ジャズをベースにスカやパンク、ロックなどを取り込んだ激しいサウンドを武器に、国内外で活躍するライブジャズバンド、TRI4THが結成15周年という節目に放つアルバム『GIFT』。ゲスト参加にチバユウスケ、ASOBOiSM、岩間俊樹(SANABAGUN.)、MPC GIRL USAGI、シライシ紗トリ、Shingo Suzuki、そしてKan Sanoを迎えることで、“新たなTRI4TH”の扉を開いた意欲的な一枚だ。なかでもKan Sanoは、TRI4THの面々とは20代の頃に多くの現場をともにしてきたという間柄。今作をきっかけに約10年ぶりに再会した両者が、お互いに感じた思いとは。対談してもらった。
レコーディングスタジオでの一枚。
L→R / 竹内大輔(Pf)、織田祐亮(Tp)、関谷友貴(B)、伊藤隆郎(Dr)、Kan Sano、藤田淳之介(Sax)
—20代の頃はさまざまな現場で演奏をともにしてきたとのことですが、出会いはどういった?
Kan:一番付き合いが長いのが(TRI4THの)ベースの関谷友貴なんですけど、バークリー音楽大学に留学したときに知り合いました。当時18、19歳くらいかな。パソコンも買いたてで使い方から教えてもらったり、英語もあまりわからなかったから助けてもらったり。そのあと、二人とも帰国して東京で活動するようになるんですけど、気がついたら関谷友貴はTRI4THというバンドをやっていて、オリちゃん(織田祐亮)がやっていた円人図というバンドはバークリーのつながりもあってと、界隈でみんないろいろやっていた。
—気づけば音楽を媒介にして一緒にいた?
Kan:(伊藤)隆郎さんと初めて演奏したときのことは覚えているんですけど、じゅんじゅん(藤田淳之介)やオリちゃんとどうやって出会ったのかは覚えてない(笑)。
藤田:最初は、花見かもしれないね。新百合ヶ丘で毎年していた。
Kan:あー、それかも。共有の友人がいっぱいいたので、そういうふうに集まることもあった。僕は人付き合いにあまり積極的ではなかったけど、関谷友貴はバークリーでのつながり以外のコミュニティーにもどんどん入っていった人だから。友貴のおかげで混ぜてもらった感じですね。
伊藤:たしかに、関谷がいたからKanちゃんとも知り合えたし、輪が広がっていったのかな。
Kan:でも、TRI4THをちゃんと認識したのは、円人図とか昔ながらのつながりから知ったというよりは、当時自分がいたクラブジャズのシーンから知り合いが出てきた、みたいな印象だった。TRI4THって初期は須永辰緒さんがプロデュースしていたじゃないですか。須永さんや沖野(修也)さんの活動はいつもチェックしていたので、「あのメンバーがここでやってるんだ!」ってびっくりした記憶がある。
伊藤:Kanちゃんも、いつのまにか沖野さんのプロジェクトで活動しているのを見て、新しいジャズシーンが広がっていってるなと思っていた。
Kan:そうだね。あとは松浦俊夫さんともよく一緒にやっていたし。そのあと須永さんともお仕事ご一緒したんですけど。
伊藤:今回のアルバムのご挨拶で辰緒さんに連絡したら、「あれよかったね。当時から俺はKan Sanoはあっという間に売れっ子になるって気づいてた」って言ってましたけどね(笑)。
Kan:そうなんだ(笑)。
藤田:KanちゃんにTRI4THのサポートメンバーをしてもらっていた10年前くらいは、ちょうどTRI4THの過渡期だった。
Kan:いま思うと、まさに転換期でしたよね。これからどうやっていこう? って試行錯誤していた印象がある。
伊藤:クラブジャズというシーンにはいたけど、シーン自体のあり方も変わっていった時期だった。ちょうどKanちゃんが〈origami PRODUCTIONS〉に入って、俺らは〈Playwright〉にいって、お互いの道を歩み始めた頃で。
Kan:僕らが一緒にやっていた頃って、日本のインストクラブジャズバンドがひと通り出尽くした時期だった。SOIL & “PIMP” SESSIONSやquasimodeが第一線でガンガンやっていて、ここからTRI4THはどうやっていくんだろうなと気になっていた。でも10年近く経って、いまだにこうして新しいものをつくって活動をしている。僕も違うシーンでやってきて、こうやっていま改めて一緒にできるのが、お互いほんとがんばったよね、という。
伊藤:お互い違うフィールドで戦ってきて、そこの旗を振っていくような存在になったからこそ、こうやってまた集まれたというか。その自負を持って「これぞ俺たちのジャズだ」って提示できるのがすごくうれしい。
—今回、約10年ぶりにまた一緒に音を出すということになったのですが、そのきっかけはどういったところでしたか?
