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LOOPÉ
https://www.loope.jp/shop/default.aspx
https://www.instagram.com/loope_official/
来年デビューを控えるブランド、LOOPÉ(ルーペ)。記念すべきファーストドロップは、すべてのアイテムを生地違いで2パターン用意し、あらゆるスタイルに合うようマルチサイズで展開される。
同じアイテムでも、生地とサイズを選べる斬新なアプローチはコーディネートで個性を演出しやすく、より一層ファッションを楽しめるはず。そんな注目すべき新鋭ブランドの展示会へ伺い、デザイナー木村献をインタビュー。ブランドに込めた思いを語ってもらった。
—お披露目おめでとうございます。改めてLOOPÉのコンセプトから教えてください。
ありがとうございます。コンセプトは、当然のことですが「#服は生地からできている」と掲げました。生地で洋服の着心地が変わることを実感していただき、生地によって変わる見え方の違いも楽しんでもらいたいです。
—制作はいつからスタートしたのでしょうか?
プロジェクト自体の動き出しは、2年前から。コンセプトを決めたり、素材を探したり、どのように生地をデザインに活かすか考えていました。
—すべてのアイテムを2種類のマテリアルで展開するのが新鮮です。
それがブランドの特徴ですが、まったく異なる特性のマテリアルを最大限に引き出せるデザインに落とし込むのが難しかったです。生地はすべて国産を使用。日本各地に有名な産地や職人がいる中、服の作り手側がその技術や素材の特性を使いこなせていないように感じていました。それをデザインで、いかに引き出せるかを考えながら生地を選定しています。
—生地は糸からこだわってらっしゃるそうですね。
例えばロングスリーブTシャツに使ったひとつの生地は、毛羽立ちの少ないコンパクトヤーンという糸を使っているんですけど、微妙に毛羽が残ってしまいます。ですので、糸に特殊低速ガス焼き加工をして毛羽を除去。そして最終的に、編み上げた生地にシルケット加工を施すことで、シルクのような光沢感のある生地にしています。
—他にも特殊な加工を多用していますね。それは海外メゾンブランドに携わっていた前職の経験からでしょうか?
そうですね。前職で培った職人とのコミュニケーションによって、自分がやりたいことを伝えることができて、理想的な生地が完成しました。
—たくさんのこだわりが窺えます。生地以外には、どんな技術を採用していますか?
ロングスリーブTシャツのリブには、オトシ2本針という縫製技術を使っています。普通の2本針で縫製すると、リブにステッチが掛かってしまいます。でも、オトシ2本針は、リブと生地の境目に、ステッチ2本のうちの1本を隠す技術。ステッチをすべて隠してしまうとレディース感が強くなり、2本のステッチを露出するとカジュアル感が強くなる。しかし、オトシ2本針でステッチを1本だけ見せることで、洗練された見え方になります。通常の2本針よりも作業の効率が悪いですが、こだわらせてもらいました。
—細部にまで抜かりないですね。特に苦労した点はなんでしょう?
長年この仕事に携わっているので、生地の開発においては理想を実現できました。そんな中、特に苦労したのはサイズ展開。9つのサイズへ落とし込むことが非常に難しかったです。
—サイズが大きくなるごとに、等間隔で寸法が変わっていくわけではありませんよね?
そうなんです。それでは単調になってしまい、今までのサイズに対する考え方と変わらないので、おもしろみに欠けてしまいます。着丈は少し伸ばして、身幅をさらに大きくするなど微調整をしました。同じアイテムでも、サイズ違いで別のデザインに見えるように、特殊な展開にしています。普段着ているサイズを基準に、固定観念で選んで欲しくなかったので、あえて世の中に存在しないオリジナルのサイズ表記にしました。先入観を持たず、着こなしを楽しんでもらいたいです。
—11や53など、サイズ表記の数字にはどんな意味があるんでしょう?
着丈と身幅で縦軸と横軸を設定していまして、十の位の数字は着丈を、一の位の数字は身幅を示しています。着丈が大きくなると身幅も大きくなるんですけど、さっき申したように単調な等間隔でサイズアップしているのではなく、サイズをずらしながらデザインが崩れないように調整しています。
—カラーリングも絶妙です。
今後は差し色として使えるようなカラーリングの展開も考えていますが、今回が1st Dropということもあって、生地の良さを際立てるような色味を意識しました。生地を主役にするべく、ラインナップもシンプルでベーシックなアイテムにしました。
—そのアイテムは、ゆったりとしたオーバーサイズのシルエットが中心ですね。
個人的にゆったりとしたシルエットが好きなのも理由です。直球でオーバーサイズにしてしまうとストリート感が強くなってしまうので、ナチュラルに肩が落ちているデザインにして、大人が着てもヤンチャに見えないようにしました。着崩したオーバーサイズではなく、“狙ったオーバーサイズで着こなせるように”。
—確かに、オーバーサイズですが上品な印象です。このシャツは、上品なドレス感があるけれど、カジュアルに着こなせそうですね。
形自体はオーバーサイズですが、肩を極端に落とさず、さりげないオーバーサイズにしています。襟を少し小さくしたり、ポケットは大きめで低い位置にしたり、視覚的に着崩しているように見せているんですよ。
—まさにデザインの妙ですね。シャツの生地にはどんなものを使っていますか?
