宮崎出身、2003年生まれのシンガーソングライター、lili maua(リリーマウア)。ネオソウルやR&Bを下地にした柔らかくも洗練されたメロディと、透明感のある歌声。2024年春に活動をスタートさせて以来、「24-5」は多くのDJやダンサーにプレイされ、「SWEAT」は各ストリーミングサービスの主要プレイリストに相次いで選出。同世代を中心に、静かに、しかし確実にその名を広げてきた。
そんな彼女が10月28日、待望の1stアルバム『ID22』をリリースする。KID FRESINOやJJJ、KANDYTOWNとの作品で知られるNoshがプロデュースしたリード曲「Stay with me」をはじめ、既発曲5曲に新曲5曲を加えた全10曲。11月22日にはShibuya WWWで初のワンマンライブも控えている。
また、今回がlili mauaにとってメディアで初めてのインタビューとなる。そのルーツやR&Bとの思いがけない出会い、そして22歳の“今”をまるごと封じ込めたアルバムのこと。凛とした佇まいの奥にある、揺るぎない意志に迫るインタビュー!
VIDEO
どこか遠くて特別な存在でありたい
ーまずはアーティスト名の由来から伺えますか?
lili maua: 自分の名前に“花”が入っているので、花にちなんだ名前にしたかったんです。リリーは英語で百合のこと。百合の花言葉には「気品」や「高嶺の花」といった意味があります。マウアはスワヒリ語で花を意味する言葉で、その神秘的な響きに惹かれました。高嶺の花のように、どこか遠くて特別な存在でありたい。そんな想いを込めて名付けました。
ーとても素敵です。では、音楽を好きになり、歌うことを志すまでの話を聞かせてください。原体験として、どんな音楽がそばにありましたか?
lili maua: 父がR&Bやソウル、ジャズ、クラシックまで、本当に幅広く聴く人で。幼い頃から自然と耳にして育ったので、その影響は今も根っこにあると思います。通っていた保育園は毎日歌を歌うようなところで、小学校では合唱部、中学では吹奏楽部。高校からは音楽の専門学校に進んで、ゴスペルを1年間学んだり、バンドの授業を受けたりしました。物心ついた頃からずっと音楽に触れてきたので、気づけば音楽しかない道を歩いていた、という感覚です。
ーでは、高校に進む頃にはもう、音楽で生きていくと決めていたんですね。
lili maua: そうですね。
自分が好きで選んでいた音楽がR&Bだと後から知った
ー「このアーティストのようになりたい」という明確な目標があったんですか?
lili maua: それがなかったんです。母が保育士だったので、私も保育士になろうかな、くらいに考えていて。ところが高校進学を決める時期に、知り合いの占い師さんに見てもらう機会があったんです。「何を目指してるの?」と聞かれて、「保育士になろうと思っています」と答えたら、「あなたが本当にやりたいことは、それじゃないよね」と言われて。そこで、ハッとしました。私、音楽がやりたいのかもしれないって。すぐに両親に話して、翌月には福岡の音楽学校を見学に行っていました。そこから淡々と、音楽の方へ舵を切っていった感じです。
ーまさか占い師さんのひと言が人生の分岐点になっていたとは。その頃から、音楽の好みは今と変わらないですか?
lili maua: 実は高校2年生くらいまで、音楽にジャンルがあること自体をまったく知らなかったんです。当時、毎回自分で課題曲を選んで持っていき、その曲を演奏する授業があったんですけど、私が持っていく曲はいつもR&Bで。そのことを先生に教えてもらって初めて、自分が好きで選んで聴いていた音楽はR&Bだったんだと気づきました。それが、私とR&Bとの出会いです。
ーどんな曲を持っていっていたんですか?
lili maua: 日本の曲だと宇多田ヒカルさん。海外だとアレサ・フランクリンやThe Emotions、それから90年代のR&Bをよく持っていっていました。どれも今でも聴いています。
ーlili mauaさんの歌い方から静けさが感じられます。いわゆる拳が入ったパワフルな歌唱とはまったく違いますよね?
lili maua: そうですね。しっとりとしたメロウでスローテンポなR&Bが好きなんです。今やっている音楽も、自分の好みをそのまま形にしている感覚です。
ー参考にしているシンガーはいますか?
