Interview:加藤ミリヤ
12th Album『BLONDE16』
16歳のマインドを取り戻した感性

Photography_cherry chill will.
Text_Chie Kobayashi
Edit_Kazuhiko Yokoyama

Interview:加藤ミリヤ
12th Album『BLONDE16』
16歳のマインドを取り戻した感性

Photography_cherry chill will.
Text_Chie Kobayashi
Edit_Kazuhiko Yokoyama

加藤ミリヤが12枚目となるオリジナルアルバム『BLONDE16』をリリースした。2004年、16歳のときに、鮮やかなブロンドヘアでデビューした加藤ミリヤ。18年経った今、当時を彷彿とさせるジャケットと共に歌うのは、あの頃と変わらない強い想いだ。

──今作『BLONDE16』は、昨年の連続配信リリースの楽曲を中心にしたアルバムになりますが、作品としてはどのようなコンセプトやイメージを持って制作に入ったのでしょうか?

私は毎回アルバムを作ると、自分で気に入って「ドヤ!」って感じで出すんですけど、実は前作『WHO LOVES ME』はそうじゃなくて……。産後だったし、コロナ禍だったし、メンタルを結構やられていて、歌いたいことも無理やり捻出している感じがあったんです。だけど、やっぱり自分の感覚で曲を作りたいと思ったので、まずは気軽に、月に1曲くらいのペースでそのときに自分が思ったことを書く、そして自分を探そうということで、連続デジタルリリースを始めました。その中で、「オトナ白書」ができたときに『BLONDE16』の大枠が見えて。

──というと?

「オトナ白書」はLiLyさんの『オトナ白書 平成ギャルから20年、令和の東京、40代へ』というエッセイとのコラボで作った曲なのですが、そこで改めてギャルに立ち返ったというか。今の時代、「ギャル」という言葉が私の世代でいうギャルよりも、もっと幅広い意味で使われていると思うんです。“我が道行ってるやつら”みたいな。そういうことを考えているうちに、自分の中に「ギャル」というワードが蘇ってきて。昔は「ギャルだね」って言われると、ディスられている気がしてちょっと嫌だったんですけど、今の時代のギャルについては、むしろ今私が表現したいことだと思った。同時期に、ある女性雑誌の編集長の方に「ギャルの教祖って今でもミリヤちゃんなんだよ」と言ってもらって。そのとき「30代でママだけど、私は今ならギャル名乗れるかも」と思って。そしたら「オトナ白書」の<I’m a GAL .I’m a QUEEN>というフレーズがぽろっと出てきて。そこから『BLONDE16』の世界観が見えてきました。

──なるほど。

あと『BLONDE16』の「16」というのは、自分がデビューしたときの年齢なのですが、今、あの頃のメラメラした感性に戻っているなという感覚があって。この3年くらいずっと、そこに戻りたかったんだなと気付いたんです。

──16歳の感覚に戻りたかったのはどうしてだと思いますか?

私たぶん、16歳の頃の自分が好きなんです。音楽を始めた頃って、湧き水のように歌いたいことが出てきたし、“やってやろう”という気持ちがすごく強かった。今は30代で母にもなったけど、あの頃の残像がずっと残っていて。今の自分は、世の中を引っ張っていきたいという気持ちがあって、そういう人間はやっぱり気合いが入っていないといけないと思うんです。そういう意味で、今の私にもやっぱりメラメラが必要で。だいたいの世の中の人が私のことを知っていて、好きに音楽やっていったらいいじゃんって思う人もいると思うのですが、そうじゃなくて、もっとガツガツ行こうぜって。今、そういう気分です。

──それこそ、だいたいの人がミリヤさんのことを知っていて好きに音楽やっていてもいいはずなのに、今またメラメラしているのはすごく頼もしいですね。

スタッフが変わっていっていることも大きいのかもしれない。例えば私のキャリアで一番売れたアルバムは『Ring』(2009年リリース)ですが、当時、自分のやりたいことと世の中の求めているものがすごく合っているのが手にとるようにわかったんです。あのときの成功体験を、今のチームのみんなにも経験させてあげたい……と言うと上からですけど、一緒に味わいたい。それがメジャーレーベルで音楽をやる面白さだと思うから。

──成功体験を目指すぶん、「結果を残せなかったら?」みたいな怖さはなかったですか?

