静寂のフロアなのに、オーディエンスは身体を揺らして、ときに歓声を上げ、ハンズクラップが鳴り響く。当事者でなければわかり得ない、不思議な光景がそこには広がっていた。去る3月上旬、渋谷THE ROOMにおいて招待者オンリーで開催された「SILENT BLOCK PARTY by Technics」での出来事だ。
高音質・低遅延で同時に音を届けることができるBluetoothの新規格であるAuracastを用いた、“Technicsの新しい挑戦”として行われた本パーティー。来場者には入場時にTechnics ワイヤレスステレオインサイドホン EAH-AZ100が配布され、ライブやDJの音は発信機を通して直接そのイヤホンに届けられるという仕組みだ。つまりクラブでありながらスピーカーから音は鳴らない(=サイレント)。かつ、THE ROOMという小箱だからこそのキュッとした一体感、親密感はブロックパーティーさながらで。という不思議な熱気に満ちた一夜を、STUTSとDJ ZAI、そしてスペシャルゲストの北里彰久という出演3名のショートインタビューとともにレポートする。



開場時間になり、続々とお客さんが入ってくる間はBGMが流れ、「SILENT BLOCK PARTYと銘打たれているけれど実際、何が起こる!?」という期待感がフロアを漂っている。時間になり、DJ ZAIのプレイがスタートするや完全サイレント状態となる。DJブースにはTHE ROOMに常設されたTechnics SL-1200MK7。DJ ZAIはこのターンテーブルを用いて、オーディエンスと呼吸を合わせるようにプレイを重ねていく。音はイヤホンの中にのみ存在しているにも関わらず、というよりだからこそ音の距離は近くて、ときに繰り出されるスクラッチの音が、繊細な部分までダイレクトにクリアな音質で耳に届くもんだから、まるで自分だけのために演奏されているかのような気分にさえなる。出演者とオーディエンスの距離の近さも、贅沢すぎる。



DJ ZAIはヒップホップクラシックス〜日本語ラップと選曲しながら徐々にフロアをあたためていく。続いてDJ ZAI × STUTSというDJとMPCの軽妙・濃密なセッションを挟んで、STUTSのステージへ。「(MPCやキーボードを叩いてからその音がイヤホンに届くまで)若干の遅延があるので、いつもよりほんの少し早く叩いています。自分の歌う声ともずれるから、自分の中では今すごいことをしている。だから普段のプレイとは違うかもしれないけれど、それも含めて楽しんでもらえればうれしいです」というMCにもあったように、通常とは違った環境でのライブを、逆に思いきり楽しむSTUTS。フィーチャリングボーカルとして登場した北里彰久もこれには「0.0何秒か未来に叩いてないといけないってことでしょ。よくそんなことできるね」と半ば呆れながら感心するという一幕も。




北里彰久とのコラボレーションのあとも、2月にリリースしたばかりの台湾拠点のシンガーソングライター、ジュリア・ウーとのコラボEP『With U』から数曲、そしてラストの「99 Steps feat. Kohjiya, Hana Hope」まで。「自分の家でやってるようで、でもお客さんは目の前にいて。やっていても不思議な感覚です」とも言っていたように、STUTSがMPCを叩いている様子をほんの目の前で見ることができて、それが音楽になって耳元に響いてくる……この視覚と聴覚のダイナミズムは、かなりの体験だ。




再びDJ ZAIのDJプレイへと移り、パーカッシブなハウスからスタート。ドリンク片手に身体を揺らす、この4つ打ちのノリもサイレントブロックパーティーにはしっくりくる。STUTSもそのままステージに残って楽しそうに踊りながら、MPCやキーボードを徐々に重ねていく。DJ ZAIがSTUTS「Changes feat. JJJ」をスピンしたあたりで再び(というか予定にはなかった)セッションも巻き起こり、大盛況のうちに幕を閉じた。
レコードを回す、MPCを叩くという極めてフィジカルな行為と、個々の耳元に直接届けられるパーソナルなリスニング体験。そのコントラストが、この夜の異様な没入感と臨場感を生み出していた。


