Interview:MIZ
2nd Album『Sundance Ranch』

Text_Hiroaki Nagahata Photography_renzo masuda

Interview:MIZ
2nd Album『Sundance Ranch』

Text_Hiroaki Nagahata Photography_renzo masuda

以下にお届けするのは、新作『Sundance Ranch』リリースを祝して行われたMIZの生配信インタビューの模様である。最初の質問から自分がぶっちゃけている通り、このインタビューの目的は、「音楽の意味合いを本人たちから引き出すこと」ではない。それは、MIZというプロジェクトにおいて、音楽の政治性やポジショニングを明確にすることが楽曲を楽しむ上でプラスになるとは思えないからだ(2人も所属するMONO NO AWAREの場合であれば話は別かもしれないが)。

あるいは、King of Convenienceという存在自体がMIZにとって重要な起点であることはオーディエンスの間でよく知られた話だが、それにしたってあくまでモチーフの一つにすぎず、少なくとも全体を説明するコンセプトではないはずだ。だって、これもインタビューの中でチラリと触れられていることだが、サウンドから喚起される景色があまりに違いすぎる。

生配信インタビューの最後、ある視聴者の方から「MIZの一番の魅力とは?」と訊かれて、自分がしばらく答えに詰まるシーンがあった。うんうん唸ってから、結局は「ユーモアです」という、どうにも見当外れなことを言ってしまったことは今でも後悔している。ユーモア? 何を言ってんだ。

MIZの音楽にある圧倒的な独立性に対して、いまだに最適な言葉を見つけられずにいる。

聞き手:長畑宏明(編集者)

L→R
玉置 周啓、加藤 成順

ー前提の話で申し訳ないんですが、ミュージシャンへのインタビューで自分が何を引き出すべきかわからなくなる時があって(笑)。MIZの二人は、どういうインタビューで手応えを感じますか?

加藤 シンプルに、その人の視点で感想を伝えてくれるだけで嬉しいです。「ああ、こういう考え方があるんだ」って。もちろん自分の意図はあるけれど、その人が音楽を通して見た景色を知るのが面白いので。

ーそういう意味では、インタビュアーの方が多く喋っているインタビューでも良いかもしれませんね。周啓はどう?

玉置 基本は一緒です。作品を勝手に解説しているくらいのほうが楽しめることもあって。そもそも、ミュージシャンは考えを言葉で説明できるくらいなら音楽を作っていないんじゃないかなと。だから、自分がインタビューで話していることがほとんどウソになっちゃう瞬間もある(笑)。本人としては誠実に話しているつもりでも、結果的に脚色しちゃうというか。

ーなるほど、なるほど。例えば、今作に関してはマスダレンゾさんが撮っているドキュメンタリー映像が作品の魅力を雄弁に語っているなと思ったので、まずはそれを観てほしいですね。

加藤 うん、ぜひぜひ。

ーで、そのドキュメンタリーにもある通り、本作は北海道にあるジョージ・マーティンが監修した芸森スタジオで録音されています。このスタジオを選んだきっかけは?

玉置 エンジニアの奥田泰次さんからオススメされました。芸森スタジオは日本で一番大きいエコールームを備えているので、そこを使うのはどうかと。25メートルのプールを縦におこしたくらいの大きさで……いや、それよりは小さいか。とにかく、天井が高くて、プールで演奏しているような感覚なんです。

加藤 たぶんドキュメンタリー映像にも映っているんじゃないかな。

ーそれは、サウンドに膨らみを持たせたいと思っていたから?

加藤 そうです。コロナ禍のせいで前作の時みたいに海外へ行けなかったのもあって、どうせ日本で録るなら楽曲の空気感を広げていきたかった。それに、前作ではベトナムの環境音を多く取り入れていたので、それとはアプローチを変えるという意味合いもありました。周啓も、今回は最初から「リバーブをかけたい」って話してたもんね。

玉置 うん。前作でもそれは考えていたんですが、制作環境的にナチュラルな音が最適だったので、今回は改めてウェットな音が作りたかった。

ー前作は本当にオーガニックな音だったし、それはベトナムという土地性によって自然と決定されたことだった。一方で今作では、MIZを結成した当初に自分たちが考えていた理想像をやった、ということ?

玉置 うん、一度踏みたいなと思っていたステップをきちんと実践できたなって。そこではじめて納得できる部分も大きかったし。

ー前作はベトナム、今作は北海道でレコーディングされていますが、そもそも「旅」はMIZにとって重要なモチーフなんですか?

