平成変遷浪漫譚 〜嗜み噺〜 インタビュー井浦新

Photograph_Riki Yamada, Text_Ryo Tajima [DMRT]

平成変遷浪漫譚 〜嗜み噺〜 インタビュー井浦新

Photograph_Riki Yamada, Text_Ryo Tajima [DMRT]

新たな時代“令和”となった日本。年号が変わることで、我々現代の日本人の生活様式もまた、きっと大きく変わっていくんだろう。EYESCREAMがメディアとしてフォーカスしているサブカルチャーは趣味と分類される。そして、これを読んでいる読者諸賢の皆さまも何らかの趣味を持っていると思う。でも、大人のカッコよさや嗜みって何なんだ。変わりゆく時代の狭間で、いつまで経っても大人になれないボクらが知りたい、カッコいい趣味の噺。第3回目は井浦新氏に、旅を介した人生観について話を聞いた。場所は井浦氏がディレクターを務めるブランド、ELNEST CREATIVE ACTIVITYの代々木上原にあるショップ、MIGHTRY。

仕事にも生活にも欠かせない活力を与えてくれる旅という存在

ー井浦さんが普段から旅をされていることは有名ですが、旅は趣味の1つに捉えていますか?

井浦新:趣味の領域は越えていますね。それに旅が趣味だとは言い切れない部分があります。言うなれば、息を吸うように旅をしています。では、旅は仕事なのかというと、そうでもなくて。例えば、冒険家の方々に対して、羨ましさもあれば、その仕事に対しての尊敬の念もあるんです。そういった思いから僕は旅のプロにはならないようにしないといけないと考えています。旅は仕事にも活きますけど、愛好家でちゃんと止めておかないとって。趣味以上愛好家以下といったところです。

ーそもそも、井浦さんが旅を好きになったのはなぜでしょう?

井浦新:もう好きな理由すらなくなってしまうほどに生活に馴染んでいるんです。でも、原体験として子供の頃から旅好きの両親に育てられたっていうのは大きいと思います。そのお陰で、子供の頃から旅をすることに関してストレスを感じない人間に成長できたので。その土台があったからこそ、自分の知りたいことや見たいことを、自分の足でどんどん掘っていくっていうこともできたんです。ひと昔前で言えば、それがレコード屋ですね。自分の足でたどり着いて、それを掘り起こす作業と、そこで音楽に出会えたということに喜びを覚える感受性が培われていたんです。その先に旅があり、まったく未知の文化を体験して知識を獲得していくことが大きな喜びなんです。僕の中で旅というのは、日常生活の活力をもらえるもので、大人になってからは、なおさらです。自分の活動にも直結するものでもあり、モノ作りと芝居、自分の仕事の両方に活きています。

井浦新:例えば、芝居の面で言えば、旅先で人と出会うということが大きな経験を与えてくれます。旅に出て、その地域のことを知るには、そこに住んでいる人と出会い、会話をしなくてはいけません。その環境で生まれ育った人のリズムだったり喋り口調だったり、空気感であったり。そういったことを実体験として得て、自分の体のライブラリの中に記憶していくんです。とある役を演じるときに、例えば、熊本で出会ったあの方と、富山で出会った職人の方の空気感をブレンドして……という風に考えたりするんです。もちろん、そのまま再現できるわけではないんですけど、実際に体験したことだから、それを、よりリアルに表現することができるんです。旅は仕事においても、生活するうえでも活かせる遊びであり、欠かせない時間ですね。それに、旅先で出会った物を部屋に飾ったり使ったりすることで、自分の生活も潤ってきます。

ーもし、半年間ほど休暇が取れるとしたら、井浦さんは、長期の旅に出かけますか?

