DJを軸にマルチに活躍するLicaxxxとWONKのリーダー/ドラムスである荒田洸の二人が、リスペクトする人を迎える鼎談連載。第十一回には、OvallやKan Sano、Michael Kanekoらを擁するレーベル〈origami PRODUCTIONS〉代表の対馬芳昭を迎える。コロナ禍において、所属アーティストの音源を無償提供する「origami Home Sessions」や、個人資産2,000万円を音楽シーンのために寄付するプロジェクト「White Teeth Donation」など、いち早くアクションを起こしてきた、その思いの核となる部分へと分け入っていった。
昨年末に行われたこの鼎談を、EYESCREAM誌面には載りきらなかった部分も含めて完全版でお届けします。
カルチャーとして全部つながり続けている音楽シーンになってほしい
荒田:〈origami PRODUCTIONS〉を立ち上げるまではどういった経歴だったんですか?
対馬:大学卒業したあと、最初は広告代理店で2年くらい働いて、そこから転職してビクターに入った感じかな。
荒田:なんでレコード会社に転職したんですか?
対馬:もともと家族が映画やテレビ関係の仕事をしていて。小学生の頃は映画監督になりたいと思っていた。
荒田:映画監督だったんですね。
対馬:音楽に興味を持つきっかけになったのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。どんどんディグしていくなかでヒューイ・ルイスが歌っているのを知って、「パワー・オブ・ラヴ」や「バック・イン・タイム」を好きになった。マイケル・J・フォックスがギターを弾くシーンを観て、自分もギターもやりたいと思ってやってみたけど高校時代に挫折した。
荒田:なんで挫折したんですか?
対馬:バンドやってると、もっとうまいヤツなんてたくさんいるじゃない。
Licaxxx:わかる、それは私もそうです。
対馬:自分は全然ダメなんだってへし折られた。ギターもダメ、DJもスクラッチからジャグリングもやったけど全然ダメだった。じゃあ裏方だなと。ラジオ局かレコード会社に入りたいと思っていたけど、就職ではダメだったから転職活動をしていた。
荒田:広告代理店に行きながら転職活動をしてビクターに?
対馬:そう。洋楽が好きだったからビクターの洋楽で働いていた。
荒田:レコード会社はきびしかったりしました?
対馬:時代的にめちゃくちゃきびしかったと思う。けどそれ以上に俺のほうがタチ悪かったんじゃないかな。
(一同笑)
荒田:どうタチ悪かったんですか。
対馬:とにかく言うことを聞かなかったからね。面倒くさいヤツだっただろうなとは思う。
荒田:僕の勝手なイメージですけど、対馬さんって問題発見・問題解決をしようとする姿勢がめっちゃあるなって思っていて。それは当初からなんですか?
対馬:どうなんだろうな。でも性格的にはあったかもしれないね。
荒田:なんで独立したんですか?
対馬:それはすごく簡単で、やりたいことがやれなかったから。最初は海外の憧れのアーティストと一緒に仕事できるのが夢のような時間だったけど、人間やっぱりこれができたら次はあれをやりたいって成長していく。自分の実力がどれほどあるかわからないけど、大きな会社ではそれを試せる機会もなかなかない。文句を言っているくらいなら辞めて自分でやったほうがいいかなと思って、いざレーベルをはじめてみたらそこでもへし折られた。
荒田:origamiをはじめた頃、野望はありましたか?
