CULTURE 2023.09.08

対談:TaiTan×Johnnie Walker 奇奇怪怪のポップアップとイベントを軸にブランドとクリエイターのコラボについて考える

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Asami Nobuoka, Edit_Ryo Tajima(DMRT)

9月17日まで代官山 蔦屋で開催されている『奇奇怪怪』のポップアップ。8月18日に開催されたレセプションパーティも大盛況であった。

レポ:実に“奇奇怪怪”なポップアップ「圧と密」@代官山 蔦屋が極めて大盛況

『奇奇怪怪』はTaiTanと玉置周啓による人気のPodcast番組であり、今回のポップアップ、イベント、書籍、番組と一連を通してジョニーウォーカーが活動をサポートしている。ブランドはどのような姿勢で『奇奇怪怪』に向き合っているのか。アーティストとしてTaiTanはどうコラボの成立に向き合っているのか。この両者でしか成立しないコラボ哲学について話し合ってもらう。ジョニーウォーカーからはTaiTanと2年を超えて繋がりを持つ鈴木健太氏(ディアジオ ジャパン マーケティング部)にお話いただいた。

協賛ではなく “Supported by”

ーただいま開催中の『奇奇怪怪』ポップアップのレセプションパーティについて振り返っていただきたいと思います。まずは感想からお願いします。

TaiTan:僕としては番組(『奇奇怪怪』)を3年間続けてきて、いろんなコミュニティのハブになり得ると感じていたので、それをプレゼンできる場を設けたいと考えていたんですよ。音楽、アート、映画から雑誌、文芸、漫画、あるいは芸人やYouTuberにいたるまで、色々なジャンルの今のオルタナティブな面白さを追及してる人が集まるカオス空間をつくれたら面白いはず、だと。そういった現在進行形のものをリアルな場に残したいと思って実践していきました。

鈴木健太(以下、鈴木):会場に来ていた人は本当に雑多でしたよね。我々としても、そのコミュニティの面白さを楽しみにしていたし、我々だけでは通常リーチできない層の方々がいらっしゃっていたのはよかったです。すごく広がりを感じたイベントでした。

TaiTan:僕らが最初に相談したのは『本を出すから広告を入れてほしい』って話でしたよね。でも、それだけやっていてもジョニーウォーカー的には本を開いた人にしか伝わらないし認知されにくい。そんなとき、ちょうど『1ヶ月くらい何かやってくれませんか?』という相談を代官山 蔦屋書店から受けていたので、じゃあGILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEを呼んで、ちょっと変わったアートピース的なオブジェを作ろうと。それを鈴木さんにお伝えしたら、ジョニーウォーカーとしても、そういったアート活動をサポートしたいという意向があったので、一緒にやっていくことになったんです。そこでディスカッションを重ねながら一緒に進めていった感じです。だから協賛ではなく、“Supported by”という立ち位置。ここが重要だと思います。

鈴木:そうですね。こうしてTaiTanさんと繋がりをもっていろんなことをやらせていただいているんですけど、TaiTanさんがプレイヤーでありつつも、全体の座組までしっかりと考えられる方なんで、今回みたいなことが実現できるんだと感じています。

ージョニーウォーカーとしてはポッドキャストのプログラムをサポートする意味合いをどういう点に感じていますか?

鈴木:これはポッドキャスト全体に言えることかもしれないですけど、リスナーとのエンゲージメントが他のメディアと比較しても高いと思うんですよ。中でも『奇奇怪怪』においてはその傾向がより顕著だと思います。カルチャーをサポートしたいと考える我々にとっては、そのコミュニティの中にブランドを入れてもらうことにすごく意味があり、ジョニーウォーカーのこともしっかり認識してもらえると思うんです。

TaiTan:あと、直接的な言語処理のコミュニケーションをリスナー、つまりコミュニティに対して働きかけるチャネルを持っているのはけっこうデカいと思っていて。これがライブだったら、会場にオブジェを置いたりして、MCで「ジョニーウォーカー、ありがとう!」とか言うことになるわけじゃないですか。でも、それは誰も得しない。

一同:

TaiTan:普段から番組の中で「あのブランド、面白いことをやっているよね」とか話しているし、その延長線上で「今回はジョニーウォーカーにサポートしてもらってさ」って話をするのは、僕らのコミュニティだと自然なことでもあるし、そこが特徴の1つかもしれないですね。

鈴木:それは強く感じました。リスナーの方達がジョニーウォーカーに対する感謝をソーシャルな場で発信してくれていましたし、ただの広告として受け取るのではなく、ジョニーウォーカーがサポートすることで『奇奇怪怪』がどうなるのかって視点でコメントしているのがすごいと思いましたね。

数値化できない未来への種まき

ーイベントに来ていたお客さんの雑多性について、どんな人を集めたのか改めて教えてもらえますか?

