ファッションデザイナー、クリエイターとしての活躍も目覚ましいMÖSHIだが、音楽活動の方もいよいよ活性化してきている。1月12日にリリースされた5thデジタルシングル「Connected feat. ASOBOiSM」には、タイトルにある通り、ASOBOiSMがフィーチャリングで参加。爽快なビートに身体を揺り動かされる1曲なのだが、そのリリックは、どこか一抹の寂しさを感じさせる。コロナ禍によって変えられてしまったコミュニケーションの形について、恋愛を例えに挙げながら表現した本楽曲について、どんな世界観をどう描いたのかについて聞く。
現代のコミュニケーションに対する疑問を描く曲
ーMÖSHIさんとASOBOiSMさんは、もともと交流があって、今回のフィーチャリングに至ったんですか?
MÖSHI: いや、そういうわけではないです。とある年末イベントでご一緒したときに、ライブを観てカッコいいなと思って。もちろんASOBOiSMさんのことは、以前から知っていたんですけど、やっぱり現場での姿は全然違っていたんですよね。だから、初めてお話させていただいたのは制作でお会いしたときだったんですよ。
ASOBOiSM: そうでしたね! 私もイベントとかでMÖSHIさんのお名前を聞いていたので、どういう方なんだろう? って。最初はそんな感じでしたね。会う前の印象は、洋服もデザインされているし、すごく尖った人柄で、ザ・個性! っていう感じのイメージだったんですよ(笑)。実際にお話させていただいたら、すごく優しくて爽やかな方で。
MÖSHI: 僕も、最初にASOBOiSMさんをイベントで観たときは、ちょっと近寄りがたいなって(笑)。MVも、どれもすごくイケているし、ビジュアルが攻撃的な印象があったので。
ASOBOiSM: 私も、音源やMVだけだと、尖っていて気が強そうだって思われることがあるんで、会ったときは同じようなものを感じましたね。
MÖSHI: そうですよね。
ーある意味、似たもの同士でもあったのかもしれませんね。MÖSHIさんがASOBOiSMをフィーチャリングしたのは、どういう理由があったんですか?
MÖSHI: ASOBOiSMさんの音楽をたくさん聴いていて、どんなトラックでも乗りこなしているし、ラップのスタイルがすごいと思っていたんでね。僕は「UCHOTEN」って曲がすごく好きなんですけど、キレのいいラップが心地いいんですよね。かと思えば、「Whateva♡」では、綺麗なメロディを歌い上げていて。もともとシンガーソングライターだからだと思うんですけど、表現の幅がすごく広いと感じたんです。すごくポップにみんなが共感できるリリックに仕上げているところを、ラッパーとしてすごく尊敬しています。そこで、「Connected」においても、みんなが共感するようなリリックを書いてくれるんじゃないかなと思って、オファーさせてもらったんです。曲が持つ世界観も合っているんじゃないかと感じたんですよね。
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ー「Connected」の世界観を説明するとしたら、どういうことになりますか?
MÖSHI: オンラインとオフラインを行き来するようなフューチャリスティックなビジュアルを頭に描いていたんです。みんなそうだと思うんですけど、コロナ禍を機にコミュニケーションの取り方が随分変わってしまったじゃないですか。リアルでは会えないけれど、便利なデバイスがあるから、いつでもどこでも繋がれる。だけど、それって本当に繋がっていると言えるのかな? って。そこへの確証はないし、どう考えればいいんだろう、という思いを楽曲に込めていて、ASOBOiSMさんにも、そういうことを最初に説明させてもらったんです。
ASOBOiSM: 最初の打ち合わせってZoomでしたよね。もう、その時点でリアルに繋がってるのかわからないっていう、曲のテーマとまったく同じ状況の始まりで(笑)。
MÖSHI: 確かに! ミーティング自体が(笑)。
ASOBOiSM: 当初は全部オンライン上でのやりとりって感じだったので、ようやくMÖSHIさんにお会いできたのがレコーディングだったんです。この時代ならではっていうか、この2年半の間に、本当に色々と変わっちゃったじゃないですか。だから、それを体現する曲になったらいいなとも思ったし、今はアーティストの視点から言っても、お客さんとリアルに繋がってる感覚があんまりないんですよね。何人の人が観ました、聴きましたっていうのはオンライン上の数字で見られるけど、実際にどういう人が聴いてくれているのかもわからない時代だし、そんなヤキモキした気持ちを、私たちだけでなく、みんなが持っていると思うので、すごく共感しやすいテーマだと思ったんですよ。
MÖSHI: リリックの流れとしては、恋愛の形っぽくなってるんですけど、ASOBOiSMさんが仰っているように、もっと広く捉えてもいいなとは感じていて。それこそアーティストがファンと繋がってるかどうかわからないということであったり、恋人だけではなく、色んな状況に当てはまるテーマだと思うんですよね。聴く人によって捉え方が変わるだろうし、それがいいんじゃないかと思いましたね。
人の共感を呼ぶASOBOiSMのリリック
ーコロナ禍以降、コミュニケーションの形やライフスタイルが変わることで自分の中に変化はありましたか?
