2014年に山木悠が発表したインタビューブック『CURIOSITY』。本誌は、何者でもなかった彼が、会いたい人に会って話を訊く為、世界を放浪した記録であり、文字通り“好奇心”を具現化したような印刷物だ。
彼に刺激を与え、その好奇心を掻き立てる、さまざまな人たちについて。第二回は《The Elder Statesman》のグレッグ・チェイト。
02 GREG CHAIT
2014年にCHROME HEARTSと提携を結んだことで、日本ではその名が広く知られるようになったのだが、俺と《The Elder Statesman》との出会いはその少し前、『CURIOSITY』を作るため、ロスに滞在していた時だった。当時バックパッカーで貧乏旅をしていた俺は、冷やかしでマックスフィールドを訪れた。世界中のセレブが集まるその店に陳列された服を片っ端から指で撫でたり、プライスにケチを付ける。そんなことを繰り返していると、すこぶる肌触りのいいカシミヤのセーターと出会った。一色でまとめられたシンプルなものから、ビビットな色合いのド派手なもの。そして、タグには政界の長老という意味の聞き慣れないネームが筆記体で書かれていた。嫌な予感と質の良さは指先からビンビンに感じつつ、どうせお高いんでしょうと恐る恐るプライスを確認すると、桁が一つ違うんじゃないかと本気で疑うほど、とんでもない数字が並んでいた。こいつはただモンじゃない! と、そそくさとその時は店を後にした。
それから数年が経ち、どうしてもあの肌触りを自分のものにしたいと思った俺は、直接コンタクトを取り、作った本と同じくホワイトとブラックのバイカラーでセーターを編んでくれと依頼した。その柄が気に入ったというメール一本で、あとからしれっと同デザインが販売されたのはとてもアメリカのブランドらしい。それから毎年一着、冬の贅沢としてまんまとThe Elder Statesmanのセーターを買うようになった。これが縁なのかわからないが、俺が昔から好きでいること、本国とやりとりをしていることなど知る由もない代理店からグレッグと会ってみないかと誘われ、二つ返事で了承した。
話してみると俺がThe Elder Statesmanを好きな理由は、単純にプロダクトのツラがいいという表層的な理由だけではないことがわかった。グレッグの人生と俺自身の人生が呼応しているからこそ、自然と手が伸びてしまうのだ。ヴィンテージのグレイトフル・デッドのTシャツを着て現れたグレッグは、音楽、旅、物作りへの情熱、そして何より自由を愛する男だった。自由の定義は人それぞれだが、少なくとも今まで誰かに雇われることなくズルズルと生きてしまっている俺も、心のどこかで自由を求めている一人。靄にかかった何かを見つけるために、また旅に出たいと思った。今度はThe Elder Statesmanのセーターと共に。