ないです。スタッフはみんな素晴らしくて「細かい数字は気にしないでいいんだよ」というスタンスなので。あとはコツコツ続けていることに意味があると思っているから。今は、どんどん新しいアーティストが出てきて、音もどんどん上書きされていっちゃう時代。その中でいろんな人の耳に引っかかり続けるためには、曲を出し続けるしかない。それが私のやりたいことでもあるし。それこそ数字が簡単に見える時代だからこそ“どう動いたらどういう数字が出るのか”みたいな実験みたいな感覚もあって。だから今までやったことのないクラブツアーもやってみたりして。うん、実験を繰り返している感じです。

──お話を伺っていて、今のミリヤさんは音楽活動をすごく楽しんでやられているんだろうなと感じました。

めっちゃ楽しいです。スキルも10代の頃とは全然違うから、イメージしたものがちゃんと歌で表現できるのも面白いし。あとは当時と比べて圧倒的に音楽も聴くようになって。いちリスナーとしていろんな音楽を聞いて、いい意味で刺激されたり、お尻を叩いてもらったり、自分よりももっと若い世代の人たちに感化されたり。そして、自分の声を使ってもっといろんなことをしたいなと、さらに思っています。

──それこそ今作では「BAD CHASING feat.ShowyRENZO」と「BE MY BABY feat.Yo-Sea」で若手のラッパーとコラボされていますよね。そのアンテナの広さにも驚かされました。それこそ、世の中のだいたいの人がミリヤさんを知っている状態で、今、若手のラッパーとコラボするのはどうしてですか?

ずっとソロをやっているので、正直、1人で黙々と作っているほうが楽なんですよ、良くも悪くも。でも誰かと一緒にやると感性が倍になる。それが面白いんですよね。清水翔太と“ミリショー”をやっていたときもそうですけど、1つのトラックに対して、2人だったら2つのメロディができて、2つの歌詞ができる。ミリショーのときは、そこから良いものを選んで使っていく、という作り方をしていて。今もそれに近い作り方をしているので、自分にないものを引き出してもらえるし、発見もある。あとは若い世代はレコーディングの仕方も全然違って面白いから、レコーディングを見たいというのもありますね。だからフィーチャリングは積極的にしていきたいし、逆にラッパーにもどんどん呼ばれたい!

──そんな若手ラッパーとコラボした楽曲について。「BE MY BABY feat.Yo-Sea」は昨年配信リリースされているので、ここでは「BAD CHASING feat.ShowyRENZO」についてを聞かせてください。ShowyRENZOさんとコラボすることになったのはどういった経緯だったのでしょうか?

今ってめちゃくちゃいろんなラッパーがいるし、基本的にみんな超イケてる。スキルも5年前、10年前とは全然違う。だから一緒にやりたいラッパーはたくさんいるんですけど、今回はちょうど「RENZOくんがいいんじゃない?」と紹介してもらったタイミングだったので、一緒にやることになりました。

──ShowyRENZOさんとの楽曲制作はいかがでしたか?

