MUSIC 2022.07.15

Interview:藤本夏樹
日常から生まれた心地よい音楽

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photography_Domu、Text & Edit_Mizuki Kanno

藤本夏樹としての新作EP『pure?』がリリースされた。浮遊感のあるドリーミーなサウンドが、優しく夢の中へと誘う子守唄のような作品だ。恐らく、多くのリスナーは彼のもうひとつのソロプロジェクトであるJohn Natsukiとの明白な表現の差に、驚いたことだろう。彼の言葉を借りるなら、「“John Natsuki”はカオスな側面の表現で、“藤本夏樹”はもっと自然体に近い表現」とのこと。Tempalayのドラマーとして、ひとりの表現者として、さまざまな表情を持つ彼は今、等身大の藤本夏樹から生まれた音楽と向き合っていた。

「John Natsukiという存在が
尖ったものであり続けるために」

ー改めて、John Natsukiと藤本夏樹の表現の違いを教えてください。

「John Natsukiは自分の中にあるカオスな部分を表現する場として活動を始めました。学生時代の頃に抱いていた鬱屈した感情を乗せるのに相応しいサウンドと、自分の好きな音を求めた結果、John Natsukiの音楽性に行きつき、2020年3月に1st アルバム『脱皮』をリリースしました。ここから本格的にソロの活動を広げていく予定でしたが、すぐにコロナの影響で、それどころではなくなってしまって。世の中が復活しはじめた頃には、John Natsukiとしての音楽が、今の気分ではない自分がいたんです。もっと、日常の中で湧き出てきたような音楽が自然に吐き出せる場所が欲しいなと思うようになり、John Natsukiという存在が尖ったものであり続けるためにも、別名義でやっていくことにしました」

ー等身大の藤本さんが、藤本夏樹としての音楽を生み出しているんですね。John Natsukiとしての一面もご自身の中に今もありますか?

「そもそも、自分の中にはいくつかの側面があって、その場の空気に合わせて、演じ分けている自覚がありました。悪く言うと、影響されやすいってことだと思うんですけど、誰しもが持っている部分だと思うんです。それと同じように、好きな音楽の幅も広いので、自分の中にあるいろんなソースを音楽に昇華したいと思ったときに、ひとつのプロジェクトにまとめるのは難しいし、ある程度の線引きがないと、自分自身もごちゃごちゃになりそうで。今の自分にとって、John Natsukiと藤本夏樹のふたつの場所がちょうどいいんですよね。John Natsukiをやりたい気持ちもあるけど、その前に一度、藤本夏樹としての作品をリリースしておきたいなと。今は、そのふたつの比率が自分の中で変わったんだと思います」

ーTempalayのドラマーとして知られている一方で、ソロ活動ではシンセサイザー奏者や、ボーカリストとしての一面もお持ちだと思います。藤本さんの音楽的なバックグラウンドを教えてください。

「母がピアノの先生だった影響で、僕自身も3歳からピアノを始めて、8歳の頃には作曲もはじめました。その頃は、コンクールにも出たりしていて。中学でテニスをはじめて、一度は音楽と離れたんですけど、友人から勧められたX JAPANに衝撃を受けて、音楽の道に戻りました。「お前はピアノが弾けるから、ドラムやったらYOSHIKIじゃん」って(笑)。それでドラムを始めたのが中3の頃です。でも、自分がボーカルをやることになるとは(笑)。自分が作った曲を誰に歌ってもらえばいいかわからず、じゃあ、自分で歌うしかないなってところから始めました。そもそも自分の好きなボーカリストは別に歌がうまいタイプではなく、歌なのか、語りなのかが曖昧な感じの音楽が好きだったので、上手さだけに囚われる必要はないなと。なので、John Natsukiのクレジットは、実はVocalではなく、Voiceにしています。“歌”というより、“声”を入れているイメージでやっていました」

ーソロとしても活動していく計画は、いつ頃からあったんですか?

「もう、ずっとですね。元を辿れば、ピアノで作曲していた小学生の頃からある感情だと思います。Tempalayでも作曲することを考えましたが、自分で作った曲を歌いたいっていうボーカルの気持ちもありますしね。自分のパソコンの中だけにある作品って感じで、最初はインストから少しずつ作りはじめて、そろそろ発表しないとと思ったのが3〜4年前。「なんで、オレが歌ってるんだよって」最初は思いましたが、それも自意識でしかないですし。正直、誰もそんなの気にしてないですからね。自分の記録だと思って作っています」

「普段の自分以上のものを出さないっていうのがテーマ」

ー実際に、藤本夏樹としての作品が生まれたのはいつ頃だったんですか?