伊藤:自分たち的には、前作『Turn On The Light』で、セルフプロデュースでつくることにおいて出し切ったなという思いがあった。そんななかで15周年の集大成としてアルバムを出そうと制作はしていたものの、自分たちの殻は破りきれないなというのは実際あった。そのときに、外から俯瞰で見てもらうことで殻を破れるんじゃないかという意見もあって、この局面で一緒にやる人はどういう人がいいんだろうって考えたときに、最初に浮かんだのがKanちゃんだった。
Kan:TRI4THの活動を見ていたなかで、「僕が関わるならこういうTRI4THにトライしてみたいな」というのはずっと思っていたので。今回、声をかけてもらって、それをやってみるいい機会なのかなと感じた。TRI4THはずっとセルフプロデュースでやってきたけど、さらに一歩先に進みたいんだろうなというのは印象としてあったので。自分が関わることで、新しい風を入れられたらいいなと思っていました。
織田:Kanちゃんが風穴を開けてくれたことに、今回ほんと感謝している。
伊藤:正直、煮詰まっていたからね(笑)。
藤田:「助けて!」という思いもあった(笑)。
伊藤:ネガティブな意味じゃなく、自分たちで追求すればするほど、「もっといけるんじゃないか」という思いが強くなっていた。そういうときにKanちゃんと一緒にやれて、凝り固まっていたのが、ぽーんと開けたようだった。それは全員が思ってるんじゃないかな。自分たちがTRI4THというのを勝手に作り上げてしまっていた気がして、Kanちゃんが関わってくれることで、「俺らってこういう側面があるんだ」と思えたし、まだまだ前に進めるなと改めて思えた。
—Kan Sanoさんが関わった3曲についてそれぞれ聞いていきたいのですが。まずは「SENRITSU」から。
Kan:どの曲もTRI4THが最初につくっていたデモというかスケッチみたいなものがあって、それを元にしながら、曲によっては結構変えましたね。
藤田:「SENRITSU」はすげえ変わったよね(笑)。
伊藤:「SENRITSU」は、ベーシックだけ先につくって、メロディーのところはブランクにしていた曲で。フィーチャリングで誰かにお願いしたいなとは思っていたものの、誰とするかはまったく決まってなかった。そこから、この曲をKanちゃんに歌ってもらったらおもしろいんじゃないかという話になって。持って帰ってもらったら、尺からコードからメロディーから大手術が行われた(笑)。
Kan:デモを聴いたときのグルーヴ感がすごくよかったので、そこは残そうと思った。だからテンポは変えず、最初のピアノのフレーズも元からあったモチーフですね。サビの前に超絶フレーズがあるんですけど、あのあたりは新たに入れました。僕もこの曲はイメージしやすかった。こういったアップテンポの曲はソロではあまりやったことなかったけど、TRI4THと一緒にするならこういった感じがおもしろいんじゃないかなと思っていたので。
藤田:TRI4THとしても、こういう曲調はつくろうと思ってもなかなかできなくて。
伊藤:歌が入ってくれるからこそ、自分たち的にやりたかったことが成立したというか。
藤田:途中のホーンフレーズは、TRI4THのイメージでこういうふうに?
Kan:僕がサポートしていた頃は、こういうむずかしいフレーズがよくあったんですよね。僕もピアノで弾いて結構苦労していた(笑)。でもみんなすごくいいプレイヤーだから、要求されたことに応えられるんですよね。
藤田:このフレーズはたいへんだった(笑)。
織田:ピアニストがつくるホーンフレーズというか。そういうよさがありますよね。
伊藤:最後のホーンフレーズも、初期の俺らがやりそうだもんね。久しぶりに思い出した。
藤田:だから、踏まえて制作してくれたんだろうなというのは曲を通じても感じてうれしかった。
—続いて「New days feat. ASOBOiSM」について。
Kan:これは、ASOBOiSMさんいいんじゃないかと僕から提案しました。トラックは「ヒップホップを生のバンドでやる」という感じにしたくて。ループっぽく、なるべく動かない、というプレイをしてもらいました。「SENRITSU」もそうなんですけど、ベースがなにげに重要なんですよね。ドラムのパターンがシンプルな分、全体のノリにも関わってくるというか。
織田:一緒にスタジオに入ったときに、キーボードのフレーズだけはできていて、それにKanちゃんがコードを付け直してくれて。そこからベースラインを20〜30分かけて「こんなのかっこいいかも」って関谷くんとやっていった。それを合わせた瞬間にもう、TRI4THだけでは出せない音楽に生まれ変わっていた。
伊藤:自分たちだけだと、どうしても手癖でやっちゃうけど、Kanちゃんが入ることによってそうならないというか。TRI4THのなかでは一番引き算している曲かも。ドラムは、ループさせるなかで無駄を削ぎ落としていこうという意識はあった。新しい側面を引き出してもらったなという実感はある。
Kan:この曲のドラムは、シンプルに徹してもらったんですけど、ドラマーによってはどうしても動きたくなるというか。こういうのってむずかしかったりするんですけど、隆郎さんはすんなりできていた。その対応力がみんなすごいなって思っていました。
