TOKYO BLUE EYES
by TETRO.
VISITORS : 006 野田祐一郎
渋谷は鴬谷町の片隅に構えるヘアサロン、TETRO。目印は鮮やかな青いブルーのアパートメント。この場所には現代のサブカルチャーを形成するアーティストやクリエーターが足を運んでいる。カルチャーの発信地になりつつあるこの場所で聞こえる会話に耳を澄まそう。新たなるエネルギーの発見ができるかも。 壁が“TETRO BLUE”と呼ばれていることにちなんで”青き眼”=人の訪問を歓迎する目を持つ、この場所から東京の今を覗いてみる。連載第六回目に登場するのは写真家、野田祐一郎。
TETROのヘアメイクアーティスト、森田康平が日々姿を変える渋谷再開発地近辺にて待ち合わせたのは、現在日本を離れロンドンを拠点として活動をしている、写真家の野田祐一郎だ。
まるで幻かのように現存する事実を切り取る彼の作品群は息を呑むものがある。その写真になって初めて気づかされる美しき瞬間はどう捉えているのか。感情の変化に翻弄されない自然体であるふたりが共通して魅了されるものとはなんだろう、そしてまだ見ぬ先のことについて少し思い巡らせてみる。
今回は、嶌村吉祥丸による写真と共に、この日野田祐一郎に映った東京の情景もお届けする。
矛盾している両方とも大事で、どっちの感情も自分だから素直にいれるのが一番いいと思ってる。
森田:野田さんのことは出会う前に一方的に知っていました、とにかく写真が好きで。初めて喋ったのは1年くらい前ですよね。
野田:前回俺が日本に帰ってきたタイミングだったね。でもそれからロンドンに帰るまで、すごい頻度で会ってた気がする。
森田:夏の間に週3か4で会っていましたね。よく一緒にライブも行って楽しかったな。ロンドンを拠点にしてもうどれくらいですか?
野田:3年経ったかな。日本には半年~1年に1回のペースで帰っては来てるけどね。
ーなぜロンドンだったんですか?
野田:理由は割と消去法でした。東京に7年くらい居て、なんとなく行き詰まってると感じて。「ロンドンに行きたい!」ではなく「日本を出なきゃ。」と思って。なので憧れではなく、行ってから好きになりました。
森田:当時、野田さんの名前を聞くようになってから、急にロンドンに行ってしまったイメージでした。
野田:そう、日本でちょうど軌道に乗ってきたかなって時だったかもしれない。周りに「やっとこれからなのに今行くの?あと1年くらいいたら?」とかよく言われました。でもそれだと自分的には遅くて、もう窒息しかけって感じでした(笑)。
森田:向こうに行って、やっぱり写真も変わりましたか?
野田:ずっと変わっていってる。環境の違いはもちろん、1年目と2年目では違うし。たまに日本に帰って来ても変化は生まれて、でも変わらないようにしようとは思わない。写真が変わることで逆に半年前と全然違うじゃんって離れる人もいるけれど、その時その時を大事にしたいから自分としては気にならないし、自分の気持ちに素直でいたい。
@Yuichiro Noda
森田:野田さんの写真は陰影が印象的だなって。モノトーンでも抽象的で濃く残る感じ。もしかして、ロンドンの天気は関係しているんですか?
野田:天気というか、心理的なところは影響しているかも。日本は住み慣れていて友達もいてご飯も美味しくて。逆にロンドンは孤独になってお金もどんどん減っていくし。でも日本にいる時よりも時間がある。音楽もそうだけど暗いの多いでしょ。日が短かったり、自分に篭る時間が多いんだと思う。初めての経験だったから最初はそれに面食らうんだけど、でも潜って潜って…たどり着くところなのかな。ある程度までいくとまた固まりがちだけど、さらにぶち壊して進んでいけたらなと思ってる。
ー日本を離れて、日本に対する見え方は変わりましたか?
