!!!(Chk Chk Chk)は“最狂ライブバンド”の異名をもち、NYのアンダーグラウンドに広がるディスコやハウスカルチャーにポストパンクなサウンドをフュージョンさせた。ミレニアム半ばにディスコ/パンク・シーンを最も広く沸かせた代表的バンドだ。今年5月18日に通算7作目となるフルアルバム『Shake The Shudder』を引っさげ、去る8月18日にソニックマニアに初出演。会場をひときわ踊り揺らしてみせた、フロントマンでヴォーカルの、ニック・オファーにインタビューを敢行した。結成20周年を超えてもなお、飛ぶ鳥を落とす勢いな!!!の底知れないバイタリティーと、エネルギーの波及力について探る。
“オーガニックに音に合わせて踊り狂う、最高の観衆さ”
ドラッグもなくゴミもなく健全に過熱する日本のフェス光景
―今回の来日はバンド初となるソニックマニアへの出演でとの事でしたが日本の音楽フェスに出演して感じた雰囲気は具体的にどういうものでしたか?
Nick Offer(以下Nick): とにかくエキサイティングだと思うよ。他の国に比べてドラッグとゴミが少ないしね。ドラッグなんか無くても、ファンとしてダンスしながらエキサイトしているから素晴らしいよ。
―オーディエンスについて特徴的な事はありますか?
Nick:拍手をたくさんしてくれて、突然ピタッと止まるんだ(笑)。これは日本だけだし、独特だよ。あんなに熱く盛り上がっていたのに急にシーンって静かになるから『あ、次の曲に行かなきゃ』って気持ちにさせてくれるんだ。でもよく日本人ってシャイって聞くけど、毎回俺らのショーではかなり激しく踊ってくれるから文句なしさ。
―日本はプライベートでも何回も訪れていると聞きましたが、今回の来日は通算何回目となりますか?
Nick: 多分…15回?
―いつも決まっていくところは?
Nick: 中目黒にあるコーヒーショップ。後はショッピングが好きだから渋谷原宿とかかな。ただ1個だけ残念なのがハンドスピナーが日本にたくさんあるって聞いてたんだけど全然見つけられないんだ。
―なるほど。逆にNYで面白いところは?
Nick: 俺にとっては、ただぼーっと歩いているだけでも楽しいんだ。ブルックリン橋を含めた4つの大きな橋があって、そこを通る人もそれぞれだから楽しいよ。朝行っても夜行っても全然違った人が通るから、いるだけで充分時間を潰せちゃうんだ。あとは、美術館とかギャラリーは当然だけど、たくさんあるよね。クラブも「Good Room」ってところがずっと人気で「Bossa Nova Civic Club」というところも人気だね。でもNYも東京も同じなことだけど、例えば「ご飯は、どの店が美味しい?」って聞かれても美味しい店は溢れかえっていて、どこでも魅力的すぎてオススメがパッと口に出てこないというのが正直なところさ。むしろ遠くから訪ねてきてくれた友人の方が、NYに住んでいる僕よりいい店を知っている事の方が多いね。
―ちなみに6枚目のアルバム『As if』をリリースした際は[CA4LA]とコラボしてハット作りましたよね。今後、ニックのアイコンでもあるハーフパンツのコラボは予定していたりするのでしょうか?
Nick: 現状ないけど、めっちゃいいアイディアだね!やりたいよ!そんな会社を知っていたら教えて欲しい。俺が今、履いてるこのショートパンツも実は特注品なんだ。タイを訪れた際に出会ったテーラーで、「この短さで」とオーダーするんだ(笑)。この丈感のものって、探しても見つからないんだ。古着で探すのも手間かかるしね、オーダーに限るというわけさ。
―この丈感にはこだわりがあったんですね。
Nick: 女の子たちが、その丈がいいって褒めてくれたからね
―ほ…本当ですか?
Nick: (爆笑)そうだよ!初めてショーツを履いてステージに出た時にファンの女の子たちが「あなたのホットなショーツのトリコよ〜」って口を揃えて言ってくれたんだ(笑)。そこから、「みんな好きなんだな、履かなくちゃな」って思ってるんだ。義務感で履いている気持ちの方が強いんだ、実際はね。だって、もしも俺がデニムパンツなんて履いたらクレーム来ちゃいそうじゃない?
―それでいて、ダンスも格別に激しいわけだから…。
Nick: ぶっ飛んでるよね(笑)。
“現在進行形で生まれる、新しい音楽に俺らの核があった”
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Perfume Genius – Slip Away (Official Music Video)
既存するサウンドを一切顧みずに常に前へと歩み続ける
―音楽も常に幅広く多ジャンルのものを聴いていると聞きましたが、最近聴いているのは何ですか?
Nick: うーん、ローレル・ヘイローかな、Schematic(シューマティック)、パフューム・ジーニアス、パーケイ・コーツ、ドレイク、ミーゴズ、フューチャー、ケンドリック・ラマーとか。でも、いつもジャンルに限らずいろんなアーティストの音楽を聴こうとしているんだ。
―新しいものをあえて聴いているというわけではないんですか?
Nick: 気にして聴いてはいないけど、新しい音楽は重要だよね。今までに死ぬほど聴いてきた音楽は、もう聴きたくないし必要ない。新しいものは今まさに更新された“新しさ”なわけだろ?新鮮さを欲しているんだ。そんな中でもローレル・ヘイローが特に新しいって最近感じているよ。ミーゴズのラップも、どうやっているの?って単純に不思議になるくらい僕自身が興味津々なんだ。
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Migos – Bad and Boujee ft Lil Uzi Vert [Official Video]
―これまで聴いてきた音楽で特に気になった要素は、ニック自身の楽曲にも落とし込まれていますか?
