クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。今回は、昨年まで高円寺や阿佐ヶ谷でオープンしていたギャラリースペースWorkstation.の運営にも携わっていたアーティストの丸目龍介が登場。
なんと、自作のお面(!)をつけて登場してくれた丸目。当初、ベティ・ペイジのような昔のピンナップガールをイメージしたお面を作ろうとしたものの、苦戦した末に、自身の顔に合わせたお面を作ったとのこと。このお面をはじめ、彼の創作は幼少期からの遊びの延長線上にあるものが多いという。
「子どもの頃から、身体につけるためのパーツを紙で作ったりしていて。ヒーローやキャラクターのアイテムを真似て作るわけじゃなくて、紙を活かして……というほどのことはできてなかったかもしれないですけど、そんな感じでオリジナルなものを作ってました。大人になってからの作品制作も、プレミアがついているようなキャップやTシャツを紙で作ってポスカで色を塗ったり。こういうものを無心に作ってるときは本当に楽しいですね。考えてみると、小3くらいからあまり変わらない生活をしてるかもしれない(笑)。好きなものもほとんど変わってないですし」
以前、当連載で取材した小磯竜也が、彼のZINEを紹介してくれた際、「芸大時代の同級生のなかでも、もっとも自分の美学に則って行動してる人」と、その印象深いエピソードを語ってくれたとおり(https://eyescream.jp/culture/7836/)、ZINEをはじめ、ものを買う際にも自身の一貫した哲学を持っているようだ。
「紙ものやステッカーが大好きだから、ZINEもそのうちのひとつとして好きですね。僕はレコードとかも、好きなものは同じのをいくつも買ったりするので、たくさん買う行為がかっこ悪いことにならない場合はZINEも何冊も買います。基本的にものを大事に扱う方なんですけど、それでもどこか心配なのかも(笑)。同じものがたくさん並んでるのが好きっていうこともありますし。最近は『こんなに集めちゃだめだ』と思って、なるべく控えてはいるんですけど」
最近は、友人の音楽家であるRIKI HIDAKAが夏頃にリリース予定の7インチレコードのジャケットを制作中だと教えてくれた。そんな彼が、今後アーティストとして目指す境地とは。
「今後も、美術表現として強いものを作り続けたいなと思っています。表現として成立してるだけじゃなくて、見てくれた人が世の中にはおもしろいことがあるんだなって感じてくれたり、自分でも作ろうと思ったりしてくれるような関わり方ができるものを作れたらいいですね」
【丸目龍介がレコメンドするZINE5冊】
ディナミシャイスケ(IG:@shaiske)『プーさん写真集 2008-2014』
「シャイスケさんは僕が尊敬してるアーティストなんです。名前もいいですよね。これはシャイスケさんの展示のときに買ったZINEなんですけど、僕はその展示を見てすごく感動して。シャイスケさんが高校生の頃にトイザらスで買ってもらって、ずっと大事にしてきたプーさんのぬいぐるみを、いろんなシチュエーションで撮った写真の展示だった。これはそのときの作品をまとめたZINEなんですけど、プーさんがすごくいい表情なんですよね(笑)。その後『インターネット ヤミ市』にシャイスケさんが出店していたときに、プーさんのぬいぐるみを連れてきてたので、一緒に写真も撮らせてもらいました」
Misha Hollenbach(IG:@perksandmini)『Acid Kate Clown』
「僕がZINEと聞いて最初に思い浮かぶのがPAM BOOKS。かっこいいものがシリーズでたくさんあるのって盛り上がるし、大好きで影響を受けてます。高校生くらいから集めていて、PAM BOOKSは大体持ってますね。これはPAM BOOKSじゃないんですけど、P.A.M.自体もすごく好きなので、デザイナーのMisha HollenbachのZINEを持ってきました。コラージュと絵の具の筆さばきにすごく絵心があるし最高だなって。僕はP.A.M.の2人と、スケシン(SKATE THING)さんとファーガス・パーセルが大好きで、高校生の頃にその4人がバンドを組んでることを知って、好きな人同士ってつながるんだなって、なんだかすごく励みになったんですよね」
鈴木夏海『#07 愛に正直なメロン』
「鈴木夏海がWorkstation.で個展をやったときの作品をまとめたZINEです。製本やデザインを僕が手伝っていて、自分のZINEも全部そうなんですけど、和綴じにしています。本人がハロプロ好きで、このタイトルはメロン記念日の『肉体は正直なEROS』っていう曲からきているみたいです。彼女は絵描きで、前から彼女の作品はいいなと思ってたんですけど、最近、自分が今までそれほど描いてこなかったキャンバスに絵を描いていると本当に難しくて。これまで僕はほとんど小さい紙にしか描いてなかったので、見えてる世界が違うなと思って、あらためて彼女のうまさがわかったんです」
ヤン富田『ミュージック・ミーム 5 フォーエバー・ヤン』
「ヤン富田さんの演奏発表会があるたびに行ってるんですけど、いつも理解の手助けになるような情報が載っているレジュメが配られるんです。これはそのレジュメがまとめられたもの。僕はヤンさんの芸術家としての態度がすごく好きで。シンセサイザーのスイッチを押すときに、コンセントを辿っていって、そこから電線を辿って、送電線を辿って、発電所まで辿っていって、もう一度そこから電線を伝って電気が戻ってくるっていう流れを意識してスイッチを押すと、ただなんとなくスイッチを押すのとは出る音が違うって、よくヤンさんが話しているんですけど、それこそが大事というか。そんな風に自分のやっていることに自覚的であってこそ、芸術家だと思うんです」
フィクション・インク『THE CATALOG』
「ジョン・ウィリーや映画監督のラス・メイヤーなど、フェティッシュやアンダーグラウンドなカルチャーを、日本に輸入して広めた大類信さんが手がけたものだと思います。僕はお面もそうですけど、なにか身体に装飾品をつけて人間がかっこよくて美しい形になっている状態に惹かれるから、フェティッシュなものとかSMのカルチャーが好きで。エロ本的なものはいろいろあると思うんですけど、大類さんが作っていた雑誌の『SALE 2』などで紹介しているものは上品だし、美意識を持ってやっている感じがあって、すごくかっこいい。これははっきりしないんですけど、恐らく大類さんが主催していたフィクション・インクという出版社のメールオーダーのカタログなんじゃないかと思います。古本で買った時点でこの写真がはさまっていて、フィクション・インク側で入れたのか、前の持ち主が入れたのかわからないんですけど、なんとも言えない写真ですよね」
丸目龍介のZINEは、以下のショップで販売中。
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