[Interview]Omoinotake
ストリートで拾い上げた、いくつものヒント

Text_Yukako Yajima , Photography_Toyohiro Matsushima

[Interview]Omoinotake
ストリートで拾い上げた、いくつものヒント

Text_Yukako Yajima , Photography_Toyohiro Matsushima

新型コロナウイルス感染拡大の終わりが見えずに、リアルライブのみならず配信ライブでも自分らしさを表現できるように各アーティストが模索し続ける2021年。島根県松江市から上京後、渋谷を拠点にストリートライブで鍛えてきたピアノトリオバンド・Omoinotakeは、無観客オンライン・ストリートライブ・ツアー「#NoBuskNoLife」を実施するというアイデアにたどり着いた。7月22日から8週連続で配信し(最終回は9月10日に配信)、これまでビルの屋上、銭湯、海辺など、バンドが演奏するには相当厳しいような場所からライブを届けてきた。これは、Omoinotakeの強みやバンドストーリーを見事にオンラインのステージへと持ち込んだライブ配信企画だったと思う。ストリートでの下積みで培ったバンドとしての強靭さ、そして、ストリートでもがいた経験があるからこそ生み出すことのできる大衆性を帯びたメロディと豊かなグルーヴが宿る音楽性について、藤井レオ(Vo/Key/主に作曲)、福島智朗(Ba/Cho/主に作詞)、冨田洋之進(Dr)に訊いた。

―無観客オンライン・ストリートライブ・ツアー「#NoBuskNoLife」を開催しようと思った経緯を聞かせていただけますか。

藤井レオ(以下、レオ):Omoinotakeとして、もう一歩お客さんとより深く繋がるためになにかできることはないかとチームで話し合っていたときに、やっぱり僕らの礎にはストリートライブがあることを改めて感じたんですけど、「でもコロナ禍だし」というところから、なにか面白いやり方はないかとアイデアを出していったことが始まりです。ライブがたくさんできていたらお客さんとより繋がれる感じがあったと思うんですけど、コロナによってそれがなくなってしまったので、今回の企画はもう開き直りみたいなところから出たアイデアというか(笑)。アイデア次第では今の状況でもいい形でお客さんとやり取りができるなと思えました。

―銭湯、海辺、バッタが飛び回っている手入れされていない芝生の中など、「え、そんなところでライブできるの?」という場所を選ばれてきましたよね。

福島智朗(以下、エモアキ):最初はミーティングが煮詰まっていたんですけど、オンラインでのストリートライブってこれまで誰かがやってきたものではないからこそ、自由にやっていいんだなと思った瞬間にポンポンとアイデアが出始めて。「『Busk』だから『Bath』で銭湯どうですか?」とか(笑)。

―ダジャレからの発想(笑)。

エモアキ:僕自身、銭湯やサウナが大好きで。自分たちが好きな場所、自分たちにゆかりのある場所からライブを届けられたらと思って、アイデアを出しました。結果「次はどこだろう?」とお客さんをワクワクさせられたら嬉しいですからね。

―ライブ環境が整ってないところにも自ら飛び込めるのは、ストリートで鍛えてきたOmoinotakeのすごさですよね。「いやいや、大抵のバンドはそんなところでライブしたがらないでしょ」みたいな環境ばかりだったなと(笑)。

レオ:確かに場所選びに怖いものはない感じがありますね。もともとやってたスクランブル交差点も過酷な環境なので(笑)。

―過酷な環境でライブをやることに怖さや大変さはないですか?

