HaruyがセカンドEP『1414』を完成させた。SuchmosのHSU(小杉隼太)がプロデュースを手がけたファーストEP『MAO』のリリースから1年1か月。HSUがこの世を去ったあと、Haruyはどんなことを考えながら音楽と向き合って、これらの楽曲を生み出したのか。Haruyにじっくり話を聞かせてもらった。――HaruyやTAIHEI(Suchmos / 賽)を通して、HSUは今もこの音楽の中で息をしている。
―前作『MAO』で隼太さん(HSU)と制作していた楽曲を発表したあと、これからHaruyとしてどんな音楽を作っていくのか、きっと色々な考えを巡らせた上で、このEPにたどりついたのだと思います。
Haruy:そうですね。最初にTAIHEI(Pf/Suchmos・賽)さんと「Landscape」を作って、次に「SENA」のデモを作っていたんですけど、テンションの差が大きくあって。いい意味で、いっぱい気持ちが動いた1年でした。恋愛もそうですし、大学も卒業して、自由な時間が増えて考えることも多くなりましたし、地方へライブに行くこともそう。全部が新しくて、今までになかった刺激がたくさんあって。いろんな出来事が自分の中で起こっていて、それがロードムービー、ロードトリップみたいだなと思って、そういった方向のEPにしようと決めました。
―『1414』というタイトルは、今話してくれた内容と関係するものですか?
Haruy:ちょっと関係してるのかな。ジャケ写に1と4、14という数字が写っていて、これが気になって。エンジェルナンバーってご存知ですか? 日常でよく目にする数字とか気になる数字には意味があるというものなんですけど、ちょうど1と4が気になっちゃって、調べたら「これからいい方向に向かっていく」とかの意味があったんですよね。あと「ツインレイ」「双子の魂」といった意味があるらしくて。前世で生き別れた双子が再会する予兆がある、みたいな意味があって。隼太さんが亡くなったこともあるし、この楽曲がいろんな人と巡り合ってくれて、この曲と聴いてくれる人の心が双子みたいに近くにいてくれたらいいなと思ってこのタイトルにしました。
―サウンド面においてはTAIHEIさん、市川仁也さん(Ba/D.A.N.)、澤村一平さん(Dr/SANABAGUN.)の3人の存在が核になったといえますか? 前作は打ち込みも使ったサウンドメイクが主でしたけど、今回は生楽器がメインになっていますよね。
Haruy:そうですね。「Town」以外は演奏してもらっていて、「Moonrise」にはTAIHEIさんが打ち込みをちょっと入れてくれましたけど、あとはほぼ生でやってますね。
―勝手な解釈かもしれないけど、3人が隼太さんの音もHaruyさんに対する想いも継いでくれているような気がして。
Haruy:そうかもしれないです。TAIHEIさんは「この音、隼太好きそう」とか言ったりしてた気がします。
―仁也さんのベースの音も、隼太さんの音を意識されていますよね。
Haruy:ねえ。引き継いでる感じ。D.A.N.とは全然違う音ですよね。
―そこは何か話し合って意図的にやっているというより、仁也さんが感じ取って自然とそう弾いてくれているものですか。
Haruy:はい。「隼太さんの感じ」とかは全然聞いたことがなくて。みんなでスタジオに入って、「こういうのどうかな」って弾いてみてくれて、「いいね」ってなったらそれ入れていく、という感じでした。でも私はもっと仁也さんを出してきてくれてもいいなと思ってます(笑)。こないだ地方に行ってご飯を食べたときに話したんですよね。「どういうふうにしてほしい?」って聞かれて、「もっとみんなの個を出してほしい」って。一平さんもそう。自分の癖みたいなのをもっと出して、それがうまく合わさって新しい形になったらいいなと思っています。
―一曲目に作った「Landscape」は、どういう経緯でTAIHEIさんのピアノに歌を乗せることになったのでしょう。『MAO』のリリースライブのアンコールで初披露されたとき、嘘じゃなく本当に、涙が出てきちゃって。
Haruy:私が号泣してましたもんね(笑)。最近やっとライブで泣かずに歌えるようになりました。隼太さんのことを考えていたときに作った曲だったので。まだあのときは……今も完全に受け入れられているわけじゃないですけど、「なんで?」ってすごく思っていたときだったから苦しくて。こうやってインタビューで話したり、隼太さんがお世話になっていた方にお会いしたり、曲も出したりする中で、少しずつ進んでいってるというか。せっかくデビューさせてもらったからには、ここで止まるより、たくさんの人に『MAO』を聴いてもらえるように活動を続けていこうと思っています。
―『MAO』を作り終えたあと、Haruyをやらなくてもいいんじゃないか、みたいなことを考えたりもしたんですか?
