MUSIC 2022.02.13

Talk Session:MONDO GROSSO×どんぐりず コラボ楽曲「B.S.M.F」におけるパンクな表現

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Ryu Amon, Text_Ryo Tajima[DMRT]

MONDO GROSSO(こと、大沢伸一)のニューアルバム『BIG WORLD』が2月9日にリリースされた。変幻自在のコラボレーション作と謳われている通り、錚々たる面々が参加しているわけだが、本作収録の「B.S.M.F」に、どんぐりずが参加。初のコラボを果たした。
アルバム全体のテーマは“変わってしまった世界、さらに変わっていく世界の中で、心の在処を探し続ける音楽の旅”。この作品の中で、どんぐりずは大沢伸一の音楽に対し何を考え、どう歌を表現したのか。また共作に至った経緯は何なのかについてトークセッションしてもらった。

一緒にやった方が絶対にいいと直感的に感じた

ーニューアルバム『BIG WORLD』収録の「B.S.M.F」で、どんぐりずと初コラボを果たすことになったわけですが、大沢さんは前々から、どんぐりずの存在を知っていたんですか?

大沢伸一(以下、大沢):いえ、そうではないんですよ。僕は普段、誰かのために音楽を作るというやり方はしていなくて、基本的には自分の好きな曲を作って、これに何か面白いものがハマらないかなって探しているんです。その中で、m-floの☆Takuくんとは「誰か面白い人いない?」ってやりとりを日常的にしているんですけど、彼がリストアップしてくれた候補の中に、どんぐりずが入っていたんです。どんぐりずってユニークな名前だなと気になって、サブスクでチェックしたんですけど、すごく面白い表現をしていると感じて。それで、うちのマネジメント経由でコンタクトを取ってオファーさせていただいたんです。

ーどんぐりずが表現している音楽の、どんな点が大沢さんに刺さったんですか?

大沢:とにかくやっていることが、一瞬理解できなかったんですよ。日本のHIPHOPの文脈の中にもいなそうですし、現代のU.S.HIPHOP的なトラップに影響を受けているわけでもない。ある意味、カオティックで、色んな要素が入り込んでいるようでいて、ちゃんと自分たちのテイストが感じられたところに惹かれたんです。一体、何が起きているの? って思いましたし、どんな人たちなんだろうってことが気になっちゃって、深く知る前にオファーしたんです。絶対に(どんぐりず)と一緒にやった方がいいと感じて。

ーということは、どんぐりずにとっては、突然オファーが来た、ということになりますが、どう思いましたか? MONDO GROSSOの存在は知っていましたか?

森:正直、MONDO GROSSOについては、満島ひかりさんの楽曲(「ラビリンス」)しか知らなかった状態だったんですけど、そこから調べて聴いてみたら、「めっちゃカッコいいな」って。絶対にやりたい! って思いましたね。特に「INVISIBLE MAN」(1994年発表の3rdアルバム)が超刺さって。

チョモ:オレも森と同様で、オファー時には、そこまで自発的に聴いていたわけではなかったんですけど、周りにいる年上の人たちにMONDO GROSSOのことを聞いたら、みんなが「ヤバい人だよ」って。

大沢:“ヤバい人”って、どういう意味で、だろ(笑)。

チョモ:良い意味で、だと思いますけど(笑)。でも、本当にオファーをもらったときは驚きましたね。音楽を続けていたら、こんな巡り合わせがあるものなんだなって。ちょっと感動しちゃいました。

大沢:そう言ってもらえると嬉しいですね。

ー実際の制作の流れは、どのような形で行われたんですか?

大沢:具体的な作業はリモートで進めていきました。トラックを聴いてもらった時点で、ほぼ完成していたんですよね。なので、どんぐりずならではの解釈でやってほしいという、丸投げに近い形で渡したんです。それで、自分のところに戻ってきた第一稿が、もう僕としてはOKだったので、このままでいきますってことを伝えましたね。キャッチボールはあったんですけど、彼らが自分たちのやり方で表現した風合いが良かったので、そこまで手入れなどはせずに進めた形です。

ーどんぐりずの2人は、トラックを受けてから、リリックをどう考えていったんですか?

