Interview: Tamio Iwaya=GraphersRock 4月24日に開催されたイベントSEEK for FREEDOMレポート&そこに表現されたデザインについて

4月24日(水)、渋谷 THE CORNERで開催されたハーレーダビッドソンとグラフィックデザイナー、GraphersRockによるコラボプロジェクト「SEEK for FREEDOM」。IRON1200™をベースに、GraphersRockのデザインを投影した世界に1台のハーレーが展示され、tofubeatsやhas、長谷川白紙によるパフォーマンス、監督・映像ディレクター、吉﨑響や編集者、野口尚子(PRINTGEEK)をゲストに招いたトークショーが展開された。ここでは大盛況となった本イベントのレポートと、デザインを担当したGraphersRockことTamio Iwaya氏にデザインの意味、思考、ルーツなどを話してもらった。



力をイメージしたグラフィックにしようという考えに至って

ーハーレーダビッドソンとのプロジェクト「SEEK for FREEDOM」にてバイクへのアートディレクションをされましたが、歴史あるメイカーのバイクにデザインを施すというのは歴史背景にも難しい部分がありましたか?

Tamio Iwaya(以下、Iwaya):いえ、特には難しく考えていなくて。今回、ハーレーダビッドソン ジャパンが僕にオファーをしてくれた背景には、今までのハーレーの文脈や様式に囚われないものを形にしたいという意向があったと思います。だから、自分もあえて深くリサーチしないでデザインに取り組みました。バイクをキャンバスとして考えて、そこに自分のグラフィックを描いていったらどうなるだろうか、ということを考えていました。オファーされた段階で「今までになかったものを作ってほしい」ってことは伝えられていたので、ハーレーダビッドソンのルール、マナーみたいなものを意識しませんでした。そういう意味で、これまでのバイクカルチャーにおいて存在しなかったデザインが仕上がったと思います。普段、まったく違うフィールドにいる僕のような人間が、バイクをベースに新しいデザインを作るということ、それがうまく作用したんじゃないでしょうか。

ーハーレーのバイクにデザインを施すためのコンセプトやテーマはありましたか?

Iwaya:今回はバイクってなんだろうって結構考えたんですよ。ハーレーに限らず、バイクってどんなものなんだろう? って。そこで思ったのが、バイクは唯一、エンジンにダイレクトに乗っている楽しさが味わえる乗り物だってことなんです。エンジンって力の象徴だったりすると思うので、力をイメージしたグラフィックにしようという考えに至って。力の象徴としてのヒョウ柄を彷彿させる、野生的なモチーフを入れたりしました。そこに対して僕が普段やっているテクノっぽい雰囲気のものをハメていくような、そんな作業でしたね。言うなればサイボーグのチーターのようなイメージです。

ー様々なグラフィックがコラージュされているようなデザインに惹かれましたが、コラージュという手法を使ったのには理由があるんですか?

Iwaya:そこには深い理由があるわけじゃないんですが、逆にバイクのデザインってあまり細かいグラフィックを散りばめるようなことはしないじゃないですか。そういう意味でも細かいディテールがギュッと詰まっているようにしたかったんです。

ー実際にデザインを施すときに大変だったことはありますか?

Iwaya:実際にデザインしてペイントファクトリーと打ち合わせしたときに知ったですけど、今までこういうデザインがなかったのは、やらなかったんではなく実現できなかったんだな、と。写真じゃわかりにくいと思うんですが、バイクのディテールって、ものすごく歪んでいるんですよ。そこに対して細かいものを配置していくっていう作業がすごく大変な作業で。だから、バイクをペイントする方も、こういうデザインは当たり前に考えなかったわけで、そこにペイント作業の事情を何も知らない僕がやってきて「こういうデザイン実現できますか?」という工程を理解していないからこそ、提案したデザインに職人の方が応じてくださって、今回のプロジェクトが実現できました、僕がバイクのペイント工程を予め知っていたら、ありきたりなもので終わっていたかもしれません。

ーバイクの塗装に対する先入観がなかったからこそ、思いつけたデザインなんですね。

Iwaya:そうですね。それが良い方向に作用したと感じています。それに、僕も全然知らなかったんですけど、蛍光色って太陽の光ですぐ色が抜けちゃうらしくて。だから車やバイクで蛍光色の塗装ってやらないらしいんです。

ー確かに蛍光色のバイクや車ってありそうなのにないですね。
Iwaya:街中でも見ませんよね。今回は、こういうコンセプトモデルだから出来たカラーリングなんだと思います。そういう経緯もあって蛍光のイエローのペンキが日本のバイク用の塗料屋さんに在庫がなくて。あちこち探してもらって1缶だけ在庫が見つかって。それでなんとか塗ってもらったんですよ。もし、その在庫が見つからなかったら別のデザインになっていたかもしれませんね。