lili maua: 私はシンガーそのものを追いかけて聴くことがあまりなくて、純粋にその曲自体が好きで聴くことが多いんです。なので、誰が歌っているかよりも、音の雰囲気やメロディ、ビートとか、曲そのものに惹かれるタイプだと思います。その中でも、Kiana Ledéからは影響を受けている部分が多いと思います。
最優先しているのは心地よいメロディライン
ー曲はどのように作っているんですか?
lili maua: 高校で作曲の授業も一応受けてはいたんですけど、当時から感覚でなんとなく作っていたものを、周りが「いいね」と言ってくれるようになって。だから、基礎から理論を積み上げてきたというより、今もずっと感覚で作っています。
ープロデューサーやアレンジャーが入ることも多いと思いますが、原曲はlili mauaさんが作って、そこから編曲していくようなやり方ですか?
lili maua: そのパターンもありますし、最初から「こういう感じでやってみるのはどう?」とプロデューサーから提案してもらって、一緒にスタジオに入って作っていくこともあります。
ーこの曲で今の自分の基盤ができた、と思える1曲はありますか?
lili maua: 全曲そうなんですけど、一番思い入れがあるのは1stシングルの「わがままな僕を許して」です。正直に言うと、決して万人受けする曲ではないと思っていて。でも、私にとってはど真ん中の曲だった。それをあえて1stシングルとして出して、今振り返ってみても、この曲で始められてよかったと心から思えるんです。
VIDEO
ーストリーミングやライブで、明らかに反応が変わったと実感した曲は?
lili maua: 「I’m into you」は1番反響が大きくて、ストリーミングでもっとも聴かれている曲です。最近はプロデューサーさんにビートをお願いして、そこから作っていくことが多いんですけど、この曲は、私が基礎のピアノコードを弾いたり、ドラムを打ち込んだりしたデモをビートメイカーさんに渡して作り上げたもの。自分のデモありきで生まれた曲が1番聴かれているのは、何より嬉しいですね。
VIDEO
ー歌詞はどのように書いているんですか? 全体を通して、都会の夜の情景が浮かぶ曲が多い印象です。
lili maua: 実は私、「このテーマで書きたい」というところから歌詞を書いたことが、まだないんです。ビートをもらって、聴いたときのインスピレーションで書くことがほとんど。それもメロディを最優先に考えているので、そのメロディに一番はまる言葉を探していきます。優先するのはメロディライン、2番目に言葉。ずっとその順番で作っています。
ー実体験を歌詞にする人もいれば、物語を作り込む人もいます。lili mauaさんの場合は?
lili maua: 私の曲は、ほとんどが実体験と妄想から生まれています。
ーその妄想は情景的なものですか? 誰かの感情を表現するものですか?
lili maua: 感情が多いと思います。その中でも恋愛が一番書きやすくて、だから私の曲には恋愛ものが多いんです。
22歳の私が、今生み出せるアイディア
ーそして1stアルバム『ID22』。タイトルの由来を教えてください。
lili maua: 今、私が22歳なので、そこから取りました。“ID”には2つの意味を込めています。1つは、自分自身を証明するアイデンティティ。もう1つは、22歳の私が今生み出せるアイディア。今だからこそ生まれるアイディアと、今の自分そのものを、記憶として残せるタイトルにしたかったんです。
ー20歳から22歳までの2年間、lili mauaとして活動してきた経験がそのまま詰まっているわけですね。収録曲の中で、特に歌詞にこだわった曲、あるいは悩んだ末に手応えをつかんだ曲はありますか?
lili maua: Noshさんがプロデュースしてくれたリード曲の「Stay with me」ですね。もともとビートにボーカルサンプルが入っていて、サビでもずっと鳴っていたんです。すごく耳に残るメロディラインで、私にはそれを超えるメロディが思いつかなかった。だったら、いっそそのまま活かそうと。サンプルは英語で何かをつぶやいているんですけど、その母音や響きに近い言葉をはめていく作業に、とにかく時間がかかりました。さらに、その言葉の意味を「Stay with me」というタイトルにつなげていくところが、1番こだわった部分です。
ーどのようにつなげていったんですか?
