暁の新様式解剖録 〜現代嗜好学〜
インタビュー 佐々木集&OSRIN [PERIMETRON]

Photograph_Ryo Kuzuma, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

暁の新様式解剖録 〜現代嗜好学〜
インタビュー 佐々木集&OSRIN [PERIMETRON]

Photograph_Ryo Kuzuma, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

変わるもの、変わらないもの。時代の変遷に伴ってEYESCREAMはサブカルチャーを起点に”今”を見つめているが、2020年ほど大きく価値観を揺さぶられた年もない。オンラインでの仕事が盛んになり、いよいよ職場と自宅の境目も曖昧だ。同様に、仕事と趣味の境界線すらもよくわからない。すべてが遊びのようで、すべてが義務的なことに思える。
何か大きくうねりのように、全世界的に人の考え方が変わりゆく今、大人の趣味って何なんだ。嗜好品って僕らにとってどんな存在なんだろう。そんな、これまで当たり前だったことを止めどなく考えたりすることが、今は必要なんじゃないか。アフター・コロナを生きる人間として、今も昔も欠かせない素敵な趣味の話をしようじゃないか。
第1回目はEYESCREAMにも度々登場いただいているクリエイティブレーベル、PERIMETRONから佐々木集とOSRINに、趣味や仕事の話を聞く。好きなことを徹底的に追究し続ける2人だからこその趣味の解釈がそこにあった。

趣味の延長線で仕事を楽しんでいるからこその研究

L to R_佐々木集、OSRIN

ー2人の趣味は何ですか?

佐々木集(以下、集):うーん、基本的に好きなことを仕事でやっちゃってるんですよねぇ。

OSRIN:そうなんだよね

集:逆に新たな趣味が欲しいと思っているんですよ、最近。そこで何がいいかなって考えてみたら釣りだな、と。ボーッとする時間が作れるじゃないですか。今、趣味らしい趣味って散歩ぐらいなんですよ。それに似ていそうな気がしているんですよね。頭をリセットできる感じ。海でも川でもいいんですけどね。OSRINの場合は何だろ? 漫画?

OSRIN:漫画はオレの場合、習慣だね。小6から今に至るまでずっとジャンプとマガジンを買ってきたからさ。でも、集が言う”趣味を見つけたい”っていうのはわかる。何だろうな……。趣味の概念自体が難しいところだけど、シーズン的なもので言えばキャンプとか。キャンプ道具はけっこう持っています。小さい頃、家族と行くのが当たり前だったんですよね。今も友達と一緒に行くことがあって。

集:今年、一緒に(キャンプに)行ったんですよ。何もしなくていいからって言われて。

OSRIN:おもろかったよね。オレがずっと料理してて、集はずっと座っているっていう。

集:一緒に行った荒居(PERIMETRONデザイナー、荒居誠)は無心に木を彫って仏像みたいなの作ってたよね(笑)。先入観としてキャンプは何かやらなくちゃいけないものだと思ってたから、想像以上に楽しかったよ。

OSRIN:ゆるい空気で良かったよね。

ーでは、趣味にしたいぐらい好きだったけど、今では仕事になってしまったことは?

集&OSRIN:映像。

集:グラフィックなどのデザインも似たようなものですね。もともとイベントをやるときにフライヤーを作らなくちゃいけないから何かを作るっていう、ほぼ趣味というか。こういうのいいんじゃないかなって思ってやっていただけなんで。それが今では仕事になっているし。

OSRIN:仕事になっちゃったっていうのはめちゃめちゃあるよね。

集:そうだね。なっていった。

OSRIN:もちろん仕事にしたいと思ってやってきたし、自分のやりたいことで生きていくって夢は誰しもあると思う。特に芸術系の学校を出ている人は絶対に志すだろうからね。その中で、たまたまそういう風になれた人が自分たち、な気がする。まぁ、楽しいよね。

ー趣味として愛せていたことが仕事に変わることで、そこへの向き合い方に変化はありましたか?

