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岡野昭仁 『Walkin’with a song』
https://www.sonymusic.co.jp/artist/AkihitoOkano/discography/
ポルノグラフィティの岡野昭仁が、2021年よりスタートしたソロプロジェクトの集大成としてアルバム『Walkin’with a song』をリリースした。本作は、昨年大きな話題を呼んだ岡野昭仁 × 井口理「MELODY (prod.by BREIMEN)」をはじめとする全10曲が収録され、多くの豪華アーティストが制作に参加している。今回は岡野昭仁本人にアルバムに込めた想いやソロ活動について、これからのポルノグラフィティとしての活動について話を聞いた。
ー昭仁さんのソロプロジェクト「歌を抱えて、歩いていく」は、2020年11月の始動から今年で丸3年を迎えます。その活動はご自身にとってどんなものでしたか?
岡野昭仁:様々なアーティスト、クリエイターの方々に楽曲を提供していただき、僕はボーカリストとして歌うことにフォーカスしていくというのがプロジェクトとしての基本テーマだったんですけど、そこを存分に楽しめた3年間だったと思いますね。いろいろな楽曲と出会っていく中で、新たなチャレンジもいっぱいできましたから。始動当初はプロジェクトの着地点を見据えていたわけではなかったけど、1曲1曲のコラボレーションを楽しんでいくことで今回、アルバムまで辿り着くこともできましたしね。ほんとに楽しかったです。
ーソロでの活動はやっぱりポルノとはまったく違うものですか?
岡野昭仁:そうですね。違うって言ったら、すべてが違うような気もするな。ソロという離れでの活動を経験してみたことで、やっぱり母屋のすごさ、居心地のよさみたいな部分にあらためて気がつくことはめっちゃ多かったんですよ。ただ、ポルノはもう24年も活動しているので、例えば細部まで僕らメンバーの目が行き届かないことがあったとしても、最高のチームが最高の形でバンドを進めていってくれるところもあるんですよね。いい意味でオートマチズムに事が運んでしまうからこそ、見えなくなってしまうものもあったような気もするんですよ。
ーポルノグラフィティというバンドの規模感を考えれば、それは至極、自然なことではありますよね。
岡野昭仁:うん。ソロを経験したことで、そういう部分に気づけたのは自分にとって大きなことだったような気がしてて。あとは、1曲1曲に対して魂、命を燃やして向き合うことの大切さもあらためて思い出せたような気もするかな。もちろんね、ポルノとして魂を燃やしてこなかったことなんて一度もないんだけど、そこを強く再確認できたっていう。
ーポルノのメンバーである新藤晴一さんとの関係性について何か感じることはありましたか?
岡野昭仁:晴一とはもうずいぶん長いこと一緒にやってますけど、その関係性もあらためて再構築というかね、より素直に向き合えるようになったところはあるかもしれない。晴一が書いた歌詞に対して、そこに込められた意図をしっかり理解し、それにふさわしい歌いまわしを自分なりに考えていくとか。今まで以上に、より丁寧に晴一の考えていることを受け取るようになったのは、ソロプロジェクトを経験したからこそだと思います。
ーそのあたりの変化は、2022年にリリースされたポルノのアルバム「暁」の制作にも反映されていましたよね。
岡野昭仁:そうですね。まあでもね、こんな言い方をするとアレですけど、ソロはやっぱり気楽でしたよ。才能のある面々の楽曲に、ワクワクした気持ちで楽しく乗っかっていくだけだったから(笑)。
ーでも、ソロだからこそ最終的なジャッジは昭仁さんに委ねられるわけじゃないですか。その責任の重さみたいなものは感じなかったですか?
岡野昭仁:もちろん感じます。でも、ポルノの場合は何かを決める際、抱えてるものが大きい分、晴一と違う意見になることも多いんですよ。それが僕らのいいところなんでしょうけど、ソロだとそういうことがないわけですからね。そういった意味での気楽さは間違いなくある(笑)。
ー確かにソロだとご自身の思考、嗜好に則っていけばいいところはありますよね。
岡野昭仁:そうそう。そういう部分での気楽さっていうのかな。ポルノの場合、「ごめん、俺のジャッジが間違ってたわ」みたいなこともありますけど、ソロだとまあ、全部自分に返ってくるだけなので。そういう感覚で制作に向き合えたのは、自分にとってすごくフレッシュなことでもあったんですよね。
ー25周年を来年に控えるポルノの一員である昭仁さんにとっては、初めての感覚だったんでしょうね。
岡野昭仁:アルバムにしても今回が1stですからね。それはもうフレッシュな気持ちしかないわけで。でも、今回のアルバムがすごくいい作品になったから、もし2ndを作るとしたら「1stを超えなきゃ」みたいな気持ちも絶対に芽生えるはずじゃないですか。そういう意味では、このフレッシュさは今回限りかもしれない(笑)。まあでも、ここまでソロを楽しみ尽くせたのは、ポルノとしてキャリアが土台としてあったからなのは間違いないと思います。だからこそ、ソロで得たものはここからまたしっかり母屋に還元していかないと。
ーアルバム「Walkin’ with a song」の制作に関して、具体的に動き出したのはいつ頃だったんですか?
