、「Sagging My Jeans」で再び全体を弾ませる。空気の波を巧みにデザインした30分だった。

そして、この日SHOTA-LOWのバックDJで登場したのが、Daichi Yamamotoだ。「Newtone」から「ヤバいな」、「Expressions」、「MYPPL」へと矢継ぎ早に展開。64小節を一息に蹴る「N64」ではラップ力が際立ち、「Taxi」ではJJJへのリスペクトが静かに滲んだ。MCでは観客からの「助けられてます」という言葉に対し、「こちらこそ」と返す一幕も。終始、クリーンで芯のあるライブが観客を優しく包み込んだ。

夜が深まるなか、SIRUPがステージへ。「Need You Bad」や「CHEESE CAKE」では無邪気な笑顔とともに柔らかなグルーヴを広げ、会場に明るい風を吹き込んでいく。「FINE LINE」では初日に続きSkaaiが、新曲の「OUR HEAVEN」ではDaichi Yamamotoが登場し、客演との自然な掛け合いも魅せた。後半は「GO!」、「See You Again」へとスムーズに繋げ、背伸びせず、軽やかに、SIRUPらしいスタンスを貫いた締めくくりだった。

lit 4th Anniversary唯一のバンド編成で登場したYo-Seaは、「Without you」で穏やかな波を作りながらライブを始めた。生演奏の厚みと、VJの鮮やかさが重なり、視覚と聴覚の両面からスイートな世界観が広がっていく。「Deep in」では甘いギターソロが、「TSUNAMI」では街の夜を思わせる映像と歌声が心地良く重なった。「Nana」ではDaichi Yamamoto、「Pretenders」ではC.O.S.A.が再登場。Yo-Seaの歌がもたらす包容力が、夜の会場を優しく満たしていった。

2日目の最後に登場したのはIOだ。ヘッドライナーとしての風格を漂わせながら、MELRAWの哀愁漂うギターに導かれるように、ゆっくりとステージに現れる。「左利きのBenz」や「AMIRI DENIM」では自然とシンガロングが起こり、Kohjiyaが登場した「Racin’」ではフロアの興奮がひときわ増していった。Yo-Seaもステージに戻り、「Your Breeze」、「Sunset」を披露。ラストは「City of Dreams」からの「Tokyo Kids」。IOの言葉に重なるように声を上げる観客の姿が、この2日間のライブの終わりを印象づけた。

終わりなきパーティー、深夜の福岡を揺らしたもうひとつのピーク

2日間に渡るLIVE SPECIALが幕を閉じたあとも、パーティは終わらない。昨年同様、会場をMAGIC SQUARE BUILDING 1-3FとThe Voodoo Loungeに移し、恒例となった4フロアのサーキット型パーティ「lit 4th Anniversary ALL NIGHT PARTY」がスタート。
今年は例年以上に各フロアのコンセプトとジャンルが明確に打ち出され、どのフロアでも異なるムードが楽しめる構成となっている。MAGIC SQUARE BUILDINGでは、1F「Groove」(HIPHOP/ R&B/Reggae)、2F「Unity」(DANCE/BASS/RAP)、3F「Wave」(HOUSE/TECHNO/ BASS)、そしてThe Voodoo Loungeでは「Energy」(LIVE/DANCE/HIPHOP)と題されたフロアが展開。
両会場とも、DJプレイとライブが入り交じるスタイルで、この大規模パーティのために集結したDJ/アーティスト40組以上が、福岡の街の夜をさらにもう一段深く染め上げる。23時を迎える前から、MAGIC SQUARE BLDGの2Fにはすでに人が詰めかけ、パーティへの期待感が視覚的にも感じられた。その空気を真正面から受け止めていたのが58だ。litのレジデントDJである彼は、ヒップホップを軸に、アグレッシブなキックでフロアを揺さぶるようなプレイを繰り広げる。

