[Interview]えんぷてい 1st Album
『QUIET FRIENDS』で旅するディストピア
第一過渡期を迎えたバンドが鳴らす音

Photography_Aya Yasuda
Text&Edit_Maho Takahashi

[Interview]えんぷてい 1st Album
『QUIET FRIENDS』で旅するディストピア
第一過渡期を迎えたバンドが鳴らす音

Photography_Aya Yasuda
Text&Edit_Maho Takahashi

名古屋と下北沢を拠点に活動するロックバンド、えんぷてい。2020年6月の始動から間もなく、今年は「りんご音楽祭」をはじめ全国のフェスへの出演を果たすなど、すでに早耳リスナーからの支持を得ている。そんな中発表した1stアルバム『QUIET FRIENDS』は、サウンドプロデューサーに柏井日向を迎え、これまでのバンドサウンドの奥に実験的な音作りを感じさせる一枚だ。アップデートを遂げた彼らが鳴らすディストピアとポップス。そして再録版となるバンドのマスターピース「Sweet Child」や制作過程について。あらゆる過渡期を迎え、次の航路を進み出したえんぷていの今を訊いてみた。

1stシングル「コンクリートルーム」は
僕たちの根幹から出てきた音楽ではない

ーまずは、みなさんの出会いやバンドの結成について教えてください。

オクナカ:僕とイシジマは高一のクラスで出会って、軽音学部で一緒にバンドを組んでいました。卒業後は大学が別々だったので解散しましたが、僕が先輩のバンドのサポートで全国を回っているうちに、自分でバンドをやりたいと思うようなり、イシジマくんに声をかけました。

イシジマ:コロナ渦に入った直後だったから、2019年かな。

オクナカ:ヒシジマは、バンドメンバー募集サイトOURSOUNDSに登録して、当時の音源をアップしていたら釣れました(笑)。そこから顔合わせを兼ねてスタジオ入りをして。

ヒシジマ:当時からオクナカはギターがめちゃくちゃ上手かったので、落ちたと思いました(笑)。

ーヒシジマさんの決め手は何だったんですか。

オクナカ:あえて挙げるなら、人間性ですかね。当時、技術的な面においては、自分も含めてまだまだ課題がある状態でしたが、彼となら頑張っていけると思いました。見た通り彼は面白いので、バンドに必要なピースかなって。

ヒシジマ:そうなんです、僕面白いんです。

ー(笑)。サポートにドラムとベースを迎えていますが、この形態はいつ頃からですか。

ヒシジマ:「Sweet Child / 微睡」は、僕の双子の兄がドラムをやっていたんです。ほぼ無理やりスタジオに引っ張ってきて、叩いてもらう感じで(笑)。

オクナカ:ヒシジマのお兄さんにお願いする前は、ドラムとベースの正規メンバーもいて、1stシングル「コンクリートルーム」を作ったんですが、その後にバンドの方向性を変えることになり、その2人は抜けました。というのも、最初は多くの人に作品を聞いてもらうために、かなりキャッチーな感じで作っていたので、自分とのギャップを感じてしまって。

ーお二人は方向性を変えることをどう思いましたか。

ヒシジマ:オクナカに『ポップやめませんか』と言われて、驚いたのを覚えています(笑)。「コンクリートルーム」のようなキャッチーさから離れても、ポップスの普遍さを残すなら良いと思ったのでやろうと思いました。

イシジマ:あんま覚えてない…(小声)。

一同:(笑)。

イシジマ:でも「Sweet Child」は変わったなと思いました。

オクナカ:実際「コンクリートルーム」は、えんぷていの中ではキャッチーな分、いろんな人にも聞いてもらえたけど、僕たちの根幹から出てきた音楽ではないと思っていて。もっとシンプルな音でやりたいと考えていた時に作ったのが、「Sweet Child」なんです。

ヒシジマ:音源が送られてきた時は、急に音数が少なくなっていて、おぉ!ってなりました(笑)。元々僕らは根明なタイプではないし、キャッチーへの違和感は最初から感じていたのかもしれないです。

