Berlin Fluid View #08 Mieko Suzuki / ベルリンアンダーグラウンドの挑戦者

photography and interview_ink Agop, edit_Takuya Nakatani

Berlin Fluid View #08 Mieko Suzuki / ベルリンアンダーグラウンドの挑戦者

photography and interview_ink Agop, edit_Takuya Nakatani

観光産業化したベルリンテクノシーン。毎週末のクレイジーなパーティーや盛大なフェスティバルを目指し、多くの外国人が訪れる。一方、その地下では多様な人種/ジェンダー/セクシュアリティが混じり合うカラフルなクィアシーンが息づいている。そういったベルリンのカルチャーシーンで活躍するクィアピープルたちにフォーカスし、ベルリンのアンダーグラウンドで起こっている新しいムーブメントを紹介する「Berlin Fluid View」
以下、ベルリン在住のマルチメディアアーティスト、ink Agopがナビゲートする形で進む。

ベルリンを拠点に、DJ/サウンドアーティストとして20年以上のキャリアを持つMieko Suzuki。最近では、2019年に結成された実験音楽バンドContagiousのメンバーとして、クラブだけではなくアートシーンや劇場での活動も目覚ましい。今年1月にベルリンのハンブルガー・バーンホフ現代美術館で行われたContagiousのライブを撮影するとともに、Miekoにベルリンでの活動について聞いた。

—いつベルリンに来たの?

2007年の冬、12月だったかな。

—ベルリンに来た当初、ベルリンのクラブシーン、テクノシーンをどう感じた?

ベルグハインにブッ飛ばされたっていうのもそうだけど、あの頃はまだ不法占拠されたスクワットがあちこちにあって、そこで行われているプライベートパーティーを覗きに行ったり、旧東ベルリンにあったHangerという小さなクラブに翌日の夕方まで浸ったり、来た当初は何もやることなかったし社会見学的な気分で相当遊んでたよ。

—Miekoが来たときと今では、ベルリンのクラブシーンは変わった?

結構変わっちゃったね。”あの時代は終わった”みたいな……スクワットもほぼ無くなっちゃったしね。あの頃はDJする方も遊びに行く方もほぼ無料であまりお金に縛られてなかったかな。今ではベルリンのクラブは観光ビジネスとして変化を遂げた。ジェントリフィケーションとともに入場料が上がって、昔からサポートしてくれている地元の人たちが払えない環境へと変化してきたりとか、苦しい部分が多々あるけどね。それでも未だに面白い人はたくさんいるし、みんなが集まれる居場所、楽しいところはいつもどこかにあるよ。

—今までプレイしたクラブやパーティーで印象的だったのは?

特に初めて行ったときの印象がすごかったっていうのもあるけど、ベルグハインでのDJは今でも特別に感じるね。ブースも広くてモニターも音が最高だよ。だから落ち着いてプレイできる。照明さんも素晴らしいね。

—最近は、Contagiousでも大活躍してるよね! どういうバンドなの?

Andrea Neumann(インサイドピアノ)とSabine Ercklentz(トランペット+デジタル処理)、私(ターンテーブル+エレクトロニクス)のインプロバンド。コンサートはいつも、真っさらの白紙状態からはじめて、瞬時に作曲していく即興。各自が個々に演奏するだけでなく、Sabineのトランペットの音がAndreaのミキサーに入って、それにディストーションを加えて出したり、Andreaの音を私がサンプリングしたりと3人の間で音の処理をし合っている。そのタイミングもそれぞれの意志で行われるんだけど、同じことをもう一度やれって言われても到底無理で……(笑)。

L→R / Andrea Neumann、Sabine Ercklentz、Mieko Suzuki

—最近、ベルリンでは音楽フェスティバルが乱立してるよね。ハンブルガー・バーンホフ現代美術館でのContagiousのライブもCTM Festival(※1)の一環だったし。今までプレイしたベルリンのフェスティバルでお気に入りは?

