ART 2019.08.03

From the Every Outside Vol. 1:SECT UNO by Maruro Yamashita

Text_Maruro Yamashita
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

ストリートから生まれたアートや、ストリートからの影響を感じさせる表現の数々を広義のアウトサイダーアートとして紹介するこの連載企画。第1回目に紹介するのは、初となる個展を福岡のSQUASH DAIMYOにて開催した、東京生まれで現在も東京をホームとするグラフィティーライターのSECT UNO。東京で“街”について意識しながら生活している人間だったら、街中のいたるところで見かける「SECT」のタグ(※1)やスローアップ(※2)は馴染み深いものなはず。初期衝動に突き動かされながら、独自のラインを追求し続ける彼のこれまでを振り返った。
※1:グラフィティーの一種で、自分の名前などを線で描く表現。
※2:グラフィティーの一種で、アウトラインをつけて文字を描く表現。

ー子供の頃はどういうカルチャーに興味があったんですか?

ずっとサッカーをやっていたけど、親父がサーフィンをしてたから、小学校とか中学校の時は週末は千葉でサーフィンをやってました。だけど全然でした。そのあとスケボーにハマりました。学校の近かった用賀にスポットがあったので、そこで毎日オーリーやらウォールライドをやってました。

ースケボーなどのカルチャーの影響でグラフィティーにも興味を持つようになったんですか?

それは関係なくて。雑誌の『WARP』で“WRITER’S BENCH”とかを読んでいたから、グラフィティーっていうものの存在は分かっていたけど、街中を特別気にしながら見たりっていうこともしていなかったくらいですね。

ーでは、どういう切っ掛けでグラフィティーにハマったんですか?

桜新町の高校に通ってたんですけど、家から電車で行くより自転車で行った方が早かったので、STORMYで24のBMXを買ったんですよ。そうすれば環七で一本で行けるので。で、自転車通学していたんですけど、ある日、小田急線と環七の間の世田谷代田の辺りに、前の日にはなかったEYEONEていうライター(グラフィティライター)のスローアップが道の両サイドに、片面フィルイン(※3)がシルバーでアウトラインが青、片面が赤のアウトラインだけっていうスタイルで、EYEONE、 EYEONEてスローアップがボンボンて描いてあって。そのシルバーにフィルインしていた方が朝陽で輝いて光ってて、おー! キター! みたいな。やるしかないって思って。学校行って、サッカー部で一緒にスケボーしてた友達に、ペイントもしよう! って誘うみたいなスタートでした。

※3:アウトラインの内側の塗り潰し

ー急に来たっていう感じなんですね。

何かに出会ったような感じだったんですよ。UFOに出会ったみたいに。前の日なかったのに、来たのか! みたいな。衝撃でしたね。あ、これだ! みたいな。それからはこれまで以上に『WARP』をしっかり読んだり、渋谷とかでグラフを意識して見るようになって。ピース(※4)っていうよりは、線路沿いや幹線道路に描いてあるスローアップとか、銀とかで塗ってあるクイックピースとか、EYEONEを最初に見たときの衝撃がスローアップだったから。で、よく見ていると、それぞれに形、スタイルがあるっていうことを、何となく理解し出して。でもその時はまだ誰にも会ってないし、どういう場所に行けばグラフをやってる人と会えるのかも分からないし、ただただ友達とあーだこうだ言って、机や黒板に練習するみたいな感じでした。ただ、その友達も全然やる気なくて、結局、自分だけ通学の時にスプレー持って、ちょろっと描いたりとか。部室に描いたり(笑)。
※4:グラフィティーの一種で、絵やスローアップやタグなどを組み合わせた、より絵画的な表現。