ASOBOiSM: 以前は銀行で働いていて、普通に通勤していたんですけど、コロナ禍以降は在宅勤務できるところを探して在宅になったら、家に閉じこもる生活スタイルになって。友達と会う機会も本当になくなったので、生きていけはするんでしょうけど、何かが足りないという感じですよね。ライブやレコーディングが終わっても打ち上げがない、それも楽しみのひとつだったのになぁって(笑)。やっぱり、そういうことが悲しいし、自分も内気になった感じがします。2年ちょっとで性格も少し変わった気がしますね。
MÖSHI: 僕はもともと家で生活して、作業もするタイプなので、パンデミックになっても生活自体はあまり変わらなかったんですよね。これはこれで良いかなって思ってたんですけど、最近は、できるだけ友達のイベントなどにも行くようにしているんです。というのも、ASOBOiSMさんと「Connected」を制作したことがキッカケになったんですけど、ASOBOiSMさんのリリックにすごく共感したからなんですよ。
ーどのパートのことですか?
MÖSHI: 『Lips 買っても減ってかないし』という部分があって、この前ラジオに出たとき、女性のMCさんがすごく共感するって仰っていたんですよね。これもASOBOiSMさんが外に出て仕事をしていたからこそ感じたことだろうし、実際に体験しているからこそ、出てくる言葉があるんだと思ったんですよ。僕は、NYやロンドンに行っていたので、最初のうちは、そのことを書いていたんですけど、日本に戻って閉じこもっていたら、言いたいことがなくなってきちゃって。そのときに、ASOBOiSMさんのリリックを思い出して、外に出て人と少しだけでも話そうって考えるようになったんです。自分にとっては、今こそ日常の経験が必要だと思うし、人と直接会える環境がほしいと考えるようになったんです。最初の頃は、全然こんなことは考えなかったんですけど。
ー音楽としてアウトプットするために経験というインプットが必要だと。
MÖSHI: そう、それに全然気づかなかったんですよね。NY、ロンドンでけっこう楽しくやっていたし、普通ではできない経験を積んでいたから。意外とこのままずっと書けるのかなって思ってたら、やっぱり何もないと言いたいことがなくなってくるわけなので、最近はインプットのためにも、みんなともっと会えたらいいなと思うんです。早く自由にどこにでも行けるようになったらいいんですけど。
ASOBOiSM: めっちゃわかる、その書けなくなるっていう感覚。私はこれまでに転職も何度かしているんですけど、次の仕事が始まるまでの期間、何ヶ月か音楽に専念してやろうと思っていても、結局1曲ぐらいしか書けてないみたいな(笑)。そういうことがけっこうあって、やっぱり感情を動かしていかないと書けないんだなってすごい思いましたね。
ー「Connected」のリリックは、どう制作していったんですか?
