クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。今回ZINEを紹介してくれたのは、謎めいた光景の中に佇む、記号化された顔のない人々を描く、アーティストのオートモアイ。Supremeに作品が起用されたことでも注目を集めたオートモアイが心惹かれるZINEとは。
子供の頃から美術好きの父に美術館へ連れられ、絵を描いていたものの、当時は楽しいとも思わず「やらされているだけ」だったと話す、オートモアイ。そんなオートモアイが絵を描き始めたのは、ある日突然のことだった。
「これといったきっかけはなく、本当に突然描き始めて、それからはずっと描いています。説明が難しいけど、そういうものが『ある』から描いているという感覚です。だから描いている最中は、自分が何を描いているかについて、あまり意識していなくて。色や配置も含めて、あらかじめ全部決まっているものを、次々に描いている感じ。白い紙が目の前にあって、その後はパッと記憶喪失になって、気がついたらできあがっている、みたいな」
現実の境目から、この世ならざる場所を垣間見てしまったようなビジョンが描かれているオートモアイの作品だが、その中に存在する人物たちにはきまって顔がない。そのことについて、オートモアイ自身はこのように考えている。
「いくつか理由はあるんですけど、全員が均質で同じ世界のイメージがあって、あくまでその世界を表現するための記号として描いているから、顔を描く必要がないと思っていて。誰か特定の個人を描きたいわけじゃないんです。『女性を描いている』と言われるけど、なんなら女性とも限らないかもしれないですよね。唇だけは最低限、顔だと認識するためのモチーフとして描いています。風景画の中で描かれる人物は、遠い距離にいる人ほど、顔が省略されてなくなっていきますが、それを近くの人物として描くと、唇以外のパーツがないことに違和感を覚えるのかもしれません」
思いがけず絵を描き始めてから4年が経ち、今年はSupremeの2018AWへの作品提供という大きな話題もあったものの、少々騒がしくなっているであろう周囲の反応は淡々と受け止めつつも意に介さず、「自分のやるべきことは変わらない」と語る。そんなオートモアイの今後の目標は。
「とにかく、もっともっと絵を描きたい。基本的にこじんまりした作品が多いので、大きい作品を描きたいですね。きっと絵の見え方が変わってくると思うので、単純に自分でも見てみたい。あとはもう少し頭の中を整理して、コンセプトを言語化して作品を作っていきたいなと思っています」
【オートモアイがレコメンドするZINE5冊】
VOGOS
『VOGOS ZINE』
「VOGOSは友達の友達にあたるハードコアバンドです。GEZANのマヒトさんが、ミュージシャンが作ったZINEの展示販売をする『にんじん展』というイベントを2015年にやったんですけど、これはVOGOSがそのイベントに合わせて初めて作ったZINEで。彼らはそもそもZINEなんて知らないから、作り方もすごくて、印刷も両面コピーじゃなくて、片面コピーを糊で貼り合わせてあるし、製本もガムテープで止めてある。このページ数なのに、すごく安く売ってたから、多分完全に赤字だったでしょうね。しかも内容は超スカスカ(笑)。VOGOSはこれ以降、ZINEを作り始めたんですけど、その後のZINEはだんだん綺麗にまとまっていく。この初期衝動な感じは、やっぱり作ろうと思って作れないなと思います」
「NEWoManのイベントで購入したZINEです。カメラマンの池野詩織ちゃんと、アーティストのNAZEさんが〈てるてるZINE社〉という名前で参加していたんですけど、2人の作品のコピーがたくさん置いてある中から、自分が好きなものをバイキングみたいに選んで、その場で2人がZINEにしてくれるというもので。キャンディーが挟まっていたりするんですけど、NAZEさんって拾ったゴミで作品を作ったりしているので、これも拾ったものなのかな? って考えると怖いなあと……(笑)。その場で作るっていう発想がいいですよね。2人とも感覚的に作ることができるタイプだから、即興感が出ていて」
KTYL(IG:@marrket)
『THREE KINGS』
「すごくセンスがよくて、『この人誰なんだろう』って久しぶりに興奮して買ったZINEです。KTYLさんは、去年ANAGRAで開催された『DAILY TOWN』というイベントに参加されていて。YOUNG LIZARDやMOON ESCAPEなど、いくつかのバンドをやっている方みたいです。ドローイングと写真のZINEで、絵がすごくいいんですけど、たくさん展示をやっているわけでもなさそうで、もっと作品を見ることができる機会があったらいいなと思っています」
Joe Roberts(IG:@lsdworldpeace)
『Going underground』
「3年前くらいのTOKYO ART BOOK FAIRで、ひと目見てやばいなと思って買いました。この人なんなんだろうと思って、すぐに調べたんですけど、当時は情報がほとんど出ていなくて。『サンフランシスコ在住で音楽とスケボーが好き』というくらいのプロフィールしかわからなかったんですけど、その後、Supremeとコラボしていたのでびっくりしました。彼の作品は、イケてるのかダサいのか、すごくきわきわなところにめちゃくちゃ惹かれますね。スケーター系の絵描きの人って、もうちょっと小綺麗にまとまった絵を描く人が多いけど、彼は若干ヒッピー感があって。気が遠くなるというか、世界観の設定が意味不明なんですよね。ちょっと幻覚的な感じもあるし、不安定で壊れそうな絵を描くなと。絵があまりうまくないんだけど、なぜか説得力があるんです」
「先日、展示のために来日していたSupremeのデザイナー3人と会ったんですけど、自分の作品集を渡したら、代わりにこのZINEをくれたんです。こういう風にステッカーが付いていたり、ZINEの表紙とお揃いの袋に入ってたりするものって好きで。Supremeみたいに大きなブランドのデザイナーでも、こうやってDIYな感覚で物を作っているのがいいなと思いました。このZINEを作っているメンバーのニックの作品が好きで、以前からInstagram上でフォローしあっていたんですけど、そのときは彼が何者かなんて全く知らなくて。ニックの提案がきっかけで作品を起用されたことがこのときにわかって、嬉しかったですね」
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