井浦新:半年間の休暇、もしあったら最高ですね。旅をし続けることも大切なんですけど、自分の生活環境にしっかりと戻ってきて体験を整理していく時間も大事なんです。集中して旅をして、それを自分の中に落としていくという時間を経て、また旅に出るっていうのが、僕にとってちょうど良いリズムです。あとは季節も関係しますから。二至二分、春分、夏至、秋分、冬至を跨げるとしたら、そのどれか2つは特定の場所にいたいと思うので、それ以外は色んな場所に行っちゃうでしょうね。行って戻ってきて整えて、またアタックする。行きたい場所はまだまだたくさんあるので、半年間分の旅を考えるだけでも酔いそうになっちゃいますよ(笑)。計画を立てるだけで1ヶ月くらい使っちゃいそうです。

旅は目的を得る手段でしかない

ー井浦さんにとって、旅はライフスタイルであり仕事であり楽しみでもある。では、純粋なプライベートな趣味というのはあったりしますか? 例えば何かをコレクションするだとか。

井浦新:そうですね、プライベートな趣味か……。コレクションしているもので言うと、日本を含む世界中のお面や土偶を集めています。料理も好きなので、海外からスパイスなどの香辛料を集めて本当に美味いカレーを作ってみるとか。あとはシロップ作りが好きなんです。旅先で出会った農家の人だったり、その土地だからこそ手に入る果物や野菜というのがあるので。重要なのが蜂蜜です。日本も海外もそうなんですけど、色んな場所に養蜂所があるんです。環境を見れば、それが良い蜂蜜かどうか分かるので、各地の養蜂所で蜂蜜を手に入れて家で漬けていくんです。特定の産地を持つ果物や野菜と蜂蜜をオリジナルでブレンドしていくのが趣味だと言えますね。カレーもシロップもキッチンに籠ってやるような作業ですけど、純粋に楽しめる、好きな時間です。

ーこうしてお話していると、民俗学にも近しい学術的なことをされているように感じました。

井浦新:もちろん好きですよ。考古学、民俗学、博物学とか、旅をするうえでの目的でもありますからね。最初にアウトドアというカルチャーに興味があったのではなく、民俗学や考古学や博物学とかの方に面白さを感じていました。それを知りたくて旅に赴いて、直に学んでいったり。海外のとある小さな民族に伝承されている刺繍を学んで、それを作るためにはどんな工場があるのかとか調べたり。旅って目的を得るための手段でしかないんです。何か知りたいことがあって行くから旅になっていくってことだと思うんです。登山にしてもそうです。今では登山が好きだと、自分の口から言えるようになりましたけど、最初は山の中に知りたい歴史や事柄があったから、山や自然の中に行っていたんです。ある山の山頂に、古代から祭事に使われていた遺跡、とは言っても巨石が重なってるだけの場所なんですけど、夏至に、どうしてもそれが見たいから行ったり。それを繰り返すことで装備が充実していないことを実際に体験して道具を揃えていく、という作業を経ていきました。だから、僕の場合は必ずしも山頂に行くことが目的ではない登山も多いです。ある縄文人が生活していたといわれる洞窟にどうしても行きたい、となったときに、その場所が山の中腹にあるのであれば、僕の目的地はそこになるので。そういうことを繰り返していたら、登山というものからは、心身共に実に学ぶことが多くて、すべてが心の栄養になっていったんです。そして、すっかり登山が好きになりましたね。

憧れと愛情を持って物語を表現したコラボ作

ーそうした登山や旅の要素がプロダクトとして表現されているのがELNEST×KEENのコラボ新作”WINTER PORT Ⅱ”だと思いますが、このプロダクトについて教えてください。

井浦新:今回のコラボは、このモデルが”WINTER PORT Ⅱ”というのが僕の中で、とても大事なことなんです。KEENのプロダクトとの出会いは、まだアウトドアが今のように世間に定着していない時代で、最初はなんて便利な靴があるんだろうって衝撃だったんです。この原型となっている”WINTER PORT Ⅱ”を最初に使ったときは感動しましたね。当時から雪に特化したスノーブーツはあったんですが、どれも重たくて。でも、このモデルは軽量なうえでリーズナブルで、グリップ力や保温性など機能性も素晴らしいんです。雪のシーンだけでなく、寒い時期に使ってみても足の暖かさがキープされて、本当に利便性の高い靴なんです。ELNESTとKEENのコラボレーションの歴史は、もう8年間になりますけど、僕の”WINTER PORT Ⅱ””への思いが強くて、今まで手を出せずにいたんです、まさに雲の上の存在のようなものだったんです。それが8年間という年月を経て、ノウハウや僕自身のキャリアが積み重なったうえで、ついに開けずにいた大事な扉を思い切り開いて、いよいよ製作に至ったのが本作です。それだけの気持ちがあったので、この1足の中に、デザインの物語をしっかり落としたいと思って作っていきました。