玉置 (MIZの音楽的なロールモデルになっている)King of Convenience(以下KOC)って、「一度は行ってみたいな」っていう素敵な場所でしか録音していないんですよ。それに自分だって音楽のみにおける価値を突き詰める原理主義者じゃなくて、いま持っている技術や環境はすべて使いたい人だから、旅に出るのもその中の一つなんですよね。今回は特に、「部屋に閉じこもって繊細な曲を作る」というアプローチではないのかな〜と。

ードキュメンタリー(Part.2の『録音』)の中でも「いつの間にかできているんじゃないか」という発言があったし。

玉置 いや、それは曲を作るのがつらすぎて、適当なことを言っていただけです(笑)。

ーそっか(笑)。「クロスワード」のコーラスも最初は「終わんないよ」という言葉をあてていたしね。

玉置 そうそう、そのまま曲名になりそうなくらい切羽詰まっていたから。

加藤 でも、旅行感覚で自然にやるのは大事だった。「楽しげなムードで録る」のがMIZにはフィットしているから。

ードキュメンタリーを観るかぎり、旅のあいだ成順がとにかく楽しそうなのが印象的でした。周啓はテントのくだり(ドキュメンタリーPart.3の『危機』)なんか本当に嫌がっていたけれど。

玉置 僕は(テント内が暗くて寒かったのが)本っっっ当に嫌だったんですよ(笑)。成順はそういう環境でも楽しそうにする才能があるから。

加藤 たしかに、どこでも楽しめるマインドはあるかもしれないね。

ー今回、最初から曲を全部揃えて旅に出たわけではない?

玉置 そうです。3曲は完成している、4〜5曲はギターだけでメロも歌もついていない、他は手付かず、という状態でした。ただ、もう絶対したくないですよ、あんな思いは。自分のこと天才だと思い込んでいたけれど、そう簡単な話じゃなかった(笑)

ー今作の作曲クレジットの大半が「MIZ」になっていますが、2人で作るというのは具体的にどういうアプローチだったんですか?

加藤 どちらかがメロディやバッキングを考えたら、それに対して相手がリードギターを考える、みたいな感じです。

玉置 成順がバッキングのつもりで送ってきたギターに、自分がさらにバッキングを重ねたこともあって、ハプニングをそのまま生かしたところもありました。

ーということは、2人の役割分担もケース・バイ・ケースだったと。今更ですが、ここで本作に対する僕の感想を伝えてもいいですか?(笑)

玉置 どうぞどうぞ。

ーまず、ものすごく聴きやすい。自分は衣替えをしながら本作をリピートしていたんですが、あっという間に5〜6周しちゃって。ただその聴きやすさが本作の一番の特徴でもなくて、聴き込んでいくうちに気づいたのが、基本は爽やかで穏やかなんだけど、知らぬ間に暗い森にひきづり込まれるような魔力が潜んでいること。そこは前作とぜんぜん違う印象だったんですよね。BGM的にすごく機能するんだけど、「うん?」って感じる瞬間がいくつか訪れるというか。

玉置 それを聞いて、理由はよくわからないんですけど、鋭いなって……というのも、自分も前作と比べて「暗く」なったなとは思っていて。歌詞が長くなったからかな?

加藤 リバーブもけっこう湿っぽいものだから、サウンド的にもね。

ー前回は音のフォーマットとしても超シンプルだったんですが、今回はアコギの上でいろんなアプローチがあって、それが一筋縄ではいかないムードを醸し出している。先行シングルの「芝生」とかはまさにそうで、正直「ファーストシングルがこれなんだ!」という驚きもあった。自分にはどこかラップみたいに聴こえたかな。

玉置 ああ、そうか。くぐもった声ですし……でも実はこれ、自分の中で分かりやすくKOCの物真似をしたつもりの曲なんです(笑)。アコギサウンドの上で日本語の響きが立ちすぎると、一聴して「ダサいな」という瞬間がきちゃうから、フロウでそこから逃れようとしました。

ー歌詞にもきちんと「意味」と「構成」がある。前作はシンプルな描写に終始している印象が強かったんですが、MIZでこれをやったのにはどういう意図が?

玉置 ここもKOCを参考にしたところで、彼らの曲ってサウンドに反して歌詞が重いんですよ。「本当の友達というのを勘違いしていないか?」とか。だからMIZでも、意味があって、長くて、論理立っている歌詞を作ってみたかった。

ー「クロスワード」は周啓の人生観が刻まれている感じがしたけれど、これもサウンドと歌詞の対比という点ではKOCを彷彿とさせるんじゃないですか?

玉置 それ、一番言われたかったやつ(笑)。歌詞の話以外にも、KOCはアコギを使っているのに、ジャンルがいわゆる「フォーク」じゃないのがよかった。ガットギターでリズムを刻んでいる印象があって、僕にはダンスミュージックに聴こえたから。そこに一番刺激を受けました。あと、景色がみえたっていうか。自分の中では他にレディオヘッドとアークティック・モンキーズを別格な存在として置いていて、彼らの曲を聴いていても情景が浮かんでくるんです。そこでさらに、「そのイメージが歌詞と合っているのかな」って気になってくるんですよ。カッコいいだけのサウンドだったら歌詞は気にならないじゃないですか。リスナーに歌詞を調べさせてしまう曲ってすごいなって。

ーそれはすごくよくわかるな……成順はKOCからはどういう影響を受けた?

