MUSIC 2023.01.13

Amazon Original HEAT Vol.12 連載HEATという音楽現象を追う:山田岳彦×村松遼(BOARD)

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Hidetoshi Narita, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

『Amazon Original HEAT』(以下、HEAT)。各シーンで活躍する20人のキュレーターが、20組のアーティストをピックアップし、新たな楽曲とMVがAmazon Musicで公開されていくプロジェクトだ。
本連載では、キュレーターと選出されたアーティストとの対談を行い、HEATがどのような内容なのか、まだキュレーターがどのような思いでアーティストを選び、アーティストはそれにどう応じるのかをお届けする。
第12回目は新年1発目、2023年1月11日リリースとなったBOARD。キュレーターは名古屋のインディペンデント・名レコードショップFILE-UNDER RECORDSを運営する山田岳彦だ。
ショップらしいアーティストのピックアップであり、このHEATの姿勢に賛同したBOARDがバンドらしさを存分に表現した楽曲を発表する。

Curator_山田岳彦

Artist_村松遼(BOARD)

これからシーンを担っていくであろう人にフォーカスしたい

ー知り合ったのいつ頃ですか?

山田岳彦(以下、山田):2年ほど前ですかね。彼らが大学を卒業してロンドンに9ヶ月ほど滞在して向こうでライブ活動を始めたんですけど。帰国後に、とある人に「名古屋のレコードショップはどこが良いですか?」という質問をメールしたらしくて、そこでFILE-UNDER RECORDSを教えてもらったそうなんですよね。それでうちに来たというのが始まりです。

村松遼(以下、村松):そうですね。ロンドンで活動開始して、ほどなくしてパンデミックになり、日本に戻って活動していくことにしたんです。帰国後に、地元の名古屋で行くべきレコードショップを知り合いに聞いて、そこから山田さんとの交流が始まりました。

山田:初対面のときはちょっとかしこまった感じで喋っていて、ざっくり自己紹介をされたぐらいでしたよね。その後しばらくしてから、BOARDがDYGLのOA(オープニングアクト)を名古屋でやっているんですよ。後から、その現場に行っていた人が、口々に「OAのバンドがヤバかった。ロンドンで活動していたバンドらしい」ってことを聞いて、『ああ彼ら(BOARD)だな』って。その後、ショップにも通ってくれるようになって、うちでもBOARDの作品を扱うようになっていったんです。

ーBOARDがロンドンで活動を始めたという件について教えていただけますか?

村松:もとを辿ると、楽器も弾けない大学の友達2人を呼んで、一緒にバンドをやろうって誘ったんです。どこで活動していくかをメンバーと考えていくうちに、僕の好きな映画や音楽はイギリス発のものが多かったので、じゃあロンドンに行ってライブ活動しようかってことになったんですよ。とりあえず学生ビザで行って、行ったものの何もわからないから練習スタジオを自分たちで探して、ライブハウスにいきなり行ったりして。手探りの状態で2019年活動し、2020年の年始に帰国していたらパンデミックが始まったという経緯があります。

ーすごいな。山田さん的にはBOARDがやっている音楽はどういうものだと感じていますか? 例えるならば、どういうアーティストの音像を感じますか?

山田:UKのアーティストで例えるのであれば、ジョイ・ディヴィジョン(Joy Division))だとか。いわゆるパンク期・ポストパンク期のバンドが1番近いかなと。最近のバンドでいくと、FONTAINES D.C.やTHE MURDER CAPITALといった、ジョイ・ディヴィジョン世代の遺伝子を受け継ぎながら現代にアップデートしたみたいな感覚のバンドにBOARDは近いと感じますね。

村松:実際にジョイ・ディヴィジョンには影響を受けていて『Unknown Pleasures』(1979年発表の1stアルバム)を聴いているときが1番生きている実感があるんですよ、昔から。その感覚を自分の作品で感じることができたらいいなというのがバンドをやっている大きな理由でもありますね。自分は、この楽曲・アルバムを作るために生まれてきたんだとか、そういうことを思いたくてバンドを始めたんです。BOARDで音楽を作るうえで、何か特定のジャンルに縛っているわけではないんですが、さっき山田さんが言ってくれたようなバンドたちは、たしかにありますね。

ー村松さんが音楽を好きになったきっかけは何ですか?