チョモ:大沢さんからのファーストコンタクトが、曲の内容に結びついていたんですけど、最初はアンビエントパンクな感じだと説明されていたんですよね。そのメージを受けて考えていきました。具体的なリリックを考えるうえで、僕らの頭の片隅には、このコロナ禍の状況があって、それをどう表現していこうかってところで色々と考えたときに、なんだか“知ったことか”ってマインドが強くなっちゃって。

チョモ:それを気持ちよく乗せていきたいなって。アッパーな感じにしたいって2人で話したんですよ。トラックも徐々に上がっていくような流れだったので、リリックもそれに沿うような内容にしたくて。

森:そうだね。

時代に対する“怒り”をどんぐりず流儀に表現

ーそのマインドが「B.S.M.F」に反映されていると。どんぐりずの2人は、このコロナ禍に対して、どのような気持ちになっているんでしょう?

森:飽きたよな、もう完全に。みんな飽きていると思うし、オレは、何に対してかはわからないけど、めちゃくちゃ腹は立っていますね。

チョモ:そうだね。もう2年続いているわけですから、オレは変えられてしまった側の感覚があるというか。なんだか、この状況に変に慣れつつあるようなところもあって。

ーそのファーストコンタクトにおいて、アンビエントパンクである、ということを、どんぐりずに伝えたんですね。

大沢:いえ、スケッチの上ではアンビエントなパンクをやりたいと思っていたんですけど、それが徐々に変わって、だんだんスペーシーになってきたんですよね。イメージに合う映像を探していたら、もし月がミラーボールだったらって想定のジオラマティックな映像を見つけて、それを見ながら音をつけていたら、ああいう曲になっていったので、もともとのイメージとは全然違う。アンビエントパンクだったものが、トラックとしてはスペーシーファンクになっていったんです。そういう変遷について、どんぐりずに伝えたんです。その原型にあるアンビエントパンクの部分が、2人の意識にあって、リリックに反映されていったんじゃないかなと。

ーちなみに「B.S.M.F」は何の略なんですか?

森:本当のことを言うと、“Bull Shit Mother Fucker”の頭文字ですね。

大沢:曲の中でも歌ってますからね。ただ、直接的過ぎるので略してもいいのかもねと。それに「B.S.M.F」と略すことで、“Brother Sister Mother Father”とも捉えられるじゃないですか。そんな多様性も含めた意味合いがあるタイトルになったので良いのではって流れがありましたよね。

森:はい。もちろんネガティブな意味ではなくて、オープンな気持ちで考えたときに、絶対に気持ちいいだろうと思って出てきた言葉が、それだったので。アンビエントパンクって意味で考えても、これはハマりがいいんじゃないかって感じたんですよね。そんな、ちょっとしたブラックなノリを入れてもおもしろうだろうなって。

大沢:まさに、ぴったりだと思いますよ。

ーアルバム『BIG WORLD』の話になりますが、明確に“変わってしまった世界、さらに変わっていく世界の中で、心の在処を探し続ける音楽の旅”というテーマがありますよね。これについて、改めて教えていただけますか?

大沢:本当に、この2年間で世界は変わってしまって、今も日々、状況は変化していて、何が正解かもわからないし、正解自体がなくなっちゃって、探すことにすら意味がなくなっちゃった時代において、音楽にどんな意味があるの? ってことを探す作品だと考えているんです。このテーマにしっかりと沿った内容を、どんぐりずは打ち返してくれたなって感覚がありますね。

どんぐりずに2020年代型の尖り方を感じる

ーでは、この時代の中で、アーティストとして必要なのは、どんなことだと現時点で感じますか?