「最初にできたのが「おっこちてく」で、2021年5月でした。自分の中では、まだJohn Natsukiっぽさが残る曲ですね。「tamago」や「月面うさぎ」ができたときに、これはJohn Natsukiとは別のものだと確信しました。『pure?』は、大体2021年5月〜9月の間に作っています」

ー「月面うさぎ」ではご家族の声も入っていて、“藤本夏樹”としての表現ならではだなと思いました。すごく優しい気持ちになれる曲ですよね。

「家族の声は遊び心で入れました。子供が歌えたらなと思ったんですけど、まだ早いので、サンプリングしてメロディに。家族にはデモの段階から聴いてもらったりしています。今の自分の生活は朝起きて、子供を保育園に送って、作業場で夕方5時くらいまで仕事をして、今度はお迎えに行って、ゆっくりして寝る、みたいな。『脱皮』を制作しているときは、まだ0歳だったので、正直、子供からそこまで影響を受けることはなかったんです。いまはもう3歳になるので、生活の中心が子供との時間になりましたし、影響は大きいですね」

ー藤本さんの今の生活の中から生まれた等身大の音楽が、藤本夏樹としての作品の色なんですね。

「そうですね。なので、今作では挑戦しないということに、挑戦しています(笑)。今までは誰も聴いたことのない、とにかくすごい音楽を作りたいみたいなのが強くあって、だから歌い方もできるだけアクが強くて、聴き流せない感じの歌い方、印象に残ることを意識していました。今回はそれを一切排除して、生まれてきたままのもので勝負するくらい自然なものを作ることにこだわりました。鍵盤を触っていて出てきた音が普通のコード進行だったとしても、気持ちいいなって思えたらこれでいいやって。その音を生かすために、できるだけ音数は少なくしようとか。とりあえず削る努力ですね。どの曲も最初はもう少し音が多かったんですが、どんどん削って。でも、今聴くと、これでもちょっと多いなって思うくらい。もはやビートとかなくてもいいかもって(笑)。それくらいの領域に達しました。とにかく、普段の自分以上のものを出さないっていうのがテーマだったので。周りには、すごいミュージシャンがいっぱいいるので、サポートを彼らにお願いしたら、もっとクオリティの高い音楽が作れると思いますが、そこを求めるんじゃなくて、等身大であることを大切にしたくて。自分を誇張しない音楽。記録としてこれくらいに留めておきたいなという気持ちでした」

ー歌詞もすごくシンプルだからこそ、聴く人それぞれの捉え方で楽しめますよね。

「歌詞が強すぎると、メロディが入ってこないし、その逆もしかり。両方をひとつのサウンドとして平等に聴いて欲しいと思ったので、メッセージ性みたいなことはあえて排除しています」

ー別名義の音楽として活動する方が、自然である理由がよくわかりました!

「納得してもらえてよかったです。『pure?』をリリースしたのに、分ける必要なかったねって言われるのが嫌だったので(笑)。でも、どっちも自分の中で生きているものなので、ああいう音楽は今も聴いてるし、すごい熱量のカオスな音が出てきたら、John Natsukiとしてまたリリースしたいなって意欲も生まれています」

ーまだまだ、新しいプロジェクトが生まれそうですね。

「そうですね、藤本夏樹でインストを出してもいいし、新たにバンドを組んでも良さそうだし、10年後とかに娘とユニットを組んで、一緒に音楽したりも楽しそうですし。やってみたいことはたくさんあるけど、どれも中途半端になるのは嫌なので、ほんとはこのくらいで納めたいところでもあります(笑)。でも自分の場合、“遊び”が音楽の原点なので、どんどん膨らんでいくんだと思います。1番熱中できた遊びが音楽で、それが趣味であり、仕事でもある。楽しいが繋がっていった形だと思っています」

INFORMATION

『pure?』ー藤本夏樹

DIGITAL EP
2022.07.01 release
01. 月面うさぎ 
02. おっこちてく
03. リュウグウノツカイ
04. たおすぞかいじゅう
05. tamago

https://natsukifujimoto.lnk.to/MoonRabbit

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