Interview:NF Zessho 配信シングル3作リリースで表現する多角的なHIP HOP

NF Zesshoが1月から3月にかけて配信シングル3作をリリースした。grooveman Spotがトラック提供した「Tru Banger」、これまでも親交のあるSweet Williamとの共作「Lasagna」、そしてセルフプロデュース作「Chakra Flow」。これまでラッパー・プロデューサーとして数々の作品を手がけてきたNF Zesshoは、これらの作品をどのように仕上げたのか。HIP HOPやラップにハマった経緯と共に伺った。

理屈抜きでラップにハマった

ー音楽に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

もともとバスケをやっていて、NBAの試合を観たりNBAのゲームをしたりしていたんですよ。HIP HOPに興味を持ったのは、中学生の頃にそのゲームの中で流れてきたのがきっかけかもしれないです。あと、当時のNBAにアレン・アイバーソンという選手がいたんです。髪がコーンロウでタトゥーもめっちゃ入ってるんですけど、彼の姿を見て「イケてるな」と思ったんですよね。あとは日本でもRIP SLYMEのようなラップを取り入れた曲が人気になってきたときで、その流れで髪を編み込んでラップしてるZeebraも知って、「かっこいいな」と。それから徐々にHIP HOPを聴くようになりました。

ーHIP HOPに惹かれたのはなぜだったんでしょう?

バスケとの親和性も高いように思えたし、ラッパーのファッションなんかも含めて単純に“イケてる”と思ったんですよね。

ーそれからHIP HOPにのめり込んでいったと。自分でもラップをやるようになった経緯は?

インターネットに自作のラップを上げている人たちがいて、それをずっとチェックしていたんですけど、見ているうちにだんだん自分もやってみたいと思うようになって。16歳のときにバイトの最初の給料でマイクを買って、そのまま録音したのが始まりでした。インターネット上でコミュニティのようなものができていて、そこにアップするとすぐにレスポンスがもらえるんですよ。辛辣なコメントもバンバン飛んでくるんですけど、逆に「もっと上手くやりたい」と燃えちゃって。そこで友達もできていたので、「そいつらには負けたくない」という気持ちもありましたね。

ー仲間たちと切磋琢磨していたんですね。技術的な部分もそこで学んだんですか?

そうですね。「このマイクが良い」「ミックスはこうやってやる」といった知識がコミュニティ内で共有されていました。みんなが「こういう曲を聴いた方が良い」「こういうのがイケてる」みたいなことを結構発信していたので、情報も受け取りやすかったですね。高校の頃はものすごくのめり込んじゃって、毎日友達と夜中まで電話しながらラップについて話してました。通話中にリリック書いてましたし(笑)。毎日朝4時くらいまで話してたから、学校にも行けなくなっちゃって。最終的に18歳で学校を辞めて、福岡から上京して知り合いの家に転がり込んでラップをやっていました。

ーラップへのハマり具合がすごいですね。そこまでラップに魅了された理由は何でしょう?

それは…もう理屈じゃないですね。俺のゴーストが「ラップをやれ」と囁いていたのかもしれないです。

ー本格的なアーティスト活動をしようと思ったきっかけはあったんですか?

良くも悪くも愚直な性格だったので、ラップを始めた当初から「絶対にこれでやっていきたい」という気持ちはあったんですけど、ちゃんと意識するようになったのは20歳で1stアルバムを出したときですね。当時はまだ有名でも無いラッパーのアルバムがCDショップに並ぶなんて割りとありえないことだったと思うんですけど、自分のCDが並んでいる光景を見て、「自分はこれだな」と思ったんです。

意味がない曲を作りたかった

ーここからは配信シングル3作についてお伺いします。まずは1月にリリースした「Tru Banger」はgrooveman Spotさんとの共作になりますが、元々繋がりはあったんですか?

俺が一方的にgrooveman Spotさんのファンではあったんですけど、直接的な繋がりはありませんでした。この曲のビート自体がめちゃくちゃ好きですし、憧れの人が作ったビートに乗れるだけで本当に嬉しくて、夢みたいでしたね。

ートラックを依頼するにあたって、イメージの擦り合わせなどはあったんですか?

最近のgrooveman Spotさんのリリースでいくと『LUV 4 ME』というアルバムがめちゃくちゃ好きで。あとはONENESSとのコラボ作品『203(GlassSet EP Remix)』も。なので、それらを踏まえた”今の”grooveman Spotさんのビートに乗っかりたいというイメージはありました。ただ、基本的にはその人のクリエイティビティを尊重するのが7割、自分のやりたい音楽3割くらいのバランスで作れたらベストだと思っています。なので、リファレンスは提示しつつも、自由にやってほしいと伝えてお願いしました。

ー自分の作ったトラックにリリックを乗せるのと、提供されたリリックに乗せるのは違いますか?

結構違いますね。自分でビートから作っているときはゴールに向かっている意識があるんですけど、人のビートだと想像してなかったところからパッとアイデアが出てくるんです。新しい発見や視点が得られるので、面白いですね。

ー2月にリリースされた「Lasagna」はSweet Williamさんとの共作ですね。Sweet Williamさんとはこれまでも共作を重ねてきていますが、今回はどのように制作を進めたんですか?

これまで一緒に作った楽曲は、ウィルさん(Sweet William)主導で進めることが多かったんですよね。アルバム『CURE』に入っている「Blono’s Way」という曲があるんですけど、それもアカペラを渡して「勝手にやっちゃってください」とお願いして作ったんです。今回は俺主導で作りたいという思いがあったので、「こういう感じにしたい」というのを伝えて作ってもらいました。

ーどのようなイメージで伝えたんですか?

