藤井道人
日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第十回は、現在撮影中の新作映画について。
2023年ももう少しで終わりますね。
11月、僕は北陸の地で新作映画を撮っています。キャメラマンは木村大作さん、84歳。言わずと知れた『レジェンド』です。まだまだ詳細は話せないのですが、何故今回のキャメラマンが木村大作さんなのか、僕にとっての備忘録として残しておこうと思います。
今回の映画の企画者は、故・河村光庸。「俺、すごい話思いついちゃったんだよ!!」と、子供みたいに僕に話してくれたあらすじが今回の映画の骨子(プロット)になっています。死んでもなお僕に映画を撮らせるのが、河村さんのすごいところだなと常々感じます。河村さんがこの世を去ってから、今回の映画のプロジェクトがスタートしました。
素晴らしい主演俳優が決まり、最高の脚本家に書いてもらえることになり、11月のクランクインに向けて準備が始まりました。盟友の撮影監督・今村圭佑とは、今回の作品を一緒にやらないことは決まっていたので、撮影監督や、技術部の技師たちを探すところから始まりました。そんな中、とても尊敬しているある先輩に相談したところ「木村大作さんと合うと思うよ」と言われたのです。青天の霹靂でした。もちろん作品は観ていたし、ドキュメンタリーで、その強烈なキャラクターも知っていて、「木村大作さんは、モニターも出ないし、35ミリフィルムでしか撮らない」ということも聞いていたので初めは躊躇しましたが、大作さんにオファーをするまでにそう時間はかかりませんでした。その理由は『もう一度、ゼロから映画を勉強したい』という想いからです。大学で映画制作の魔力に取り憑かれて18年。助監督経験も無く、独学で走り続けてきました。もちろん後悔はありません。初めて映画をソニーのVX2100で撮った大学時代から、一眼レフの出現で自主映画を撮りまくったインディーズ時代。BABEL LABELの法人化、30代に入ってからの沢山の出会いによって生まれた作品たち。それが今の僕を形成しているすべてであると思うし、今の僕の誇りです。でも、忙しくなって(藤井は何人いるんだと揶揄され笑)息継ぎもせず走ってきた中で、沢山のことを忘れていかなきゃいけなかったことも事実です。
そんな中、この映画のプロジェクトが進む中、木村大作さんとの出会いが、自分をまたコテンパンにしてくれて、更に高い山に登るチャンスなのでは?と思うようになりました。無謀にも見える挑戦ともがきの中に、何か光があるのでは?とも。実際に会った木村大作さんは84歳とは思えないほど元気で、声がめっちゃでかいんです。誰よりも動き、誰よりも考え、誰よりも監督に寄り添ってくれる、最高のキャメラマンです。昔話も交えながら、一緒に試行錯誤する姿は「教授と学生」のように見えているだろうなと思います。
きっと、誰もがうまくいく訳がないと思っていると思います。僕も、内心少しそう思っていました。でも、心の底から映画を愛している者同士なら大丈夫だ!!と、毎日ボロボロになりながらも、戦っています。毎日楽しいです。今までと違うことに挑戦するときは、いつも恐いです。大した人間でもないのに、失うことばかり考えて足が前に進まないことだってあります、人間ですから。
まあ、でも「いつか死にますから」精神で、無事に幸せなクランクアップを迎えたいなと思っています。この経験がきっと、将来自分の糧になると信じて、安全に完成に向けて頑張るので、どうか会えない家族、仲間、同志の皆さまも健康に留意して後悔のない毎日を送ってください。情報解禁はとても先になると思いますが、どうぞお楽しみに。もう少しで、別の新作の発表と『攻殻機動隊SAC_2045 最後の人間』の公開があります。新作映画は、本当に久しぶりに書いたオリジナル脚本で、個人的な思いが沢山詰まった映画です。
どちらも、期待していただけると嬉しいです。
次回は、再び質問コーナーですね。
なるべく多くの質問に答えていきたいです。
お待ちしています。
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。