レオ:大変ではないですね。慣れっこと言ってしまえばそういうことなのかな。どこでやろうが、やることは一緒ですし。

冨田洋之進(以下、ドラゲ):心がフラットな状態で演奏できるんですよね。ストリートだからこそ自分の好きなようにできることもあって、「絶対に使わないけどこの機材置いておこう」「ストリートだからこそできるアレンジに変えてみよう」みたいな遊びも楽しみながらできるのがすごくいいなと思います。そのマインドをライブハウスのステージにも上手いこと持っていけると、より一層磨きがかかるんですよね。前にストリートをやっていたときも、そうすることでライブハウスでのライブがよくなるなという実感があったので、その感覚を改めて感じられたのがよかったです。

エモアキ:久しぶりにライブハウスでやると「音いいな~!」とは思うよね(笑)。

レオ:あと、(警察とかに)途中で止められない喜びもあるよね。

エモアキ:そう、完奏が確定してるのが嬉しい(笑)。

―「#NoBuskNoLife」というタイトルを付けた理由は?

レオ:このタイトルは自分がパッと思いついて決めたんですけど。ストリートライブをやってたとき、バイトとかもしてる生活の中でストリートライブが一番生きている実感を感じられて、「バスキングなしじゃ生きられない」という気持ちがあったんですよね。今回も、無観客とは言えど、街中で大きな声を出すことで生きている実感を味わえている感があります。

―そもそも2017年に、メンバー間でどういった話し合いがあってストリートライブを始めたんですか?

レオ:2017年1月に初めて全国流通盤のアルバム(『So far』)を出したんですけど、当時まったく知名度がない状況だということは自分たちでわかっていたので、「このままCD出してもどうしようもないな」という想いから、なにかしなきゃと思ってストリートライブを選択しました。

エモアキ:ストリートでやるのは恥ずかしいなという気持ちも最初はあったんですけど、本当にヤバいなっていう焦りの方が強くて、(ストリートを)選んだんだと思います。自分が中学校の頃とかは、デビューしてるバンドを見て「CDを出すってすごいことだな」という憧れがあったんですけど、実際自分がバンドをやってきてその立場になったときに、CDを出すだけなら全然すごいことでもなんでもないし、それだけで食べていけるかといえば全然違って。全国流通盤を出しても今の状況が180度変わるかって言ったら全然そんなことはないというのが身に染みてわかる状況だったので、だったらなにかやろうか、というところでストリートでした。

―2017年だとSNSとかネット上でできることも色々あったと思うんですけど、当時Omoinotakeを広めるためにオンラインではなくストリートを選んだのは、どういった想いがあったからですか?

ドラゲ:単純に、手っ取り早くなにか行動を起こせるのが、そのときの僕らにとってはストリートだったのかな。

レオ:そうね。当時はインターネットとかで上手くプロモーションできるような3人でもないっていうのがわかってたし。身体ひとつと楽器を持って街に出ればすぐにできるという意味では、僕らにとってはとっつきやすさがあったのかもしれないですね。

―ストリートライブで下積みをしてきたことで、バンドとしてどういったものを得られたと自覚していますか?

レオ:心の持ちようが一番大きいと自分では思っていて。「頼むから聴いてくれ」みたいなマインドですね。ライブハウスだとちゃんとお金を払って音楽を聴きに来ているお客さんの前でやるけど、ストリートだとほとんどの人が通り過ぎていくから、「俺の歌を聴いてくれ!」みたいな想いがどんどん強くなっていって。そういう気持ちが、歌とか、「渋谷のみなさん、こんばんは! Omoinotakeです!」みたいに声を出すときとかに、どんどん乗っていったと思います。混沌とした場所でいかに自分の存在感を出すかみたいな熱量は、ストリートに力をつけてもらったなと思います。

―Omoinotakeって、そもそも一人でも多くの人に届くような大衆性のある音楽を目指したいという想いで始まったバンドですか? それとも、ストリートをやっていくうちにその想いが強くなっていきました?

レオ:前者ですね。

エモアキ:でも、やり方がなんにもわからなかったんですよね。そのヒントがいっぱいストリートの中にあったのかなと思います。

―曲作りにおいては、ストリートで得た感覚がどのように反映されていると思いますか?