面白かったです。彼はフリースタイルでレコーディングしていくので、何も持たないでスタジオに来るんですよ。で、私のパートの歌詞を確認してブースに入って、フリースタイルを何回もやって良いものをキープ、というのをパートごとに繰り返しながらメロディと歌詞を作っていく、というめちゃくちゃ効率の良い作り方をしていて。衝撃的でしたね。私は家で何時間も作っているのに、ブースでフリースタイルしながら作っていくなんて。そういうレコーディングを見られるのはやっぱり面白かったです。

──確かに効率は良いですけど、そのスタイルでレコーディングをするのは勇気が要りそうです。

ですよね。しかも、私の曲だからね(笑)。

──確かに。自分の曲ならまだしも、他人の楽曲で(笑)。

ね。しかも堂々しているんですよ。「どうも〜」みたいな感じで来るの。私たちの時代は“挨拶は絶対”みたいな感じだったから、そういうのも「いいぞいいぞ」と思いながら見ています。

──曲順が前後してしまいますが、1曲目のリードトラック「Respect Me」は、トラックも歌詞もものすごく攻撃的でインパクトの大きな1曲ですね。この曲ができた背景を教えてください。

「Respect Me」は本当に歌詞もトラックもあわせて、過去イチ強い曲。この曲は、最初からはっきりと“君臨している”みたいなものを作りたいと思って制作に入りました。Ryosuke “Dr.R” Sakaiさんのスタジオに行って「君臨している感じで、神々しくて、ホーリー感もあって、クワイアっぽい世界観もあって〜」というイメージを伝えて、このトラックを作ってもらいました。それにあわせてトップラインだけ先に作っていったときに「Respect Me」というワードが出てきて。この曲は「Respect Me」で決まりだ!と思いました。というのも、まさに今私は、「みんなもっと自分を崇めたほうがいい」と世の中に言いたくて。もっとみんな自分を評価してあげていいんじゃない?って。

──前作「WHO LOVES ME」は“自分を愛してあげる”ということが1つのテーマだったと思うのですが、そこからさらに1段階上がったような?

あー、もはや前作とは別人ですね。「WHO LOVES ME」はマザーアースのようなマインドでした。「あなたのことを愛している人はいるから大丈夫だよ」みたいな。でも今回はもっと偉そうな感じ。

──楽曲制作時から“君臨している”というイメージがあったり、今世の中に伝えたいメッセージが「自分を崇める」ということだったりということですが、“自分を崇めていこう”という想いが、今のミリヤさんの中に強くあるのはどうしてだと思いますか?

どうしてなんですかね。わかんないんですけど……もともと気は強かったんですけど、年齢とともにどんどん角が取れていって。“そういう自分を受け入れていこう”というマインドでずっとやってきたんです。でも……そういう自分に飽きちゃったのかな。というのも、「WHO LOVES ME」にちょっとした達成感があって。大きな愛や優しさを表現するのは「WHO LOVES ME」で十分できたから、違う自分を見たいと思ったときに、自分のなかに眠っていた攻撃的な自分がメキメキと姿を現した感じです。

──そしてラストナンバーは「愛の人」というご自身のお子さんに向けた大きな愛の曲です。

これはプロデューサーのKMさんが「1曲できました」と送ってくれた曲で。そのトラックを聴いたときに「この曲は子供のことを歌うしかない。それ以外は絶対にない」って自分の中で思っちゃって。それだけですね。そこからは、私の子供がもう少し大きくなって何か壁にぶち当たったときに聞いてもらえる曲にしようと思って作っていきました。

──ミリヤさんが母であるからこそできた楽曲ですね。

はい。正直、ブランディングとしては、加藤ミリヤに“母であること”っていらないと思っているんです。でもこの曲は、結果として入れてよかったと思いました。私のファンの中にはもちろん若い世代もいるけど、同世代で一緒に成長していってくれているファンもいて。そういう子たちは母になっている子も多い。そういう子たちが「この曲よかった」と言ってくれていたので、ファンのみんなが求めていることが多少はできたのかなと思って。ただ……「加藤ミリヤの幸せな曲ばっかり聞きたいですか?」という話で。そんなの要らないということはわかっているので、子供の曲、母であることを歌う曲は、たぶん今後も思い出したときに、くらいの感じで書きます。

──ギャルの精神性を歌った楽曲から、母としての愛情を歌った曲まで、本当に今のミリヤさんにしか作れないアルバムになりましたね。ご自身では『BLONDE16』という作品はどのようなアルバムになったと思いますか?

