CULTURE 2017.09.05

「青春がマッチみたいに火がつく瞬間の目撃者でいたいと思った」。映画『youth』で菱川監督が撮りたかった光景

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
text_Takuya Nakatani

「幸せとは何か?」を問い、その答えを探して暴動へと突き進むユースたちを切り取った映画『youth』。モデルのるうこ、徳島出身の新人・岡崎森馬、若手実力派女優・杉本知佳をはじめ、メインキャスト6人全員が長編映画初主演、徳島オールロケによって描かれた青春映画だ。

サウンドトラックには、サンボマスターの「YES」が主題歌として鳴り響くほか、シーナ&ロケッツ、斉藤和義、なのるなもない、The Wisely Brothers、ポルカドットスティングレイなどが参加。ユースたちの憤りや笑顔、徳島の風景がそれらの音楽によって鮮やかに彩られ、未来へと加速し、意味やつながりを深めていく。脚本・監督は、国際的なアワード受賞作品を数多く手掛ける映像作家の菱川勢一。長編初監督となる今作について、菱川監督にその思いを聞いた。

ー今作は、徳島に住む幼馴染み6人による青春映画です。青春映画を撮りたいと思い続けてきたとのことですが、その思いから聞かせてください。

菱川:さすがにもう表現者としては枯れ始める年齢に差し掛かっているという自覚があってね。いつかやろうとずっと思ってたけど、もう限界だろ。っていうのが今回のこの映画。もうつくれないかなというギリギリでね。青春映画っていうのはその「わからなさ」っていうのと付き合わなきゃいけなくて、僕の脳みそに気がつかないうちに溜まっちゃった常識ってやつをできる限り疑っていかなきゃいけないでしょう。それはそれはエネルギー使う作業でね。でも、つくりたいから。
じゃあ、誰とよ? ってずっと思ってて、この1年くらいでその顔ぶれが一気に見えてきた。もうこれはやるしかないって思った。今回の布陣は、キャストもスタッフも、僕が最も信頼する全員です。だからこんなわからないものを形にできたと思っています。

ーオーディションはせずに、メインキャスト6人それぞれと飲みにいきつつ、愚痴も聞きつつ、脚本の着想・構想を進めていったとのこと。印象深かった出来事をいくつか聞かせてください。

菱川:るうこは、とにかく芝居をやりたがってて、その熱意というか覚悟というのを会うたびに聞いていた。(杉本)知佳と(北野)由依は、そもそもの出会いが、僕が監督だったCMの現場でスタンド・インをしてたの。「おい、お前ら何でスタンド・インやってんの? いいもん持ってるのに」って言ったら堰を切ったように話し始めて。
(岡崎)森馬は徳島の映画祭に行ってた時に、のこのこ売り込みに来ていて。二次会に連れてって、錚々たる顔ぶれの監督たちを前に「ここで話せ」って。そしたら自分が秘めている役者への思いを話し始めた。うざったいくらい(笑)。あんまり暑苦しいんで「こういうのを考えてるんだけど」って脚本を森馬に見せたら、紹介したいと連れてきたのが(藤井)草馬と(古矢)航之介。こいつらも暑苦しかった(笑)。
6人とも、とにかくチャンスに飢えていたから、こういう発火点にはそうそう出会えないなあと。その、内に秘める熱がすごかった。この6人が発火するのを目撃するのは面白いなあと。青春がマッチみたいに火がつく瞬間の目撃者でいたいと思ったんだよね。

ー6人の役者をそれぞれひとことで表すなら。

菱川:
森馬:演技はすごくいいのに普段の話がクソつまらない(笑)。バラエティ番組不向き。
知佳:可愛い顔とは真逆の超実力派。ときどきエロい。
るうこ:生き様を武器にできる貴重な才能。よく言えば自然体、悪く言えばそのまんま。
草馬:表現者であることを楽しんでる。歌とギターが超うまい。
航之介:結婚するならこの人って女子が全員言うような人。朴訥で誠実。
由依:自分の売りに気がついていない天然女子。

やばいですね。あんまり褒めてない(笑)。

ー後半の脚本は当て書きが多かったそうですが、特にそれが強かった役者はいましたか?