Haruy:ああ、考えたかも。「やらなくていいかも」というか、「どうしよう」みたいな気持ちが大きくて。隼太さんがいなくなってどうしよう、って。もともとずっとプロデュースしてもらうことが決まっていたわけでもないんですけど、不安になった時期がありました。TAIHEIさんが「Landscape」のピアノを送ってきてくれたり、仁也さんと一平さんもやってくれることが決まったりして、この人たちがいるならやっていけるんじゃないかと思えましたね。
―「Landscape」はTAIHEIさんが急に送ってきてくれたものだったんですか?
Haruy:「Don’t catch the now」(『MAO』収録)でキーボードを弾いてくれていて関わりもあったので、金子さん(金子悟。Haruy、Suchmosのプロデューサー)が「TAIHEIと一緒に曲やろうよ」と言ってくれて。直接お会いする前にTAIHEIさんが私をイメージして送ってきてくださったのがこの曲で、それに私がメロディと歌詞をつけました。レコーディングのときは、TAIHEIさんが借りてきてくれたYONCE(Suchmos・Hedigan’s)さんのマイクを使わせていただいたんです。ビンテージマイクで、めっちゃいい音で。まだYONCEさんとお会いしたことはないんですけど、直接お会いできたときはお礼をしなきゃなって。本当、隼太さんのおかげでいろんな人に助けてもらって曲を作ってます。
―めちゃくちゃいいエピソードですね。『MAO』に入っている「Ryan」は、隼太さんが亡くなったあとに隼太さんへの想いを書いたものだったと思うんですけど、「Landscape」は「Ryan」とまた違うというか、心を一歩前に進めることができた感覚を感じ取っていたんですね。
Haruy:そうですね。これがきっかけでちょっと変わっていけたのだと思います。「Ryan」を作ったあとはまだ「この気持ち、どうしよう」と思っていて、リリースされるまでの時間は、考えたら下がっちゃいそうだから考えてなかったんですけど……でも金子さんは、考えるためにこれを作って、って言ってくれたのかもしれないです。隼太さんのことについて書いて、とは言われてないですけど、これからも一緒に作った曲を歌っていく中で絶対に隼太さんのことは考えちゃうから、そこに向き合う覚悟はあった方がいいかもしれないね、ということを言われていて。そういうことを考えていたときに、この歌詞になったのかなと思います。
―前に歩めたからこれを書いたわけではなく、歩むために書いたものだったんですね。
Haury:そうですね。結局、そうなりましたね。
―「Landscape」の次に作ったのは「SENA」ですか?
Haruy:そうですね。「SENA」は作曲が私になっていますけど、デモをみんなに投げて、そこから「こういうリフ入れたらどう?」みたいに言ってくれたりして。もともとは、頭にも出てくるサビのメロディを思いついたところからスタートしました。冒頭のアカペラは「Killing Me Softly With His Song」の最初みたいにしたくて。だんだんコーラスが重なって、最後に広がって、パッと曲が始まる、みたいな。あと、サビのメロディが昔の月9ドラマっぽいなと思って。『ロングバケーション』とか、昔のドラマにある「絶対に引き寄せられた人たちの恋愛」みたいなイメージ。それこそツインレイもそうですけど、一緒にならざるを得ないカップルというイメージで書いていきました。
―「SENA」には何か意味があるんですか?
Haruy:『ロンバケ』の瀬名、木村拓哉さんの役名(笑)。この曲の仮タイトルは「キムタク」でした。
―ああ! なぜそこまで『ロンバケ』や昔のドラマの雰囲気に惹かれて曲を作ったのでしょう。
Haruy:思いついたサビのメロディがそれっぽいなと思ったのと、あと韓国の15&という女の子2人組の「Can’t hide it」がすごく好きで。メロディができたときにこの雰囲気に似てるなと思って。服もちょっとトレンディドラマっぽい感じがするんですよね。
https://www.youtube.com/watch?v=3Wp-L75pgT0
―前にも、明るすぎない、ポップすぎないものが落ち着くと話してくれましたよね。「Town」にも独特なサウンドスケープがあって、Haruyさんのライブで感じるものに近いものを音源で感じました。これはどういうイメージで作っていったのですか?
