昨年、9月より活動拠点をロンドンに移しワールドワイドに活動をしてきたバンド、The fin.が約1年ぶりに帰ってきた。目的はもちろんライブ。7月にはFUJI ROCK FESTIVAL ’17の出演を果たし、9月2日福岡でのSUNSET LIVE 2017を皮切りに仙台、札幌、名古屋、大阪、東京と全6都市を回る。国内音楽シーンにおいて、インディロックが大いに注目されているなか、あえて日本を離れイギリスへ。約9ヶ月間のロンドンでの生活。環境の変化、言葉の壁、そしてメンバー脱退による新規体制への変化など。様々な経験を経た彼らは、現地での活動について、そして何を得て、今何を残して行くのか。ボーカルのYuto Uchinoのインタビューから、The fin.に迫る。
“コミュニケーションの大切さを学び音を1つ鳴らすことに意味がでた”
L to R
Yuto Uchino (Vo, Gt, Syn), Ryosuke Odagaki (Gt), Kaoru Nakazawa (Ba)
ロンドンで生活することで
The fin.の音楽が立体的に
ー2年前のアメリカツアー、ロンドンツアーをはじめ、世界中の国々でライブを行ってきたと思うのですが、活動の拠点をロンドンに移した理由は何ですか?
Yuto Uchino:バンドを始めた頃に、ロンドンとフランスに旅行に行ったことがあって、その時の印象がよかったっていうことや、好きな音楽やカルチャーがあるっていうのも1つの理由ではあるんですけど、2年前ぐらいに海外でライブをし始めて、それからも積極的に海外のいろんな国を回り続けていたら、そのやり方でバンドがうまく軌道に乗り始めたんです。それで海外に住みたいなって思っていたら、ロンドンのレコード会社から「一緒にやりませんか?」って連絡がきて。そこからレーベルも見つかって、音楽をやる環境がロンドンで整ったんです。それで自然な流れで行くことになりましたね。
ーロンドンに拠点を移し9ヶ月。住んでみて心境の変化はありましたか?
Yuto Uchino:1番大きな変化は、メンバー全員、英語を話せるようになったことですね。海外でライブをやり始めた頃、英語ができたのがバンドメンバーでは自分だけで、RyosukeもNakazawaも全く英語ができなったんです。でも、世界を見渡せば、英語が言語の国がほとんどで、英語で書かれているものが地球の中では大半を占めていて。だから日本にいると気が付きにくいんですけど、英語を知らないと、知れないことってすごい多いんですよね。その部分で自分とメンバーとで、すごく大きな違いがあったんです。単純に英語の曲をみんなで聴いていても、自分だけわかっているけど、2人にはわからなくて。でもThe fin.は英語で歌詞を書いていて、海外でライブをやっています。これは、2人がよく言ってるんですけど、「ロンドンに行って英語を勉強するようになった、英語に触れる機会が増えて、それによって日本語だけで過ごしていた時とは、見える世界が変わった。そして音楽に対して見えるものが変わった。だからイギリスに行ってよかったし、もっと知りたいことが増えた」って。日常生活だけではなく、歌詞やサウンドのことを、今まで以上に共有できるようになったことは、すごく大きいですね。
ー日本にいるだけではわからなった部分ですね。でも確かに大きな変化ですね。
Yuto Uchino:俺たちの音楽は、表現方法の手段の1つであって、表現するために音楽をやっているので。だから自分が感じてないことは音にできないんですよ。俺が感じていることをメンバーが感じていないと、もちろんライブでは出せない。それが基本だと思うんですけど、改めて重要だと認識できましたね。最初の3ヶ月は如何に自分たちの情報量とか内容を増やすかという作業にすごく時間を使いました。雑念を捨てて、ミュージシャンとしてのプライドを捨てて、とにかくピュアに音楽を聴きましたね。結果、ミュージシャンとして、というか、1人の人間として謙虚になれた気がします。そういうことを感じられたっていうのが、とにかく大きくて。ロンドンではやっぱり自分は外国人だし、国籍も違う。そんな中で向こうの人たちと生活をしていて、1人の人間として自立することの大切さに気がつけましたね。そしてそれをバンドに還元できたのは大きいです。今では、音を1つ鳴らすことなど、全てに意味がでるようになった。
