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サッカー日本代表 アウェイレプリカユニフォーム半袖
サッカー日本代表 アウェイオーセンティックユニフォーム半袖
サッカーにおいて、真の闘いは圧倒的不利な敵地にこそ。そこではミラクルも悲劇も因縁もつぶさに後世に刻み込まれ、今もネバーエンディングに語り継がれる。『the away』。“アウェイ”にまつわる5ストーリーズ。
ロンドンの郊外にフットボールの聖地がある。ウェンブリー。ここはプレーを許されることすら栄誉といえる。開催試合はFAカップの準決勝以上、リーグの一発勝負の入替戦、そしてイングランドの代表戦が基本。つまり特別。ゴールなんて望外。それを日本人で初めてやってのけたのが、井原正巳。日本のサッカーを前進させたディフェンダーである。
この出来事が起こったのは1995年6月3日。イングランドが主催した国際親善大会、アンブロカップの開幕戦だった。翌年にユーロ96の自国開催を控えたスリーライオンズは強化の仕上げ段階。アタッカーにはキャプテンのデビッド・プラットに、成長著しいアラン・シアラーがいて、英国のアイドルにして問題児、ポール・ガスコインもいる(この試合はベンチスタート)。一方の日本は98年のフランスワールドカップのアジア予選に向けて、新たなチームを模索中。監督は加茂周、コーチには岡田武史。キャプテンの柱谷哲二、唯一の海外組のカズ(ジェノアに所属)など、ドーハを経験した選手を中心に、森島寛晃、山口素弘、相馬直樹などの若手を起用して強化をはかっていた。
サッカーの母国を相手に、その聖地で開幕戦を戦う。しかもイングランドもけっこう本気。ワールドカップもまだ遠かった日本にとってはシビれるような状況だ。しかしどうだろう。試合が始まってみれば、充分に戦えている。互角はいいすぎかもしれないが、少なくともナイーブとは無縁。前半は両者無得点で後半に移っていった。試合が動いたのは始まってすぐ。ダレン・アンダートンに寄せきれずシュートを決められてしまう。
しかし日本は下を向かない。本気で勝つ気でいたからだ。ゲームのリズムを奪い返し、ゴールの予感もただよう。そしてその時がやってくる。後半17分、左サイドからのコーナーキック。キッカーはもちろんカズ。ショートコーナーと見せかけて、ライナー性のボールを送ると、ニアに走り込んだ井原にぴたりと合う。ゴール。こすっても消えない、日本のサッカー史に残る瞬間だった。
その後もゲームはドラマチックに進んだ。この同点弾が勇気を与えたのだろうか。日本はリズムを掴み、追加点のチャンスを作りつづけていく。慌てるイングランドはお家芸のキック&ラッシュを敢行するが、井原と柱谷を脅かすほどでもない。監督のテリー・ベナブルズに残されていたのは、ガスコインの才能に頼ることくらいだった。後半23分に投入。イングランドに失われていたリズムが回復し始める。そして後半40分過ぎ。あのもうひとつの記憶に残るシーンがやってくる。闘将柱谷、敵のシュートを手で弾く。まるでバレーボールみたいに。もちろんレッドカード。イングランドにPK。プラットが成功。決定的な失点を喫した。当時はちょっとユーモラスな文脈でも伝えられたような記憶もあるが、今ならわかる。それは断じて違う。あの時の日本は、それほど本気で勝つ気でいたのだ。あのイングランドに、あのウェンブリーで。親善試合であろうとも。今の日本代表にそれほどの気概があるだろうか。ないわけじゃないはずなんだけど。
Edit—Satoshi Taguchi, Hideki Goya, Makoto Hongo
Art Direction—Ren Murata(brown:design)