A L’ARME! FESTIVALというアバンギャルドジャズと実験音楽にフォーカスしたフェスで、2014年からレジデントDJをしているんだ。フェスティバルのオープニングと、ライブとライブの間にDJするんだけど、普段のクラブでするプレイとは違った表現の仕方に自然となっていったね。特にライブとライブの間のプレイは双方の架け橋の役割だと捉えていて、Frank Bretschneider、Laurie Anderson、Mette Rasmussen、Maja S. K. Ratkje、Oren Ambarchi、Rabih Beaini、Zuなどいろいろなミュージシャンからたくさんのインスピレーションをもらった。音への興味/探求がどんどん広がっていったのもその頃かな。
ここ数年のCTM Festival の立ち位置は素晴らしいと思うよ。音楽を通して国際文化交流を行う、多様性を認め合うという基本的なマニフェストがしっかり根付いている。フェスティバルが乱立しているからこそ、他のオーガニゼーションと互いに協力し合い発展させていくことを積極的に行っている。例えば今回のハンブルガー・バーンホフ現代美術館でのContagious のコンサートは、もともとFreunde Guter Musik(※2)の企画だったんだけど、ちょうど日程がCTM Festival の時期だったってこともあり、双方で一緒にやりましょうってことになった。

—ベルリンでMiekoが主催しているパーティー、KOOKOOは、どういう経緯で始めたの?

KOOKOOは2010年7月に、クロイツベルグにあったFarbfernseherというバーで始めた。私はベルリンに知り合いを訪ねてきたわけでもなく、ただただベルリンという街に魅せられて引っ越してきたから、最初は友達もいなかったしDJをさせてもらえるチャンスがほとんどなかった。自分でデモを作って片っ端からバーをまわったりしたんだけど、返事は一つも来なかったしね。遊びに行って少しずつ知り合いが増えていって気づいたのが、ほとんどみんなDJかアーティストだったってことで、そりゃ自分なんかに出番が回ってくるはずはないなと思ったよ。だからKOOKOOを始めた理由はシンプルで、自分で自分がプレイする場を作ったってこと。

KOOKOOの最新フライヤー。Carly Fischerが毎回、アートワークを手がけている。

2013年に約3年間お世話になったFarbfernseherからクロイツベルグに新しくオープンしたクラブShift(今のOHM)に移ったとき、今までやりたかった音楽とアートの融合を通して新たなフィールドとコミュニティーを作りたいと思って、ベルリン在住のメディアアーティスト田口行弘と、メルボルン在住アーティストCarly Fischerをレジデントとして、毎回テーマを変えたアプローチを始めるようになった。毎回、ミュージシャンとビジュアルアーティストの2組をゲストとして招いて、OHMというクラブ空間にインスタレーションなどテーマに沿った作品を展示してもらって、アートエキシビジョンとクラブパーティーを融合したイベントを作っている。だからKOOKOOは、エキシビジョンのオープニングでもあると同時にクロージングでもあり、ライブコンサートでもあってパーティーでもある、ギャザリングなんだ。

—DJとしての活動以外にも、さまざまなシーンで活動してるよね。DJ以外の活動について教えてくれる?

ここ数年は、コレオグラファーのMeg Stuartと仕事をよく一緒にしているけど、彼女は即興のプロで、毎回強い刺激を受ける。彼女の頭の柔らかさ、感覚の鋭さは、自分の固定概念を一瞬にして壊してくれる貴重な存在なんだ。このあいだの彼女のワークショップで私は音楽を担当したんだけど、ヨガで体を動かしている最中に、「大笑いしながらヨガを続けてみよう!」という突拍子もないことを言ってきて、みんなで笑いながら太陽礼拝をして、笑い続けてるうちに本当に可笑しくなって笑いがこみ上げてきて、ヨガを強制的に持続することへの辛さと格闘していると再び心の底から笑いが込み上げてくる。その感情の移り変わる瞬間を体感する。体験しないとわかってもらいにくいと思うけど、そういうトレーニングもしている(笑)。

—日本のファッションブランドJULIUSとのコラボレーションについて教えてくれる?