村松:原体験はザ・ブルーハーツ(THE BLUE HEARTS)を小学生のときに聴いて衝撃を受けたというのがありますね。あのときに色んな悩みとかを超えた場所で音楽ができるんじゃないかと思って。漠然とした初期騒動でしたけど、その憧れがあってバンドで音楽を作ろうと考えるようになっていきました。

ー今回、山田さんがキュレーションされた背景には、運営しているFILE-UNDER RECORDSの性質も関係してくると思うのですが、どんなセレクトをしているショップなのかを教えていただけますか?

山田:基本的にはインディペンデントな姿勢にこだわっているのが、スタート当時からのスタイルです。ジャンルに関してはフォークや弾き語りもあり、インディーロックからポストパンク、ニューウェーブもあり。ノイズとか実験的なものやアンビエントだとか、非常に雑多ですね。オープンしたのは2002年で今年ちょうど20周年を先月迎えたんですけど、ちょうどスタート時にザ・リバティーンズ (The Libertines)とかザ・ストロークス(The Strokes)といったアーティストが作品をリリースしていた時期で、そういうスタンスでシーンを動かしていくアーティストをプッシュしていきたいっていう思いがありましたね。今でこそ名盤の再発とかが(レコードで)出ていますが、それだけではなく無名アーティストや、これからシーンを担っていくであろう人をメインに扱っていきたいという姿勢は20年間変わらずあると思います。

村松:名古屋では、本当にFILE-UNDER RECORDSから音楽が知れ渡っていく感じがあって、山田さんがいるからポストパンクとか色んな新しい音楽に興味を持つ若者が今もいると思うんですよ。実際に僕も音楽だけではなく、名古屋のシーンそのものを教えていただいたと思っています。それまでは、名古屋にいながら地元のディープな場所をしらなかったんですよね。イギリスはどうだとか、海外の新譜ばかりチェックしていたんですけど、名古屋には、こういうバーやライブハウスがあって、こんなイベントがあってってことを教えてもらっていて。その場所に通うようになって知れば知るほど東京にはない面白さを感じていますね。

BOARDのようなバンドを選出してくれたHEATに興味が出た

ーそんな付き合いを経て、今回HEATでBOARDをキュレーションしたのは、どういう理由があるんですか?

山田:さっきもバンドの成り立ちの話が村松くんからありましたけど、バンド経験のない人間を誘って、いきなりロンドンに行って、ライブハウスの扉叩き、今日ライブやらせてくれみたいな無鉄砲なことをしてきたわけじゃないですか、BOARDは。でも、色々と話をしていると、彼らの眼差しには真摯な思いが宿っていて、こう……目にやられるというか。めちゃくちゃをやっているようでいて、実際は確信的に将来のビジョンを見据えて、しっかり動いてるんだなってことを感じ取ったのが大きいですね。あとは、お店のセレクトとしてポストパンクを扱ってきた歴史があるので、BOARDがいいと思ったんです。

村松:信頼している山田さんからのお話でしたし、HEATとしても僕らみたいなインディペンデントなバンドをやってみようと思っていただけたということに興味がありましたね。サポートしていただいて、色んなことに挑戦できる機会なので、やる以外の選択がなかったです。すごく嬉しいです。MVを撮影するというのも、今回のHEATが初めてのことなので。

ーHEATというプロジェクト自体には、どういう印象を抱きましたか?

