MUSIC 2023.06.19

Interview: eill ラブソング“happy ending”に描いた揺れ動く恋心

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Hidetoshi Narita, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

シンガーソングライターeillが6月14日に新曲「happy ending」をリリースする。本楽曲はAmazon Prime Videoで6月から独占配信される恋愛リアリティ番組『ラブ トランジット』の主題歌でもある。ビートが心地よく、切ないメロディに情景描写が魅力的なリリックと、ほどよく揺れる心地よいビートで織りなすバラード。来る6月22日には5周年記念ライブも控えたeillに、楽曲への思いを聞く。
 

ビート先行でバラードを作ったのは初めて

 

ー「happy ending」ですが、別れの歌だと感じました。実際にどんな世界を描いていったんですか?

eill:別れていく恋人同士のお話ではあるんですけど、まだ相手のことを好きかもしれない、でもそれは情かもしれない、みたいな。そういう感情の狭間を彷徨っている恋人同士の話を描きたいと思って歌詞を作ったんです。
 

ー最初と最後の歌詞がリンクした内容も印象的ですね。

eill:悲しい気持ちさえも受け入れて美しく終わっていく恋になってほしいという気持ちから、こういう表現にしたんです。その思いもあってタイトルを「happy ending」にしたんですよ。
 

ーなるほど。ただの失恋ソングではないという。

eill:そうですね。私もそうなんですけど、恋をしている最中って揺れ動く瞬間がたくさんあるんじゃないかと思っていて、そういうタイミングに聴いてもらえる曲になればいいなと思っています。
 

ー歌詞には<ck1>など、具体的な単語やシチュエーションが描かれていますが、これは何か参考にしたものがあるんですか?

eill:それは「happy ending」が『ラブ トランジット』の主題歌だからっていうのが大きいですね。この番組のタイトルにある意味や内容的なものをもとに、頭の中で物語を作っていったんですよ。すれ違っていく恋人たちの交差点的なことを思い浮かべながら描いていきました。
 

ーそれで、生活感が感じられる描写もあるんですね。

eill:はい。2人で狭い部屋にいたシーンを考えて、香水の香りが服や身体に残っていたりだとか。その香りを取り除きたいけど、なくなってしまったら何かが欠けてしまうような感覚になる気がしていて怖い、みたいな。そういうシチュエーションをいろいろと考えていましたね。
 

ー今回は『ラブ トランジット』の主題歌でもあったわけですが、テレビ番組や映画などから表現に対する影響を受けることは多いですか?

eill:そうですね、私はアニメが好きなので、そこからインスパイアを受けることはあります。勝手に好きなアニメの主題歌のつもりで作ってみるとか、そういうことはよくやります。
 

ーでは、楽曲について。ESME MORIさんとはどういうやり取りがありましたか?

eill:バラードを作ろうとは思っていたんですけど、恋愛リアリティ番組の主題歌ということもあって、若い世代のグルーヴにマッチする曲にしたいと 考えていたんですよね。なので、ただのバラードではない表現をどうするのかについて、モリさんと話し合いながら一緒に作っていきました。それで、HIPHOP的なビートのうえにピアノの不思議で切ないメロディが乗っかる構成になっていったんです。今回、ビート先行で後からピアノを乗せていったんですけど、こういう作り方は初めてのことでした。
 

自分の中でラブソングの新たな扉が開いた

 

ー普段はメロディ先行で後からビートなどトラックを練っていくということですよね。初めての作り方をして、何か新たな発見などはありましたか?

eill:普段の制作からミクスチャー的な表現はよくやるんですけど、「happy ending」にはラップも入っていて、これも初めてのことだったんですよね。こういうHIPHOP的アプローチから曲を発展させていくことがすごく楽しくて、結果的にカッコよさと切なさと洗練された感じがよいバランスに整ったかなと思っています。
 

ーたしかに、こういった楽曲でラップするというのはeillさんにとってもチャレンジだったと思うのですが、いかがでしょう?

eill:そうですね。これまでにトラップを意識してラップをやった曲はあるんですけど、こういうバラード的な歌ものにラップをミックスさせるのはやったことがなかったですし、面白いなと思いました。シティポップ感も出るし、曲としての個性も出て、同時に『ラブ トランジット』にもマッチする曲になったんじゃないかと思いますね。


 

ー総じて「happy ending」はeillさんにとって、どんな楽曲になったと思いますか?

eill:自分の中の新たなラブソングの扉を開いてくれる曲になったんじゃないかと思います。ラブソングを作るというのは、自分の中ではずっと特別なことで、リリースする度にハラハラドキドキするんですよ。他の曲であれば、実体験や人から言われてハッとしたことを歌詞に落とし込んだりするんですけど、ラブソングを描いているときって脳内が作家っぽくなっているんですよね。頭の中に主人公が明確にいて、その人物がストーリーを作っていく。そんな視点で曲を描いているなって実感がすごくあるんです。「happy ending」を制作しているときにも、その感覚がありましたね。


 

ー今回はジャケットのアートワークもご自身で担当されたのだとか?

eill:そうなんです。文字が写真のうえにこういう感じで入っているのは、映画のエンドロールを意識したからなんですよ。写真は友人のフォトグラファーのYumi Kawaiちゃんにお願いして、自分たちでライティングを組んでやったんですよ。真っ赤だけど、少し青さもあるような色合いにして、その間を揺れ動いているような感じにしようって言いながら撮影しました。全体的にエンディングっぽさを表現したいと思って作っていきましたね。こうやってアートワークも作っていくのは楽しいです。曲とジャケットの印象が合っていないともったないですし、「happy ending」は自分で考えることができて、すごくよかったです。
 

ー来る6月22日には5周年記念ワンマンライブ『MAKUAKE』がEX THEATER ROPPONGで開催されますが、この5年はeillさんにとってどんな時間でしたか?

 
eill:短かった感覚はありますけど、振り返ってみると、すごく長い道を歩いてきた感覚があります。何者でもなかった私が「MAKUAKE」でデビューして。あの頃は、自分の人生が素敵になればいいなっていう気持ちで、幕が開きますようにって思いから歌詞を描きましたけど、この5年で新たな自分をずっと開き続けてきた感覚があるんですよ。いろんなものを捨てたし、得てきたと思います。だから、このライブが、また次の5年に向けた新たな幕開けになってほしいとすごく思っています。
 

ー5周年を過ぎると、次は10周年が待っていますが、今後はどうなっていきたいと現時点で考えていますか?

eill:この5年は本当におんぶに抱っこで何とかやってこれた感覚があって、1人でもステージに立てばeillになれるんだって感覚にようやく慣れてきたところなんですよね。だから、今後はもっと具体的に、自分の力で自分らしい世界観を作れるようになっていきたいという気持ちがあります。だから「happy ending」のアートワークにもチャレンジしてみましたし、今後もスキルを磨いていきたいです。あと、私にはもともとプロデューサーになりたいという夢があって、自分が1から作るものをやってみたいとずっと考えているので、10周年を超えた先にそういうことができるような状況になっているように頑張っていきたいと考えています。

 
 

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