NEWLY -PatchLine-
第一回:石垣島・ジャズバー すけあくろ

Photography_Tsunenori Shimizu (Broth Works)
Text&Edit_Maho Takahashi

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第一回:石垣島・ジャズバー すけあくろ

Photography_Tsunenori Shimizu (Broth Works)
Text&Edit_Maho Takahashi

トラックやビート提供をはじめ、楽曲への参加やライブサポートを行うなど、コンポーザーでありプレイヤーとしても活躍するNEWLYの対談連載がスタート。今後の音楽制作に活かす旅記録として、彼の行きたい土地や人を訪れ、今気になることを聞いていく。記念すべき第一回は、石垣島にある唯一のジャズバー・すけあくろを訪問。4000枚以上のレコードを所有する今村大道氏とジャズについてのあれこれを話してもらった。

R to L→今村大道、NEWLY

ジャズは一番懐が深い音楽

ー音楽と旅をテーマにした対談連載ということで、第一回目は石垣島のジャズバーすけあくろに来ました。まずはお二人の出会いを教えてください。

NEWLY:石垣島自体は今回で3度目ですが、ここは清水さん(事務所代表)が元々お知り合いだったこともあり、以前制作で訪れたときに連れてきてもらいました。その時にファラオ・サンダースなどスピリチュアル・ジャズを教えてもらって。ここを気に入った理由は流れている音のかっこよさもあるけど、大道さんの音楽やレコードの勧め方がスマートだったんですよね。

今村大道(以下、大道):なんて言ったか全然覚えてないな(笑)。

NEWLY:ジャズの中でも、抽象的に聞きたい曲のイメージを伝えてもそれに合うやつを探して説明してくれて。そこでの出会にも感動しました。

大道:ジャズほど寛大なジャンルはないと思っているから、深く聞いてる人が聞いたことない人に対して聞きずらい雰囲気を生み出したくないんですよね。だから難しくならないように砕いて話すのは意識しているかも。ただ楽しんでくれればいいなって意識で紹介してる。

ーそもそもお二人がジャズを好きになったきっかけは何だったんですか?

NEWLY:原体験らしいものはないんですけど、アーティストのインタビューを読むのが好きだったので、彼らのルーツとしてジャズを知りました。それでかっこいいなと思って、サンプリング元を辿ったのが入りかもしれないです。あと小学校の時に通っていたギター教室の先生がジャズギタリストだったので、高校生からはそこの教室でジャズを少し教えてもらいました。

大道:俺は親父の影響ですね、店も親父の代からなので。中学校に始めたアコギが壊れてしまって、直す場所もないから自分で直してみたら普通にできちゃったから、仕事にしようとリペア的なこともやってたな。そのときに出会った人がジャズギターをやっている人で、そこで仕事としてジャズを聞いているうちに、家で聞いたことあるアーティストの作品だなとか色々繋がって、自分の聞いてきたものとリンクしていった。

ー個人的にジャズって敷居が高いイメージですが、ジャズを普段聞かない人に聞き方を教えるとしたら?

大道:ジャズは一番懐が深い音楽なんじゃないかと思っていて。と言うのも個性と個性をぶつけて作っているジャンルだと思うので、好きなものを見つけるのが大事な気がします。派生して違うアルバムやアーティストに辿り着くかもしれないし、自分がやっている楽器や今興味のある楽器を演奏している人の作品を聞くのもいいかもしれないね。

NEWLY:確かに、その方が掘りやすいかも。

ーちなみに一番オーソドックスというか、有名な作品でいうとどのあたりですか。

大道:マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』(1959)は、世界で一番売れているジャズアルバムと言っても過言じゃないね。だからある意味、これを聞いてハマらなかったらジャズに入り込むのは時間がかかるかも。

NEWLY:俺もこの作品に参加しているメンバーから派生して、それぞれアルバムを聞いたり、他の作品を知るきっかけになりました。けど一番最初に聞いたのは、ジョン・コルトレーンだった気がします。

大道:マイルスは割と王道って感じで、大体その辺になるよね。

NEWLY:時代によってプレイや録音の技術も変わっていくと思うんですけど、その辺りはどう聞いています?それこそこの間、金沢に遊びに行ったときに金沢蓄音器館へ行ったんですよ。そこで大きい紙でできた蓄音機を聞かせてもらったら、ピアノやボーカルの距離感を感じて。モノラルなのに、空気感までわかるんだって感動しちゃいました。

大道:実はモノラルの方が、それなりの音量や機材で聞くと演者の位置情報までわかるんだよね。ステレオは強制的に振っちゃうから、モノのいいやつはその辺もすごく感じられる。

NEWLY:なるほど。実際にそこにいる感覚に没入できたし、そのときお客さんが僕だけだったので、余計に夢の中にいるみたいで良かった。

大道:昔はモノしか作られなかった時期もあるけど、モノ版とステレオ版を同時に発売している作品もあったりするんだよね。そういう聞き分けもできる。

NEWLY:すごいな、そんなのもあるんですね。

ーちなみに、石垣島に他にもジャズバーってあるんですか。

大道:うちしかないね。レコードショップやアナログを流しているお店とかはあるけど。

NEWLY:昨日一緒飲んだミュージシャンの方々が、石垣の人が持っているグルーヴは本島や東京とも全く違うし、その分ミュージシャンがたくさんいるって話は聞きました。

大道:音楽自体が受け入れられているから、本島や東京と比べて音楽をやっている人は多い気がする。それをミュージシャンと呼べるかはさておき、『歌って』って言われたらすぐ歌えるポテンシャルがある人は本当に多い。

ーそうなんですね。そういう面も含めて、東京と石垣はどんな違いを感じますか?

