MUSIC 2022.07.07

Interview: 我儘ラキアの新作『ONYX』は挑戦的で実験的な魔除けの石

Photography_Ryo Kuzuma, Text&Edit_Ryo Tajima(DMRT)
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

躍進を続ける次世代ハイブリッドアイドル、我儘ラキア。アイドルらしからぬラウドなバンドサウンズをバックに、心踊るラップと耳に残るメロディが特徴的な楽曲が、ロック好きからHIPHOPファンまで、多くの音楽好きを魅了してきた。
ツアーを経るごとに着実に活動キャパを広げてきた我儘ラキアが1年ぶりの新作『ONYX』を発表したわけだが、ここに収録されている5曲は、これまでより、格段にスケールアップした楽曲群となっている。多忙な中で、自らを追い込むようにストイックな制作活動の結露として完成した本作、「これまでにないことにチャレンジした」という作品に込められた意思を聞く。

自分たちらしさを表現した「GR4VITY G4ME」

ーEP『ONYX』がリリースされましたが、星熊さん自身が作曲を手掛けられた先行配信曲「GR4VITY G4ME」も話題でしたね。まずは、本楽曲の話から教えてください。

星熊南巫(以下、星熊):「GR4VITY G4ME」は『ONYX』収録曲の中では終盤に出来た曲なんですよ。私が作曲に携わった曲ですね。

ーここ数年、プロデューサーを入れて制作をしていたと思うんですが、「GR4VITY G4ME」で、再び自身で作曲しようとなったのは、どういう経緯があったんですか?

星熊:3年ほど前にレーベルと契約して以降、音楽制作に関する知識や技術を吸収していきたかったのでプロデューサーに参加してもらっていたんです。そうやって活動しながら、私たちも色々と勉強してきたので、その結果として表現できる曲を今回のEPに入れたいと思ったんです。もともと自分たちで音楽を作っていたし、今の自分たちはこうなんだって曲を作りたいという思いになってきて。制作に充てられる時間も少なかったんですが、急ピッチで進めて発表することができたんです。


 

ー「自分たちで作りたい」という思いになったのは、何かきっかけがあったんですか?

 
星熊:時間的なものもあるんでしょうけど、もともと自分で音楽を作ろうという考え方なので、それが形になったのかなと思いますね。
 
MIRI:私としては、もともとクマ(星熊南巫)が作る音楽が好きで、一緒にやりたい! と持ったからラキアに入ったので、「GR4VITY G4ME」を一緒に作れて『ONYX』に収録できることはすごく嬉しいんですよ。
 
川﨑怜奈(以下、川﨑):私の場合、楽曲がある程度出来上がった段階で、どんな風にライブなどで表現するのかを考えることが多いんですけど、2人が作る曲も歌詞も好きなので、MIRIと同じく嬉しい気持ちです。
 
海羽凜(以下、海羽):やっぱり1番近くにいるメンバーが表現している音楽だからこそ、自分たちの気持ちをファンにも伝えやすいと感じたんですよね。私自身、しっかりと曲のメッセージを理解できるし、そのうえでステージで歌える曲だと感じています。
 

星熊南巫

パンクな初期衝動を込めた「Bite Off!!!!」
 

ーなるほど。ここからは、どんな曲なのかを収録曲順に教えていただきたいと思います。2曲目「Bite Off!!!!」は歌詞の表現が面白いですね。

 
星熊:「Bite Off!!!!」の歌詞を書いているときは、EP制作の終盤で最後に出し切る直前って感じだったんですよね。そこで、自分は何を考えているかを掘り下げていったときに出てきたのが、パンクなマインドだったんです。そういう初期騒動めいたパンクス魂って、ある意味、今だからこそ湧き上がってくるものだと思うんですよね。もっと大人になったら出てこないものだと思う。<スターバックスラテ グランデで>って歌詞は、お金持ちになったら、グランデいきたいよな? って。
 
一同:(お金持ちになったらの表現が)ちっちゃくない!?(笑)。
 
星熊:いや、当たり前にグランデいけるのってすごいやん(笑)。それで、具体的に考えたことっていうのは「今の自分たちが周囲にどう思われているんだろう?」ってことだったんです。カッコいいとか売れてきたとか言われるけど、自分では全然そう感じてないし、言われたところで満たされないし。逆に自分がどんどん丸くなっているような気がするんですよ。もしかしたら、自分は<現状維持のフェイクスター>で、誰かに造られた存在なんじゃないか。いや、そうはなりたくない! ってことを荒々しく書いた曲です。見方を変えれば、自分たちへ向けた戒め的な要素もありますね。結果的にけっこうストレートな歌詞になっちゃったんですけど、今まで書いたことがない内容だったし実験的にやってみた感覚もあります。
 