TaiTan: ただのイケてる風のパーティーを人工的に再現するのは最悪なので、僕がちゃんとリスペクトできて、奇奇怪怪的なるものが好き、オルタナティブを志向してそうな人に集まってもらいましたね。いわゆる演者に限らず、メディアの編集部に属している人から、ラジオやテレビのディレクターなど何かしらでモノ作りに携わっている、いろんな人が1つの空間にいることで雑多性が生まれていたと思います。ただ呼ぶなら誰でもできると思うんですけど、ちゃんと現場に足を運んでくれたっていうのは、この3年間くらいでコミュニティの在り方も成熟させることができたのかなと、我ながら感じました。

ーいわゆるインフルエンサーを集めただけではないところにも個性を感じましたがいかがでしょう?

TaiTan:そうですね。フォロワーの多いインフルエンサーをキャスティング会社を介して集めたとしても、そこにコミュニティへの忠誠心は当然ないので、その後の発話に繋がらないし、ただの仕事になりますよね。今回の『奇奇怪怪』のイベントだと、『すごい空間だった』というコメントも少なからずいただきましたけど、そこはすごく意識した部分でもあります。あと、自分の知り合いを集めるだけではなく、この人とこの人が出会ったら、その後によいコラボワークが生まれるんじゃないかなってことも考えながら、絶妙な人間関係の機微にも配慮しつつ僕のキュレーション軸で招待リストを編集していきました。

鈴木:TaiTanさんの言う通りで、来てくれる人の姿勢が普通のイベントとは違っていたように感じました。繋がりがある人同士ならではの空気感が生まれていたんじゃないかなと。そこにジョニーウォーカーもあってTaiTanさん達と一緒にやっているんだってことが認識してもらえたのがよかったです。このブランドはこのようなカルチャーをサポートをしているんだってことが伝わることで、この先新しい取組みに繋がるかもしれないですし、数値化できない未来への種まきとしての活動にもなったんじゃないかと思います。

理想はキャピタルとプロップスの交換

ー会場の装飾もすごかったですね。ジョニーウォーカーのアイコンでもあるストライディングマンのオブジェはすごい存在感でした。内装についてはどのように考えていったんですか?

TaiTan:そこは結構シンプルに、会場のどこを切り取ってもジョニーウォーカーと『奇奇怪怪』が映るようにしたという。そんな風にブランド色を強くすることに対して、僕はネガティブな印象がまったくないんですよ、商業性みたいなものへの潔癖感がない。むしろ、コミュニティのハブになっている人間がブランドと自分達がコラボすることによって自分達の制作物にどういう効果が生まれるのかってことをコミュニティに理解してもらえたらウィン・ウィンなわけで。だからこそ、僕らの方でペインティングしたストライディングマンの像を飾ることで、一連のプロジェクトをサポートしてもらったことを象徴づけるのは、ブランドにおもねるとかじゃなく自然な流れでした。

鈴木:当然、ブランドとしてのレギュレーションもあるんですけど、やれないことばかりではコラボする意味がなくなってしまうので、両者が良いと思えるところを探っていきましたよね。

TaiTan:そうですね。コンテンツとブランドがタッグを組むときって、ブランドが損な見え方をすることが多いんじゃないかと感じるんですよ。ともすれば、コンテンツの世界観を邪魔する存在にうつってしまうというか。だから、自分が主体的に動かすものでは絶対にそういうことをやりたくないと思っていて。僕はよく、キャピタルとプロップスって言葉で捉えているんですけど、キャピタルだけの一方的な流れになるとブランドは損をすると思うんですよね。だけど、本当に理想的なのはキャピタルとプロップスを交換し合うことであって。ブランドが蓄積してきたプロップスもコンテンツサイドが文脈を理解した上で力を借りた方が、結果として予算的なサポートをしてもらう以上のいいコラボがうまれるはずなんです。

ーでは、今後について教えてください。どんな関係を築いていきたいと思いますか?

TaiTan:今回、鈴木さんにお願いしてジョニーウォーカーと一緒に、コミュニティの在り方を実験として1つ提示するようなイベントをやったわけですけど、これを機に、僕のコミュニケーションの取り方によってはズブズブの関係になっていくことも、まぁ可能ではあるんですよね。だけど、それはあまりやりたくないと思っていて。

ーそれはなぜですか?

