藤井道人:けむりのまち第十三回『さようなら』と『はじまり』

日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第十三回は、現在撮影中の新作映画について。

2月14日は、新作映画のラストシーンの撮影でした。企画をいただいてから4年。紆余曲折あった作品のラストカットは、本当に感慨深いものがありました。
そして期せずして、その日は2月29日NETFLIXにて配信される新作『パレード』の初お披露目と、台湾にて3月14日から公開の(日本では5月3日公開)新作『⻘春18×2 君へと続く道』のワールドプレミアがその日に開催されるとは。お葬式と結婚式が同時に来たような、そんな日でした。

今年は年始から色々なことが起きました。北陸の震災は、去年の年末まで撮影でお世話になっていた大好きな地であったこともあり、自分の無力さを痛感する出来事でした。
何が出来るのか?考えても考えても、何もできない自分ばかりが浮かび上がり、また自責の念に駆られました。親愛なる北陸の皆さまが、一刻も早く平穏を取り戻せるように心から祈っております。
新作『パレード』は、2011年の震災からずっと僕が描きたくて描けなかった感情を書きました。喪失について、そして死後について、残された人たちについて。
2月14日にティーチインをしたときに『パレード』の世界は、死後の世界も暖かく描いているのは何故ですか?という質問を受けて「信じたかった」と咄嗟に言ってしまったことを、
「くうぅ、青いことを言ってしまった―」とか思いましたがそれは本心です。

僕は、他者に対する悪意が嫌いです。嫉妬や妬みは健やかに生きていく上で意味のないものだと思っています。
20代は、とっても恨み節で映画を描いていて、自分の未熟さを他人や社会のせいにして、そのエネルギーで映画を撮ってきました。仲間が増えて、家族が出来て、充足できる場が出来て、そこもまた僕にとって恐怖や重荷ではあるんですけど、そういうぐちゃぐちゃな感情を「ええい」と文字や映像に出来る仕事に就けたのは、ラッキーだなと今となっては思います。僕は最愛の人が死んで、やりきれない思いがたくさんありましたが、そのお陰で『パレード』に出会えました。河村プロデューサーに出会わなければ、この作品が世に出ることはなかったでしょう。河村さんは大好きですが、全然ちゃんとしたかっこいい大人じゃなかったんです。不完全なままおじいちゃんになった子供みたいな。そこが合ったのかもしれないですね。
そんな彼との「さようなら」の映画が『パレード』です。久しぶりの(本当の意味での)オリジナル映画なので、観客の皆さまにどう受け入れられるか、とても恐いです。でも、悔いはありません。しっかりと、僕が、好きな映画になりました。
2月29日からNETFLIXで配信開始です。是非ご覧ください。

そして『⻘春18×2 君へと続く道』が5月3日から公開になります。こちらは僕にとって「はじまり」の映画です。こちらも、沢山話したいことがある映画です。僕のルーツの台湾とのはじめてのプロジェクトは、何の後悔もないほど、素敵な映画になりました。主演のグレッグ、清原果耶さん、大好きなキャストとスタッフで妥協無く取り組んだ作品がどうか、皆様に届きますように。

今年は、全国津々浦々に出没する一年になりそうです。去年ですら一年の半分はルートイン(ホテル)とハイエースに生息していた人間なのですが、今年は更にちっとも東京にはいないことになりそうです。偶然出会えたら気さくに話しかけてください。
なんだか、つらつらと駄文になってしまいました、ごめんなさい。
明日も撮影です。それが生きるということですし、仕事です。
どれにも、妥協せず、無理もせず(迷惑をかけながら)、楽しんで生きています。
来月は、質問にお答しますのでお待ちしおります!

藤井道人

※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。