野田:それが全ての世界だったのが、比較対象ができたので良いこと良くないことは感じるようになりました。日本にいる時は嘆いてばっかりだったから、今はどうしたら自分のやりたうようにできるのか、前向きな目線を持てるようになりました。
森田:やっぱり好きだなぁ。野田さんの考え方。
野田:それぞれのいいところと悪いところがあって、どちらが優れてるとは一概に言えないと思う。日本はギャランティがちゃんと出てるけど、その分、お仕事感が強かったり。ロンドンは、お金にならないけど好きなことをやっていて、みんなしのぎを削りあっている。それがその先に繋がるし。こと雑誌1つとっても目的が違う。いま、両方見れていることは勉強になってるかな。
森田:僕はずっと日本だけど、最近自分は何をやりたいんだろうって思い返して、ちょっと浮遊していた時期があったんですね。でも周りにはミュージシャンやアーティストとか、沢山の人の感情を動かすことのできる人達がいて。その自分にはできないようなことをやれる人の力になれるような影響力を持ちたいって改めて確認できました。
野田:力をつけなきゃ。
森田:そう、力つけなきゃいけない。その為には当たり前だけど目の前の仕事のスキルアップをして周りに貢献していきたいな。
野田:ほんと、人好きだよね。
森田:人好きですね。綺麗事に聞こえるかもしれないけど、みんなが喜んだり、出世することが嬉しくなっちゃうんですよね。
野田:すごいよねそう思えることって。本質的な部分がマネージャー気質。エモーショナル(笑)。
森田:笑!
野田:エモーショナルな森田をライブで見失ったら、だいたい前の方にいるんだよね。
森田:野田さんもクールに見えて、ライブとかで上がったら一番前の方で踊り狂ったりしてるから!仲良くなって意外だったのが、めっちゃ人間ぽいところ。感情が溢れ出てる。
野田:できる限り、正直でいたいなと…。解放できるところは解放して、自制しなきゃいけないところは自制して。矛盾している両方とも大事で、どっちの感情も自分だから素直にいれるのが一番いいと思ってる。外からの印象だけだと、器用でいけ好かないやつってよく言われる(笑)。
森田:本当はめちゃくちゃ体育会系なのに。
野田:直接会って話してみたら全然印象が違うから、ちゃんと背景を知ることも大切だなと思う。
ーネットが主流の今の時代は特にそうですよね。
野田:やっぱり体験を重視したいです。その場所に実際に行って音とか色とか空気を自分で感じること。今は視覚的に情報はたくさん入ってくるけど、やっぱりその場にいないと感じられないことはたくさんあるから。逆に普段はある程度情報は遮断して、そういう自分の五感六感をもっと研ぎ澄ませたい。ライブでうわーってなるのもそれだけ反応してるってことだから、そういう自分の感覚をもっと上げたいって思います。どんどん鈍ってると思うから。
この前の、Kelsey Luの東京公演は行った?
森田:行きました!
野田:僕は彼女のことを現代のシャーマンだと思っていて。天の仕事じゃないけど自分が受容体になってそれを伝達しているような感じ。去年行ったロンドンの小さい教会での彼女のライブはとても素晴らしかった。
森田:その感じわかります。
野田:ロンドンはやっぱり面白いライブに出会うことが多い。ここ1年くらい、 ジャズライブによく行っていて。生ものだから、めっちゃぶち上がる時もあるし、探り合ってるのも見ていてドキドキする。日本だとGODのライブもそれを感じた。見ていてこっちが大丈夫かなってそわそわしてたり、突然バコーンと上がる感じしない?
森田:あります(笑)。
野田:ライブ感がヒリヒリする。音楽に限らず、やってる本人たちも何が出てくるかはわからないけど、どこかに向っていて、何かを越えようとか壊そうと感じるものは、すごく好き。
森田:最近は何聴いてますか?