ひとつめの生地は、ドレスシャツに使われることが多い200番双糸という非常に細い糸を使用しています。それを織った段階で洗いを掛け、ドレスシャツが持つハリやコシを和らげました。ドレスシャツの光沢感を残しつつ、カジュアルに着こなせます。
—同じ形のシャツでも、こちらの生地は起毛していて、まったく違った印象です。
もうひとつの生地は、綿の段階で染色した、柔らかく膨らみのある糸を撚り合わせて起毛を掛けています。それによって、ウールのように上品な印象になりました。個人的にネルシャツが好きですが、カジュアル感が強くて、アメカジのような着こなしになりがちでした。だから、ドレスらしさとカジュアル感のあるソフトな印象にしています。両方ともカジュアルなパンツと合わせても上品な雰囲気になりますし、スラックスと合わせるとキレイな抜け感のあるコーディネートになります。
ワイドロングシャツ
(左)200番双糸を使用して上質なドレスシャツのように仕上げた。ウォッシュ加工を施し、しなやかな生地感を実現。
(右)ツイル素材に起毛を掛けることでウールのような風合いに。肉厚でありながら膨らみのある柔らかな生地。
—こちらのイージートラウザーも、生地によって見え方が全然違いますね。
カジュアル感をなくすためにプリーツを入れて、ドレスのトラウザーをイメージしました。ひとつめの素材はコットンポリエステル。ミリタリーやワークウェアに使われる、ハリとコシのある素材です。今回はコットンポリエステルを織り上げたあと、叩き揉み込むように薬品に漬けて、生地が持つ強度を残しながらコシをなくす加工を施しました。コットンポリエステルのタフな特徴を残していますが、着用すると滑らかなドレープ感を楽しめます。
—一般的なコットンポリエステルにはない、しなやかな風合いですね。もう一方の生地はパリッとした印象。
もうひとつがコットンとウールを使用したキャバリーツイル素材。綾立ちが良く重厚感のある素材なのに、ソフトな風合いです。コットンポリエステルの生地は、柔らかくドレープしますが、こちらはシャープな印象。正面から見ると、あまり太さを感じさせませんが、横から見ると太さが分かります。そのシルエットのギャップを楽しんでもらいたいです。
イージーパンツ
(左)コットンポリエステルの持つ生地の強度をそのままに、薬品による加工でドレープ感のある生地に。
(右)先染めしたコットンとウールを交繊したキャバリーツイル素材。
—素材による表情の違いを感じやすいです。展示会に来場した方々から、どんな声が届いていますか?
同じアイテムでも、自分好みの生地やサイズを選ぶのを楽しんでもらっています。ちょっとした違いで自分らしさを追求する、ファッションの根底にあるワクワク感を楽しんでもらっている印象です。
—今後、LOOPÉをどんなブランドに成長させたいですか?
LOOPÉだけで全身コーディネートするのではなく、さまざまなライフスタイルのファッションに寄生するようなブランドにしたいです。着る人のライフスタイルを崩すことなく、寄り添うように溶け込んでいくブランドになりたいと思っています。古着好きな人が着ても、ストリート好きな人が着ても、違和感なくコーディネートを楽しんでもらえたら、と。
—木村さん自身、楽しみながらデザインしていることが伝わってくるコレクションです。
生地を開発する際、今まで欲しいのに買わなかった服を思い出していました。例えば、生地が固かったから買わなかった。それなら、見え方はそのままに柔らかくしてしまえばいい。もう少しボリュームがあったら買っていた。それなら、ボリューム感をプラスすればいい。今まで触れてきた洋服の中で、あの部分がこうなっていれば、と考えながら作るのが楽しかったです。
—今後作ってみたいアイテムはなんでしょう?
9サイズ展開は難しいかもしれませんが、アウターを多彩なサイズで展開してみたいです。オーバーサイズの着こなしが好きですが、特にアウターはどうしても着られている感じを払拭できない場合もあります。ですので、それぞれにぴったり合うサイズのアウターを作ってみたいです。そしてなにより、音楽やスケートボードなど、さまざまなカルチャーに身を置く人たちに着ていただくことで、ブランドが変化していくことを期待しています。多様なカルチャーに寄り添うことで、洋服の見え方も変わっていくはずなので。作り手である私たちが予想もしないような成長を遂げるブランドになればいいなと思います。