岡野昭仁:ポルノのツアー(昨年9月から今年1月まで開催された「18thライヴサーキット“暁”」)が終わった後、今年の3月くらいからかな。それ以前に、いろんな方々に楽曲提供の依頼はしていて、それがバーッと上がってきたのがそれくらいのタイミングだったので。
ー「光あれ」「Shaft of Light」「その先の光へ」「MELODY(prod.by BREIMEN)」のリリースをソロプロジェクトの前半とするならば、ポルノとしての活動を経て迎えた後半でのアルバム制作。そこにポルノでの活動が何か影響を及ぼしたところはありました?
岡野昭仁:どうだろう。前半での経験はポルノの活動にも影響を与えたと思いますけど、ソロアルバム制作にあたってはけっこう気持ちをしっかり切り替えて臨んだような気がします。アルバム曲では最初に「インスタント」から手をつけたんですよ。
ー「光あれ」で作詞をされていたn-bunaさんが、この曲では作曲とアレンジまで手掛けていますね。
岡野昭仁:「光あれ」の段階で、「n-bunaくんには曲も書いて欲しいんだよね」という話はさせてもらっていて。だいぶ早い段階でこの「インスタント」のデモを上げてくれていたんです。最初の打ち合わせでは、n-bunaくんが自分の中にある音楽に対する思いを明瞭な言葉でしっかり伝えてくれたので、僕も自分のことをしっかり知ってもらいたいという気持ちになって。故郷である因島の話をした上で、そのイメージで曲を作ってもらうことにしたんですよね。
ー情景が鮮明に浮かんでくる曲ですよね。
岡野昭仁:そうですね。仮歌もn-bunaくんが歌ってくれていたんだけど、平歌なんかは特に情景を語っているような表現だったんですよ。そのニュアンスは、僕が故郷を思い出した時に出てくるイメージと差異がなかったので、すごく歌いやすさがありましたね。他の部分に関しても、僕にはないn-bunaくんなりの表現をちゃんと受け取りつつ、自分なりに表現していくことを心掛けました。
ー昭仁さんのボーカリストとしての無二な魅力をもっとも強く感じたのは、SUPER BEAVERの柳沢亮太さんが作詞・作曲を手掛けた「指針」でした。ある意味、SUPER BEAVERのレパートリーに入っていても違和感のない楽曲を、きっちり岡野昭仁の曲にしていますもんね。
岡野昭仁:この曲はね、柳沢くんがデモに入れてくれていた仮歌がとにかくものすごかったんですよ。音程がどうとか、音符に言葉がしっかりハマっているかどうかとか、そういうところを超えた表現を込めないと絶対に勝てるわけがないと思うほどに魂を感じさせる仮歌だったので、そうとう頑張って歌いましたね。アレンジャーのトオミ(ヨウ)くんにディレクションもお願いしたんだけど、彼は柳沢くんの仮歌を聴いていないから、僕が足りないと思ったテイクでもOKを出してくれるんですよ。
ー普通だったら問題ないボーカルが録れていたわけですよね。
岡野昭仁:そうそう。でも、僕としては全然納得いかなかったので、トオミくんに一度、柳沢くんの仮歌を聴いてもらったんです。そうしたらね、「うん、もう一回やりましょうか」って(笑)。柳沢君に負けない歌を歌うために何を意識したかって言われると困っちゃうんだけど……とにかく楽曲に向き合って、頑張って歌いましたね。
ー一方、昭仁さんの新たな表情を堪能させてくれるのがEveさんが手がけた「ハイファイ浪漫」と、Tempalayの小原綾斗さんが手がけた「芽吹け」かなと。タイプは全く違う2曲ですが、どちらもかなり斬新ですよね。
岡野昭仁:どっちもそうとう強烈な曲ですよね(笑)。Eveくんに関しては、マイナー調の曲に言葉数の多い歌詞が乗るっていう音楽性が僕にシンクロするんじゃないかなと勝手に思ってオファーさせてもらったんだけど、想像を超える楽曲を上げてきてくれて。「大丈夫? 僕、ちゃんと歌えてる?」ってレコーディング中もことあるごとに確認してましたから(笑)。
ーラップパートも含め、バッチリ乗りこなせてます。
岡野昭仁:とにかく全編、僕がいままでにやってこなかったことばかりだったので、だいぶビビりはしましたけど(笑)、その新しい経験はすごくいい刺激にもなったし、楽しいものでしたね。これもめちゃくちゃ頑張ったなー。