対馬:こうやって二人みたいな人がいること自体が、いまも目標。2006年に立ち上げてから最初の5年は誰にも知られてなかったと思う。でも10年続けて、そこで答えが出ればいいかなとやっていたときにWONKが出てきた。フォローしてくれている人がいたんだなと思って、本当にうれしくて。すぐアルバムを買った。
荒田:ちょうど2016年に1stアルバムですね。
対馬:あとで聞いたら、うちのスタジオを使ってくれてたんだよね。
荒田:はい、大学生の頃に。当時、(Budamunkとmabanuaのユニット)Green Butterが大好きで、そこからmabanuaさんのソロやOvallを聴いて、Ovallの使っているスタジオを調べたらorigamiに辿り着きました。
Licaxxx:私も、Kan Sanoさんとは10年くらい前にお会いしていて、origamiのことも存じ上げていました。
対馬:origamiをはじめた頃の日本って、いわゆるブラック・ミュージックの文脈だと宇多田ヒカルやMISIAは早いうちに理解されたほうだったけど、その先に枝分かれしているのがゼロに等しかった。当時のアメリカでいうと、ビヨンセだけではなくエリカ・バドゥやディアンジェロ、ザ・ルーツといったコンシャス系の音楽もあって、そういった文化が脈々とつながっている。
荒田:たしかに。
対馬:日本にも世界を席巻したYMOがいたのに、レコード会社やメディアはその後に続くアーティストへのサポートが手薄になってしまう。ビジネス的に勝算を優先するあまり「文化をつくる」という意識が欠けているのは問題だと思う。テクノはテクノ、ヒップホップはヒップホップといったようにカルチャーとして全部つながり続けている音楽シーンになってほしくて。時代によって細くなるときがあってもいいけど切っちゃうのはやめようぜって。じゃないとカルチャーが育まれない。
シーンを広げていくために、なんでも教えあうコミュニティ
荒田:origamiをはじめた頃といまとで目指すものは変わりましたか?
対馬:基本は変わってないけど、もっと海外で評価されてほしいというのが加わったかな。別に海外・国内って分けているわけでなくて、逆にいうと世界中に伝わることをやっているアーティストがたくさんいるわけだから。日本の音楽業界って妙に国内でやろうとしちゃうから、そこは変えないといけないなと思っている。
荒田:それこそ最近、mabanuaさんやOvallの人たちって東南アジアの人とよく一緒にやってるじゃないですか。アジア各国の再生回数も伸びていると思うんですけど、あれはマーケティング視点も入っていますか?
対馬:まずは音楽的な共感と一緒にやりたいという思いがありきではあるけど、世界でやっていこうとしたらその国の人に聴いてもらうためには、その国のアーティストとやるのはスタンダードなことかなと。きっかけになりやすいから。
荒田:海外にもっと届けたいという思いは所属アーティストも持っているんですか?
対馬:もちろんそこは一緒かな。WONKもそうだと思うけど、どっちが良い悪いじゃなくて、曲をつくったときにどうしても英語のほうが乗せやすい曲ってあるじゃない。
荒田:めちゃくちゃありますね。
対馬:だからそうなると自然とそういう人をフィーチャーするというか。そこはあまり垣根なくやりたい。日本もヨーロッパもアメリカもやってきたけど、いまアジアが面白い。
荒田:盛り上がっているんですね。
対馬:面白くない? DJしてたらアツいと思わない?
Licaxxx:アツいですね。コロナ前の話になるんですけど、私も結構アジアに行っていましたね。テクノだとマニラがアツいし、台湾やホーチミン、上海も面白い。みんなハングリー精神が強いし、ヨーロッパみたいにどこもカルチャーが根付いているわけじゃないから、どこもかしこも「次の何かがほしい!」ってなっていて、それが面白いのかなと思います。
対馬:中国はとくにインターネットが整備されてきて、ネットの再生回数で見ると圧倒的に強い。人口が多い分、意外とアメリカのアーティストより再生回数が多い人もいるから。インターネットは数の原理で戦うと考えたら、ここから一気にアジア伸びていくだろうなと思う。そうなってくるとすごいことになるなって。WONKもアジアの人気あるでしょ?