Haruy:EP全体のロードムービーのイメージとして、昔の雑誌に載っていた吉川ひなのさんの写真があって、それをメンバーのみなさんにも、アー写を撮るときにも共有したんです。ちょっと田舎っぽい、都心ではないところの、平らな家がポツポツとある街の広い道に、なんか不思議な女性がいる。よく見たらすごい格好をしてるし、どこから来たのかわからない。それこそ私がデビューして……今まで芸能界とか音楽業界にいたわけでもなく、隼太さんに誘ってもらって、デビューして……なんて言うんだろう、自分が「シンガーソングライターだ」というイメージも自分の中であんまりなくて。
―そうやって呼ばれることに慣れないというか、ちょっと変な感じがするというか。
Haruy:そう。「歌の世界に入った、よくわからないままの自分」みたいなものが「Town」とかこのEP自体のイメージ。この街でご飯食べたり散歩してたり恋愛もしてるかもしれないし。その中で「Town」はもう一人誰かいて、その存在とこの街で会って一緒に歩いている、というイメージですね。
―それはここで出会ったリスナーのことも指しているし。
Haruy:うんうん、そうですね。
―芸能界や音楽業界の未知感を表すときによく「シティ」が描かれるけど、Haruyさんの中では「Town」だったんですね。
Haruy:確かに。そんなに明確じゃないというか、くっきり見えてない世界。晴天とかでもなくて、ちょっと曇ってる。まだわからない。そこでキョロキョロしながらちょっと疑いつつ、どうなるかわからないけどとりあえず進んでみよう、みたいな気持ちだったのかな。だからシティよりかは、ちょっと離れたところだったのかなと思います。
―「Moonrise」だけ作曲のクレジットにTAIHEIさん、仁也さん、一平さんの名前も入っていますが、他とは違う作り方をされたのですか?
Haruy:最初に私がお渡ししたものはレゲエだったんですよ。でも「なんか微妙だな」ってなって、あまり考えずにセッションしてみようというところから「Moonrise」の原型ができました。「SENA」のコーラスは私が考えたものだったんですけど、この曲のコーラスはTAIHEIさんが「こういうの入れた方がいいかもね」って言ってくれて重ねたもので。この曲の仮タイトルは「トム・クルーズ」だったんです(笑)。最後の4つ打ちになるところが、トム・クルーズが出てるアクション映画の、ドキドキハラハラする危険なシーンにかかってそうで。
―確かに(笑)。歌詞に関してもお聞きしたいんですけど。
Haruy:これ、どういうふうに聞こえますか? TAIHEIさんに「これってラブソングだよね?」「《Love letter》って書いてあるしさ」って言われて。そんなつもりで作ってないんですけど、って(笑)。
―パートごとにHaruyさんの思想が濃く出てる曲だなと思います。《Love letter》とあるサビに関しては、音楽に対してどういう思想を持ってるか、みたいなことを私は感じ取ってました。
Haruy:ああ確かに。音楽だけじゃなくてもいいんですけど、素直でいてほしいし、素直でいたい。誰かにラブレターを書くようにそのまんまの気持ちを出した方がいいんじゃない、って。お金とか権力とか関係なく、1対1の対話が大事なんじゃないかって。
―その前の英語の二行《We live under the sun and the stars./I don’t know what we’re fighting for.》も同じような生き方のことを言っているのだろうし。
Haruy:そうですね。
―《立ち止まれない時代性/ひびかない 不干渉》は隼太さんが書きそうな歌詞だなあと思ったんですよね。
Haruy:いやあわかります、そうなんですよ。隼太さん、「○○性とか四字熟語を入れるの、いいと思うんだよね」みたいなことを言っていたんですよね。あと、隼太さんの歌詞って、体言止めが多くないですか?