菱川:るうこですね。会うとプライベートの話しかしないし。自分が売れることが監督への恩返しだなんて言う新人は最近いないし(笑)。まあ、でも今回、ほぼ全員当て書きです。全員さらけてきてたなあ。泣くし(笑)。ユイだけかな、大して当て書きしてないの。本読みまで会えなかったしね。現場で調整したかなあ。
あ、そうそう、現場で結構セリフ変わってます。「台本通り読んでんじゃねえよ」って何回か言った気がする。そのくらい、自分を演じろって思いながらやってました。あとね、6人以外の2人の刑事。西村さん(デカ長役)と高木(三島役)の二人は役者として経験豊富でしょ。ここは当て書きじゃないの。むしろきっちり役を描いていて、それを本当に見事に演じていた。台本きっちりやりながらすっとアドリブを少し入れてくる。キャラ通りの。高木なんてチャラい刑事役やるからチャラい合コンに行ってきましたって(笑)、アホな役作りしてたりして。おそらく6人の不安定さはこの2人が引き立たせているんだと思う。

ー「最初に機動隊のヴィジュアルが出てきた」と。実際に徳島県警にも協力を快諾してもらったそうですが、そのあたりの話も聞かせてください。

菱川:権力との衝突っていうのを一発でヴィジュアル化するのに何が一番かって考えた時に、真っ先に出てきたのが機動隊だった。きっとyouthたちにはかっこいいとすら映るだろうなって。ファッションに見えるだろうなと。その感じも今回のテーマの一つであるジェネレーション・ギャップに重なった。その皮肉さっていうのかなあ、政治とか権力とかとファッションとかカルチャーとか。そういうのが緊張感とともに表現できるなあと。
でも、いよいよ映画つくろうかと動き始めた時の大人たちの反応が面白かった。いろんな企業やブランドに協力をお願いしに行って「機動隊が出てきます」っていうと一斉に眉をひそめる。昨今のコンプライアンスとかネット炎上とかが頭をかすめるんでしょうね。攻めてるなあって思うブランドとかにも協力を依頼しに行ったりしてみましたが、同じ反応。こういう時って本当の姿勢が出ますね。んで、一番攻めてたのが徳島県庁と徳島県警。すげえなって思いました正直。権力サイドが一番過激だったっていう(笑)。

ーそもそもこの作品は、海外に照準を向けているそうですが、なぜ最初から海外が前提だったのでしょう?

菱川:僕ね、例えば、「とある北欧の小さな街の物語」なんていうのはすごく見たくなるの。海外から見たら日本の無名の徳島が舞台っていうのは絶好のイメージだと思う。そういう情景描写に加えて、セリフ過多な設計っていうのも、昨今のアート系海外映画の中では新鮮なんじゃないかとも思う。字幕っていうのが一つの大きなハードルになるので、海外マーケットのニーズに合わせて吹き替えは必要かもしれないなあ、とも考えてます。そのくらい、これがニューヨークのFILM FORUMでかかった時にどう映るかとか、イタリア・フィレンツェのODEONでかかったらどうなるかっていうのを頭のなかでシミュレーションしながら撮影・編集してました。海外版はモノクロ版も用意します。この映画、モノクロ似合いそう。

ーそうなってくると、「地方と東京」という関係性・対比でもないですよね。

菱川:よく言われている「地方と東京」って経済的なことをベースに語られるでしょ。全くずれてんなあと思う。メジャーかインディーかっていうのに近いんじゃないかな。マイクロソフトかアップルか、とか。僕はインディーが好きだし、アップル好きだし。でも、昨今はそれが逆転しててインディーの勢力がすごい。ここに注目すべきでね。中央の人(政治家)たちわかってないよね(笑)。対比を言いたがるのは、上位にいるものがビビってる時に言い出すことだよね。

ー今の日本の若者たちについて、菱川さんはどう感じていますか?