野田:最近だと、ラジオを流していて、気付いたらどこか違うところにいってたのはELEH、2010年の古い楽曲。ロンドンのラジオで、誰かがミックスを流している時に流れていた。
森田:へえ!知らないです。新しい音楽を知る時はラジオが多いですか?
野田:新しく出会うのはラジオかな。iTunesとかだと、あんまり無差別に出会うことは少ないから。
ー人づてで出会う音楽って突然ハッとなるものが多いですよね。
森田:僕もよく行く下北のミュージックバーで新しい音楽の出会いがあります。そこで働いている女の人が、BimBamBoomってバンドやってるって話になって、聴いたらめちゃくちゃ良かった。
野田:音楽も聴くタイミングで、全く違って聴こえない?
森田:個人的には、Daniel Caesarのファーストがすごい好きだったんですけど、新譜とか聴けなくなったなぁ。
野田:写真でもそういうことがあって、写真を始めた時は好きな作家さんとかのスタイルの変化に対して、あんなの最悪だ!って思ってたけど(笑)。今は、あぁ同じところにいれないんだって自分自身、身を持ってそれを理解してきた。でも表現の手法は変わっていってるけど、本質はそんなに変わってないと思ってる。その外的な変化で、人が離れたりくっついたりがあるけど、またいつかどこかで重なったらいいなと。年齢と共に好きなヘアとかは変わらないの?
森田:変わりますよ。わかりやすくファッション的なお洒落!より、風に吹かれて顔にかかってしまう無造作な雰囲気に今はドキッとします。
野田:なんか森田の作るヘアは、“切りました!”ではなく途中で止める印象があって。やりすぎないちょっと不完全なところで終わるのがわかる。…それって下手くそっていうのかな(笑)?
一同:笑!
森田:いや、そうしてるんです(笑)!
野田:それって結構難しいことだよね?だって普通、売れる為にも俺のスタイルはこれだ!って出したいと思うから、そこに全く興味がないっていうか。
森田:そうですね。僕はその人のパズルのピースの1つでよくて、無かったら目立つけど、上手くハマってたら別に焦点が集まらなくていい。
野田:その自己主張の殺し方はすごいなって。人を大事にしている証拠だと思います。
森田:自分を出さないからこそ、その時似合うものは絶対にわかります。
森田:あと、写真や映画とかの好みもそうかもしれない。どうなったんだろうと想像を掻き立てるような、はっきりしないものが好きですね。
野田:そこが好きなのは共通しているかな。余白のあるものというか。全てがわかんなくてよくて、問いがあったり、はたまた殴られるじゃないけど心に傷がつくようなものに出会うとグッとくる。
森田:しかもパンチは正面じゃなくて、思ってもなかった角度からくるんですよね(笑)。
野田:しばらく呆然としてね。
森田:SNSもさらに普及していく中で、最後に残るのは内に秘めているモノをちゃんと持ってる人だと思う。僕は自分がいいと感動したものには自信があるから、もっと共有して広めることをしていきたい。
野田:東京オリンピックの後とか、どうなるんだろうね。今はイケイケドンドンってこの渋谷周辺も帰ってくるたびに景色が変わってるのを感じる。これを誰が望んでいて、誰がハッピーなんだろうね。もう今となっては進むしかないんだと思うけど、全体的に閉塞感を感じる。オリンピックが終わってからすごく色んなことが剥き出しになって問われてくる気がする。そこからは闘いだと思ってて、その時のために今はもっと力をつけないとなって思います。
森田:そうですね。いろんなことを変えるのは難しいかもしれないけど、何か変えたいって思うことは、まず空気が変わるってことなんだと、野田さんの話を聞いてうるっとくるものがありました。
野田:俺も日本へはあと1,2年で帰って来ようと思ってる。結局は根っこの教育だったり社会のシステムだったりが変わらないとって思うけど、それだと敵が大きすぎて呆然としちゃうから、まず自分には何が出来るかって考えた時に、多くはないけど具体的に自分がやりたいなって思うことは見つかってきているし、少し希望は見えてきてます。