井浦新:使用しているELNESTのオリジナルテキスタイルのBOOKTREE CAMO、これは白神山地を旅して写真を撮ってコラージュして作ったものなんです。このブーツには、夜の世界を意図するBOOKTREE MIDNIGHT CAMOを落とし込んでいます。ボディのメインカラーはブラックなんですが、これは色んな人がスタイリングしやすいように、自分にとって最強カラーとして大切にしている黒にしたんです。KEENとのコラボレーションで黒を採用するのは、今回が初めてです。バンジーシューレースのパーツは、夜の世界に広がる月明かりをイメージして蓄光仕様にしています。キャンプ場の夜とか暗いところに溶け込んでしまってもわかるようになっています。この1足を通じて”WINTER PORT Ⅱ”の魅力や機能性をたくさんの人に知ってもらえたら嬉しいです。ウォータープルーフなのでフェスでも役立つだろうし、雨の日のキャンプ場など、防寒だけの目的以外にも対応する万能性があります。

ー同様に、井浦さんが本日着用されているウォッチもCASIOの”PRO TREK”とELNESTのコラボ作ですね。

井浦新:そうですね。”PRO TREK”もKEENのプロダクトと同様にいちユーザとして使ってきたものです。”PRO TREK”は3本持っているのですが、どんなフィールドでも抜群の機能を発揮する安心の時計です。だから、今回のコラボレーションは自分の夢がまた1つ叶ったような気持ちになりましたね。実に嬉しいことです。初めてのコラボレーションでデザインのキャッチボールも刺激的でした。このアイテムの特徴はベルトをBOOKTREE CAMOのベルトと取り換えられるという点。これも夜の森の中をイメージしたくて、すべて黒で表現しています。きっとアウトドア好きの人達は文字の表記や針は白じゃないと違和感があると思うんです。登山時にパッと時間がわからなくてはいけないので。でも、きっと”PRO TREK”を好きな方々は、そういう時計をすでにお持ちでしょうから。だから既存の”PRO TREK”に存在しないデザインを表現するのが、今回の僕の役目だろうと考えたんです。”PRO TREK”の中でも見たことがないひと品に仕上げたくて、夜の世界観を落とし込みました。白神山地がデザインソース、秒針の青は白神山地にある真っ青で神秘的な青池をイメージしています。裏面の白は蓄光仕様で、月明りをここにも見立てています。この仕様で暗闇のテントの中でも、すぐに時計がどこにあるのかわかるんです。ELNESTのモノづくりの考え方として、都市生活と自然を行き来できるプロダクトを目指すというコンセプトがあるので、街の中ではスーツやカジュアルな服装に合わせて、そのまま時計を変えずにハードな自然の中でも機能する。そんな時計になるように製作しました。

ー最後に。旅を続けながらクリエイティブを続ける井浦さんですが、タバコはお好きですか?

井浦新:最近では紙巻きタバコは芝居の時の楽しみにしています。芝居の中に役者として吸うシーンがあれば良いな、くらいのささやかな特典のように考えていて。「タバコ吸う役にしてもいいですか?」って監督とかプロデューサーに聞いて。その結果、持ってた方が良い、となれば芝居しながら喫煙しています。普段はPloomTECH +とPloom Sの2つを使っていて、使用している期間も随分経ちました。加熱式たばこくらいが自分にはちょうどよくなってきていると感じます。

井浦新
俳優。ファッションブランド、ELNEST CREATIVE ACTIVITYのディレクター。日本テレビ系連続ドラマ「ニッポンノワールー刑事Yの反乱ー」に出演中。

POPULAR