ー誰かに教えてもらってという感じではなく、独学でスタートしたっていうことですね。

まぁそうですね。最初のスローアップとかも全然だし。山手通りで、得た知識のなかから描いたみたいな感じで。スタイルとかも分かってなかったし、NYとヨーロッパの(グラフィティーの)スタイルの違いとかも分からなかったし。初めて(描きに)行ったときも、夜中ラジオを聴いてて、Twigyが流れてて、気分が高まって、行くか! みたいな感じで一人で(笑)。缶は日本の缶で、ノズルだけスプレーの出方を丸くする為に、ガラスクリーナーとか虫のスプレーのやつとか、家にあったやつを付けて。ノズルがそのままだと、丸く出ないから付け替えるっていう知識はあって。とはいえ、SCOTCHっていうものも知らないくらいだったんですけどね。でも、プラモを昔作ってたから、先っちょの違いがあるっていうのは分かってて。どれが太く出るかなって、色々試してみたりとかして。

ー外で描くというスリルを楽しむみたいな気持ちはありましたか?

そういうんじゃないですね。あそこでEYEONEが描いてなかったら絶対やってないです(笑)。もしあそこに描かれていたのがスローアップじゃなくてピースだったら、描いてなかったかもしれないです(笑)。それくらい、通学路で見たEYEONEのスローアップが衝撃的だったんですね。

ー独学で学びながら、色々と知識が増えてくると思うのですが、どのような人たちに影響を受けたんですか?

やっぱり入りがスローアップだったから、スローアップがヤバい人、仕上がってる人ですね。あとはスローアップじゃないけど、小田急線沿線に描いてあった、SCAMくんとか、KANEちゃんとか、BASKとかがクイックに描いてたのも凄かったですね。シンプルな、しかも読めるみたいな、そういうスローアップとかが自分には魅力的で。描いてる内容とかも、ちょっと皮肉が入ってたりとか、中に描く言葉もギャグセン高くて、今見ても面白いし。

ーよくされる質問かもしれませんが、子供の頃から絵を描くのが好きだったりとかしましたか?

それは本当に全くないんですが車を描くのは好きでした。絵心も全くないし。プラモ作るのは好きだし、ミニ四駆世代だし、手を動かして何かを作るのは好きだけど、絵は全くで。字も上手くないですね。

ーグラフィティーを続けてきた中で、転機となるポイントはありますか?

こっちで知り合った友達を訪ねてサンフランシスコに行ったことですかね。20歳くらいのときでした。自転車をebayで買って、街中をぐるぐるしながらグラフの写真を撮ったりしていたんです。そしたらある日、MQの連打がスポットにあったので写真を撮って、ハイウェイ沿いのスポットだったのでそこをグルグルしてまた戻ってみたら、写真を撮ってる人がいて、近寄ってみたら、手が凄い汚れてたんです。それで顔を見たら、日本で会ってたBNEとかと雰囲気が似ていて。話しかけてみたらやっぱりMQだったんです。そしたら、この後何かあるのか? って聞かれて、Mさんの車に一緒に乗せて貰って。その後もサンフランシスコにいる間に何回か連絡取り合って一緒に街に出たりしたんです。本当に会いたい人には会えるんだなって、そこで思うことが出来たっていうのは転機だったかもしれないです。

ー現在、SECTさんにとっての描く醍醐味っていうのはなんなんですか?

醍醐味っていうのは、うーん、なんだろ、いま出来ているこの形をただただ描くみたいな(笑)。ほぼほぼ同じ形だけど、描いていくと本当にちょっとずつラインの流れだったり、バランスがあって、皆もそれぞれスローアップのバランスがあると思うけど。どういうラインが一番良いのか試行錯誤してますね。誰に向けてかは分からないけど(笑)。

ー自分との戦いですね。

やっぱり他の人と一緒じゃ嫌だから、止め跳ねじゃないけど、色々変化を与えてみたりして。本当にバランスですよね。どれだけ自分の特許をとるかみたいな。この“M”は誰の“M”とか。この“J”はとか、この“S”はとか。パッと見は似てるかもしれないけど、どんどん分かれてるし、そこをものにするには続けて行かないと無理っぽいです。

ー先日の福岡での個展が、初の個展ですよね。これまでに展示をやりたいと思ったことはなかったんですか?