Kev Brownというビートメイカーがいるんですけど、「Kevのビートみたいなバイブスが欲しい」とは言いましたね。昔、俺がKev Brownのビートに勝手にラップを載せた曲があるんですけど、当時それをウィルさんがめちゃくちゃ褒めてくれたこととか思い出しながら。あとは俺とウィルさんの好きな音楽が重なる部分があるので、そこを目指して作っていきました。ウィルさんのビートはジャジーなイメージを持っている人も多いので、ウィルさんファンの方がこの曲を聴いたら「え、このビート?」と思っちゃうかもしれないですけど、俺が思っているウィルさんの良さを出してくれた曲だと思っています。あと、この曲に関しては意味がない曲を作りたかったんですよね。

ー意味がない曲?

最近の曲って、感情を揺さぶりたい人と揺さぶられたい人たちだけでやりとりが行われている感じがあるんですよね。音楽の経済はそういう曲で回ってると思うんですけど、そうではなく、「ただラップがかっこいい」とか「曲のバイブスが良い」と感じられる曲を作りたいなと。

ーたしかに、特にメジャーシーンではメッセージ性のある曲が多いですよね。それに対して、単純に聴いていて気持ちが良い曲を作りたかったと。

そうそう。逆にこの曲はメッセージがないことがメッセージになっていますね。音楽に向き合うのは孤独。でも好きだから続けている。

ー3曲目「Chakra Flow」はセルフプロデュース曲です。孤独に音楽に向き合う自身の姿勢を描いているとのことですが、この意味合いとは何でしょう?

自分にも自分が作る音楽にもちゃんと向き合わなきゃいけないのは辛いですよ。でも思っていることを書き出して、誰かが喜んでくれたらいいなと思ってます。人間って、受け入れ難い状況になったときに、その不安を軽減しようとする心理的メカニズムとして防衛機制があるんですよ。その防衛機制にも色んな種類があるんですけど、そのうちの一つが昇華なんですね。要するに、満たせない欲求などを小説や歌詞といった別の角度から自己実現しようとすることなんですけど。これを昔友達から聞いたときに、「やるべきことはこれなのかも」と思いましたね。

ーなるほど。歌詞にも「とにかくストレスフルな毎日を送る自分のツケのせい」とありますね。これにはどういった背景が?

俺くらいのラッパーだと、生活できるくらいには稼げるけど、資本主義の中でうまくサバイブできるか?っていうとそうでもなくて。真面目に金のこととか考えながら音楽やるのもなんか気が乗らないけど、そう言ってただ1日をぼけっと過ごしてるだけの自分にもイライラするし、この社会に対しても思うことはあるし…と色々ありますね(笑)。まぁでも誰しもが抱えてるであろう日々のストレスとかは俺にもあるし、もっと自分のパーソナルな部分の悩みとか。そういうの全て含めって感じです。

ー自分と向き合うにあたって辛い場面もあると思いますが、それを乗り越えて曲ができると報われるような感覚があるんでしょうか?

いや、曲ができた後も全然つらいですよ(笑)。ただ、後から振り返ったときに「このときこんな気持ちだったんだ、辛かったけど今となってはよかった」と思うことはありますね。辛いまま走っている感覚はありますけど、結局は好きだから続けています。

ー制作はいつもどのような流れで?

「1にビート、2に言葉」だと思っているので、「ラップしたいからビートを作る」というところから始まるんですよね。とりあえずソフトを立ち上げて、ドラムを鳴らしてシンセを流して…と、とにかく手を動かします。

ー「Chakra Flow」はセルフプロデュースとなっていますが、「こう見せたい」という客観的視点も結構入っているんですか?それとも自分が作りたいものを作っているのでしょうか?

半々かもしれないですね。どっちとも言えるし、どっちでもないというか。見え方を気にしている自分もいるけど、気にしたくない自分もいるみたいな。でも、作りたいように作っているほうだと思います。「こういう曲を作りたい」というイメージがあったとして、その熱があるうちに作らないと飽きちゃうんですよね。飽きちゃうと作ったとしても微妙なものになってしまうので、セルフプロデュースでは自分が今ハマっているものを表現しています。

ー今作のトラックのイメージはあったんですか?

HIP HOPの中でもBoom BapやTRAPだけに限らず色んなサブジャンルがあるんですけど、そういった枠のどれにも当てはまらない曲を作りたいなという気持ちがありましたね。あと、他に候補として作ってたトラックも「Chakra Flow」と同じように割り切れないBPMでピアノを使っていたので、そういった意識はあったのかもしれないです。

ー3ヶ月リリースを経て、今後の展望はどう見えていますか?

前のアルバムを出してから4〜5年経つので、そろそろ次を作ろうかなと考えています。このプロジェクトをやっているときもエンジニア的な勉強は我流ですが欠かさずしていて、ミックスを自分でやっているんですけど、ようやく自分が少しだけ納得できる音質やビートメイクができる段階になってきた気がするんですよね。

ーアルバムを作るとしたら、一から曲を作るんですか?それとも今までのストックから?

これまでに作ったビートから選ばれに選ばれたものだけは残っているので、それを使いつつ、新しく作りつつになるかなと。誰かに「一緒にやりましょう」と言われたら結構勢いでやっちゃうタイプなので、そういうのも楽しんで作りつつ、来年くらいにアルバム出せたらいいなと思います。

INFORMATION

NF Zessho

「Tru Banger」
配信:
https://lnk.to/NFZessho_TruBanger

「Lasagna」
配信:
https://lnk.to/Lasagna

「Chakra FLow」
配信:
https://lnk.to/chakraflow