MIRI:ラップに関しては、今までこういうトラックでやったことがなかったので、新しいフロウを研究しながら書いてみました。クマが表現した歌詞を受けて、けっこう強い内容だったので、「それでも私たちは女の子で“ちょっと悪い女の子よ”」的な、あえてオブラードに包むような内容にしていますね。<頭の中ぱっぱらぱー>だとか、擬音語を入れることで、フックを残しつつ軽快で面白く聴こえる要素を加味してみた形です。普通だったらラップの方が尖っていて、メロディが柔らかくなると思うんですけど(笑)。そこがラキアの面白いところでもありますね。
 
川﨑:今、振り付けの練習もしているんですけど、けっこう楽しい感じになっていきそうです。可愛らしいダンスもあるし、ライブやフェスでやったらけっこう盛り上がるんじゃないかな? って。ステージで演るのが楽しみです。
 
 

MIRI

現代の不穏な空気感を歌う「Devil’s Gimmick」

 

ーでは、3曲目「Devil’s Gimmick」について。どのような世界が描かれているのでしょうか?

 
星熊:私、都市伝説が好きでチェックしちゃう方なんですけど、この曲に関しては、都市伝説を暴こうとして、その裏の裏の裏をかこうとして、逆にループにハマっていっている人をイメージしてました。暴こうとしている時点で沼にハマっているっていう。2022年に流れている不穏な空気感を意識していったんです。
 

ーそれで、歌詞には<It’s 2022 the world is still sat in a meltdown>と、年号も出てくるんですね。何が真実なのかわからない現代という。

 
星熊:そうですね。本当のことなんて世間には出回らないじゃないですか。特にコロナ禍以降、私も何が本当なのか知りたいという気持ちで生きていたし、みんな人生に不安を抱えながら日々を送っていると思うし。そういう思いが歌詞に込められています。あと、プロデューサーが、ラキアに合わせてドープなものをつくりたいって言ってくれたのも大きかったですね。だから、都市伝説から連想される言葉にフォーカスしたし、結果的にキャッチーな形へ昇華させることができて。
 
MIRI:歌詞をまとめるのに1番時間がかかった曲でもありますね。プロデューサーと何度もリモートで打ち合わせしたり電話したり、色んなことを並行しながらの制作で大変だったんですけど、最終的に綺麗なまとまり方になったなって。私たちだけだったら、もっとグチャグチャで、アンダーグラウンドな曲になっちゃってたかもしれないですけど、クマの強い意志をプロデューサーが導いてくれたおかげで、めっちゃ良い曲になったと思っています。
 
 

海羽凜

自分たちの表現を追究し続けた「SWSW」

ー続いて、4曲目「SWSW」について。読み方はアルファベットのままですか?

 
MIRI:読み方は“ソワソワ”なんですよ。
 
星熊:この曲は最後の最後に出来上がった曲なんですよね。
 
MIRI:私たちの「こういうのを作りたい!」っていう意志が1番色濃く反映されている曲かもしれないですね。「GR4VITY G4ME」の後に作り込んでいったので、もっとこうしたい、ああしたいっていう欲が出てきちゃった時期で。
 
星熊:だから、プロデューサーとも何度もやり取りをしたし、曲に対して色々意見を言わせてもらったりしたんですよ。あんまり言うと、生意気だと思われるかもしれないし嫌われちゃうかもしれないんですけど、それでもいいから、ちゃんと自分が納得できる楽曲を出したくて、色んなことをお願いしちゃって。
 
MIRI:クマは本当に筋を通したがる人だもんね(笑)。自分たちのルーツに当てはまるものをやりたい、自分たちらしい音楽を作品にしたいっていう考え方がベースにあるから、制作にのめり込んでいったんだろうね。そんな試行錯誤を経て、みんなにご協力いただいて出来上がった曲なんですよ。
 
星熊:どうやって自分たちが納得できるものを、みんなで作っていけるのかってことをすごく考えた曲でもあります。そんな中で<積もってゆく 未読の山頂で>っていうパートがいいなって感じて。現代人って未読スルーの山で生きてると思うんですよ。「ごめん」のひと言が言えないだけでスマホを見ないっていうのは誰しもあるんじゃないかと。そういう時代的な要素も落とし込んでいますね。
 

川﨑怜奈

星熊南巫とMIRIの初共作「JINX」

 

ー最後の曲「JINX」はいかがでしょう?

 
MIRI:初めてクマと一緒に歌詞を書いたよね?
 
星熊:そうだね。普段は別々に書くんですよ。
 
MIRI:会話のキャッチボールもせずに、クマから豪速球をバシュッと投げられることが多いんです。
 
一同:(笑)。
 
星熊:アンサーがほしくて。共感はしないでくれ、みたいな。違うことを考えているはずだから、これは違うんじゃないかって内容を書いてほしいって気持ちがあるんですよ。それが面白かったし、2つの視点が1曲に入っているのがよくて。それによってラップも歌も活きてくると考えているので。
 

ーそういう二面性があるのは個性的ですよね。楽曲の統一コンセプトなどはあったんですか?