加藤ミリヤとしての強さもそうだし、母としての強さ、1人の人間としての強さ……いろんな強さを感じられるアルバムだと思います。そして、そこがすごく気に入っています。強くなりたいと思ってもなかなか強くなれないし、人間だからアップダウンもある。そういう中で、今は自分自身がすごく強くいられている。そんな自分の精神的な強さを表現できたアルバムだと思います。これを30代で作れたこともうれしかったんですよね。攻める姿勢を持っている自分が、今いることがうれしいです。

──ここからは作品とは離れたお話になってしまうのですが、デビュー以来、日本のヒップホップやR&Bのシーンを牽引してきたミリヤさんが、シーンの遍歴や変化をどう見られているのかをお伺いしてみたくて。

なるほど。ただ……私は自分のことを“J-POPの加藤ミリヤ”だと思っているんです。BUDDHA BRANDの「人間発電所」をサンプリングした「夜空」でデビューしているし、ヒップホップのサンプリングという手法がなかったら今の自分はいないので、もともとはヒップホップのシーンでトップになりたかったという気持ちがありましたけど、だんだん多くの人に聞いてもらえるようにと考えるメジャーでの音楽活動が楽しくなって。そこからはポップスの手法を取り入れるのが面白くなって、“J-POPの加藤ミリヤ”になっていったと自分でも思うし、たぶん周りからもそう見られていると思う。その頃から正直、日本のヒップホップやR&Bを聞く余裕がなくて。だから遍歴や変化を語るなんてできないんです。最近はまた盛り上がってきているなと思いますけど。

──なるほど。J-POPとしての音楽活動が面白かったとのことですが、今もその感覚は続いていますか?

今は全く思っていないです。私にとって、J-POPでの音楽活動って幅広い人に刺さる曲を作るということで。デビューから10年くらいまでは“幅広い人に刺さる曲とは?”と考えて曲を作っていたんですけど、今はそれよりも、「この曲がないと生きていけない」という人に、その曲を届けたいと思って曲を作っている。そういう意味で、今はJ-POPからは離れていると思います。

──では今のミリヤさんが目指しているところは、「この曲がないと生きていけない」という人にその曲を届けること?

そうです。それまではジャパンヒットチャートとかも一応チェックしていたんですけど、今の自分には必要ないと思って全く聞いていないですし。“好きなことだけしていく”というのが今の自分です。

──今のミリヤさん、身軽でカッコいいですね。

うん、楽しいです!

──現在は初めてのクラブツアーも実施中のことですが、これはミリヤさんのアイデアですか?

そうです。これもさっき話した実験の一環というか。やってみたらどうなるかなって。

──今はまだ始まったばかりですが、今のところの手応えはいかがですか?

めっちゃ楽しいです。コロナ禍でずっとクラブで踊れなかったから、『BLONDE16』の曲は一緒に歌って踊りたいという気持ちも込めて作った曲が多くて。ツアーが終わったときにどんなものを得られるのかが楽しみですね。あと、普段は夜遊びができないので、このツアーを理由に夜遊びができてうれしい(笑)。

──いいですね。では最後に、クラブツアーの残りの公演に向けた意気込みを聞かせてください。

えー、意気込みはない(笑)。意気込んでないもん。「ライブ後のテキーラを楽しみに頑張ります! だからみんなも楽しもうね」っていう感じですかね。世の中的にもやっと自由に身軽に動けるようになってきたところなので、まずはクラブに行くという気軽なところから始めて、最終的に私の単独ライブに足を運んでもらえたらうれしいです。

INFORMATION

加藤ミリヤ 『BLONDE16』

発売日:2023年4月5日(水)
価格:
初回生産限定盤 5,000円(税込)
通常盤 3,500円(税込)
オフィシャルサイト:https://www.miliyah.com/
Instagram:https://www.instagram.com/miliyahtokyo/

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