荒田:まだ全然ですけど、僕らも戦略的には次はアジアだなって思っています。だから東南アジア系のアーティストとやりたいなって思いは強いですね。Ovallの真似をさせてもらいます(笑)。
対馬:連絡先も必要なら教えるよ。不思議なコミュニティがあって、WONKとうちのスタッフのSlackがあるんですよ。質問されたら全部答えるという。
荒田:すごいですよあれは。マジでなんでも教えてくれますからね。スプレッドシートのデータとか、絶対に社外秘そうなやつも共有いただいてますもん。
対馬:それを企業秘密みたいにすると結局、広がっていかないから。使い方はご自由に、という感じで。
Licaxxx:オープンソースじゃないですか。
対馬:そうそう。協力しないともったいない。俺たちは経験を重ねてきているけど、瞬発力では若い世代には絶対にかなわないし。例えばKan Sanoに参加してもらっているドラマーの菅野颯くんとか20代前半とは思えないスキルとセンスを持っている。
荒田:池袋サムシンというジャムセッションできる場所が次世代の奏者を生み出しているところがある。そこのドラマー三人組の菅野颯くん、竹村仁くん、松浦千昇くんはレベルが違いますね。
荒田:20歳前後の世代って空気感が全然違いますよね。
Licaxxx:DJでも20歳そこそこの子がオールヴァイナルでやっていたりもする。
荒田:すげえ気合入ってますね。空気感どうですか?
Licaxxx:私の世代くらいを最後に縦社会じゃなくなっていて。上の世代をリスペクトはしながらも勝手にパーティーやっているから発達が早いかな。バラバラにそれぞれが進化していっている。お客さんも普段クラブで見たことのない人でたくさん埋まる、みたいな。
荒田:見たことないお客さんって?
Licaxxx:新しい感じ。服装の雰囲気も全然違う。
荒田:それわかる。僕も一年前くらいに中目黒solfaに行ったとき、20歳前後のクルーのパーティーだったんだけど、お客さんの服装がマジで意味わからなかった。忍者っぽい服着てるんですよ。
Licaxxx:革パンにメッシュとか履いていて、なんかお洒落なんですよ。
荒田:それもあったわ〜次世代感あるよな。
対馬:でも、俺もまったく同じことをWONKに対して思ったよ。俺たちがやっているときのお客さんじゃない、どこにいたんだろうって人がたくさんいた。俺らの世代って事務所に所属して、宣伝してもらって、有名になって、みたいな順番があったから。いまはSNSがあるからファンを個人規模でつくれる。だからクレバーな人たちは大人の手を借りずに自分たちでやっていっちゃえる。これまでとは違う感覚でブレイクスルーしているんだなというのが逞しいし、見習うところもある。そこで俺も頭を切り替えないとなって思った。いままで通り決められた流れをやっていたらいけないと気づいたのが、WONKが出てきたときくらいのタイミングだった。
全員がゼロスタートだからいまはチャンス
Licaxxx:コロナ禍での施策も画期的でしたよね。フリーで音源を提供して、誰でもリミックスできるのだとか。
対馬:あれはWONKがすぐ……
荒田:パクりましたね。
(一同笑)
荒田:「やっていいですか」ってすぐ聞いて。
対馬:あれはすごくうれしかったね。フリー音源を使って曲を作ってくれることもうれしいけど、追随して同じことをやってくれるということが。
Licaxxx:あれはすげえなって思いました。速度感含めて。
対馬:ああいった状況のなかでこの世代が声を上げなかったらどうすんだ、何かやらなきゃ、ということしか考えてなかった。途切れたら嫌だから。
荒田:2021年はどうなりそうでしょう。
Licaxxx:本当に音楽やりたい人じゃないと淘汰されていきそう。その空いた枠に面白い人が入ってくると思うと、文化が大きく変わるからいい時代になると思いますね。
対馬:全員が止められたわけだから、全員ゼロからスタートってことはチャンスじゃないかと思っている。いまは「よーい」の段階で、いつ「ドンッ」と言われるかはわからないけど、どう走ってどこに向かうかは常に考えている。
荒田:だからこそ考えられない人は終わるかもしれないですね。動き続けていきましょう。
Licaxxx:マグロのように。
対馬:回遊しながらね。