集:絶対に変わっていると思いますよ。言うてPERIMETRONがスタートしてすぐに仕事として成立できたわけではないですからね。趣味に近しいところからスタートして、オレもOSRINの動きを見ながら、こうやって映像を作っていくんだって思っていたんですけど、途中から制作に加担するようになるわけじゃないですか。そこから映像の見方に変化がありましたよね。それまでストーリーをメインに見ていた部分が撮り方の方までフォーカスするようになってきたり。

OSRIN:オレも作り手になって圧倒的に映像に対する見方は変わりましたね。「なんで、この人たちに出来てオレらに出来ないんだろう」っていう見方をしていると次第に作り方も変わっていく。それも趣味の延長的な研究ではあると思っているんですよ。単純にこなす仕事であれば、ある程度のところでストッパーがかかるんでしょうけど、趣味の延長線で制作しているからこそ、どこまでも作り込んでしまうというか。

タバコ=カッコいいものという憧れが強かった

ーなるほど。ちなみに嗜好品という意味でタバコも趣味になりますが、2人とも紙巻きタバコを吸われるんですね。

集:PERIMETRONはメンバーほとんどが紙巻タバコを吸いますね。なんだか時代に逆行しているんですけど(笑)。

ーやはり、電子タバコよりも紙巻タバコがお好きですか? そこに込められたこだわりは?

OSRIN:オレらが小さい頃、ドラマや映画で紙巻きタバコを吸うシーンがけっこうあった気がするんです。演出的に、このタイミングで吸うって設計をされたうえでのシーンなわけじゃないですか。言わばガイドブック的なノリがあったと思うんですよ。こうやって吸えばうまそうっていう。それが、80年代や90年代のドラマにはあったと思う。それが無意識化にあったかもしれないですね。

集:電子タバコをめちゃめちゃ美味しそうに吸うシーンって、今はまだ映画やドラマでも出てないじゃん。いわゆる近未来の話でさ、黒い革手袋しているキャラクターが、すごくうまそうに電子タバコを吸っているシーンを見たら、それが良いように見えるかもしれない。そういう感じでカッコいい大人が吸っていたから自分も吸い始めたっていう幼心みたいなものは絶対にあると思う。

OSRIN:タバコを吸うってカッコよかったよね。

集:そう、そしてうまそうだったよね。

OSRIN:最初にタバコ吸ったときのことって記憶に残ってない? 吸う前から手にタバコの匂いがつくじゃん。すごくドキドキしたのを覚えてる。これを吸ったら何かが変わっちゃうんじゃないかって(笑)。カッコいい先輩が自分のルールに則って吸ってたりしててさ。憧れが強かったんだと思う。

集:あったね。ちょっとした背徳感的なものもあったかも。それと映画『スモーク』(1995年公開、アメリカ、日本、ドイツ合作映画)や『コーヒー&シガレッツ』(2003年公開、アメリカ映画)とかが昔から好きで、あれもまさに、めちゃめちゃうまそうにタバコを吸うシーンが出てくるし、そういう映像から影響された部分は大きかったよね。それに、オレ、いっときタバコ屋で働いていましたからね。表参道のTOBACCO STAND(タバコ・スタンド)で。

OSRIN:ちょうど出会ったときぐらいじゃない? 集がスタンドに立っているときによく遊びに行って制作しているものの話をしたりとか。

集:そうそう。コーヒーも飲めるところで。夜はウィスキーも出していて。改めて思い返すと、タバコはめっちゃ身近な存在ですね。

ー最近ではタバコを吸える場所も制限され、なかなか喫煙者には厳しい時代ですよね。

集:そうですね。日本は路上喫煙がそもそも厳しいし、お店の中にしても屋内全面禁煙になり、喫煙スペースもどんどん減ってきているから、じゃあ、これ(タバコ)はどこで吸うものなの? ってすごく感じていて。しっかりと税金を取るんであれば、それに応じた対応を整えるべきなんじゃないかって思うんですよ。タバコって立ち位置がすごく曖昧ですよね。嗜好品だってことはわかるんですけど、禁止するだけではなく吸っても良い場所をもっと大々的に世間に伝えるべきなんじゃないかとすごく思います。

本というデバイスを通してチームの意識を統一させる

ー嗜好品もその1つだと思うんですけど、大人の男の趣味ってどんなものだと考えますか?

