今年3枚目となるニューシングル「Circle6」をリリースした空音。意欲的なソロ活動の傍ら、meiyoとの新曲「infinite」がトヨタ自動車のCMソングに起用された。そんな中発表した本作は、ローカルへの想いを馳せた一曲で、サウンドプロデューサーにYohey Tsukasakiを迎えたレイドバックなサウンドに、自身のルーツやコミュニティーへのリスペクトが綴られている。リリシスト、そしてラッパーとして、前作から地続きな進歩を遂げた空音に、2022年の総括を訊いてみた。すでに2023年への打席に立つ彼が見据えるビジョンとは。
「B RAGE」、「GIMME HPN」の流れで
転機を迎えた
ーインタビュー自体は、5月(「B RAGE」リリース時)以来ですね。最近のモードはいかがですか?
今年に入ってからずっと良いメンタルで、音楽を始めてから一番いい調子で歌詞を描けています。制作の環境が変わったことで、より気軽になったというか。22歳を目前に、初期に近いマインドで描けている気がします。
ーいいですね。その辺りは8月にリリースした「GIMME HPN」のサウンドやリリックの精度の高さからもうかがえます。
「B RAGE」、「GIMME HPN」の流れで転機を迎えたというか。「B RAGE」は自分でType Beatから作っていったので、ラップにキレを持たせたり、やりたいことへ忠実だったのに対して、「GIMME HPN」は今までやってきたサウンドの中で新鮮さを出すイメージで制作していきました。元々、大沢(大沢伸一)さん(MONDO GROSSO)ともライブでハマるようなダンスミュージックをやりたいとは話していて。スタジオセッションの時に大沢さんに歌詞を聞いてもらって、細かい部分まで調整していきましたね。僕が知らない音楽の奥深さを知っている方なので、すごくヒントを得られました。僕はフレーズの中に歌詞を詰め込みすぎるタイプで、今年は引き算を課題にしていたので、こういう描き方の感覚を掴むことができて良かったです。
ーソロ作品以外にも、MAISONdesに初入居し、meiyoさんとの新曲「infinite」がトヨタ自動車 新型カローラシリーズのCMソングに起用されましたね。
有難いです。僕の愛車もTOYOTAで、「いつかTOYOTAのCMソングをやりたい」と話していたので純粋に嬉しかったですね。いきなり舞い降りた話だったこともあり、声をかけいただいた1週間以内にはデモを送って。制作自体はかなりスピーディでしたが、完成度の高い作品になったと思います。meiyoさん自身は今回が初めましてだったので、僕自身もまだシークレットな部分は多いですが、パッと聴いて耳に残る作曲やアレンジを生み出せるチームのすごさを感じました。また個人的なタイミングとしても、空音がさらに一歩前に踏み出す出来事になったと思います。CMから知ってくれる人もいると思うので、たくさん聴いてもらえたら嬉しいです。
身近にあるものを歌う
大事さを再認識した
ーでは、ここからは「Circle6」について伺っていきます。元々構想はありましたか?
歌詞は描き始めてから方向性を決めました。トラックは今回お願いしたトラックメーカーのYoheyさん(Yohey Tsukasaki)が用意してくれた3、4個の中から直感で選んだものが、『空音くんに合う』と言われたものでした。歌い出しからサビまで一気に描けたんですけど、〈2号線が roots〉というフックに引っ張られる形ですぐにリリックが浮かびました。以前からSFの表現が抜けたのもあるけど、最近は身近にあるものを歌う大事さを再認識したというか。元々ヒップホップカルチャーの根底にあることではあるけど、日本語で表現するとチープになりすぎるので、あまりやってきていなかったんですよ。けど日常という普遍的なことに焦点を絞った上で、表現の幅が広がった気がします。
ーそういった日本語や、日常的な描写に焦点を当てるきっかけはあったんですか。
今年の上半期は海外のラッパーをよく聴いていましたが、下半期は日本人のラッパーを聴いていて、中でもC.O.S.A.さんのアルバムがすごく良くて。地元のことを歌っているんですが、自分が尼崎に帰ることも多いので重なり、結構影響を受けました。ラッパー以外だと、宇多田ヒカルさんですね。『BADモード』とかは、英語の響きの心地よさもあるけど、大事なパンチラインは日本語で歌っていることに気づいて。改めて日本語で面白い言い回しを考えるようになりました。以前は一発聴いて浮かんだテーマを直感的に描いていましたが、今回はじっくり考えた分いいものが描けました。
ー聴いている音楽からインスピレーションを受けることが多いですか?
そうですね、アーティストの方の新譜が自分のインスピレーションになっていますね。今年は特にヒップホップから着想を得られたし、時間をかけて詰めることができたので、自信を持ってヒップホップのスタンスを貫けた気がします。あと、去年くらいから尼崎に帰ることが増えたことも大きいですね。東京にいたら、言いたいことの芯はブレていなくても、描き方や選ぶ単語が変わるんですよ。こっち(東京)で凝り固まったものをリフレッシュして、遊びながら地元やクルーとも向き合うことで、原点回帰できたというか。尼崎〜東京の移動で必然的に一人でいる時間が増えたので、そういう時間に歌詞が浮かぶことが多かったです。友達といる時間も好きなんですけど、無意識的に距離を置くタイプでもあるので、一人の時間を有意義に使えるようになりましたね。こういう時間があったからこそ、今作「Circle6」のような歌詞も描けたんだと思います。これまで尼崎出身と言ってきたけど、ちゃんと地元のことを綴ったのは初めてですし。
ー基本的にはリリック先行が多いですか?