ー滞在中にテロもあったと思うんですが。
Yuto Uchino:そうですね。テロが起こったのは最近だったので、それ以降、まだ作品は作れてないんですけど、周りのミュージシャンはすごく気にしているみたいです。怒りというか、「自分たちがなんとかしないといけない」、「発信しないといけない」っていうエナジーを感じますね。パンクとはちょっと違うと思うんですけど、エモーショナルなサウンドを鳴らすバンドが増えてきていると思います。音楽とかアートとか、自分の主張を入れるアーティストが増えてきていますね。これってイギリスの方が日本に比べて政治がみんなの手にあるからだと思うんです。みんなで政治を動かしている感覚がちゃんとあるから。日本は政府が強くて、政治家とそれに従う人たちって感じですけど、それが故に安全なのは確かですね。ロンドンは本当に危ない。全然国民がコントロールされている感じがなくて。でも1人1人の考える力が強いし、価値観が全然違う。全員が数十年先を行ってる感じがするんです。人の考え方も成熟しているというか、国民のレベルが違うというか。
ーちなみに、レコーディングの環境は日本とどう違うんですか?
Yuto Uchino:技術的な部分でいうと、電圧が240ボルトなので、音が良いですね。あとは空気が乾いているので、音の通りが良いというか。面白いと思ったのは、日本とは「音楽をやる」発想そのものが違う感じがしたこと。ロンドンでミックスした時に、向こうのスタッフと話していて、最初に話したのが「なんでこの曲を書いたの?」とか、「この歌詞の内容はどういうこと?」とか、「この曲で自分が表現したいこと全部教えて欲しい」って言われたんです。それを全部ノートにまとめて、それを全員で共有して、その表現を伝えるために、どういうサウンドを作っていくかっていうのを全員でやって。日本にいた頃は、どれだけポップにするか、とか。どうやったら音がキレイになるかっていうことばかりで。ある時に『もし、このまま成功しても俺は幸せになれないんじゃないか』って思ったことがあって。でもロンドンの人と会って、俺が今までやろうとしてきたことを彼らは、何十年とずっとやってきていて、その分のノウハウも知っている。そんな彼らと一緒に音楽制作することで勉強にもなったし、基本的な考え方、発信するロジックの姿勢が固まったんです。自分に自信も持てたし、今まで聴いてきた音楽が、こういう風にできていたんだなってことを理解できたのも大きかったですね。
ー新たに配信リリースされた『Pale Blue』と『Afterglow』。この2曲についても教えてください。
Yuto Uchino:前作から1年ぐらい空いて、奥行きとか広さを表現することができるようになってきたときに思ったのが、もっと立体的にサウンドを表現したいってことだったんですよ。高さとか低さという感じの3D的な考え方。そういうディープなところがイギリスで生活していて出てきて、その深さが出た曲になったと思います
“世界中でのライブするのは心身ともに辛い
愛される音楽を作らないと乗り越えられない”
英語の歌詞で歌うのであれば
世界中に響かないと意味がない
ーアジアでもかなりのライブをしてきたと思うんですけど、その辺のこともお聞きしたいです。今、アジアではインディロックが盛んだと思うんですが…。
Yuto Uchino:日本に比べたらの話ですけど、アジアの他の国の方が、世界中の音楽のカルチャーを取り入れてると思います。たぶん音楽的なことで自国の文化がないから、取り入れるのが早いし柔軟なんだと思うんです。良い意味でも悪い意味でも。今となってはどの国もすごくて、ステージに出て行って、曲が始まったら「ドーン!!!」っていう熱気を観客から感じて、イヤーモニターしているのに、音が全然聞こえないことがあるぐらいですね。中国なんてファンの圧がすごくて、ステージに出ていくのが怖いぐらいです。それにアジア全体でカッコいいバンドがすごく増えてますね。タイとかでも、日本でやったら絶対売れるだろうと思うバンドがたくさんいます。
ーもう少しで日本ツアーも始まると思いますが、日本でライブはどうですか?