それはあまりなくて。グループ展とかに参加したことはあったけど。それこそ何かの展示のときには、ハンガーを曲げてタグを象ったりして作品にしたりしましたね。今回は、自分が欲しいって思える作品っていうのを意識して作りましたね。自分が着たくないTシャツを作れないっていうのと一緒で。スローアップのお裾分けじゃないけど、自分が家に飾ってても良いなって思えるようなもの。ただただ描いて売るじゃなくて、そこにはペンキを使ったり、スポイト使ったりしていて。どうやって描いたんだろう!? って見ている人が思うようなやつ。街でも、いつ描いたんだ? とか、どうやって描いたんだ? どう登ったんだ? とかが魅力だったりするから。展示をするなら、何をどうやって使って描いたんだろう? って考えさせるようなものが良くて。

ーいわゆるアートの文脈で語られるようなギャラリーとかで展示をしたいっていう気持ちはありますか?

誘われれば考えますけど、そこを目標にしてるっていう訳ではないですね。

ーネオン管でタグを象った作品なども製作されていますよね。

ネオン管は職人さんに作ってもらってるんですけど、曲げたりとか、作ってる過程を見てるいと凄い気持ち良くて、ラインがすげー良い流れだし。自分で実際に作ったら更に良いんでしょうけど。そういう風に、素材を変えたりっていうのは色々やってみたいですね。鉄とかもやりたいし。皆やってみれば良いんじゃないかな。まぁ、やめる人もいますけど、一回やったらやめられないです。

ーそれはさっき言ったように、スリルがたまらないとかそういうことじゃないですよね?

そうじゃないですね。書道とかと一緒なのかも。ここのラインが綺麗に書けた! みたいな。練習していくうちに自分のバランスみたいなものが分かってきて、それを外でも描いて、どんだけ描けるかっていう。それで本当に満足というか、そこがしたいだけみたいなところがあって。それがどうなるかとかより、その瞬間瞬間の話ですね。

ーネオンの製作を見ているときの気持ち良さと、街に描くときの気持ち良さはイコールなんですか?

一緒ではないのかな……。スプレーやマーカーの気持ち良さは、やってみないと分からないなっていう中毒性があるんですよね。SOTZだってシルバーのマーカー一つでブチ上がったりするし(笑)。タグの気持ち良さを知っているから、描くしかない! みたいな感じで。グラフィティーライターだったら、そこの気持ち良さは分かると思うんですよね。描いてるときの気持ち良さ、高揚感ていうのは、他の人には伝わらないかもしれない。気持ち良いとか言ってる場合じゃないときもあるけど(笑)。

ーラッパーが、大人数の前でライブするときのような気持ち良さなんですかね?

それとも違いそう。別に、誰に見せるとかでもなくて、本当に自己満的な感じなんですよ。自分が描きたいっていう気持ちが一番。自分が衝撃を受けたEYEONEも、別に高校生に向けて描いてた訳じゃないし。スローアップとかタグってシンプルなものだから、妥協したり自分が納得しないものを出しちゃったらバレるんですよ。ここ違くね? とか、妥協してね? って思われたくないし。千差万別だと思うんですけど、自分としてはずっと描いていくだけなんですよね。MQもpractice、practiceって言うし。OIちゃんも練習一生って言ってるし。何でしょうか、ずっと描いてて、どうなりたいとかないんです。描き続けられれば良いっていう感じで。

グラフをこんなにやり続けるとも思わなかったし、なんでこんなにやってるのかなって。でも、やっていたことによって、会いたい人にも会えたし、色んな人にも会えた。結局そこだと思います。結果、描いてるんだけど、ただ描いてるっていうよりは、こういう風にやって来たことで皆に会えたっていうこと、ちょっとアレですね(笑)。やってて良かったなっていうところで締めたら…(笑)。何かの為にペイントしていた訳じゃないし、ただ描きたいからだったんだけど、そのおかげでこうやって遊べてて。勿論色々あるすけど、やってなかったらと思うとゾッとするんですよね。グラフをする人生を選びましたね。

BlackEyePatchによるALEHSY & SECT UNOの展示“stacks”が本日よりCONNECTで開催

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From the Every Outside
Interview&Text_Maruro Yamashita

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