自分の所有欲を満たすためのスペシャルボックス

ー俯瞰して完成したバイクを見ると近未来的なイメージがあると思いました。『AKIRA』っぽいというか。

Iwaya:僕も『AKIRA』はすごく好きだし、未来的と言えば映画『トロン:レガシー』とか。あの作品にもバイクが出てきますよね。テクノっぽいカルチャーの中でのバイクって色々あるんですけど、バイクと言えばロックやメタルと親和性が高いじゃないですか。テクノカルチャーに付随するようなバイクって存在していなかったなって思っていて。そういう意味でも新しいカルチャーに対してのバイク像っていうのを作れたと感じています。

ーバイクのお披露目イベント「SEEK for FREEDOM ~ Exhibiton ~ 」では、来場者にスペシャルボックス(TシャツにZINE、ステッカー)の配布と、非常に豪華ですね。

Iwaya:ZINEはバイクを作る過程の写真や完成したバイクの写真などをグラフィックでコラージュしていって一つのドキュメントっぽく仕上げたものなんです。僕は所有欲がすごく強いんですよ(笑)。今回、作ったバイクってこの1台だけだし、自分が所有することができないじゃないですか。この所有欲を満たすためにグッズをしっかり作りたくなっちゃって。どうしてもこれ(制作したバイク)を自分の手元に置いておきたいんですけど、それができない。だからグッズとしてTシャツやステッカーまで作らせてもらいました。ステッカーも普通の紙のステッカーじゃなくてシルクスクリーン製なんですよ。蛍光のフィルムの上にブラックで刷ってもらっていて。バイクに貼っても問題ないほどの耐久性があるんです。

ー今回のコラボバイクのデザインがグッズとなってひとつのボックスに入っているというのもユニークです。プラモデルのケースみたいですね。

Iwaya:しっかりとパッケージするための箱を用意したくて無理を言って作ってもらいました。プラモデルやコーンフレークの箱などをイメージして制作したんです。ただTシャツなどのグッズを配布するのでも嬉しいとは思うんですが、しっかりパッケージングされて、プロダクツとして完成されていると、もらう人の印象も変わってくると思うんです。

グラフィックの原点となるのは音楽 特にクラブカルチャー

ーちなみに、ExhibitonイベントではtofubeatsさんがDJで出演されましたが、Iwayaさんはtofubeatsさんの作品をディレクションをされてらっしゃいますよね。

Iwaya:そうですね。tofubeatsは彼が高校生の頃からの付き合いです。もともとはMaltine Recordsっていうネットレーベルがあって。そこのデザインに僕が携わっていて。tofubeatsもそこから音源をリリースしていたりして、その頃からの繋がりですね。

ーIwayaさんのデザイン的なルーツというと音楽がベースにありますか?

Iwaya:僕は10代の頃から音楽が大好きで、それこそずっとクラブに通っていましたし、DJやトラックメイキングも当時やっていたんです。でもあまり結果が出せなくてそこからグラフィックデザインを始めたので、音楽が原点ではありますね。グラフィックデザインに関してもWARP RECORDSのグラフィックをディレクションをしてるThe Designers Republicだったり、90年代の渋谷系と言われるアーティストのデザインを手掛けてらっしゃったアートディレクター、信藤三雄さんやFactory RecordsをアートディレクションしていたPeter Savilleみたいな音楽と密接なグラフィックデザイナーからすごく影響を受けています。

ーそもそもの話になるのですが、なぜデザイナーを目指されたんですか?

Iwaya:子供のときからパソコンが大好きでパソコンオタクだったんですよ。なので、デザイナーになろうと思ったのも、音楽ができないんだったら次に好きなパソコンをずっといじっていられる仕事をしたいなっていう考えだったんです。最初からDTPデザインが入り口だったんですよ。でも、他のデザイナーと1番違うのは、デザインをやる手段としてパソコンを使っているのではなく、パソコンを使うこと自体が目的になっている部分だと思います。だから、そういう部分がデザインにも表れているのかなって。パソコンを触っていった結果としてアウトプットされていってるようなイメージがあります。

ーなるほど。では、最後に。今後、制作してみたいデザインはありますか?

Iwaya:すごくデカいもの作りたいですね。僕の場合、美術をやっているアーティストと比べると実空間に展示する意味がほとんどないデザインが多いんですよね。美術作家の人は1点ものを描いて、その実物を見せることに意味があるので展示の意義があると思うんですけど、自分がやっているデジタルデータで構成されたデザインではいくらでも複製できるし、1点ものとして見せる意義が浮かび上がらない、だから、すごく大きなものを作る、とか。空間を支配するようなそういう発想になっちゃうんです。例えばビルに丸ごとグラフィックを施すとか。それに今回はバイクをデザインできたので、さらに大きな乗り物として車とか飛行機とかに興味があります。

以下、当日の盛況っぷりを写真で振り返る。

DJタイムからトークショーまで、ご覧の通りの盛況っぷり。このとき、この場所でしか見ることのできない1台限りのバイクを巡って、多くの人が、この場所と時間を楽しんでいた。

INFORMATION

SEEK for FREEDOM
HARLEY-DAVIDSON®×GraphersRock

https://freedom.harley-davidson.co.jp/seekforfreedom/

GraphersRock
http://graphersrock.com/