菱川:大抵さ、東京のダラダラした若者たちが描かれるでしょ(笑)。覇気がない感じ。違うなあって思って。少なくとも僕が会っているyouthたちと違うなあって。今の世の中って正義や正論をすぐに振りかざすでしょ。そういうのにさらされている青春を生々しくyouthたちは送ってるんだよね。だから今日の常識は明日の非常識だし、一方で長年続けていることへのリスペクトもちゃんと持っている。小さな革命はたまにやってたりもする。全くわかりやすくてわかりにくい(苦笑)。

ー色合いや構図はもちろんですが、映像の「揺れ/ブレ」が印象的でした。若者たちの心の揺れを表現しているのかなと感じましたが、撮り方でこだわった点はありましたか?

菱川:全編手持ちで撮影。これはきっぱり決めてました。僕は普段はキッチリ派なんです。いつも三脚の撮影ばかりだったし。撮影監督の尾道さんにはじめ「えっ?」って驚かれた(笑)。きっと僕のスタイルをある程度想像していて、その真逆を言われてビックリだったんでしょうね。途中、さすがにおいおい揺れすぎだよっていうとこありますけどね(笑)。でも、いいじゃないか。こんな荒っぽい映画あってもね。なんか昭和の「仁義なき戦い」みたいだよねえ、って。

ーサウンドトラックについても聞かせてください。冒頭、シーナ&ロケッツの名曲「レモンティー」(1979年)ではじまりました。さらには、なのるなもない、斉藤和義など、振り幅も多彩です。映画において、音楽の意味合いはどう捉えていますか?

菱川:まず、ここで裏話を。実は一番最初に決まりそうになっていたのが「サントラ全曲Underworldで」だったの。実際彼らに打診して、快諾もらってたりした。でもTomatoのマネジメントと許諾の段階に入っていた時に僕が断ってしまった。「ここはひとつ、全編邦楽とオリジナルでいきたい」って。で、この映画に合いそうなものを素直に考えた。曲だけじゃなくてミュージシャンという存在も要素としてすごく重要だなあと思って。だって例えばアルバムって映画1本作る感じでしょう。物語をシーンごとに綴るような。
シーナ&ロケッツからは生き様を知ってほしかった。なのるなもないが発するメッセージをストレートに届けたかったし、斉藤さんの叫びも届けたかった。オリジナルサントラは、基本は編集した画の前でギター1本で画に合わせて弾くっていうやり方。ここは、清川(進也)にかなり頑張ってもらったなあ。相当ボツにしてる。音楽はナイーブでデリケートでしょ。一音で変わっちゃうから。映画は音楽がもう一つの主演ですよ。

ーヨーコ(るうこ)とユイ(北野由依)が夜の街を駆け抜けていくときに流れるThe Wisely Brothers「hetapi」は、この曲のMVでもあるのかも、というほどの親和性もあって、ドキドキしました。音楽も当て書きというか、曲ありきで場面をつくったりもしましたか?

菱川:Wiselyはね、もうずっとアルバムを車で聴いてる、今も。最初からあのシーンにはイメージがあった。もうね、このイメージは最後までスタッフに伝わらなかった(笑)。映画が長くなっちゃったからどこかカットする? って話になった時に一番標的にされたシーン。おいおいおいと死守。編集して見せたらやっと助監督の純一が「やばい」って言ってね。Wiselyの3人の女子とヨーコとユイを合わせた5人の女子たちによる誰にも邪魔されたくない瞬間っていうシーンね。してやったりの心境。