―確かにそうかも。この曲に限らずだけど、隼太さんに寄せようとして作ったというより、教えてもらったことがHaruyさんの基盤になっているということですよね。
Haruy:そうですね。あとあと「隼太さんっぽいなあ」ってなりました。
―たとえば隼太さんが書いたSuchmos「SEAWEED」には《不感症》という言葉が使われていましたけど、今回Haruyさんが《不干渉》という漢字を使ったことには、どういう想いがありました?
Haruy:そう、めっちゃ迷って。「感じないこと」と「関わらないこと」って、意味合いとしてはちょっと似てるなと思うんですけど。感じないから興味もない、というイメージですかね。
―それは人に対してだけじゃなく、いろんなことに対して。
Haruy:うんうん。世の中とか他人に対して、自分のことじゃない、みたいな。全部他人事、というイメージですね。
―イントロには「LOVE」「ROMANTIC」「TRUST」「ANGER」などの言葉が並びますが、これはどういうワードをチョイスされたんですか。
Haruy:それもTAIHEIさんの案でした。この曲に対するイメージのワードでもありますし、ちょっと混乱してる感じ、モヤモヤしてる感じを、韓国語、英語、日本語で入れました。ロードムービーの中で、平坦に時間が過ぎているんだけど、生きていたら絶対に何かあるし、そういうときに不感症にならないようにしたいなって。たとえば怒りを覚えたときに、その怒りを忘れちゃうよりかは、その一瞬の感情をエネルギーにしたり、誰かに気持ちを伝えたりした方がいいと思う。どんな感情も流しちゃいけないというか。自分の中ででもいいから、なんでそう思ったかとか、何がそういうふうに思わせたのかとか、1個1個、ちゃんと考えられたらいいなって。
―最後の、音の渦が巻き起こるループの中で《It’s hard to be alive./I love now because of you》という言葉がまたいいですよね。
Haruy:前向きに進んでいこうとしているEPだし、そういう自分の心境でもあったので。今の日本に対してもそうですし、戦争のことも、世の中には色々な問題が山積みでこの先どうなっていくんだろうと思っちゃうけど、一瞬一瞬の感情を感じさせてくれる人のおかげで毎日「生きてるな」と思うから。しんどいと思うときもあるけど、でもそれも生きてるからこそ感じることだと思うし。あまり何も考えないで生きていると、そんなことも忘れちゃうじゃないですか。それに自分が考えなかったら、人のことも考えられないから、自分がどう思うかをまず考えないとなって。だからみんなで考えられたらいいよね、という曲ですね。《you》は魂が繋がってる誰かというイメージです。この曲を聴いてくれている人のおかげで、私が歌えているので。
―ある意味、ラブソングではあったんですね。恋愛に限らず、その《you》に対する大きな愛。
Haruy:確かにそうかも。TAIHEIさん、合ってたのかあ(笑)。
―「Moonrise」、あの2行は隼太さんが書きそうな歌詞だと話しましたけど、全体的にSuchmosの思想と近いものがありますよね。
Haruy:確かに。思想は似てるかも。でも、そうじゃなきゃ一緒に曲できないですよね。
―それはそうですよね。
Haruy:一平さん、仁也さんも、割と近いと思う。サポートしていただくならばそうであってほしいですし。
―このEPをリリースしてからも、Haruyさんの心の流れのスピードに合わせて、「Town」で話してくれたような街の中で一歩ずつ、ロードトリップを続けていってほしいなと思います。
Haruy:ずっと続いちゃうかもですね、このロードムービー感。でもNewJeansのおかげで、ずっと歩いていたのが、ちょっとランニングっぽい気持ちになっています。
―へえ! 音楽活動をしていく上での背中を押されてる、ということですか?
Haruy:はい、刺激になります。最近ほぼ自分の曲かNewJeansくらいしか聴いてなくて。ビートが立ってるけど懐かしさがあるから好きなのかもしれないです。気が張ってるようなパワフルすぎる曲はあまり聴かないですし、自分が歌うのも声質的にちょっと違うかもという感じで。NewJeansの子たちは声質がめちゃくちゃ素敵じゃないですか。柔らかくて、透明っぽくて、空気をいっぱい含んでる声。そこが好きですね。あんなにいい曲が世界でいっぱい聴かれていることが嬉しいですし、自分の方向性を導いてくれる感じがします。