大沢:さっきチョモくんが言ったように、変えられてしまった部分っていうのは確かにあるわけじゃないですか。そこは、形が変わっていたとしても、どこかで取り戻していかないとダメな部分だと思うんですよ。元通りかは置いておいて。僕はそういう風に思っています。

チョモ:難しいですよね。変わったことはあるんですけど、自分のペースを失ったら負けてしまうと思うし、自分の居心地良い向き合い方が、コロナ禍とは別にあると思っているんですよね。外がダメなら内でやっていくというマインド的なことであるとか。コロナ禍を言い訳にするのも嫌なので、自分で安定を目指していかないといけないと考えています。

森:そういう意味で、オレらは最近、すごく素直に感情に向き合いながら音楽を作っているんですよね。嫌なものは嫌だ、お腹が空いたら、お腹が空いたって言えるぐらいの曲が増えてもいいんじゃないかなって。アーティストは今、素直になった方がいいと思うんですよ。オレの中で周期的なものがあって、今はそういう感じっていうか。聴いている音楽も、そういう表現のものが多いんですよね、昔のロックやパンクだとか。そのマインドでやっているから、今は素直な表現を大事にしたいんですよね。

大沢:それはすごくありますね。僕も素直に表現することに必死なんですよ。もしかしたら、年齢的にも余裕を持って、誰かをフックアップしたり、新しい才能を見出していくということをやるべきなんでしょうけど、それができる時代ではなくなってしまった感じがしていて。いつ死ぬかわからないから、自分のやりたいことをしなくては、と思いますね。

ーそこでいくと、大沢さんは、どんぐりずがいるようなユース世代のシーンなどは意識したりチェックされることはないですか?

大沢:シーンは全然知らないんですよね。もっと面白いものがあったら知りたいと思う反面、自分の音楽を作ることに必死というか。ただ、少ない知識の中でも、どんぐりずはちょっとユニークな存在なんだと思います。だって、自分たちがHIPHOPシーンの中にいるとは思っていないでしょう?

チョモ:そうですね。ラップを表現手法の1つだと考えているので。

大沢:ですよね。そこが僕は好きで。今回は☆Takuくんが教えてくれたことから始まって「B.S.M.F」が出来たわけなので、本当に面白い縁だったと思いますよ。ちなみに、どんぐりずの音楽を聴いていると、僕はイギリスからの影響を感じるんですけど、実際どうなんですか?

森:ええ、ロンドンミュージックが好きです。

大沢:やっぱり。しかも、年代関係なく色んなものを聴いていると思います。King Kruleとか好きですか?

どんぐりず:好きですね!

大沢:『4EP2』の「8 hole」を聴いたときに絶対にあるだろうなって感じたですよ。King Kruleは、表現において荒々しいことを体現しているわけではないけど、マインドは完全にパンクじゃないですか。どんぐりずには、その2020年代式の尖り方を感じるんです。2人とも、どこから音楽的な影響を受けてきたんですか?

森:最初は普通にJ-POPから入り……。

チョモ:ハードコアを聴いてHIPHOPに辿り着き、今は何でも聴く感じです。バンドで活動していた時期もあったんですよ。

森:ロンドンの音楽にがっつりのめり込んだのは3年前ぐらいですね。マッシヴ(マッシヴ・アタック)とか、年代問わず聴いていて。

大沢:この間、ビースティ・ボーイズのドキュメントを観て、なんか似たような匂いがあるなって思ったんですよね。それこそ今のHIPHOPの作り方とは異なる、もっとフィジカルなところから出てきたんだなって気がしました。

どんぐりず:ありがとうございます!

ー今回、こうして「B.S.M.F」が完成したわけですが、MVも予定しているそうですね?

大沢:そうなんです。MVを一緒に作ろうって話はどんぐりずとも前々から話をしていて。ちょうど、そのイメージを具現化してくれるであろうアーティストと縁があって、何か面白いものを作ろうと言うミーティングを、これからします。映像の方も楽しみにしていてほしいですね。

INFORMATION

MONDO GROSSO 『BIG WORLD』-「B.S.M.F」

MONDO GROSSO
https://www.shinichi-osawa.com/
https://www.instagram.com/shinichiosawa/

どんぐりず
https://dongurizu.com/
https://www.instagram.com/dongurizu/

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