ー『THE TRIP -Enter The Black Hole-』のライブ前、ジェフさんは「ブラックホールに向けての宇宙の旅で何が起こるのか、そのテーマを探求できることをとても楽しみにしている。テクノが創造された本当の理由がここにある」というメッセージを発信されていました。改めてブラックホールをテーマにした理由と、ブラックホールに感じる魅力について教えてください。
ジェフ:テクノが創造された本当の理由がここにある、というのは明らかな事実です。テクノミュージックは、音楽を通じて未来のことを考え表現しようとするジャンルです。それは、リスナーに今の時代ではなく、未来の何かを聞いたり感じたりしているかのような感覚を抱かせます。
ブラックホールに出入りするというテーマにしたのは、あらゆる生き物に訴えかけるコンセプトがほしかったからです。宇宙空間に存在する生きとし生けるものが、決して遭遇することのできない現象を題材にすることで、私たち全員が同じ視点・関係・感覚で観察することができると思いました。ブラックホールは、もしかしたら前世や死後の世界があるかもしれない、といったことに思いを巡らせる土台になります。
また、遠い将来には、このテーマがより広く認識され、探究されるようになるだろうと想像しています。その想像を前提に、私は、遠い未来に歴史的な意味で考えられるような、電子音楽によるクリエイティブなステートメントを発表したかったのです。
具体的に言うのであれば「2024年、日本の東京において、会場満杯の人々が、視覚、聴覚、ライブ・パフォーマンスを通じて、異次元の現実を体験することがどのようなものかを再現しようとした。その名は『THE TRIP -Enter The Black Hole-』という出来事だ」という記録を未来に残す、ということです。
ジェフ:まず、ブラックホールの向こう側に出てから、現実のアウトラインを数多く作りました。例えば、“Time In Reverse”(終点がゼロである時間の反動)。この部分のサウンドは、子供の頃に自転車に乗っていて、前に進むうちにチェーンが緩んで外れてしまうような感じをイメージしました。それでも前へ前へと進みながら、目的もなく漕いでいる。この感覚を観客に味わってほしかったんです。それを再現できるように、音、シーケンス、テンポを選びました。
4月1日にZEROTOKYOで開催された『THE TRIP -Enter The Black Hole-』の模様より
ー4月1日にZEROTOKYOで開催された『THE TRIP -Enter The Black Hole-』は非常に衝撃的なものでした。初披露だったショウを終えた今、振り返ってみて感じたことを教えてください。
ジェフ:このようなコンセプトでライブをしたことは今までにありませんでしたが、異次元の現実に関する理論を表現しようとするという目的をしっかりと達成できたと思います。ブラックホールに入るというストーリーは、私たちの精神を想像の世界に置くために必要な要素でした。いったん境界線を越えて向こう側に出てしまえば、予測不可能な未知の世界へ精神を運ぶことができます。それこそが私の目的なんです。
コンテンポラリーダンス、ライブパフォーマンス、没入型ビジュアルといった複数のアートフォームが、1つコンセプトに基づいて具体化されるということは、約45年以上にもわたってエレクトロニックダンスミュージックのシーンから抜け落ちていたものです。
この『THE TRIP -Enter The Black Hole-』のコンセプトに基づいて生み出されたものは、今後のエンターテインメント業界全体において参考になっていく可能性が高いと思います。それだけではなく、私たちの生活の随所に影響を及ぼすのではないでしょう。
でも、何よりも重要だったのは、芸術的かつ概念的な考え方を持って電子音楽をプログラミングすることです。
クラシック、ロック、ジャズといった他ジャンルの音楽とは異なり、電子音楽(より具体的に言えばテクノ)は、自由で、エキゾチックで、予測できない音楽です。だからこそ、ブラックホールというテーマに電子音楽を適用することは理に適っていると思います。電子音楽がどうあるべきかについてのルールがまだ存在しないからです。
ジェフ:コンソールパネルのデザインは素晴らしかったです。コンセプトとパフォーマンスに必要な技術的ワークスペースを反映した、とても洗練されたデザインでした。ライブ中に座ることはめったにないのですが、今回のストーリーを踏まえると、自分の役割は、ブラックホールへ入るスペースシップ(会場)を運転し、操縦することだったので、このような操縦席を作ることになりました。『THE TRIP -Enter The Black Hole-』のような作品には、同じように未来を見ている信頼できるスポンサーが必要になるのですが、AUGERと良いパートナーシップを築くことができて、とても嬉しかったです。今後も多くの旅を一緒に探究できることを願っています。
ー『THE TRIP -Enter The Black Hole-』は数年に渡って行われる予定があります。今後はどのような進化を遂げていくと想像できますか?
ジェフ:冒頭にも記述した通り、このコンセプトは、「宇宙の “そこにあるもの” を探検すること」、「誰も行ったことのないところへ大胆に行くこと」になります。この探検には、少なくとも、創造し、具現化し、体験するという、心構えと想像力が必要です。エンターテイメントのシーンにおいて、近い将来、多感覚的で奇妙な体験をすることが、より好まれ、支持されると予想しています。ゆえに、『THE TRIP -Enter The Black Hole-』はもっとオーディエンス参加型の要素増えていくのではないかと思います。ファンタジーと現実の境界線が曖昧になっていいくような提示が多ければ多い方がよいので、ステージとフロアの関係性を再定義するような案やコンセプトがないかを模索しているところです。『THE TRIP -Enter The Black Hole-』の旅が観客にとって待ち遠しいショウになっていくことを期待しています。