 
星熊:私が好きなゲーム『CRISIS CORE -FINAL FANTASY VII』をテーマにしています。曲中に雪上を歩く足音が入っているんですけど、これはニブルヘイム(ゲームに登場する村の名前)をイメージしているんですよ。
 
MIRI:ワンマンのツアーファイナルの前日に「このゲームについて書こう」ってクマから言われて、ゲームのムービーを観ながら、朝まで話し合いながら作っていったんですよ。
 
川﨑:私たちも呼び出されて「これ(『CRISIS CORE -FINAL FANTASY VII』)やから」と告げられて。
 

ーワンマンのツアーファイナル前日にすごいですね(笑)。

 
一同:(笑)。
 
MIRI:機材も全部ホテルに持ち込んで、仮歌を録ってはプロデューサーに送って、という作業をやっていました。
 
星熊:歌詞にある<舞い落ちる雪が溶けて>のパートはFFとは関係なく出てきた一節で、ゲームのラストシーンにも通じるし、MIRIにもそのことを伝えながら、どうかなぁって。初めての共作でした。
 
MIRI:そう考えると、今回のEP『ONYX』は今までやっていないことを実験的にやったり、挑戦したりしたので、そういう意味でも面白味があるものになっていると思いますね。
 

ータイトルの『ONYX』にはどういう意味が込められているんですか?

 
星熊:これは、そのまんま魔除けの石なんですよ。自分たちを魔から守ってくれる作品であってほしいし、もちろんファンの方々にとってもそうであってほしいと思うし。制作中に色々と考える部分があったし、何度も自分たちでモチベーションを立て直したりしていたんです。もっと未来のことを見据えてがんばろう、惑わされないように、色んなことに立ち向かえるように。そんな意味を込めて、魔除けの石が、今の私たちには必要なんです。
 
 

変化を恐れず一歩踏み出す勇気を持って進み続ける

 

ーこれまでもそうですが、我儘ラキアは今作『ONYX』においても、自分らしさを大切にしながら活動していると思います。では、我儘ラキアらしさとは、どんなものだと考えているのか。最後に教えてください。

 
MIRI:完全に個人的な意見なんですけど、私は「ラキア=星熊南巫の曲」だと思っているんですよ。クマは1番つかれたくないところをポンと歌詞で言ってくるんです。避けていたことを振り返させられるし、もっと頑張らなくちゃいけないという気持ちにさせられるんですよね。自分たちで表現を考えて作って、それを自分自身で伝えることが我儘ラキアだと思うし、そこにクマの曲は欠かせないと、私は思いますね。星熊南巫の我儘が全面に出ているものなんじゃないかと思うし、その輝きに吸い寄せられた人たちがメンバーとして集まっていると思います。
 
海羽:クマは一緒にいるだけで背中を押されるメンバーですから。私から見てもカッコいいと思いますね。アイドルも時代ごとに立ち位置が変わるものだと思うんですけど、世界のシーンを見渡すと、いかに自分たちらしく行動しているのかが重要だと感じるんです。アイドルだからこうでなくてはいけないっていうんじゃなくて、アイドルとして活動している我儘ラキアというアーティストがいるんだってことが全面に出ていたらいいんじゃないかと思います。
 
川﨑:我儘ラキアは“筋”なんですよね。筋通せないとギャルじゃないので。メンバーそれぞれ曲がったことが嫌いだし、心から思っていないとやろうとしない。だけど、その思いに一本ちゃんと筋を通しているから、やりたいことがハッキリしているし。だから、私自身やっていて楽しいんですよ。ラキアといるとマインドが前向きになるし、それが曲にも反映されていると思います。そのために、私たちなりの筋を通していく。それがラキアらしいアクションなんだと思います。
 
星熊:難しいですね……。もともと他人のことなんて考えられないタイプだったのに、活動を続けてきてメンバーのことが大好きになっちゃって。
 
一同:(笑)。
 
星熊:ソロもやりたいけど、ソロでできないことをグループでやっていきたいと思うようになって。そうなったときに、自分たちらしく何を世の中に発信するのかっていうと、リアルを出し続けることだと思うんですよね。信念を持ち続けながらも変化を恐れないでいたいです。それは、時代に乗りたいからじゃなくて、時代を経て感じたことを受けて、自分だったらこう表現するっていう変化ですね。勇気を持って変化し続けていくことを念頭に、自分がこうしたいんだってリアルをメンバー全員が常に出し続けていく。それが我儘ラキアだし、だからこそ音楽も変容させ続けることができるんじゃないかと思っています。

POPULAR