TaiTan:嘘ってバレるからって気持ちがすごく強いんですよ。単純に何かのスポンサードをしてもらっても本当に両者のメリットを信じきれていない状態だとしたら、結果として関係が継続しないので意味がないだろうと思うんです。そこで重要なのは自分達が達成したい状態の具体的なイメージと、なぜそれがスポンサーにとってリターンがうまれるのかをしっかりと現実的なものとして自覚していて、それをベースとしてブランドにサポートをお願いするというのがフェアだと思うんですよね。そのように無茶な要求はしないようにしつつ、お互いを高め合える関係性を築けたらいいなとは思いますけどね。

鈴木:その辺りは信頼しているので、今後も是非お願いします。我々としては今回のイベントで、こんなにも面白いコミュニティの存在を知ったわけだし、TaiTanさんを中心としたコミュニティの中でジョニーウォーカーがカルチャーをサポートするブランドだってことが認知されて、そういう人の数が増えていくといいかなと思います。良い形でサポートできることがあったら積極的にやっていきたいです。

ーでは、あのイベントに来ていたアーティストやクリエイターからの相談というのも、ジョニーウォーカー的にはありですか?

TaiTan:そこは僕を通していただいた方がスムーズかなと。

一同:笑。

TaiTan:無茶な要求と極めて強いレギュレーションというのが、アーティストが持つ特徴でもありますけど、そこら辺の感覚が僕の場合はちょっとシビアですよねと言っておきます(笑)。

継続的にステップを踏んで関係を築いてきた

鈴木:本当にTaiTanさんには挑戦してもらっているというか。ブランドがカルチャーをサポートするときには、コンテンツ自体にはブランドが現れないようなような裏方的な関わり方もありますし、場合によってはそういうのもアリだとは思うんですけど、『奇奇怪怪』のイベントでは、ここまで一緒にやれるんだ、実現できるんだとすごく実感しています。

TaiTan:そこでいくと、今回の書籍やイベント、展示物などすべての制作プロデュースを自分が立ち上げた会社、volvoxで行っているというのも大きいですね。僕のディレクションの温度感を理解している仲間が進行をしてくれることによって僕はより制作に集中しやすくなるという。それに、自分達でリスクを取って進行しているわけなので最後まで責任感を持ってプロデュースできたんじゃないかと思いますね。ただカッコいいものを目指して作って自分の評価を上げるっていう世界線じゃないところで表現できていると思います。ダサいものをつくったらコンテンツとして終了、予算的にコケても会社が潰れる、というリアリティをチーム全員が思っているのは大きいと思います。

鈴木:だから、なおさら安心でしたね。しかもTaiTanさんはプレイヤーでもあるわけで、そういう人がブランドサイドの気持ちを理解して動いてくれるってケースはなかなかないじゃないですか。そもそもプレイヤーとは直接のコミュニケーションがない場合もあったりするので、その安心感はすごくありました。

ーそうした両者の繋がりが今回のイベントに結実したとも考えられますね。

鈴木:そうですね。もう2年を超えるお付き合いで徐々に距離が近づいていったわけですが、この関係性がなくては発生しなかったことですから。ブランドの立場で言えば、お金を払えば他のブランドでもできてしまうようなメニュー的な施策はあまりやりたくないんですよ。繋がりがあった上で一緒にやれたことでなかなか他のブランドには簡単にマネできない内容になったんじゃないかと思います。

TaiTan:最初の会議で、鈴木さんが『継続しないと意味がないですからね』ということを話してくれて、それが嬉しかったんですよね。2年前の出会いから、最初は一演者、その後は番組という単位で、そしてもっと広いコミュニティという単位で。このステップを踏んでいくことが大事なんだってことをブランドサイドの人として理解していただいているのが、めちゃくちゃデカい、というか、それに尽きるんじゃないかと思います。

鈴木:我々としても、番組も含めてこれから凄いことになりそうだなって人達と早い段階から一緒にやれていることが将来的にもメリットが大きいんですよ。

TaiTan:僕としてはそこが1番安心できるというか。あくまでもビジネスとしてやっていることを両者が理解していた方が絶対にうまくいくと思うんです。その前提をすっ飛ばしてヴァイブスだけで動こうとしてもどうにもならない。利益を取れる形で何か一緒にもの作りできないか? 面白いものを一緒にできたらいいですよね、ということなんです。だから、僕は今後も面白いことを考え続けて、音楽や番組を通して、いろんな人と一緒にカルチャーシーンの新しい磁場を作り続けられたらと思います。

INFORMATION

奇奇怪怪第弐集刊行記念ポップアップ『圧と密』 Supported by JOHNNIE WALKER

2023年8月17日(木)〜9月17日(日)
代官山 蔦屋書店1号館 1階 ブックフロア

代官山 蔦屋書店
東京都渋谷区猿楽町17-5
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/35026-1627140725.html

奇奇怪怪第弐集
https://www.ishiharashobo.jp/

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