NEWLY:まだ3度目だからわからないけど、突き詰めている人が多い印象ですね。一人で向き合う時間が長くあったんだろうな、みたいな根底の愛情を感じるというか、お互い干渉しないものをそれぞれ持っている気がする。そういう温かさをフラッと立ち寄ったカフェや居酒屋ですら感じられるから、ホっとする瞬間が多いですね。東京の一期一会っぽい感じも良いと思うんですけど、逆にそこに対して苛立ってしまう瞬間もあるので、こうやって来たくなるんだと思います。

大道:どうなんだろ、自分は音楽が流れている店しか行かないから。ここの店ではジャズしか聞かないから新しい音楽を取り入れるために、別のジャンルを流しているお店に行ったりすると、そこに来てるお客さんとかも話ができて楽しいですね。ジャズバーを営んでいるからこういう形でやっているけど、基本的には何でも好きだから。

ーなるほど。では、音楽の話に戻りまして…率直に今ジャズに抱いている気持ちを教えてください。

大道:これはだいぶ重めの質問ですね…(笑)。

NEWLY:難しいな(笑)。

大道:ここ数年で言うと、元々ジャズのドラムを叩いていた石若駿君が、幅広いシーンで活躍してプレイヤーとしてジャンルを超えたり、いい意味で定義付けがなくなった気がする。今ジャズとされているものも、今たまたまジャズって言われているだけかもしれないし。

NEWLY:本当そうですね。

大道:単純にもっと若い人に聞いてもらいたいですね。好きな音楽の話なら世代を超えて話せるし、評論とか堅苦しいものもあるけど、気軽に聞いてみてほしいなって思います。

NEWLY:俺みたいなルーツにジャズがあるわけではないけど、ブラックミュージックを自分なりに解釈をして音楽をやっている人がすけあくろの様な場所で演奏したり、作品のプレーの中でジャズの断片を表現をしていくのはいいことだと思います。なので、いろんな広がりが増えたら嬉しいです。

〜NEWLYのあとがき〜

⾳楽の話をするときに、急に⾔葉が詰まることがある。何もはっきり⾔い切れないし、
⼈の感覚に⼲渉する勇気がないから⾃分にがっかりする。
すけあくろに着くと、⼤道さんはデューク・エリントンの「Money Jungle」を流して、請
福のソーダ割りを出してくれた。すけあくろで聴く⾳楽は違うものに聞こえる。貴重な⾳
楽体験って感じがする。しばらくおすすめのアルバムを教えてもらったりして、ゆるく対
談が始まった。
えっとえっと。やっぱり⾔葉が詰まる。⾃分の発⾔に「個⼈の⾒解です」と⾔いたくなる
ほど神経質になってくる。カウンター越しの⼤道さんは、⾔葉を選んで時々⽬を瞑って眉
をひそめてゆっくり落ち着いて話していた。その軽くなくて重くもない雰囲気に、⾳楽に
関わる全ての⼈と⾳楽そのものへの敬意を感じた。
もしかして、今まで⾃分は⾃分を蔑んでいただけなのかも。そうじゃなくて⼤道さんのよ
うに⾃分の⾔葉で話せば伝わるんだ。と急に⼼のもやもやがすっと抜けた。
たぶん当たり前のことなんだろうけど、ようやく抜けた!と思った。
⼤道さん、ありがとうございました。
今回は三泊四⽇の旅。
ついてすぐ新垣⾷堂に⽜汁を⾷べに向かって⾷後はフェリーターミナルでマリアシェイク
(マンゴートッピング)を飲んだ。夜はせんべろ⾵⼟で泡盛も飲んだ。夜中に草履で⾏ったセッションバーも良かったし、cocosoneで聞いたレゲエも低⾳モリモリで気持ちよかった。
翌⽇は⼀休⾷堂でやぎそばを、知念商店でオニササも⾷べた。グルクンおにぎりは⼆⽇連続で。…⾷べてばかりだな。地元の皆さんと飲んだときに「観光客騙しだ」と教えてもらった料理もきっちり⾷べた。全部おいしかった。
三⽇⽬は、⼋重⼭⺠謡の保存についての講演会にも⾏った。
地元の⾼校⽣郷⼟芸能部の⽣演奏、ホール満席の参加者と登壇者が抱える危機感と熱量に
圧倒されて、当たり前だけど⾳楽を繋いでいくのは⼈だけなんだと思った。
ふと、前に⿊島から⽯垣島に戻る船の中で「安⾥屋ユンタ」を聞いた時の全⾝の⼒が抜け
る感覚を思い出した。あの⽇をより⼤切に思える気がする。
誰かが繋いできたものを聴いているんだ、やってるんだってのをずっと感じていよう。
⾳楽の話をしている⾃分が楽しそうで少しほっとした旅だった。
部屋のベランダでぼーっとするのも良かったな。
珍しくお⼟産まで買った。

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