2011年のパリコレで初めて音楽を担当して以来、これまでいくつかのパリコレのショー音楽を作ってきた。デザイナーの堀川(達郎)さんとのコミュニケーションは、堀川さんがインスパイアされた写真やキーワード、テーマ、ドローイングを投げてもらって、それに対してレスポンスするという感じでやってきた。

—JULIUSはメンズブランドだけどMiekoもよく着てるよね? MiekoにとってJULIUSの魅力って?

私にとって服も音もそうだけど、カオスのなかから見出す凛とした美しさ、そして重厚感かな。

—音楽シーンにとどまらず、アートシーンや劇場、ファッションなどさまざまなフィールドで活動することの面白さを教えてくれる?

各フィールドにおいて、コミュニケーションの取り方やその広がり、求められるものの幅も違うし、その違いを学ぶことにおいて自分の存在を見つけていくというか。今まで知らなかったことを学ぶきっかけにもなるし、挑戦したかったことに実際トライしてみるチャンスにもなる。プロジェクトの仲間と一緒に創り上げる楽しさと達成感はソロでの活動とは全然違うし、毎回いろんな新しい発見があるよ。自分の存在をそのなかに認めることで、そこからどんどんオリジナリティーを磨いていく。でもこの行程は苦しいことも多々ある。アイデアが出てこないとかは最悪で、そんなときは自転車でテンペルホーフ空港跡地まで行って、あの広い滑走路と自由に遊んでいる人たちを見るとなんか安心するんだ。

—Miekoにとって、ベルリンの魅力って?

多様性を認め合い、自分が自分らしく生きられるところ。

—今後の活動予定は?

これまでと変わらずホームとしてのKOOKOOを始め、自分の興味があること、楽しいと思えるプロジェクトを形にとらわれず幅広く表現していきたい。あと、今年中にContagiousとして2枚目のアルバムを〈Morphine〉から、〈Raster〉からはコンセプチュアルアルバムをリリースできるように計画中だよ。

※1 CTM Festival:電子音楽や実験音楽をはじめ、クラブカルチャーに関連するアートに特化したフェスティバル。
https://www.ctm-festival.de/

※2 Freunde Guter Musik:83年からベルリンを拠点として主に実験音楽やサウンドアート、インスタレーションなどを扱っているオーガナイザー。
http://www.freunde-guter-musik-berlin.de/


Mieko Suzuki

1998年より東京でDJ活動をスタート。2007年にベルリンに活動拠点を移し、ベルリンのアンダーグラウンドクラブで活動を続ける。クラブシーンにとどまらず、劇場、アート、ファッションなどさまざまなフィールドで活躍。2019年より実験音楽バンドContagiousを結成、1stアルバム『Contagious』を〈Morphine〉からリリース。ターンテーブルと自作音源、エフェクターを使い、即興でサンプリングし構築していく実験的アプローチのライブを行う。
https://media-loca.com/mieko-suzuki/
https://www.mixcloud.com/MIEKO/stream/
https://www.facebook.com/djmiekojp/


Andrea Neumann

ピアノを最小限に再構築した、インサイドピアノの世界的パイオニア。ベルリン実験音楽のプラットホームLabor Sonorの設立者の一人。


Sabine Ercklentz

コンポーザー、トランペット奏者。エレクトロアコースティックの鬼才として、これまで多くのパフォーマー、ミュージシャン、コンポーザーとコラボレーションし、ジャンルの境界線を広げる作品を通して挑戦を続ける。


photography and interview_ink Agop

ベルリンを拠点に活動するビジュアルアーティスト。写真、映像、インスタレーションなどマルチメディアを使いビジュアル表現を行う。最近はバクテリアを使った発酵バイオアートを展開。またベルリンのアートスペースTROPEZや音楽イベント「3hd Festival」のドキュメンテーションなどを通してベルリンのカルチャーシーンに関わっている。
http://inkagop.com/
instagram @inkagop

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