OSRIN:コレクションだと思いますね。何かの本で読んだんですけど、女性は収集癖がないそうで。それは縄文・弥生時代からそうだったらしくて。男は武器、道具を揃えていくことを楽しんでいるものの名残が、今のコレクターのカルチャーにもあると思うんですよ。コレクションするのってお金がかかるじゃないですか。車も時計も洋服もそう。大人の男の趣味なんじゃないかな。

集:そこでいくとさ、映画『グラン・トリノ』見た? クリント・イーストウッドの(監督、プロデューサーおよび主演を務めている)。めちゃくちゃカッコいい車に乗ってるんだけど、ガレージに超カッコいい工具がずらっと並んでるっていう。役柄的におじいちゃんなんだけど、劇中で、隣に住んでいる青年に「この工具はオレが人生をかけて集めたものだ」的なセリフがいうシーンがあって。それを見たときに、一生をかけなくちゃ集まらない工具があるんだ、すごく良い趣味だなって感じたんだよね。車の、この部位にはこの工具が合うだとか、そんな風に完璧な道具を集めていった結果のコレクションなわけで、そのこだわりがカッコいいよね。

OSRIN:確かに。道具に関して言えば”集める”っていう趣味はもうやってるかもね。パソコン然り。どういうOSになるのかとか、どういうモニターがいいとか、割とオレたちってそういうのが好きじゃん。集は、そこに本も入ってくるんじゃない? 読むだけじゃなくて集めたりチョイスしたり。小説だけじゃないでしょ?

集:そうだね、アート本も集めてる。何か制作しているときの楽しみと言ったら、リサーチで本を読むことなんですよ。こういう題材で制作しようってときに参考となるものを本を探すんです。最近作ったmillennium paradeのMV「Philip」だと、オレも遼志さん(Ryoji Yamada、「Philip」のストーリーを佐々木集と共に担当)もニコラ・ド・クレシーのイラストの感覚がすごく好きで。その本がいいよねって話から制作に入っていきました。それを何冊か買ってチームに共有するってやり方をやっていて。そういう風に自分で読むだけじゃなくて、本を共有して、みんなの知識や意識を統一させるとか。そういうのが好きで、チームのみんなに本をよく進めているんです。

OSRIN:紙媒体の話は長くなるよね。オレの場合は漫画の話になると止まらなくなる。

ーOSRINさん的に最近の漫画の傾向はどう見えますか?

OSRIN:ジャンプっ子として思うのは、ちょっとダウナーな傾向にあると思いますね。『チェンソーマン』とか『呪術廻戦』もそう、ダークヒーロー的な感じで、少し淀んだ漫画が多い気がするんですが、それが大好物なんですよ。これ、ジャンプで連載やるんだっていうのが増えてきている感じですね。いわゆる王道のヒーローものではなく。漫画界も世代交代タイミングだと思いますよ。そろそろ、ドカーンと大きくムーブメントを作る作家が出てくる気がしています。そんなバトンタッチタイミングじゃないですかね。とかとか、こんな話をずーっとPERIMETRON内でもしていますよ(笑)。

ー今、漫画にしてもダウナーな作品が評価されるのが多いのはなぜだと思いますか?

OSRIN:転換期なんでしょうね。『ドラゴンボール』、『幽遊白書』、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』といったジャンプ黄金期を経て、『ONE PIECE』、『BLEACH』、『NARUTO -ナルト-』の時代を迎えて、ちょっとファンタジーだけど新しい王道の形が出来上がって、その変遷していっている感じが今またやって来ているように感じます。最近で言えば『鬼滅の刃』も少しグロい描写があったじゃないですか。ああいう悲痛なものが感動に繋がるーーと言うとちょっと違うのかもしれないですけど、これまでは登場人物がほとんど死ななかったのに対して、最近のヒット漫画はどんどん人が死んでいくし。