これまでは歌詞にメロディをつけるパターンが多かったんですけど、この曲を含めて最近はサウンドありきで作ることが増えました。サウンド面に関しては、もちろん巡り合わせもあるけれど、ずっといいマインドでいられたので、抜かりないサウンドを選べたんだと思います。少し前まではキャッチーさを狙っていたところもありましたが、納得するまで手を抜かずに描き続けることが大事だなと。耳に残るフレーズって普遍的な良さもあるけど、どこかいやらしさが出る気がするし、狙いにいかなくても、今回みたいにかっこいいものを作ればちゃんと周りが評価してくれるので。こういう良い歌詞が描けるタームに入ったのも、環境や巡り合わせが大きいですね。きっと去年このトラックに出会えていても、この曲は描けていなかったと思います。
ーそういった成長は、14箇所を巡ったツアー「CLUB TOUR 22’SPR 」の経験も大きいですか。
本当そうですね。いろんな会場を巡れたので、土地によって盛り上がり具合が違ったり、いい意味で自分に対してまだ足りない部分を知ることができました。クラブツアーを経て、ワンマン「ONE Works」やこっちゃん(kojikoji)やニューリーとの3マン企画「Broth Works presents MORROW」をやれたり、前半にしっかりライブをしてから制作にシフトできたのは良かったです。チームでのコミュニケーションがこれまで以上に取りやすくなったのもプラスになっていると思います。
ー制作段階からライブも意識するようになりました?
徐々にですが、曲のかっこよさを持っていくポイントや、ライブでのお客さんの動きをイメージできるようになってきました。けど、まだできないところはあるので、この間も『少し歌詞を削らないと、サビを歌えなくなる』とマネージャーの清水さんにアドバイスをもらったり。出っ張りすぎた部分を周りが整えてくれるので、チームの存在には助けられています。
ーすでに「Circle6」はライブで披露されていますが、反応はどうですか。
何度か披露してますが、ちゃんと盛り上がってくれてますね。僕はライブの前半は特に飛ばしすぎてしまって、逆に力が抜けてきた後半の方が良い感じに歌えたりするんですよ。そういう意味で、この曲は普段話しているようなトーンで歌えるので、力まず良いグルーヴを出せます。
ーリリース後の反響はいかがでした?
配信直後からたくさん良い反応をもらえました。今回地元のことを綴ったこともあり、普段ラップを聞かない同級生からもめっちゃ良いと連絡をもらったり。僕自身もこれまでのシングルの中で一番気に入っているかもしれません。自分のルーツである尼崎のことを歌えたのが嬉しかったし、恩返しになるような曲ができて安心しました。今作っている曲も良い物が出来ていますが、この曲は僕のアンセムになると感じています。
ーMVは「B RAGE」、「GIMME HPN」に続き、TERU(HOLONIX)さんが手掛けられたそうですね。
今回は、アクターの方々に出ていただいていて、丸一日かけて撮影しました。今回はふと目にしていた状況を書いた楽曲の世界観を広げながら、オムニバス形式でそれぞれのバックボーンを感じさせる映像になっていると思います。見た人にも共感してもらえるような映像になっているので、自分的にも気に入っていますね。
ー改めて、今年を振り返ってどんな一年でしたか。
リリースがジャンプだとしたら、しゃがんでいる助走の期間をずっと良いマインドで過ごせた一年でした。自分がやりたかったことはもちろん、Broth Worksへの所属から始まり、今回のリリースやCMソング、クルー活動など理想としていたものを形にできて良かったです。そういった培った物が2023年に報われる気がしています。それは今、制作中だからというのもあるけど、今年感じたことをまた来年に思い出すことで、この一年の意味が出てくると思っています。
ー転機の年だったんですね。そういう意味では、空音さんのアーティスト像も変化したように感じます。
そうですね、スタイルで言えばヒップホップに寄ったと思います。僕のリスナーにはヒップホップをコアに聴いていない層もいるので、これまではキャッチーなアプローチや、いろんな表現をしてきた分、空音というアーティスト像に戸惑う人がいたことも今になって分かります。けど今は明確にやりたいことや、純粋にかっこいいと思うヒップホップをできているし、だからこそ「B RAGE」、「GIMME HPN」、「Circle6」という良い流れを作れました。
ー来年の活動を含めて、今後はどのようになっていきたいですか。
今年は一つの作品に対して時間をかけて作り上げたので、来年はそれをアルバムとしてみんなに届けたいです。すでに良い曲もできていて、みんなが踊ってくれるイメージもついているので、楽しみにしていてください。ソロ活動やクルー、チームがもっと大きくなるためには、変に背負う意味でなく、僕の頑張りが大事になってくると思うので、来年も頑張っていきたいです。