ジョン・レノンの新たなベストアルバム『GIMME SOME TRUTH.』が10月9日に発表された。この日はジョンの80回目の誕生日に該当する。収録されているのは全36曲。オノ・ヨーコがエクゼクティヴ・プロデューサー、ショーン・レノンがプロデュースを担当し、2人が選曲に携わった1枚だ。現代の技術でミックスし直し、新たな音質でアルバムが構成されている。表題曲の「Gimme Some Truth」はそのまま”真実が欲しい”を意味する。本楽曲で歌われている内容も、不満と不安に満ちた世界へのメッセージでもある。
2020年。コロナによって人と人との距離は遠くなり、WEBやSNSの発達で目に見えない焦燥感や不安感が大いに煽られた年。人間が人間を信用できないような空気が世界に充満する中、ジョン・レノンの歌は我々にどう響くのだろう。
この企画では、『GIMME SOME TRUTH.』を通して、ジョン・レノンの音楽を今聴いたらどう感じるのか、自分にとってジョン・レノンはどんな存在なのか、そんなパーソナルな意見を音楽アーティストに聞く。まだ、ジョン・レノンの音楽に触れたことがない人に是非読んでいただきたい。
牧:そんなことを思い返しながら、今回の『GIMME SOME TRUTH.』で選曲されている曲を聴いてみると、やっぱり、すごくシンプルでストレートなんですよね。収録されている楽曲群は、それこそ現代とは違うロック全盛の時代に作られたもので、予算もたくさん用意されていた時代だったと思うんです。オーケストラを入れたり、著名なアーティストを客演として呼んだりと、スケールの大きなことが実現できる時代にあって、このシンプルさ。心にぶっ刺さるのは、そこなんです。今現在、コロナ禍によって世界中の人が苦しい状況にありますけど、この現状にマッチするような音像感と歌のリフレインを聴いて、すごく心に響くものがありました。特に歌詞。すごいなぁと思ったのは、後期になるにつれて、どんどん分かりやすい英語を歌うようになっていっていて。英語を理解できない人にも伝わるような言葉を盛り込んでいるんですよね。
ー確かに聴きやすい英単語が耳に入ってきますよね。
牧:僕もボーカリストなんで思うんですけど、その歌詞をフィーチャーしたい、意図的にクローズアップさせたいときに、できるだけ分かりやすい言葉を選ぼうと努力するんですよ。まぁ、昔はあえて難解な単語で暗喩表現したりとかした時期もあったんですけど(笑)。ずっと歌詞を描き続けていくと、言いたいことを、自分の中に根付いていて納得できる理解しやすい言葉をセレクトするようになるし、それをアートとして表現していたのがジョンだと。わかりやすい単語なんだけど難しい言葉選びを経ていたんじゃないかと思います。「Happy Xmas (War Is Over)」もそうですが、戦争が終わっていない時代に、この曲名で。シンプルな言葉だけど、すごくカウンターが効いてるしカッコいい。そういうシンプルな表現でパンチがあるっていうのは、今こそ大事なことですし、複雑化してしまっている現代だからこそ、まるで未来を予見していたかのように心に刺さる部分がありますね。音楽的にも、ブラックミュージックやカントリーミュージックだとか、どんどん原点回帰していったように思うんですけど、それも多分、歌を届けるためなんじゃないかなって。本当に音楽って垣根を超えて自分の思想だったりとか、心から出てくる”叫び”を重視して音楽を作っていくようになったんだなって、今作を聴いて感じました。
牧:いや、それ超思いますよ。これ最近の話なんですけど、日光東照宮に行ってきたんですよね。そこで『不老不死とは?』って話を一緒に行った友人としていたんですけど「本当の不老不死は人々の記憶に残ることだ」ってことを会話していて、それが強く心に残っているんですよ。今でも日本中の誰もが徳川家康のことを知っていて何万人もが参拝するわけじゃないですか。人の記憶に残ることができた人たちって、ある意味、不老不死だなって思うことがあって。ジョンもそうじゃないですか。世の中が複雑になったり、技術が発達すればするほど求められる、すごく裸で生々しさが残るような音楽をたくさん残していて。シンプルな音楽表現と心に刺さる言葉を携えた歌、これってずっと人々から忘れられないように、あえてそうしたのかな? って思うぐらい。今、HIPHOPやEDMなど電子音が複雑に入り組んで派手な音楽が鳴る時代にあって、ミニマムな音楽の上に裸の心で声で歌っている強い言葉がすごく心に沁みますね。サブスクなどで簡単に様々な音楽が聴けるなか、『GIMME SOME TRUTH.』はすごく聴き込んじゃったんですよ。
ーちなみにジョン・レノンを知ったのはビートルズからだと思うのですが、何時ごろですか?
牧:まだ子供の頃ですね。『THE BEATLES 1』(2000年発表のビートルズのシングルヒット曲が収録されたベスト盤)が家にあったのを聴いたのが最初です。その頃はポップスとして捉えていましたね。深くのめり込んでいったのは時間を置いて大学の頃。当時、ドアーズ(The Doors)などを聴いていた流れで『Please Please Me』に出会って、そのパッションにやられたんです。ある意味、パンク的なマインドも感じて。そこから『With The Beatles』と順々に辿っていきました。本当にビートルズってどんな存在だったんだろうっていうのは音楽だけではなく、その後に出版された本も含めて追いかけたんですよ。魂の中にすごく刻まれているバンドですね。
ーそこからジョン・レノンのソロ作まで。
牧:そうですね。僕は「Love」が好きで、このマイナーコードの使い方が印象的なんですけど、ソロ後期の方になると、徐々にボブ・ディランの影響を感じられたり、フォークミュージック的な要素や、よりミニマムでルーツミュージックに回帰していったので、若い頃はそこに味気なさを感じていたかもしれませんね。しっかりとソロ作も聴き込むようになったのは意外と最近、2、3年前くらいです。こうして『GIMME SOME TRUTH.』を聴き直しても思うけど、ジョンは人々が苦しいときに支えになるものとしての音楽を追究して創作していたんじゃないかなって。やっぱり当時の時代を意識しながら表現していたと思うんです。次作に収録している僕の曲も、今の世の中の温度感にもちろん影響されたし、その中で出てくるものが音楽になっていったんで。
牧:まぁ、そうなのかも(笑)。ただ、この曲だけに限った話ではなくて、今はアルバムも制作段階にあるんですが、これまでよりもリアリティが僕の中で重要になってきていると感じているんですよね。辛いときは辛いと言う、正直に話す、だとか。ストレートに刺さる表現を自然と選ぶようになってきました。『GIMME SOME TRUTH.』も、また新たな自分へのバイタリティになりましたね。