エモアキ:ストリートって、刹那の出会いじゃないですか。人が通り過ぎる一瞬とか、10~15秒とか、どこを聴かれても足が止まってほしいということをすごく意識して曲を作るようになりました。やっていくうちに「この曲だと人止まりやすいな」みたいなことも見えてくるんですけど、その理由を考えると「やっぱり全部のメロがいいからだ」ってわかったり。

レオ:あとは、グルーヴィーな音楽を演奏することで人が集まってくることも体感してました。街行く人がリズムに乗って身体を揺らしてると目立って、「なにかやってるな」って人がどんどん集まってくるという感覚があったので、いかに踊れるグルーヴの曲を作るかということも考えてましたね。

―ストリートでの経験があるからこそ、大衆性の帯びたメロディと身体を揺らすグルーヴのある音楽の魅力に3人自身が虜になっているのだろうし、現場で探究を重ねてきたからこそ生まれるOmoinotakeのオリジナリティがあるのだと感じます。最近の楽曲はベースラインの音色にしても、生ドラムと打ち込みを混ぜたリズムの作り方にしても、歌詞にしても、挑戦的な変化を感じますが、今はどういった意識がありますか?

レオ:ストリートをガッツリやってたときは同期を使わずに3人の音だけで完結する最小限のグルーヴをやろうとしてたんですけど、そこから一歩進んで、単純にサウンドとして面白いところを意識していますね。延長線上でちょっとずつ進化できてるのかなと思います。昔はやりたいことがあっても技量がついていってない部分があったけど、だんだんと自分たちの思い描くところにたどり着けている感じがします。

―この先Omoinotakeがさらに目指す音楽とは、具体的にどういうものでしょう?

レオ:広く浅くじゃなくて、広く深く刺さるように、もっといい曲を作っていきたいですね。

エモアキ:(何度も深く頷く)

―エモアキさんがめっちゃ頷いてます(笑)。

レオ:はははは(笑)。

エモアキ:「広く深く」の「深く」の部分って、歌詞によるところが大きいと思うんです。歌詞は今までよりもっとミクロに、もっと細かいことを書こうという意気込みでいます。深く、なおかつたくさんの人に、というのは誰もが目指してるところだとは思うんですけど、その中でOmoinotakeらしくやっていきたいですね。

レオ:いろんなプレッシャーとかに押しつぶされることなく、こだわりを持ち続けた上で広く深く刺さったら嬉しいです。自分がいいと思う感覚を捨てることって簡単だと思うんですけど、いかにその感覚を大事にして逃げないかだと思う。やればやるほど、自分の中で納得できるメロディーが少なくなってきているんです。それは、今まで作った曲を超えていかなきゃいけないと思うからで。「これくらいでいいかな」とかではなくて、それから逃げないことが、自分がいいと思うものにこだわり続けるということだと思いますね。そこを大事にし続けたいです。

ドラゲ:(エモアキが)作詞、(レオが)作曲を命削ってやってるから、俺も命削ってドラム叩いてやるよ! という意気込みです(笑)。

―この記事が出た翌日に、「#NoBuskNoLife」の最終回が開催されます。最後はどんなことを準備していますか?

レオ:いろんな場所を経て、自分たちのストリートライブの聖地でもう一度音を鳴らすという想いで、「#NoBuskNoLife」は渋谷から始まって渋谷に戻ってくるという形で組みました。最後は熱量を爆発させたいですね!

INFORMATION

Omoinotake

藤井レオ(Vo&Key)、福島智朗(Ba&Cho)、冨田洋之進(Dr&Cho)のギターレス構成。中学生の同級生だった彼らは2012年に結成。最新曲「EVERBLUE」がTVアニメ「ブルーピリオド」(2021年10月1日から毎週金曜25時25分よりMBS/TBS系全国28局ネット“スーパーアニメイズム”枠ほかにて放送)のオープニングテーマに決定
https://omoinotake.com/

【LIVE STREAMING】
8週連続配信中!! 無観客オンライン・ストリートライヴ・ツアー

「#NoBuskNoLife」ファイナル公演
9月10日(金)22:00~
https://www.youtube.com/c/Omoinotake

※ファイナル直前SPトークライヴ
9月9日(木)22:00~
同チャンネルにて生配信
※アーカイヴ無


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