Yuto Uchino:自分たちには日本のファンを盛り上げられなかったいう悔しさが実はすごくあるんです。僕らのファンは日本より海外に多くいて、海外でのライブと日本での受け入れられ方の差で悔しい思いをしましたね。窮屈というか。日本が母国なのに、他の国ばかり盛り上がっていて、変な感じですね。サッカーの日本代表の試合なのに、日本人が誰も応援してなくて、イギリス人が応援してくれてる感じ(笑)。でも、そこが俺らの良いところでもあると思っているんすけど。広くやれるっていう。
ーその広くやれるっていうのは、意識してやっていることですか?
Yuto Uchino:結果論ですけどね。当初から、英語で曲を作るからには「世界で通用するバンドになりたい」と思っていました。そして、英語を使うことで自然に視野が世界へ向いていった、というか。日本で盛り上げたいなら、やっぱり日本語詞にしていたと思います。もしかすると、The fin.は海外で通用していなかったら、もうバンドとして終わっていたかもしれませんね。だから、英語詞で楽曲を制作してきてよかったと、今では思っています。
ー1度も日本語の曲は書いたことがなかったんですか?
Yuto Uchino:最初は日本語でやっていたんですけど、もののみごとに誰にも興味持ってもらえなかったんです。オーディション落ちまくるし(笑)。
ー英語の歌詞へと切り替えるキッカケはなんだったんですか?
Yuto Uchino:基本的にはずっと洋楽の曲を聴いていたので、その洋楽の雰囲気のまま、日本語の曲を書いていたんですよ。思い浮かぶのは英語のメロディーなのに、それを無理やり日本語に当てはめていたので、本当に変な感じで。ノリにくいし、歌いにくしで、正直、日本語で歌うのも嫌だったんですよ。それで、自然に英語に切り替えていったんです。でも適当に英語でやるのがすごく嫌で、英語で歌詞書くなら、世界に通用するようにやらないとってずっと思っていて。英語なのに日本でしか売れないっていうのは、よくわからないじゃないですか。
ー確かに。では、最後に今後のことも教えてください。日本ツアーが終わってからのバンドの展望は?
Yuto Uchino:そうですねぇ…。僕らは世界中をツアーして回っているので、活動1つ1つに時間がかかるんですよ。日本だけでやっていると1年ぐらいで終わることが、世界中に規模を広げてやると数年かかるんです。今、やっとその1番最初が終われそうな感じなんです。種まきというか。各地でファンの人もどんどん増えてきて、それを次のアルバム出すタイミングで、まいた種を回収していき、今後に還元できたら良いなって感じですね。イギリスに戻ったら、早速3枚目のアルバムを作り始めようと思っています。そして今まで回ってきたところをもう1周……。って、、いつになるんだろうなって(笑)。今まで回ってない国にも、ライブしに行くだろうし、アメリカやヨーロッパも回るし。やっぱり生半可な決意じゃ乗り切れないし、身体だって丈夫じゃないといけない。何より、音楽もバンドも相当好きじゃないといけないし、ポジティブな気持ちがないといけないですからね。それを乗り越えてきたアーティストって、やっぱりすごい人たちばっかりだな、と改めて思いますよ。何より、それを乗り越えられるぐらい、みんなに愛される音楽をThe fin.は作っていかなくてはならない、それを強く実感しています。
Profile
The fin.
2012年結成、兵庫出身。現在はYuto Uchino(ヴォーカル、シンセ、ギター)、Ryosuke Odagaki(ギター)、Kaoru Nakazawa(ベース)の3人。『Pale Blue / Afterglow』を7月21日に配信リリース。同作品は12inchレコードでのリリースも9月6日に決定。現在、プレオーダー中。
http://www.thefin.jp/