加藤 開放弦の絡みがめちゃくちゃ良くて、さらにエレキと違ってアコギだと倍音みたいな別な響きが聴こえてくるところかな。自分は主にサウンドの面ですね。

ー成順が作曲した「Where did you go?」は、まさにいま話してくれたことが感じられますよね。スーッと流れていくような一曲で。

玉置 超わかります、それ。この曲には成順の天性を感じる。(アルバムでは加藤よりも多くを作詞している)僕よりむしろミュージシャン然としているというか。

ーなんとなく楽曲作りが言語野を通っていない感じがする?

玉置 そうそう、まさに。成順の場合はギターが一番の翻訳機になっている。どのタイミングか忘れたけれど、今回のレコーディングでそれを強く感じました。

加藤 自分の場合はいつも考えるよりも先に(音を)出しているんですが、それがよりナチュラルにできるのがエレキよりもアコギで。「Where did you go?」は最初に鼻歌でベース音を思いついて、そのまま構成と「森の奥の方」っていう歌詞までスルッと完成したから、曲には特に意味合いを持たせていないんです。

ー「あなたはどこにいたの?」と語りかけて終わるという、アルバムの導入としてもすごく良いよね。さて、今回はいくつかの曲でドラマーの石若駿さんが参加しています。石若さんとMIZが一緒に出演していたライブ(「Visca!! IKEBUKURO KAKULULU 7.5th Anniversary Live」)を観た時に、やっぱり石若さんの個性って際立つなと思ったんですが、本作では見事に溶け合っていて、正直アルバム一周目は気づかなかったくらい。

玉置 それ、本人が聞いたら落ち込むかもなあ(笑)。実は、僕らが北海道で録った音源に後からドラムをあててくれたんですよ。ギターの音を聴きつつ、「あ、いま走った!」とかそういうのを感じながら、複雑かつ歪なリズムキープをこなしてくれて。スタッフたちも「ほんとやばいね、石若〜」って絶賛だったんですが、そういう環境だったら、むしろ彼の方から「どういう雰囲気でやればいい?」って訊いてくれたりして。

ーちなみに、それにはどうやって答えたんですか?

玉置 彼に「身振り手振りで構成を教えてくれ」と言われたので、一緒にスタジオに入ったんですけど、自分がすぐにふざけちゃって(笑)。

ーなんで!(笑)。

玉置 そしたら「出ていってくれ」って(笑)。そこからは黙々と一人でレコーディングしてくれました。

加藤 一緒にライブをやらせてもらった時も感じたんですが、彼ってわかりやすい「ビート」を叩かず「間」を挟んでいくんですよね。もちろん、結果的にはそれがビートになっていくんですけど。

玉置 逆にマシンっぽいことをやると、僕らのギターに合わなくなっていく。

ーマーティ・ホロベックのベースも含めて、演奏をバンド編成にすることで最初に打ち立てたMIZの形式が崩れる危険性もあるわけじゃない?

玉置 それは奥田さんに指摘されていたポイントでもあって。

加藤 それ、めちゃくちゃトラウマになっていた(笑)。やっぱり、それまでミニマルな形態でやっていた人がバンド編成になると、音の余白が埋まって演出じみてしまうリスクもあるから。ただ、別に気をつけていたといっても……

玉置 そう、気をつけていたのは石若くんとマーティだからね(笑)。「最終的に採用するかどうかは確約できないんだけど」という条件でも二人が快く引き受けてくれて。僕らのラフな質感に対して、どのテンションでいけばムードを崩さないかという勘も含めて、やっぱり彼らのスキルによるところが大きかったです。

ーでは、シンプルさを損なわないまま、構成がある歌詞とリバーブサウンドを取り入れたことによって、全体的に豊潤さがグッと増したセカンドということで。いや〜、音楽的な魅力は間違いなく進化していますよね。

玉置 そういえば、タイトルの意味とかは訊かないの?

ーそこはいいかな。

玉置 訊けよ!(笑)

※タイトルの由来はドキュメンタリーのPart.4『帰還』にて!

INFORMATION

MIZ 『Sundance Ranch』

発売:2022年3月9日(水)
品番:PECF-3267
定価:¥3,080
形態:CD
収録曲:
01. Where did you go?
02. ようらん
03. クロスワード
04. かんかん照りの夏に
05. ジョーク
06. ようこそはるばる
07. 芝生
08. ティータイム
09. キャンパーを飛ばして
10. Midnight in echo room

https://ssm.lnk.to/sr_miz

Road to Sundance Ranch上映会&トーク

2022年3月24日(木)東京・ユーロライブ
OPEN 18:30 / START 19:00  
全自由 前売¥1,800
トーク:MIZ、マスダレンゾ
チケットぴあ(P:212-862)
チケット発売中

Sundance Ranch Oneman Live

2022年4月3日(日)東京・北とぴあ ドームホール
OPEN 18:15 / START 18:45  
全自由 前売り:¥3,800
チケットぴあ(P:212-862)
チケット発売中

2022年4月22日 (金) 大阪・阿波座 martha
OPEN 18:00 / START 18:15
全自由 前売り:¥3,800
※2022/03/12 (Sat) 10:00~チケット発売開始
チケットぴあ(P:213-920)

「ようらん」MUSIC VIDEO
https://youtu.be/mJ5XrhpGeeU


POPULAR