「Sweet Child」はえんぷていの
やりたいことの中心にある曲

ーここからは、1stアルバム『QUIET FRIENDS』について伺っていきます。制作自体はいつから始めましたか。

イシジマ:曲でいうと「舷窓」が最初にできて、去年の11月にはライブでもやっていました。

オクナカ:年明けには「Ooparts」、「針葉樹」、「印」が出来ていて、曲にまとまりがあることに気づいて、アルバムを作ろうという話をしました。それぞれの制作時には一貫したコンセプトはなかったけど、同時期に作ったこともあり自然とブランディングされたのかもしれません。

ー普段、制作はどうやって進めていますか。

オクナカ:各々がDTMで8割くらい作り込んだものを、スタジオで微調整しながらアレンジなどを考えてます。0から1を生み出す瞬間は、個人でしか到達できない深みというか。一人で考えたいタイプが集まったので、ちょうどいいです。このバンドは天才型ではなく、積み上げてきたものを落とし込むタイプなので、それゆえに堅牢な楽曲ができていると思います。

ー今回サウンドプロデューサーに柏井日向さんを迎えていますが、どのようなやりとりをされましたか。

オクナカ:事前のやりとりはなく、スタジオ入りの空き時間に、歌詞のイメージや曲のコンセプトを話したら、些細なことでも共有してほしいと言ってくれて。感情やルーツなど、僕の核心に寄り添ってくれました。なので僕もこまめにLINEを送ったり、細かく意図を伝えました。

イシジマ:自分たちが作るデモの状態だと暗くなりがちですが、ある程度のポップ感も必要だったので、その辺りのバランスは柏井さんと相談しながら作っていきました。そういう意味で「針葉樹」や「Dance Alone」は割とえんぷていにとって新しいサウンドになった気がします。

ー「針葉樹」はオクナカさんとイシジマさんが作曲されていますよね。

オクナカ:『作曲配信します』って思いつきのインスタライブで出来た曲で。打ち込んでいくうちにどんどん良いものになって、2時間ほどでトラックが完成しちゃいました。

イシジマ:彼がトラックを作った時点でタイトルは決まっていて。鼻歌で歌いたいメロディを入れていきました。

オクナカ:作詞は基本僕が手がけていますが、こうやって全員が表現できるのはバンドとしては理想的ですね。

ーちなみに、「針葉樹」というタイトルはどこから来たのでしょうか。

オクナカ:一月に父親の実家の福井に帰省した際に、買ったばかりのフィルムカメラで、雪景色をひたすら撮っていて。その中で気に入った一枚をジャケットにしたんですけど、写真の雰囲気のような深閑とした曲を作りたくて。スローだけど、どこか明るさと切なさが共存する曲にしました。

ー今作では、ヒシジマさんも初めて作曲されたそうですね。

ヒシジマ:「砂の城」、「幽谷」を作りました。ハミングでメロディを入れてから、楽曲のイメージをオクナカにも電話で伝えて。俺の構想と彼の中で書きたい歌詞のイメージが一致していたようで、その日中には骨組みができていました。

オクナカ:ちょうど似たようなこと考えていたんだよね。

イシジマ:ヒシジマは鍵盤を弾かないんですけど、鍵盤メインのメロディが上がってきてびっくりしました。

ヒシジマ:ちょうどMIDIキーボードを買ったタイミングで、リフを作るのが楽しくて(笑)。あと、メン・アイ・トラストの『Untourable Album』に衝撃を受けたのもあって。普段聞く音楽はえんぷていらしいジャンルとは少し離れているけど、自分の好きとバンドらしさをたらしめる音楽性がマッチしました。

ー普段からメロディ先行が多いですか?