終演後、この特別な一夜をSTUTS、DJ ZAI、北里彰久に振り返ってもらった。
ー「SILENT BLOCK PARTY」は、Technicsとしても初めての試みでした。実際に、演者から見るとどういったフロアが広がっていましたか?
STUTS:まず本番の会場に入ったら、そのときはもうDJ ZAIさんがプレイされてたんですけど、ホントに何も聴こえてなくて。聴こえてないけど、みんなDJブースのほうを向いて楽しんでいたから、「あれ? これもう始まってるのかな?」と思って、イヤホンをつけた瞬間に「ああ、なるほど」と納得しました。実際、ライブをやり始めたら、そのイヤホンでみんなと同じ音を聴いているんだろうなという感覚はあるんですけど、それを1人で楽しんでるような感覚もあって。でもそれをみんなとも共有できているというか……そういう、すごく不思議な体験になりましたね。
DJ ZAI:やっぱり没入感はあったと思いますね。
STUTS:クラブやライブハウスで体感する音像とは、イヤホンはまた違いますもんね。
DJ ZAI:そう。それにイヤホンだと自分で音量を調節できる。クラブだと音が大きすぎる、小さすぎるみたいなのもあるけど、それを自分でコントロールできる。あえて無音にして1回シャットダウンすることもできるというか。そういう面では、お客さん側もフレキシブルに対応できるから、そういう面白さもありましたね。
STUTS:イヤホンで聴かれるということを意識して、PANをいろいろ振ってみたり、普段のライブでしないようなことはやってみました。配信ライブと通常のライブの中間で混ざったような感じがあったので。
北里彰久:お客さんの数の分だけ、脳みそが全部ダイレクトにつながっているような感じがした。身体じゃなくて脳みそだった。
STUTS:技術的に本当にすごいことだと思うんですけど、演奏できるかどうかギリギリのレイテンシ(遅延時間)はあったので、普段よりも少しだけ早めに演奏しなきゃいけない。そこがめちゃくちゃ難しかった。でも、ホント楽しかったです。
ー今回は、THE ROOMという渋谷の老舗クラブが舞台でした。そこでサイレントパーティーというのもギャップの面白みがあったかと思います。
STUTS:THE ROOMでライブさせてもらったのは13〜14年ぶりだったんですけど。それがこういった特殊なライブで、いい経験でした。観客さんが近くて、みんなの反応がダイレクトに伝わってくるから、すごく楽しかったです。これがもっと大きめのライブハウスだったら、また全然違う感覚になってたんだろうなと。
DJ ZAI:小箱ならではの一体感はありましたね。距離が近くて、お客さんの歓声もイヤホン越しに聴こえるから、ちゃんと反応も伝わる。
STUTS:これは良い点でもあり、悪い点でもあるかもしれないですけど、イヤホンをしていると普通に喋ったりするコミュニケーションってできないじゃないですか。でも、喋らなくても目の合図だったり表情だったりでコミュニケーションすることはできると思うので。そういう意味でも、今回のイベントでしか体験できないものはあった。お客さんとしても体感してみたかったですね。
ーでは逆に、AuracastとTechnicsのイヤホンを使って、こういったイベントの形もやってみたい! など展望があれば聞かせていただきたいです。
STUTS:スタッフの方に技術的なことを聞いたんですけど、今回のBluetoothの発信機は、半径100メートル以内だったら届くみたいで。台数制限もないので、次はもう少し大きな会場だったら、どういう結果になるのかなというのは気になりますね。あとは、イヤホンの音像でしかわからない音楽もあったりすると思うので、そういうものを追求してみるのも面白そう。普段のクラブやライブハウスではできないような表現ができるんじゃないかなと思いますね。
DJ ZAI:外に音が出ないじゃないですか。ということは、撮影・録音もされないから、未発表音源もいち早くプレイできちゃうのかなとも思いました。
STUTS:たしかに。最近ライブだとみんな動画を撮ったりするけれど、動画では共有できない、本当にその場でしか共有できないエクスクルーシブな体験ができるかもしれない。
北里彰久:東京ドームでアンビエントのイベントとかやりたい。歩き回ったりしながら。
STUTS:自由に歩き回れるのいいですね。半径100メートル以内(※)だったら、別に1か所に留まる必要ないですもんね。
※距離は目安であり、保証するものではありません。
ー今回のパーティーを仕掛けたTechnicsというブランドについて、最後にひとこといただければと思います。
STUTS:Technicsのターンテーブルは、完全なるデファクトスタンダードというか。Technicsがなかったら、ヒップホップがなかったくらいですもんね。僕も高校1年くらいにTechnicsのターンテーブルを買ってからずっと使っていますし、そういったブランドがこういった先進的な試み、今までない体験を提案したというのは感動します。
DJ ZAI:僕も同じで、高校1年くらいにTechnicsのターンテーブルを2台買って、今もまったく壊れずにずっと使っています。ターンテーブルのイメージがどうしても強いんですが、こうやってイヤホンも高音質なものを作っているんだって、改めてすごさを感じました。
北里彰久:こうやってメーカーが何かチャレンジングなことすることで、音楽サイドにもフィードバックがあったりする。それって素晴らしいことですよね。

Technics ワイヤレスステレオインサイドホン EAH-AZ100
下から時計まわりにシャンパンゴールド、シルバー、ブラックの3色展開。
音楽に込められた作り手の想いや1音1音へのこだわりまでも、ありのまま伝えるために。独自開発した磁性流体ドライバーを、業界で初めて(※)完全ワイヤレスイヤホンに採用。音の純度を限りなく高め、今までのワイヤレスとは一線を画す“生きる音”が追求されている。
※パナソニック株式会社調べ。2025年1月23日発売商品。

Technics ダイレクトドライブターンテーブルシステム SL-1200MK7
50年間続く変わらないスタイル。世界中の現場とDJに選ばれ続けてきた、ダイレクトドライブの信頼。