MÖSHI: まず、僕が書いて、自分のやりたいことやリリックの内容を伝えたうえで、あとはASOBOiSMさんのパートは丸投げしたような感じですね。絶対に良いものが返ってくるだろうという確信があったので自由にやっていただきました。
ASOBOiSM: MÖSHIさんが曲に抱いているテーマや歌詞を見たうえで、自分の中の切り口みたいなところを、わりと探しながら書いたかなと思っていて。あと、恋愛がテーマの1つとしてあったので、オンラインデート的なイメージをリリックに持たせました。実際にしたことないですけど(笑)。『オンラインで とかもういいや』といった表現は、今の時代に則した言葉として入れたいと思って進めていきましたね。さっきの『Lips 買っても減ってかないし』は実体験じゃないんですけど、今ならそうなるなって。
MÖSHI: それはもう、僕には書けないことだし、共感を生む切り口を自分の中から見つけられるのってすごいと思うんですよ。
ASOBOiSM: 嬉しいです。今は特に文面でのやりとりがすごく多くなって、会社でもそうなんですけど、句読点だけじゃ終われないみたいな。ビックリマークとか絵文字とかわざわざつけなきゃいけないみたいなのをすごく感じて、そういうオンラインの気疲れみたいなのもすごいあったりしていて。このテーマで書きたいことがたくさんあったので楽しく書けました。
現代日本のシーンやムードを意識したトラック
ーではトラックについて。UKガラージや2ステップ的なアプローチを感じますが、そこは意識されたんですか?
MÖSHI: そうですね。ただ、リアルタイムで体験したわけではないので、僕としては今聴いて新鮮な要素として、そこからインスパイアを受けているんですよ。例えば、ジョルジャ・スミスの「On My Mind」だとか。2017年の曲ですけど、あの頃から少しずつ2ステップを使ったラップやR&Bが出てきて、そのアプローチが好きだったんです。最近、日本でも増えつつありますけど、まだまだそこまで多くないし、もっと盛り上がるはずなのに、意外と少ないなと感じていて、日本のシーンにアプローチするタイミングとしても良いんじゃないかと個人的に思ったんですよね。
ーそういったシーンに求められるものを追究したうえで制作できるというのは、すごいと思います。音楽だけではなくファッションにも言えることかもしれませんが、MÖSHIさんは表現するうえで、どんな思考を持っているんですか?
MÖSHI: 自分の表現したいことやコンセプトと、時代の流れを二軸で考えていて、どっちも意識しながら作品制作をするようにしていますね。やりたいことだけをやるってだけでもダメですし、求められるものと自分のコンセプトが重なるところは常に意識しながらやっていますね。特にファッションは、自分がどれだけ作りたいと思っているものであっても、時代の大きな流れと合ってないと、そもそも誰も着ないわけじゃないですか。音楽もそうなんじゃないかなって考えでやっていますね。
ASOBOiSM: それができるって本当にすごいですよ。やっぱりファッションのシーンにも、しっかりとアンテナを張っていないとできないことだし。MÖSHIさんって吸収力が半端じゃないと思うんですよね。私、全然吸収ができてないタイプなのでーティストとして尊敬します。今回の『Connected』にしてもそう。私の表現の幅を広げてくれたと思っていますし、MÖSHIさんが書いてくれたテーマがあったからこそ、改めて考えるきっかけをもらえて、リリックとして書くことができたと思います。本当にありがたいですよ。あと、MÖSHIさんの言葉って優しいんですよ。全部本当に肯定してくれる(笑)。そういう姿勢とかも含めて素敵な人だなと思いました。見習いたいなって。
MÖSHI: いやいや、リリックは100%、ASOBOiSMさんから出たものだし、自分だけでは表現できなかった「Connected」の世界観は描けなかったと思うんですよ。ASOBOiSMさんが参加してくれたお陰で曲自体がグッとリアルになったというか。本当に感謝しています。
ASOBOiSM: いい人だな~! 本当に(笑)!
一同: 笑。
ー最後に。インフォメーションがあったらお願いします。
MÖSHI: 4月22日にイベントを行う予定です。場所は恵比寿のリキッドルーム2階にあるKATAとTime Out Cafe&Dinerなんですけど、ファッションに関する展示をKATAで、Time Out Cafe&Dinerの方でライブをやりたいと思っていますね。そこでASOBOiSMさんにも来ていただいて『Connected』をやりたいと考えています。自分の活動をトータルで伝えられる場所になればと考えていて、今は企画詳細を考えている段階ですね。
ASOBOiSM: 私の方は3月19日に5周年を記念して表参道WALL&WALLで初ワンマンライブ『ASOBOiSLAND』を予定しています。ずっと叶えたいと思っていたので、是非、現場でリアルなコミュニケーションができれば!