オクナカ:一曲目の「印」は歌詞先行で、カフェでぼうっとしているときに、突然浮かんだものを書き留めて、すぐに帰ってギターを弾きながら出来た曲です。アルバムの冒頭はこれしかないと思いました。

ヒシジマ:他の曲とは比にならない勢いで送られてきました。

オクナカ:あと「Mist」も思い入れ深いです。実はベースラインとキーボードをローの音域で被せるという実験的なことをしていて。普通ならば禁忌ですが、不安を掻き立てるような気持ち悪さを生み出せました。

イシジマ:正直反対しましたが、結果的によかったです。

オクナカ:南極の氷から新たな菌が発見されるように、古代の物が突如出現する瞬間と、霧が立ち込めていく瞬間は僕の中で近い感情なので、そこを結びつけるために今回のアプローチをしました。歌詞自体は、微生物をテーマにしているので、繰り返し聞いていると違和感に気づくと思います。

ーそうだったんですね。また今回「Sweet Child」は再録版となりますが、アプローチ的に変えた部分はありますか。

イシジマ:意識的には変えていませんが、ドラムが神谷君に変わったこともあり、ニュアンスの変化はあるかもしれません。「Sweet Child」はライブでも毎回やるので、最初の音源の違いも出てきたし。

オクナカ:「Sweet Child」は我々のマスターピースでもあるので、今回はアップデートに近いです。

イシジマ:この曲は、サウンド面やコンセプト、歌詞においても、えんぷていのやりたいことの中心にある曲ですね。

オクナカ:余談ですが、「印」のイントロには昔の「Sweet Child」のアウトロで使ったノイズが入っていて、「Sweet Child」のアウトロには、新たなギターのハウリングの音を録っていて。昔のノイズから新しいノイズへの変化を、アルバムの始まりと終わりで示しているので、過渡期を迎えた我々だから表現できた重みのある作品になっていると思います。

ー素敵ですね。ちなみに、タイトル『QUIET FRIENDS』の意味は?

オクナカ:“こうありたいもの”です。元々SF作品に影響を受けていることもあり、これまでも何千年先のディストピアを構想することが多くて。今回も星と星の移動をテーマにしているので、冷静沈着(=Quiet)に旅をするイメージで付けました。長い航路ほど、冷静かつ知識を持つべきだと思うので、これからの僕らの活動もそうあれるように願いも込めています。あと、僕が大好きでよく聞いているスティーヴ・ローチのアルバム『Structures from Silence』の収録曲「Quiet Friend」にも因んでいます。

ヒシジマ:そうだったんだ。僕は「Dance Alone」のように去ってしまった人に想いを馳せたロマンチックなイメージでした。各々のQUIET FRIENDSがありますね。

オクナカ:正解を用意したわけでもないし、複合的な意味合いなのでどれも正解です。完成して聞き直してみても、こうすればよかったと後悔する箇所がないので、かなり突き詰められた気がします。

ー来月のワンマンも楽しみですね。

オクナカ:人生初のワンマンになります。皆が口を揃えて言うけれど、“自分達だけを見に来た人の空間”ってだけで、きっと何にも変え難い喜びになるんだろうな。

ヒシジマ:集まってくれた人の期待に応えないといけないね。

イシジマ:うん、だから割と不安もあるよね。

オクナカ:プレッシャーはありますが、「Sweet Child / 微睡」以降は軸を通してきたつもりですし、これまでの足跡や今の僕らが見えてくるライブになると思うので、妥協なく丁寧にアウトプットしていきたいです。

ーでは、最後に来年以降の目標を教えてください。

オクナカ:今年は上京したり、環境も色々と変わったので、来年以降もさらにカルチャーや人に出会い、各々のアイデンティティを追求したいです。作品の根幹となる僕らをアップデートしたら、作品にも良い影響が出ると思うので、人間的な成長を遂げたいです。

ヒシジマ:一語一句、同じですね(笑)。成長します!

イシジマ:個人的には、楽曲に対してもっと実験的になりたいです。今は個人が作った物を仕上げていく流れなので、一音ずつ緻密に積み上げる作り方もしてみたいです。

オクナカ:完全に作り込む良さもあるけれど、僕らの良さでもあるDIY感は見失わないようにはしたいよね。そのためにも各々が成長していきたいですね。

INFORMATION

えんぷてい

1st Album 『QUIET FRIENDS』
フォーマット:アルバム(CD&配信)
発売日:2022年11月23日(水)
01.印
02.Mist
03.Dance Alone
04.針葉樹
05.砂の城
06.舷窓
07.幽谷
08.Ooparts
09.無線より
10.Sweet Child
CD取り扱い店舗
https://emptei.lnk.to/QUIETFRIENDS_CD

POPULAR