9月21日にリリースされたFIVE NEW OLDのニュー・アルバム『Departure : My New Me』。USポップパンクをルーツに、独自のセンスで音楽性を拡張させてきた彼らの鮮やかなサウンドは、より一層の輝きを携え、HIROSHI(Vo/Gt)の「改めて伝えたかった想い」が、耳馴染みの良い日本語たちによって綴られている。結成10周年というひとつの節目を終えた4人の、新しい旅路が記されているかのような作品だ。書き下ろしアニメ主題歌や海外のプロデューサー/アレンジャーの起用など、新たな挑戦も取り入れられた本作は、4人にとってどんな作品になったのか。制作の裏側から、いまの4人の素直な想いまで。FIVE NEW OLDの素顔を覗く。
WATARU(Gt/key)、HAYATO(Dr)、HIROSHI(Vo/Gt)、SHUN(Ba)
「日常の些細な発見が世界を広げてくれる。その喜びを伝えたい」
ー前作『MUSIC WARDROBE』のリリースが2021年4月でしたね。そこから約1年半、今作『Departure : My New Me』のリリースに向けて、どのように制作を進めていきましたか?
HIROSHI(Vo/Gt):みんなで一緒に過ごす時間の中で、新しい発見もあって。その頃、自分がハマっていたバナナチップスを、お茶菓子で出したんです。本来、HAYATOはバナナが好きじゃないんですが、そのチップスを気に入って食べてくれる姿を見て、「これこそがエウレカで、僕らがお客さんに届けたいことだ!」ということに気付いたんです。エウレカってギリシャの哲学用語で、新しい発見への喜びに対して使う言葉なんですけど、それこそが僕らのコンセプトであるOne More Dripなんですよね。結成10周年というひとつのチャプターが終わって、改めて“人生を豊かにするための一滴”についてメンバーで考える機会があって、そこで気づいたことがOne More Drip=新しい喜びを見つけるということでした。バナナチップスが美味しかったという、日常の些細な発見が世界を広げてくれる喜び。これがエウレカであり、One More Dripであり、さらに進むとMy New Meに繋がるんです。新しい私と出会う、と言う意味。僕の家でみんなで一緒に制作をしたからこそ、今作で届けたかったことがクリアになりました。
ー『Departure : My New Me』は、“新たな自分になる物語のターニングポイントを彩る主題歌”とのことですが、結成10周年を終え、新たなフェーズを迎えている皆さんにとって、これまでにターニングポイントだと感じたタイミングを教えてください。
HIROSHI:僕の中ではターニングポイントが3つあって。パンクから始まったバンドの方向性を急に変えた時に、みんながそれを受け入れてくれたことが1つ。そこでFIVE NEW OLDの音楽性が一気に広がったと思う。2つ目は、今回のアートワークも手がけているMargtとOne More Dripというコンセプトを一緒に作った時に、バンドが何を伝えようとしていたのかが明確になった瞬間。そして、メジャーデビューしたタイミングでベースが抜けてしまい、SHUN君が入ってきてくれた時。「自分たちのバンドだけど、自分たちだけのバンドじゃないな」と覚悟を決めたタイミングです。僕らにバンドを続けさせようと支えてくれた、周りの人の存在が大きかった。
SHUN:今までHIROSHI君に頼りすぎていた部分があったんだと思います。誰だって、できることとできないことがあるのに、みんなそれにも気づかないまま、走り続けてきたんですよね。自分は途中から入ったこともあって、HIROSHI君にお伺いを立てたり、バンドのことを俯瞰視していたところがあって。そこで、一度バンドを解体して、改めて一つひとつの備品を見直したことで、ようやく自分もFIVE NEW OLDの一員に慣れた気がします。
HIROSHI: Margtと一緒に作るということは、僕にとって自分の哲学を再構築するってことで、単にアートワークを作ることと意味合いが違うんです。ArataとIsamuと一緒にいると、ニューヨークに住んでいた2人と、ワイワイしながらバンドのコンセプトを作った当時の感覚が蘇るし、自分がなんで音楽をやっているのかを改めて考えさせてくれる仲間です。Margtは僕らの北極星的な存在。今回のアートワークを相談するにあたり、『Departure : My New Me』というタイトルの話をしたら、Arataが「じゃぁ、ここがバンドのスターティングポイントで、走り出すその瞬間を切り取ろう」って言ってくれて。このタイミングで2人とまた一緒にできて、本当によかったです。
HIROSHI:自分の根底にある想いは昔から変わっていなくて、FIVE NEW OLDも相反するワードが連なったグループ名ですが、そういった矛盾を抱えながら人は生きている、という考えが自分の中にはずっとあって。人間は合理性を求めたがるけど、人間という生き物自体が全然合理的じゃないし、世の中は結論を出したがるけど、そのほとんどはそこまで至れない。アンビバレントな想いを抱えながら生きているってことを、もっと寛容に受け入れられる社会であってほしいなって思いがあるんです。それを、強いメッセージとして社会に発するよりも、日常に根付いていくことが大事だなと思って。「LNLY」の歌詞でも書きましたが、今ってフィルターバブルによって、偏った情報しか知ることのできない社会になってしまい、インターネットの普及が未来への可能性を広げたはずなのに、個人の世界はどんどん閉じてしまっていて。だからこそ、世の中は争いが増える一方で。でも、ほんとはもっと他者に寛容でありたいし、そのためには、僕たちが矛盾した生き物なんだっていうことを、受け止めてほしいという思いを強く伝えています。
ー『Departure : My New Me』の制作を経て、次に挑戦してみたいことやアプローチなど教えてください。
SHUN:そもそも自分がFIVE NEW OLDとして活動すると思っていなかったし、バンド自体もポップパンクからスタートして、今では表現の幅もぐっと広がって。柔軟性の高いメンバーだからこそ、ここまで流動的に走り続けて来れて、“目の前のことを一生懸命にやってきた積み重ね”が、今に繋がっていると思っています。だから、自分にとってそれが一番大事なんですよね。大きな目標を掲げていたこともありますが、大体思い通りに行かないし、それよりも、身の回りの人やご縁を大切にして、メンバーと一緒にワクワクしながらひとつ一つと向き合って行くことのほうが、大事なんじゃないかなって。そこから生まれるものを大切にしたいと思っています。
Track List.
01. Trickster (TV アニメ「HIGH CARD」 オープニング主題歌)
02. Happy Sad
03. Perfect Vacation
04. Home
05. Cloud 9
06. Script
07. Potion
08. Nowhere (NFTアート発アニメ「Zombie Zoo Keepers」テーマソング)
09. One By One
10. LNLY
11. Goodbye My Car
12. Rhythm of Your Heart
13. My New Me