lili maua: サンプルのメロディの最後で、「Stay with me」という言葉だけが聞き取れたんです。じゃあもうタイトルは「Stay with me」にして、それをテーマに書こうと。曲自体もどちらかというと乗れるタイプだったので、フロアでの男女の情景を描いた方がイメージが膨らむかなと思って、そういうテイストで書きました。
ーリラックスできる曲が多い中で、「Stay with me」はかなりアップテンポ。lili mauaさんにとっても新境地と言える1曲では?
lili maua: 正直、アップテンポすぎる曲は自分の好みではないんです。でも、アップテンポでやるならこれしかない、というど真ん中のビートが返ってきたので、自分の中でもすごく気合いの入った曲になりました。
ー5曲目の「give me,give me」もサウンドがとても特徴的です。
lili maua: 私も初めてビートを頂いた時、何とも言えない不思議な空気感が漂っていて、すごく惹かれました。その分、自分の中でもハードルが上がりましたね。『チャンスは待つものではなく、自分から掴みにいく強さ』みたいなものを描きたくて。夢を夢のまま終わらせず、ちゃんと現実にしたい。これからもっと大きくなりたい。そんな今の私の気持ちを、真正面からぶつけました。
ーそして「Last Love Song」。ピアノのソロフレーズから始まる構成も、実にlili mauaさんらしいです。
lili maua: このビートを聴いたとき、すごく孤独感というか切なさを感じて。それをこの曲のテーマとして大切にしながら作りました。あとは、日本のバラードとしても聴けるような曲にしたくて、耳馴染みのあるメロディや、どこか懐かしさを感じるメロディラインを意識して書いています。
ーたしかにポップスにも通じる雰囲気を感じます。そしてラストを飾るのが「Sing」です。
lili maua: アルバムの中で一番最後に完成した曲で、『ID22』のワンマンライブのラストに、歌うことを想像しながら書きました。私の中でも、1番感情的になって書いた曲です。ここまで音楽を続けてこられたこと、ここまで連れてきてくれた人たちへの感謝、そしてこれからもずっと音楽の道を歩み続けていくという決意。それを込めたからこそ、22歳の私を刻む『ID22』の最後に置きました。
ーアルバムを通して、lili mauaさんの音楽に対する“決意”が強く伝わってきます。初アルバムを介して、自分自身のことをしっかりと世に提示したい、という思いがあるのでは?
lili maua: そうですね。1stアルバムですし、22歳の今だからこそ出せる音楽があると思うんです。今の私を証明する、とまでは言わないけれど、22歳の私の記録として残しておきたい。それが幅広く認められたら、すごく嬉しいです。
VIDEO
VIDEO
lili mauaという1つの世界観を作っていきたい
ー11月22日のShibuya WWW、初のワンマンライブですね。
lili maua: このワンマン自体は1年ほど前から決まっていて、そこを目標にライブを重ね、リリースもコンスタントに続けてきました。もうすぐなのにまだ実感はなくて、緊張感だけがずっとある、という感じです。
ーライブは好きですか?
lili maua: 最初は、人前に出て歌うのがあまり好きではなかったんです。でも、場数を踏んで慣れてきたのもあるし、自分の好きな曲を歌えているからこそ、聴いてほしいという気持ちの方が大きくなってきて。最近は、ライブも好きになってきました。
ーWWWでは、どんな空間を作りたいですか?
lili maua: ステージの演出や見せ方も含めて、lili mauaの世界観を表現したいと思っています。今の自分だからこそ表現できるものを、1つの作品として残せる場にしたいです。
ーアルバムもライブもそうですが、この年齢だからこそできること、5年後にはできないかもしれないこと、と考えるものはありますか?
lili maua: 私の曲って、恋愛ものが多いじゃないですか。周りからはずっと、「恋愛ものを書けるのは、たぶん今だけだよ」と言われていて。年齢を重ねるにつれて、歌詞のテイストも変わっていくのかなとは思います。まだそこを意識して書いているわけではないんですけど、今だからこそ書けるリリックではあるのかなと。
ーアルバムを出し、ワンマンを終えた先に、描いているアーティスト像はありますか?
lili maua: 音楽を入り口にして、ファッションや映像、アート、魅せ方も含めて、lili mauaという1つの世界観を作っていきたいです。それから、自分が影響を受けてきたR&Bやソウルミュージックを、lili mauaの音楽や活動を通して知ってもらう、そのきっかけになれるような動きもしていきたいと思っています。