神山羊というアーティストがいる。2018年11月に「YELLOW」をリリース。2019年4月には1stミニアルバム『しあわせなおとな』、そして10月に2ndミニアルバム『ゆめみるこども』をリリース。2014年より有機酸名義でボカロPとして活動し、動画SNS上で話題を集中させてきた経歴をもつ。
現在発売中の最新号EYESCREAM No.173では、パッケージやMV、アーティストビジュアルの制作に徹底的にこだわる彼と、その周囲を取り巻くクリエイターを網羅することで、彼の姿に迫った。EYESCREAM.JPでは特別にその一部を公開。まずは神山羊のソロインタビューからお届けする。
自らをクリエイトする音楽家に会う
「はじめまして、神山羊」
―はじめまして! まずは神山さんのことを知りたいです。これまでの活動について教えてください。
2018年の11月からシンガーソングライターとして活動をスタートさせました。それまでは有機酸という名義でボカロ作品をリリースしていて、自分で歌うことはやっていませんでした。有機酸として音楽を世に出したのは2014年11月からです。
―有機酸として活動される前は何か音楽活動をやっていたんですか?
音楽は昔からすごく大好きで高校生の時からバンドをやっていたんです。ギターもベースもやっていましたがメインはベースですね。インディーズだったんですがツアーもやっていたんですよ。
―その後、ソロとしてボカロPを始めることに?
いえ、大学卒業のタイミングでバンドを辞め、地元の会社に就職して社会人として働いていました。しばらくして退社し、写真を撮るのが好きだったのでカメラマンになろうと思って東京の撮影スタジオでアシスタントとして働いていたんです。ですが、思うように自分のやりたいことが実現できずに、そこも辞めて。しばらくは空白の時間が流れていました。自分の手元に何もないような状況が続く中、偶然DTMのソフトを手にすることになったんです。そこから打ち込みだけで楽曲を制作していったんです。
―DTMを覚えて音楽活動を再びスタートしたんですね。
歌うことは自分の新たな表現の選択肢の1つとして
―その後、ボカロPからシンガーソングライターへ転身したのには何か理由があったんですか?
ボーカロイドの文化ってすごくスピード感があって、短い期間でトレンドが移り変わっていくんです。そういった中でどうしても音楽表現が偏ることがあるんですが、僕としてはそこにやりにくさやシーンに対する不安を感じるようになっていったんです。もっと新しいことにチャレンジしたり面白いことをやりたいと思っていたときに作家仕事を少しずついただけるようになりました。
例えば、DAOKOさんの3rdアルバム『私的旅行』に2曲、楽曲提供してフィーチャリングでも参加しています。その頃、僕はプロデューサーとして音楽に携わりたいと考えるようになっていたんですが、実際に自分で歌ってみたら面白くて半ば見切り発車みたいな感じでスタートさせました。それが神山羊としてのプロジェクトになります。
―DAOKOさんの作品に参加した経験は大きかったですか?
そうですね。そのときに素晴らしいクリエイターの方々を紹介していただいて。神山羊の作品には多くのクリエイターがあらゆる形で参加してくれているんですが、そんな素敵な才能を持つ人達と刺激し合いながら作品を作れている環境が現状あるので、もうすごく楽しくて。単に音楽を作って出すっていうだけじゃなくて、クリエイティブを作っていく。各々が自身の技術を持ち寄って作品を作っていくという作業が心から楽しいと感じている今です。
―色んなクリエイターが神山さんのアートワークやMVで参加しています。1人のシンガーソングライターではありますが、その他多くの人が神山さんのプロジェクトに参加して1つの作品を構築している様を見ると、神山羊という1つのクリエイトコレクティブのように感じられますね。
僕もそう思います。1人で出来ることもあるんですけど、それは神山羊以前に出来たことだし。こうしてシンガーソングライターとしてプロジェクトのフロントマンをやっていくのであれば、色んな才能と一緒にやっていった方がいい、その方が絶対に面白いですから。
まだ世間が気づいていないクリエイターの光を、自分というフィルターと通して、より多くの人に伝えることが楽しいことにつながっていくんじゃないかと最近考えているんです。例えば、MV「アイスクリーム」のときにイラストを描いていただいた北田さん(イラストレーターの北田正太郎)とか。素晴らしいクリエイターをもっともっと知らしめていきたいですね。
神山羊というJ-POPについて
―現在の日本の音楽シーンについて、神山さんはどんな印象がありますか?
転換期の1つだと思っています。いわゆる2000年代から続いていたポップスのシーンから、少しずつ音楽性を変えようとチャレンジするアーティストが前に出てきている印象があります。これまでのポップスにない高い音楽性をJ-POPとして表現して世間に支持されている人がいて、僕はそこに対して共感するし、尊敬しています。例えば、サカナクションの山口一郎さんも、ちゃんと音楽を大衆に届けようという意思を持ちつつ、ポップスのシーンを更新していくことに対して積極的にアプローチして素晴らしい作品をリリースされているじゃないですか。そういったアーティストによってシーンが動いていると感じます。
―あえて説明するとすれば、神山羊はどんな音楽を表現していくと言えますか?
現場、つまりライブを意識することをすごく考えているんです。ライブに来てくれたお客さんが楽しくなれるような音楽って何だろう? と。僕はDJをやるんですけど、ダンスミュージックは言語が分からなくても踊り出せるしハッピーになれる音楽じゃないですか。そこには国境も関係ない、だから僕のやりたい音楽はそれと歌謡曲とのミックスだと考えています。繰り返しになってしまいますが、サカナクションがまさにそれをやっていますよね。では、そこを目指すのか、というとそうじゃない。僕はHIPHOPもシューゲイザーもノイズミュージックの良さも伝えたいし、トリップできるような状態が面白いんだよってことも自分の音楽に混ぜていきたいんです。特定のジャンルを取り入れると言えないんですが、僕が目指すJ-POPは、そんな形なんじゃないかと思っています。