ーそしてエンディングにはサンボマスター「YES」が響きます。晴れやかな日常が彼らに訪れんことを、という思いを強く感じました。

菱川:Underworldを諦めて、日本の心をどうにかして響かせたいって思った時にサンボしかないって思った。ほかの候補はなかったなあ。実は曲は2曲で迷っていた。最初に打診したのが「美しい人間の日々」。映画にぴったりだった。実際、途中までそれで設計してた。でも、映画が少しづつスケール感が大きくなっていったので途中で「YES」に変更して。関係者の方々、ご迷惑おかけしました。この場を借りて、すみませんでした。おかげさまでいい感じになりました。「必ず生きておくれ」、この冒頭の言葉が全てでしょう。青春にはいいことばっかりじゃなくて。そこに届けたいじゃない。世の中そんなに捨てたもんじゃねえぞ、って。それをド直球に「YES」が代弁してる。

ー資料に書かれていた「映画をもっと自由に解放したい」という言葉。菱川さんが考える、映画そのものの魅力とは?

菱川:大きな映画館を満杯にすることを目的に映画をつくらなくてもいいじゃん。欲を言えば中くらいの規模の映画が幸せに存続できる流れが欲しいなあって思う。みんなが歯を食いしばって泣きながらつくる極貧の映画か、超有名人勢揃いの超大作かっていう二極化が激しすぎて、ちょっと邦画が極端なんじゃないかって思ってるので。90分くらいの中規模の映画をご飯食べる前にちょっと観て「あそこグッときたわー」なんて話しながらワイワイやってほしいなあっていう。ニューヨークとかパリとかのスタイルを羨ましがっての言葉です。そういうマーケットがほしいなあって思う。層の厚い映画が生まれていくことを願って。

写真集「youth」より

ーまた、注目の写真家、satoshi watanabeさんが撮り下ろした写真集「youth」も同時発売されます。satoshi watanabeさんの魅力とはずばり。

菱川:最近会った若手写真家の中で一番写真への姿勢がストイックだったから。だから、全部任せた。伝えたのは「映画と関係なく彼らを撮ってくれ。パンフレットじゃなく、写真集として出すから」とだけ。あとはほったらかし(笑)。撮影から帰ってきてsatoshiが「6000枚撮っちゃったんですけどどうしましょうか?」って。アホだなと。そんな写真バカにこのタイミングで出会えて最高です。こいつ絶対売れっ子写真家になると思うな。

写真集「youth」より

ーこの写真集、劇中の彼らのアザーストーリーのようでもあり、役者そのままの個でもあり、という二重化がおもしろいです。どういった狙いでしたか?

菱川:あ、ちゃんと観てくれてるなあ。ありがとう。その通りなんですよね。盛大にフィクションを描いているドキュメンタリーみたいな。本当にこの6人がそのへんで生きてるような感じね。その存在感が元気をくれてるように思えたりして。映画ってどんなものでも自分をそこに投影するでしょう。この映画を観終わったあとに「こんなずっこけでかっこ悪い若者たちが最高にかっこよくて、やべえ、なんかしよう」って思ってもらったりしたら最高の監督冥利ですね。んで、写真集を開くとね6人がそこにいるのよ。「うじうじしてんじゃねえぞ、コラァ」って言ってるみたいに。最高だよね。そんな友達。そういうのにしたかったんだよ。

映画 『#youth』日本版予告編 #1

INFORMATION

映画「youth」

出演:岡崎森馬 / 杉本知佳 / るうこ / 藤井草馬 / 古矢航之介 / 北野由依 / 他
脚本・監督:菱川勢一 
撮影監督:尾道幸治 照明:土井立庭 音楽監督:清川進也
撮影協力:徳島県 製作:DRAWING AND MANUAL
カラー90分 / オフィシャルWEB https://www.youth.exposed

<上映情報>
日時:9月8日(金)・15日(金)・22日(金)・29日(金)
21:00~
会場:シアター・イメージフォーラム シアター1
(東京都渋谷区渋谷2-10-2)

<写真集>
satoshi watanabe 『youth』
1,800円+税 / 劇場、youthオフィシャルサイト、Amazon にて
2017年9月8日より順次販売

■ seiichi hishikawa
http://seiichihishikawa.info/
■ satoshi watanabe
http://www.satoshiwatanabe.org/
■ DRAWING AND MANUAL
https://www.drawingandmanual.studio/


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