ーグルービィなサウンドアプローチを持つ「芽吹け」では、ファルセットを多用されているのが印象的です。
岡野昭仁:これ、デモの段階ではもっとファルセットがたっぷりだったんですよ。で、僕はファルセットに対してちょっと苦手意識があるので、綾斗くんに言ったんです。「これ、ちょっと多すぎない?」って。そうしたら「すみません、自宅で仮歌を録ったから、あんまり大きな声が出せなくて。全編ファルセットなわけじゃないんです」っていう可愛い返答があり、あらためて第2弾の仮歌が届いたっていう(笑)。とは言え、完成形もファルセットはけっこう多いので、そこは腹をくくって向き合いましたね。結果、そのメソッドみたいなものを説明できるわけじゃないんだけど、自分なりのファルセットの出し方を見出すことができた気がしていて。コンプレックスを拭えたのは綾斗くんのおかげですね。
ー「GLORY」は、どこかポルノ楽曲の系譜を感じさせるニュアンスかなと。作詞はSMAPの「オレンジ」をはじめ、数々の名曲を手掛けている市川喜康さん。作曲の山口寛雄さんとアレンジの篤志さんはポルノの活動でおなじみの方々ですね。
岡野昭仁:近くを見回したとき、「あ、いい曲書くやつと、いいアレンジするやついたわ」と思って、ポルノのライヴでベースを弾いてくれている寛雄と、いろんなポルノ楽曲に参加してくれている篤志に声をかけたんですよね。寛雄は「プレッシャーっすわ!」って言ってましたけど、めちゃくちゃオシャレでアーバンな曲を書いてくれました。市川さんからは、「岡野さんには夢を追い続けることの素晴らしさを歌って欲しいんです」っておっしゃっていただいて。ある意味、母屋であるポルノのイメージを投影したニュアンスで歌詞を書いていただけたと思います。そういう意味では、おっしゃっていただいたように、今までポルノの音楽を聴いてくれていた人にとっても、違和感なく受け取ってもらえる曲になったと思います。
ーそしてラストは、昭仁さんが作詞・作曲を手掛けた「歌を抱えて」です。
岡野昭仁:本当は自分で曲を書くつもりはなかったんですけど、9曲が揃った段階で、あと1曲はソロプロジェクトを通して見えた、自分なりの答えみたいなものを楽曲にするべきじゃないかなと思ったんです。であれば自分の言葉とメロディで歌うべきだなと。歌詞に関しては、去年亡くなった自分の父親のことを書きました。父の死という出来事と真正面から向き合うこと、そしてそれを曲にすることこそが、自分にとって「歌を抱えて、これからも生きていく」ということに対しての一つの答えになるような気がしたんですよね。ここから何年経ったとしても、この曲を歌うたびに僕は、自分が父と母の子供であることを思い出すんだろうなって思います。
ー本作のリリースを経て、その後にはポルノグラフィティの活動が控えていますね。25周年に向けたツアー「19thライヴサーキット“PG wasn’t built in a day”」が来年1月からスタートします。
岡野昭仁:ソロとしてアルバムタイミングでのライヴができないのが申し訳ないんですけど、ソロライブはいつか絶対にやるつもりでいるので、待っていてもらえたらなと思います。ポルノに関しては25周年が目前のタイミングなので、ここまで積み上げてきたものの集大成になるような、ベストライヴができたらなと。ポルノらしいライヴになると思いますよ。
ー最後にひとつ。ポルノは今年5月に、地元・広島県とのコラボプロジェクトの一環として「アビが鳴く」という楽曲を配信リリースされましたよね。そのコラボは今後も続いていくのでしょうか?
岡野昭仁:うん、そこは何かおもしろいことができたらいいなとは思っています。やっぱりね、この年齢になってくるとどんどん故郷が愛おしくなってくるんですよ。なかなか帰ることができなくなっている分、僕らなりの形で地域貢献できたらいいなと思うんです。広島は原爆が落ちた場所として平和の大切さを伝え続ける土地でもあるので、そこをいろんな形でアピールしていくことが僕らなりの故郷への恩返しになるような気もしているので。