伊藤:俺らとしても、「ヒップホップの楽しさがわかってきたぞ」って。
藤田:リハが勉強会みたいになってた(笑)。「このノリか!」って。
藤田:Shingo SuzukiさんもKanちゃんに紹介してもらってつながったもんね。ありがとうございます。
伊藤:Shingo Suzukiさんにプロデュースしてもらった「Just a Drizzle」という曲にしても、BPMは90いかないくらいで、TRI4THとしては遅めだけどヒップホップとしてはベストなBPM。俺らがそういうのをやると、これまではどうしても手数が多くなってしまっていたけど、それをいかに削ぎ落としてミッドなテンポでも踊らせるか。Kanちゃんに関わってもらったことで、その引き算している時間を我慢できるようになった。
藤田:このアルバムをつくる前までは、自分の意識としては、「ジャズ」と「ヒップホップ」は別々にあった。ヒップホップのノリをジャズに取り込む、というイメージがあったけど、KanちゃんやShingoさんは、ジャズの一環としてヒップホップを捉えていて、「こういうところがヒップホップ方向のジャズの楽しみ方」というのを提案してくれた。それが自分のなかで新鮮で、新しい扉も開いた気がしますね。
織田:そうだね。こうやってプロデューサーを立てて、インプットをいただきながらアウトプットをしていくという制作スタイルがめちゃくちゃ楽しかった。
Kan:この曲では、ホーンのフレーズをちょっと後ろノリで吹いてみるというのもやってみたんですよね。
藤田:結局はボツにしたけどね。
Kan:そのときに隆郎さんが言っていたのは、「自然にそういうノリが出ているのはいいけど、無理してやることでもない」と。
伊藤:自分たちのものになってない演奏を無理にやって、音楽的に不自然になるのはよくないから。
—ASOBOiSMさんのラップとの絡みで意識したことは?
Kan:あれは、ASOBOiSMさんにとってはパズルを埋めていくみたいな感覚だったと思う。というのも、ホーンのフレーズも入れた状態でお渡ししたので、ホーンありきで、ああいったラップになったんじゃないかな。歌に対してのホーンの扱い方も、いままでのTRI4THとは違ったかもしれないですね。
藤田:ジャズの古き良き捉え方からすると、ホーンと歌の捉え方がまったく違った。サックスソロにラップが絡んでくると、「どうしよう、休んだほうがいいのかな」って考えたりもしたけど、でも「その絡みがいい」というKanちゃんの意見は、なるほどなと。
Kan:ホーンとしては、歌が入っているときはバックグラウンドとして控えなきゃいけないという意識があったと思うんですけど、ASOBOiSMさんはホーンのフレーズが入っているところにもがっつりラップを入れたりしていた。僕はそれがかっこいいなと思ったので、結果こうなりました。
—そして「君想ふ故に、僕在り」。こちらはインストですが、ノスタルジックなピアノとは別軸で、疾走感のあるドラム、ベース、ホーンが走っていくという。
Kan:これは、もはや元のデモを僕も思い出せないんですけど(笑)。
藤田:俺らも思い出せない(笑)。
Kan:ホーンのメロディーは変えてないと思うんですけどね。
伊藤:そこは活かしつつも、ピアノの別軸というのをKanちゃんが生み出してくれてから一気に世界が変わった。
Kan:最初、ドラムとベースが疾走感ある感じになっていったので、その対比的にピアノがまったく違うアプローチとテンポ感で流れていくとおもしろいかなって。ピアノの三連符がやわらかい和音でずっと流れている、というのを思いついたときに「これいけるな」と思った。
藤田:リハのときにその案が出てきたときは「おおーーっ!」って感動しましたね。
Kan:僕も同じピアニストなので、竹内さんがどういう音を埋めていくのかが想像できたんですけど、この曲は隙間をつくりたかった。だから、竹内さんには弾き方を決めてもらったほうがいいなと思って、三連符に徹してもらった。あと、ブラッド・メルドーの『ラーゴ』というアルバムに、こういうアプローチをしている曲があって。いま思い出すと、その『ラーゴ』も関谷友貴に教えてもらったアルバムなんですけど(笑)。20歳くらいのときによく聴いていました。
—改めて、今回一緒にしてみてどうでしたか。「SENRITSU」では「今こうしてまた出会えた」と歌い、「人と人のあいだにあるもの」が真理だと歌っています。
Kan:音楽って人と人のあいだにあるものだと思っていて、TRI4THとは、そのあいだにあるものをつくりたいと思った。久々に再会して、当時やっていた音楽をまた一緒にやるというよりは、いまの音楽をやれたのはうれしかったですね。ずっと活動していると同じことの繰り返しになってしまいがちだけど、一度やったことをまたするのは僕はつまんなくて。失敗する可能性があったとしても新しいことにトライしたい。
伊藤:俺らとしてもまったく同じ気持ちだった。15周年としての集大成というよりも、ここからスタートするから新しい自分たちを見つけたいというのが大きかった。どんどん変わっていきたいし、止まっていたくない。変わり続けていないと音楽は停滞してしまうから。そういうマインドが、タイミング的にもKanちゃんと合致したんだと思う。
