記憶と共鳴する写真たち
松岡一哲の個展「what i know」が、六本木で開催

textー Shigemitsu Araki

記憶と共鳴する写真たち
松岡一哲の個展「what i know」が、六本木で開催

textー Shigemitsu Araki

すこし肌寒い春のある夜、六本木で開催されている松岡一哲の新しい写真展「what i know」に行ってきた。

松岡一哲「rest」、2022年、Cプリント
© Ittetsu Matsuoka / Courtesy of amanaTIGP

その日はレセプションだったので、きらびやかな人たちが賑わうなか彼の写真に向き合えるのか心配になった。そもそも写真展の正しい見方がいまだにわからない。しかしわからないなりに、小さなプールを往復するような感覚でぐるりと並べられた写真を順番に、群がる人をかきわけ、会場を泳ぐようにまわった。1周終えると、また見たくなったので2周目をまわりはじめたとき、自分のなかで異変が起きた。

まわりの人たちの声が消えたのだ。

1枚いちまいの写真が自分だけのために存在するかのように目の前にただ、在る。そこに写るモデルのポートレートも、敷き詰められた花も、ストリッパーの背中もすべてが絵画における静物画のように、等しくひそやかに息づいていた。

誰もがスマホを駆使して日常の解像度をあげようとしているのとは対照的に、松岡の写真が呼び覚ますのはブレやボケも込みでその対象の芯に眠るものだ。

松岡に直接、ポートレートを撮る時に心がけていることを訊いたことがある。そのとき彼はこう言った。なるべくその人の「素」を撮るようにしている、と。それが松岡一哲について、ほんの少しだけれど私が知っていること(what i know)。

彼の写真の前で、ただぼうっとしているだけでいい。そうすれば、あなたが忘れかけていた「what i know」が立ち現れる、そんな写真展だ。

松岡一哲「yellow」、2021年、Cプリント
© Ittetsu Matsuoka / Courtesy of amanaTIGP

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思考(僕にとっては目)はどんどん飛翔し、僕の写真は抽象化され、
色だけになったりする。
形だけになったりする。
そして、そこには他者と共鳴することの可能性を増すスペースが生まれる。
(……)
どんどん抽象化され、
どんどん具象する。
その狭間の写真であると。

2023年3月 松岡一哲

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本誌でもお馴染みの写真家・松岡一哲による個展「what i know」が、4月22日(土) から5月20日(土) までの期間、amanaTIGP 六本木にて開催中。
本展では、松岡が2020年から2023年のコロナ禍に日本各地やベトナムで撮影した作品群より約23点が展示されている。

INFORMATION

松岡一哲「what i know」

期間:2023年4月22日(土)~5月20日(土)
場所:amanaTIGP 東京都港区六本木 5-17-1 AXIS ビル 2F
時間:12:00~19:00
※ 日・月・祝日休み
※入場無料
TEL:03-5575-5004
WEB:https://www.takaishiigallery.com/en/

松岡一哲 1978年岐阜県生まれ。東京を拠点に活動する写真家。フリーランスの写真家として活動するかたわら、2008年6月よりテルメギャラリーを立ち上げ、運営。主にポートレートやファッション、広告などコマーシャルフィルムを中心に活躍する一方、日常の身辺を写真に収め、等価な眼差しで世界を捉えた撮影を続ける。Instagram:@ittetsumatsuoka

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