[完全安全地帯]#01 吉岡美樹とストーン 有楽町ビル店

photography_Kayoko Yamamoto, text_Yuri Matsui

[完全安全地帯]#01 吉岡美樹とストーン 有楽町ビル店

photography_Kayoko Yamamoto, text_Yuri Matsui

ゼロから何かを生み出すときの、昼間だって深夜のように一人ぼっちの時間、あの人はどんな場所でときを過ごすのだろう。クリエイターたちの創作に欠かせない、フェイバリットなお店を紹介していく連載『完全安全地帯』。
第一回目となる今回、話を聞いたのはbetcover!!やxiangyuのミュージックビデオ、SueUNDERCOVERやBEAMS、F-troupeといったアパレルブランドにまつわるビジュアルなどを手がける、アートディレクター/映像作家/アニメーターの吉岡美樹。

「幼稚園の頃から、工作と絵を習っていました。いろいろなことをやるなかでも、ものをつくることにはわりと得意意識があったと思います。デザイン科のある高校に進んだので、授業で映像をつくる機会があって。もともと映画やミュージックビデオが好きだったので、映像に興味があったし、それから自分でも映像をつくるようになりました」

「当時好きだったのは、ミシェル・ゴンドリーがつくったビョークのミュージックビデオのように、ギミックがあって、システムががっちりつくられた構造的な作品です。その頃からストップモーションにも興味があった。ヤン・シュヴァンクマイエルのようなチェコの実験アニメとか、映画『ひなぎく』が好きなんです。基本的に昔の映画が好きだけど、例えば小津安二郎って、画面に映るものの配置に異様にこだわっているんですよね。最近の映画は、画面がもうちょっとナチュラルだったりするけど、昔の映画はセットで撮られることが多いからか、美術や照明の人によってコントロールされた空間で撮られているのがすごく絵画っぽい。それらの作品からはすごく影響を受けたと思います」

「大学に入ってからは、ファッション学科の友達と一緒にムービーをつくったり、GIFの作品をつくるようになりました。大学時代、制作の大きなテーマにしていたのが、家族です。家族って近い存在だけど、似ているようで似ていない。趣味嗜好も違うけれど、選んだわけでもなくつながってしまう。そういう存在を記録したいなと思ったんです。学生の頃は100歳を越えたひいおじいさんが生きていて。もはや尊い神のような存在だと感じていたので、被写体として協力してもらっていました。ひいおじいさんは、何をやっているかわかっていないけど協力してくれた。作品をつくるというよりは、ひいおじいさんとひ孫が遊ぶような感覚で撮影をしていました」

「映像は画面の中に映る世界すべて、隅から隅まで自分の意思を反映できるところが好き。写真と違って、物理的な動きまでコントロールできるところがいいなと思います。つくっている最中は、基本的には苦しいですけどね(笑)。一人でアニメーションをつくっているので、作業量がすごく多くて、1分の映像をつくるとしたら2週間くらいかかる場合もあるし、ミュージックビデオなら1ヶ月くらいかかります。でも、集中してつくっていると、気づくと7時間くらい経っていたりして。頭で考えずに勝手に進んでいるような、フロー状態になるんです。その状態はわりと好きかもしれません」

「ストーンには、有楽町の角川シネマという映画館に来たときに寄ることが多いです。特集上映を一日に何本も観る場合、時間が空いてしまうことがあって、そういうときにすぐ近くなので来ます。ストーンのいいところは、『おしゃれでしょ?』みたいな問いかけがないところ。私は部屋でものを考えるのが苦手なんですけど、それは誘惑が多いからで。映画と映画の間に、ここで仕事の絵コンテを描いたりするときも、店内の色数が少ないし、音も静かなので、集中できていい。特に、以前は細い通路の席が禁煙だったのでそこによく座っていました。あまり開けていない空間なのも缶詰っぽくていいなあと思っています」

「長居することが多いので、アイスコーヒーとフルーツサンドをよく頼みます。頼むものもなんとなく決まっているから、迷いがないのもいいんですよね。ファミレスだといろいろ食べたくなっちゃうし(笑)。選択肢が削ぎ落とされているから没入できるんです」

「betcover!!の『Love and Destroy』という作品の絵コンテは、大部分をストーンで描きました。映像をつくるときは、つくりながら考えると意思が揺らぐし混乱するので、出てくる要素をしっかり決めています。頭から順番に絵コンテを描いて、完全に完成させてから作業に入るようにしている。普段つくるのは数秒くらいの短い作品が多いなか、このミュージックビデオは4、5分あったから、なかなか大変でした。ここで3時間くらい考えたと思います」

「このお店もそうだけど、着飾っていないし、狙っていないけど、不思議な魅力がにじみ出てしまったようなものに興味があります。だから、今後も奇妙なものをつくり続けていきたい。同じようなことばかりやっていると自分が退屈してしまうので、実写でもアニメーションでも、いままでやったことがない手法を常に模索していきたいですね」

ストーン 有楽町ビル店

東京都千代田区有楽町1-10-1 有楽町ビルヂング1F
tel_03-3213-2651
open_8:00 – 18:00(土日・祝は11:30 – 18:00) / 無休
※新型コロナウイルス感染症の影響により、営業日時が変更になる場合があります。最新の情報は店舗までご確認ください

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