山田:日本の業界の中だとありそうでなかった企画だと思いますね。キュレーターが20人選ばれてジャンルも様々ですし、それをAmazon Musicという巨大なプラットフォームを使って配信をしていくわけですから、音楽に触れたことのない人への影響力も大きいと思います。配信という意味で、海外のシーンへも同時にアピールできるので無限の可能性を感じますね。何より、FILE-UNDER RECORDSのようなインディペンデントなレコードショップをキュレーターに指名してくださるっていうこともありがたいですし、着眼点が面白いと思いますね。

村松:HEAT自体が面白くてカッコよくなるかどうかは、参加している僕らアーティストがどれだけカッコいいのか、どれだけ音楽に熱を注いでるかで変わっていくことだと思うので、どんな展開になるか全貌が見えない状況ですよね。でも、インディペンデントでアンダーグラウンドなカルチャーとAmazon Musicのようなビッグカンパニーが手を取り合って発信していくスタイルをうまく成立させることができれば、そこにすごい熱が生まれて面白いものになっていくんだろうと感じています。

バンドらしさを存分に発揮した楽曲を提示した

ーでは、HEATで制作した楽曲についても教えてください。

村松:レコーディングしたのは「Cast A Shadow」という楽曲です。曲自体は前々からあったもので、内容的には自分の内面的問題や悩みを歌っているものですね。BOARDの表現はそういったものが多くて、僕が何か日常的に抱えた問題を文字にしたものをセッションで合わせて作っていった曲です。

山田:全体的にミドルテンポで疾走感のある楽曲ですね。日本語詞が耳に馴染んで独特の世界観に引き込まれる感覚になり、聴き終わった後に不思議な余韻が脳内に残るというか。サビの歌詞の部分がリフレインするような気がして、もう1回聴きたくなるという中毒性の高い楽曲だと思いますし、BOARDらしさをすごく発揮できている楽曲だと思いますね。

村松:自分たちらしい楽曲をHEATで出そうっていうのは意識しましたね。レコーディングしていない持ち曲はたくさんあるんですけど、この楽曲を選んだのは、HEATの他アーティストと被りたくないという気持ちもありました。

ーちなみに、HEATでラインナップされているアーティストで気になるのは誰ですか?

村松:鋭児ですね。先日、フジロックのステージを観たんですけど、イメージしていたバンド像と全然違っていて非常に野性味を感じたんですよ。すごく気になっています。

山田:僕は、昨日たまたまBeatcafeに行って色々と話を(Katomanから)聴いたのでego apartmentに興味が湧いてきましたね。彼(Katoman)のセレクトに間違いはないので、個人的に興味があります。

ー最後に、HEATに参加して思うことを教えてください。

村松:本当に山田さんと出会っていなかったら、今回のこともなかっただろうし、もっと言えばメンバーと出会ってなかったらバンドすることもなかったでしょうから、HEATを契機に色々考えちゃいましたね。自分がMVを出したりとか、こんな人生になるなんて思ってなかったんで、HEATはそのきっかけになったので、きっと多くの人がHEATできっかけを見出していくんだと思います。配信後には、参加したアーティストやキュレーターと共にイベントとかができたら良いですよね。

山田:そうだね。HEATを通じて、アーティストとリスナーの直接交流の場があってもいいだろうし、キュレーター同士で繋がりもない方もおおいので、そういうのも含めてどういう風に展開していくのか期待感があります。村松くんが言うようにイベントがあったらジャンルを超えて多くの人にきっかけを共有し合う面白いものになるんだと思いますね。

村松:あと、今日の対談場所となったAmazon Music Studio Tokyoにはスタジオや配信できる環境もあるじゃないですか。シアトルのKEXP-FM(非営利のラジオ局)みたいな感じで、Amazon MusicやHEATが良いと思ったアーティストをピックして配信したりしたら面白いんじゃないかなとも思いました。

山田:ラジオ的なこともできるだろうし映像も配信できるでしょうしね。そうなったら多角的な発信ができて、すごく面白そうです。

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