Kan:音楽を人と人でつくるのってタイミングがめちゃくちゃ重要だから。
伊藤:次はライブを実現させたいよね。で、ここからまた一緒におもしろいことしていきたい。「また10年後に」とはならないように(笑)。
INFORMATION
TRI4TH
New Album 「GIFT」
2021.9.15 ON SALE!
【初回生産限定盤】(2CD+BD)SECL 2685-2687 ¥6,818 +tax(¥7,500 tax in)
DISC 1(CD):ORIGINAL ALBUM
DISC 2(CD):TRI4TH REQUEST BEST
DISC 3(BD):“Turn On The Light Tour”at TOKYO LIQUIDROOM 2020.12.17
【通常盤】(CD)SECL 2688 ¥2,727 +tax(¥3,000 tax in)
DISC 1(CD)
Original Album「GIFT」
1. LET JERRY ROLL feat. チバユウスケ
2. SENRITSU feat. Kan Sano
3. New days feat. ASOBOiSM
4. Echoes
5. Sound System
6. 君想ふ故に、僕在り
7. Just a Drizzle
8. Goodtime
9. Trace
10. 航跡 feat. 岩間俊樹(SANABAGUN.),MPC GIRL USAGI
DISC 2(CD) ※初回生産限定盤のみ収録
「TRI4TH REQUEST BEST」
1. BMWの女 (収録ALBUM「TRI4TH」)
2. Dance’em All (収録ALBUM「4th Rebellion」)
3. Everybody knows that (収録ALBUM 「Five Color Elements」)
4. チュニジアの夜 (収録ALBUM「AWAKENING」)
5. Freeway (収録ALBUM「AWAKENING」)
6. Sand Castle (収録ALBUM「Defying」
7. FULL DRIVE (Anthology ver.) (収録ALBUM「ANTHOLOGY」)
8. Green Field (収録ALBUM「Defying」)
9. HORNS RIOT (TRI4TH & カルメラ) (収録ALBUM「HORNS RIOT」)
10. Rebellion (収録ALBUM「4th Rebellion」)
11. Guns of Saxophone (収録ALBUM「4th Rebellion」)
12. DIRTY BULLET(TRI4TH REQUEST BEST ver.)
13. Maximum Shout (収録ALBUM「ANTHOLOGY」)
14. ぶちかませ! (収録ALBUM「jack-in-the-box」)
15. For The Loser feat. KEMURI HORNS (収録ALBUM「Turn On The Light」)
DISC 3(BD) ※初回生産限定盤のみ収録
「Turn On The Light Tour」 at TOKYO LIQUIDROOM 2020.12.17
<収録曲>
1. Move On
2. Stompin’ Boogie
3. Bring it on
4. Freeway
5. FULL DRIVE
6. ぶちかませ!
7. River Side
8. Sol Levante
9. 航跡〜The Light feat. 岩間俊樹(SANABAGUN.)
10. Fineday
11. Dance’em All
12. Corridor in Blue
13. DIRTY BULLET
14. Guns of Saxophone
15. Sand Castle feat. KEMURI HORNS
16. For The Loser feat. KEMURI HORNS
17. Sailing day
18. Maximum Shout
■“QUATTRO MIRAGE 2020 to 2021″10th Anniversary Special
出演:TRI4TH × fox capture plan
日程:2021年10月28日 (木) 17:45 開場 / 18:30 開演
会場:渋谷クラブクアトロ
■“Horns Riot” 15th Anniversary LIVE
出演:TRI4TH/Calmera
開催日:2021年11月27日(土) 16:45 開場 / 17:30 開演
会場:梅田クラブクアトロ
出演:TRI4TH/Calmera
開催日:2021年11月28日(日) 16:45 開場 / 17:30 開演
会場:名古屋クラブクアトロ
■TRI4TH 15th Anniversary“GIFT” Release LIVE@Club QUATTRO shibuya
出演:TRI4TH
開催日:2021年12月5日(日) 17:15 開場 / 18:00 開演
会場:渋谷クラブクアトロ