続くオカモトレイジは、最新のダンスミュージックからJ-POP のリミックスまでを縦横無尽に繋ぎながら、序盤とは思えない熱量を会場に自然と呼び込んでいた。その勢いを軽やかに受け継いだのが、litのオーガナイザーであるSHOTA-LOWだ。 58とオカモトレイジが盛り上げきった空間に、「朝までやるんで、ゆっくり楽しんでいきましょう」というMCで呼吸を与え、落ち着きと熱気の間を絶妙に行き来するプレイでフロアのテンションを保ち続けた。

ちょうど同じ時間帯、The Voodoo Loungeでは注目の若手アクトが連続してライブを行っていた。中でもinterplayは、複数MCによるマイクリレーを硬派にやりきり、言葉の重みとスピットの鋭さでじわじわと空気を引き締めていく。続いて登場したTeteは、地元の仲間と 共にステージへ乗り込み、最初から最後までモブ感と勢いで押し切る。粗さの中に光る強さと、観客を巻き込む大胆な立ち振る舞いには、今まさに駆け上がろうとする若手ならではの熱があった。会場にはLIVE SPECIALに出演していたアーティストたちの姿も多く見られ、若き才能たちの動向に自然と視線が集まっていたのが印象的だった。

そして、続くMARZYのDJでは、機材トラブルによって一時音が止まる場面もあったが、オカモトレイジが場を繋ぐべく飛び入りでマイクを握り、まさかの「湘南乃風 – 純恋歌」をアカペラで熱唱。混乱すらも味方につけたライブ感は、まさにパーティらしい一幕だった。

すっかり深夜となったMAGIC SQUARE BUILDINGの3Fでは、YOSUKEがじっくりと熱を注ぎ込むようなDJを披露していた。litの“スーパーエース”とも称されるそのプレイは、フロアを確実に沸点へと導いていく。
SAMOはその流れを受け継ぎ、重心の低いビートで足元から揺らすような展開に。一方2Fでは、どんぐりずがDJブースの限界まで前に出たスタンスで、文字通り前のめりなライブを披露。また、1FではBiBiYUAが、酒が進むような心地良い グルーヴで、フロアの空気を柔らかく保つ。

そして明け方5時前、MAGIC SQUARE BUILDING 2Fには毎年恒例のB2Bタイムがやってくる。KMを筆頭に、SHOTA-LOW、YOSUKE、MARZY、オカモトレイジ、uinなど、根っからのパーティ好きが続々とブースに集まり、代わる代わるUSBを差し替え、マイクを取り合いながら曲をかけていく。
ジャンルもスタイルも超えた“DJやりたがり集団”による、即興性と遊び心に満ちたセッションが繰り広げられ、熱気のピークは明け方に再び更新された。こうして音が途切れることなく繋がっていった2日間超は、litがずっと大切にしてきた“パーティ”の原点を、あらためて思い出させてくれた。なお、本稿では触れきれなかったDJ/アーティストたちのパフォーマンスも、この夜を特別なものにしていたことを記しておきたい。

INFORMATION

「lit 4th Anniversary」

lit 4th Anniversary
2025.4.25(FRI) – 4/26(SAT)

“LIVE SPECIAL”
[DAY1] 2025.4.25 (FRI)
[DAY2] 2025.4.26 (SAT)
@ UNITEDLAB FUKUOKA

“ALL NIGHT PARTY”
2025.4.26 (SAT)
@ MAGIC SQUARE BUILDING 1-3F & The Voodoo Lounge

【クレジット】
▪️カメラマン
・LIVE SPECIAL
DAY 1: KAORI / Ryota Kanzaki
DAY 2: KAORI / SUGULU

・ALL NIGHT PARTY
MAGIC SQUARE BUILDING 1F: KAORI
MAGIC SQUARE BUILDING 2F: KAORI / momoka
MAGIC SQUARE BUILDING 3F: momoka
The Voodoo Lounge: hakase

POPULAR

7