「芝居でならわかりあえる」。若き役者、吉村界人が語る

photography_Takao Iwasawa, styling_Yuji Yasumoto, hair&make_Kiyomi Onuki(allure), Text_Takuya Nakatani

「芝居でならわかりあえる」。若き役者、吉村界人が語る

photography_Takao Iwasawa, styling_Yuji Yasumoto, hair&make_Kiyomi Onuki(allure), Text_Takuya Nakatani

映画やドラマをはじめ、ぼくのりりっくのぼうよみやMAN WITH A MISSIONのミュージックビデオにも出演しては視線も話題もかっさらう俳優、吉村界人。2018年に入ってからも映画『サラバ静寂』(宇賀那健一監督)、映画『悪魔』(藤井道人監督)において立て続けに主演を務めるなど、その存在感は高まるばかりだ。この日、着用したヴィヴィアン・ウエストウッドのスーツも見事に着こなすこの男に、『サラバ静寂』の話題をきっかけに切り込んでみた。

——映画『サラバ静寂』は、音楽や映画、小説などの娯楽が法律で禁止された日本が舞台となっています。その世界で、吉村さん演じるミズトたちが音楽に出会うことから物語は動き出しますが、吉村さん自身が衝撃を受けたものから聞かせてください。

「尾崎豊さんが(覚せい剤取締法違反で)捕まって、釈放された88年にテレビ番組で歌った『太陽の破片』がヤバかったですね。YouTubeでたまたま知ったんですけど。その様がすごくて」

——88年というと、まだまだ吉村さんが生まれていない時代ですよね。実際にその映像を知ったのはいつくらいだったんですか?

「高校を卒業する頃ですね。そこから尾崎豊さんはよく聴きました。初めて『探偵物語』で松田優作さんを見たときも衝撃だったし、モハメド・アリも大好き。親父がボクシングをやっていたので、その流れでよく観ていました。あとは2パックも。そういったものの積み重ねが今につながっている。並べてみると、すでにこの世にいない人ばかりですね(笑)」

——『サラバ静寂』もそうですが、長編映画初主演となった『太陽を掴め』でも音楽がひとつのテーマとなっていました。吉村さんにとって“音楽”ってどういった存在ですか?

「たまに言われるのが、役者とミュージシャンに大きく二つに分けたとしたら、僕は後者のほうに考え方が近いんじゃないか、って。脚本に書いてある、他の人の言葉を喋るのが前者で、後者は自分の言葉を使う。最近、歌詞を書くことにハマっているのも、そういうことだと思います。自分の思うことを誰かに伝えたい。映画には共演者はもちろん、衣装さんもいて、ヘアメイクさんもいて、脚本もあって、いろんな人や要素が関わっている。その一部になる。たまにそれから遠ざかりたくなるんです」

——歌詞を書くようになったきっかけは?

「普段、生活していて思うこととかあるじゃないですか。それを書いてるだけですね。その歌詞をビートに乗せてラップする。そうやって音楽にすることで、日々のフラストレーションもなくなるんです」

——「自分の言葉で喋りたがる」のだとすると、演技する際は役との関係性をどう捉えているのでしょう。

「役に入り込んでいくタイプなんですけど、そのときは魔法がかかっている時間というか。その魔法が解けちゃうと、自意識だらけになる。カメラがすぐそこにあって、かっこつけたいし、ってなってしまう。『サラバ静寂』でも、監督からは『もっと見苦しくていい』『なにを冷静にかっこつけてんだよ、俺はそんなの観たくねえ』って言われました。それはそうだなと。それを俺もわかってんじゃんって思いながらも、そうはしたくない自分との駆け引きなんですよね、いつも」

——『サラバ静寂』で言うと、根絶されたはずの音楽を偶然見つけてしまうシーンが印象的でした。その昂揚や躍動が伝わってきて、観るほうも一緒に笑顔になるような。

「その新鮮さを出せるように、とは思いましたけど…。でもはっきり言うと、(現実では)子どもの頃からずっと音楽に触れてきているなかで、芝居だからって『音楽を知らない体で』って言ったって、知ってるんですよそりゃあ。カットまでのあいだ、思い込むようにはしましたけど、やっぱり限りはある」

——それを無理をしてまで演じたくはない、ということ?

「というよりは、ああいった感情はありえるじゃないですか。僕も、生まれてはじめて行ったライブがそんな感じだったから。(ライブというものを)知っているけど驚く。その感情と同じ。だから、音楽を忘れようと思って演じたわけではないんです」

——では、吉村さんにとって「演じる」とは。

「芝居でならコミュニケーションとれるなって。人と会って『はじめまして』っていうところから喋るのが苦手なんですよ。お互いのプライベートの話とか、聞きたくないし話したくもない。どんな感じの芝居なのかな? っていう、そこだけですね。『よーい、スタート』って芝居がはじまることで、そのなかだと相手の心が感じやすくなる」

——最後に。2018年はどんな一年にしていきましょう。

「どーんと構えて、焦ってるけど焦らず、プライドを持って。どうせ今いる役者の後ろには並べないんだから。みんなと同じことをできるかできないかもわかんないですけど。自分だけのポジションを確立したいですね」

INFORMATION

『サラバ静寂』

企画・脚本・監督:宇賀那健一
出演:吉村界人、SUMIRE、若葉竜也、森本のぶ、仲野茂、大貫憲章、灰野敬二、斎藤工、ほか
順次全国公開予定

オフィシャルサイト
http://www.saraba-seijaku.com/

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