集:死に過ぎるのも死なないことにもリアリティが無さ過ぎて面白みがないって感覚になっちゃったのかな。オレはけっこう好きなんですよね、死なないっていうのが。もう1回、あのキャラが見たいってなるじゃないですか。好きなキャラだったら。昔と今の漫画の世界観を比べてみると、未開の地を突き進むファンタジーが多かったけど、今はもっと身近なものだったり、より狭いフィールドで戦っているような作品が増えてきた印象がある。そんな風に世界観の描かれ方を少年漫画を辿りながら振り返っていっても面白いかもしれないよね。

OSRIN:いや、本当にそう。

人に趣味を提供する側の思考と行動を取っている

ー漫画もそうなんですが音楽や映像にも共通にして時代性が投影されるという話を聞いたことがあるのですが、その感覚はありますか?

OSRIN:時代の流れってもっと大きくてゆるいものだと思うんですけど、コロナのように突発的で大きな出来事があるとね。漫画も映画すらも、何ならすべてのカルチャーが変わるじゃないですか。その変化がずっと大きく波打ってるか、小さく局所的に響いているのか、そんな感じはしていますね。

集:そうだね。震災以降もサブカルチャーに対する変化があったと思うんですよ。すっごくしんどいときに、こんなしんどい映画を見たくない、とか。そういう時代を及ぼす流れはあるでしょうし、割と、あの頃と同じような流れを辿るんじゃないのかって。

OSRIN:少し前から、ちょっとダウナーなものが流行っているっていうのは、何かしらの発端になるものがあったってことでもあるよね。例えば、ビリー・アイリッシュがダークポップの女王に君臨できたっていうのもそう。少し残酷だったり、少し暗いことを、みんなが理解できる範囲で表現して発信したっていうのは、今考えても新たしかったんじゃないかな。そのことで人々の感受性が許せる間口が広がったっていうか。

集:見えない夢より、より近くの隣人の秘密とかを知りたくなってたりすると思うんですよ、みんな。

OSRIN:『パラサイト 半地下の家族』(2019年公開、韓国映画)も然り。

集:そうそうそう。

OSRIN:クリエイションだけの話に留まらず、世間的にもそういうものが注目されているような気配はコロナ以前からちょっとずつあったよね。ギリギリのことを映像作品として国の支援があったうえで発信することを良しするような風潮というか。MV「Fly with me」の作り方も近いんじゃない? 事実をどんだけポップに表現するかという意味で。

集:近いと思う。ある程度オブラードに包んで発信するけど、伝わる人にはある程度伝わってくれたらいいなってことは意識していたよね。というのも、4分間の映像を作ったとして、見る側も、その4分間から何か知識を得たり、何かを読み解きたいって気持ちが強くなってきていると思うんだよね。ただ美しいってだけじゃ、今の時代には足りないんだと思う。

OSRIN:ある意味、”見る”という行為で視聴者の時間を奪うことになるわけだからね。YouTubeを見ている人に選ばれたビデオが、選択者に何かギブするという。その関係性を作らなくてはいけない感覚がある。だから、意味のないものを作りづらくなっているとは思うね。

集:あるよね。でも、ただ気持ちいいだけの映像を作るのも、そこに意味があると思うんだよね。あるんだけど、時代の流れとしては、意味を求められているんだと思う。

OSRIN:そうやって考えていくと、オレらがやっていること。つまり、映像やグラフィックをエンターテイメントの一部として発信しているってことは、人に趣味を提供している側だとも考えられるね。必然的に誰かの時間を支配しちゃうわけだから。見るもの、聴くもの、それに対して損はさせたくないよね、とか。そんな風に考える側に立っているよね。

集:そうだね。楽しいことを前提におきつつ、何もわからない映像にしているつもりは全然ないしね。見た人が何か引っかかってくれるようなことを考えてる時点で、そういう、人の趣味になるようなことを提供しようとはしているかもしれないね。

PROFILE

佐々木集、OSRIN

クリエイティブレーベル、PERIMETRON所属。佐々木集はプロデューサー、クリエティブディレクターを担当。OSRINは映像作家、アートディレクターとして活動している。

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