Nick: もちろん、インスピレーションを受けている時は大きく受けるんだけど毎回じゃないよ。例えば、前作『Freedom15』というのは、元々クインシー・ジョーンズのディスコソングから着想を得て制作に取りかかったんだ。ミキシングを続けていくうちに、クラシックなディスコソングにしたかったんだけど、レトロになりすぎるのも嫌になってきて。新しさを模索していたまさにその時に、カニエ・ウエストが出した新曲『All Day』に出会えた。聴いてみて、すごくベースがディストートされていて驚いたのを覚えているよ。なんかエフェクトがかかっていて奇妙な感じがしたんだ。そうして、すぐに俺らの曲にも取り入れようという話に至ったというわけ。いざ実践してみると一気にフレッシュさが増して、求めていたオリジナリティを探し出すことができたよ。このケースのように、いつも直接的にアルバムにつながるか、どうかまでは明確ではないんだけどね。
―それでいうと今回の新作『Shake The Shudder』は今まで以上にダンサブルなアルバムに仕上がっていました。デトロイト出身でハウスミュージックの鬼才ムーディーマンに大きくインスパイアされたとのことでしたが。
Nick: ムーディーマンの音ってクラシックでいて、ハウスなんだけど、そこにかえって新鮮味を見出してしまったんだ。元々、俺らがバンドをやり始めたときに、ファンクとディスコをメインにやっていこうとしていたんだけど、ムーディーマンには、まさにその希望と未来とが詰まっていたんだ。彼の最近のアルバム『DJ-Kicks』は、俺に大きなショックを与えてくれた。すごく生っぽい“RAW”でナチュラルな感じもあって…でもハウスを貫いていて…。自分たちがやりたかったことを彼は先にやってのけたんだ!その悔しさもありつつ、すごく刺激を受けたよ。
―そもそもファンクをやろうとしたのはなぜですか?
Nick: 元々、俺はディスコのカヴァーバンドをやっていたんだけど、ギターのマリオはポストパンクの、ソニックユースっぽいサイケデリックなバンドをやっていて、この2つのバンドがよく一緒にツアーに回って対バンする機会が多かったんだ。だからギグにくるお客さんは一緒でしょ?マリオのバンドがファンクだったから彼のお客さんが特に激しく踊っていたのを覚えているよ。だって音はディスコなんだから。そういう反応を見ていて、きっとファンクの荒々しさとエネルギーに体が呼応しているんだと感じた。そのときに、俺らは一緒に曲を作るべきだと思ったんだよ。俺らのディスコ的な音楽と彼らの熱いファンクを融合させたら最高になるに決まっているって信じて疑わなかった。実際に初めて全員で練習したときのピッタリ感、そして気持ちよさ…今でも忘れられないんだ。
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!!! (Chk Chk Chk) – Dancing Is The Best Revenge
―『Dancing Is The Best Revenge』のMV制作秘話について教えてください。
Nick: あれは1日で撮影しきったんだ。ドラッグクイーンの皆に協力してメイクアップしてもらってね。普段の彼女たちはゲイバーで働いているから、ビヨンセの曲で踊るように、この曲をかけて皆で踊ってみたんだ。何より、メイクはもちろんヒールを履くのが初めてだったから歩くのも大変だったのさ。そんなことも含めた全てが最高にエキサイティングだったな。
―そのゲイバーで撮ろうと思ったのには理由がありますか?
Nick: あの曲自体、俺の声もかなりピッチも上げていたし、女性らしくてヴォーグな感じがしたんだ。そこを汲み取って最高の自分を引き出す場として浮かび上がってきたのが、ゲイバーだったのさ。踊って自分の一番素直な部分を曝け出そう、というのがサブテーマとしてあったからピッタリだったね。
―では、このMVに込められた真意は“ポジティブ”であることなんですね。
Nick: そうだよ。
―本作には“恐怖を振り払え”というメッセージが込められていますが、ニック自身が“他の人に評価されずに自分を貫くんだ”と、これに付け加えて力強く発信していましたね。このマインドは先の見えない、何かに不安を抱えるユースにとって大きな指針になったかと思います。実際にフィードバックはありましたか?
Nick: 天才だねって賞賛されたよ(笑)。まあ、それは少々誇張しすぎているんだけど実際はピンとくるフィードバックって無いのかも。歌詞の意味はしっかり考えているし誰かに伝わってくれたらいいな、とは思っているんだけど…意外と皆、聴いてないんだよね(笑)。音が気持ちいいみたいで、歌詞を肌で感じて、というよりかは、とにかく体でサウンドを感じている人が多いんだ。本作でいうなら11曲目の『THINGS GET HARD』なんて俺にとっては本当に力を注いで、長い時間をかけて書き上げた超大作なのに、きっと誰も聴いちゃいないんだ。元々、俺らって歌詞の中で表現するのが下手で批判されていた時期があったんだ。でも、ダンスミュージック自体はメッセージ性を第一に求められているわけではないから、歌詞として成立してなくても曲としては実はアリなんだよね。でも俺としては、そういう評価にこそ真っ直ぐ向き合うべきだと思ってて。歌詞からも世界観を伝えられるし、サウンドにだけでなく歌詞も含めて懸命に取り組もうとしているんだ。だから今は結構いいストーリーが含まれていると思うよ。もう今は何もかも一切手抜きはナシさ。
―歌詞とサウンド、作るのはどちらが難しいものなのでしょうか?
Nick: 圧倒的に歌詞だね。歌詞は自分の深層心理に向き合って書きだしていかなくてはならないけど、サウンドは心の赴くままにボタンをピコピコ押していったら完成していく。いい響きかそうでないかを考えてこだわっていくシンプルなものだからね。
―では、最初に音を作って浮かんでくるイメージによって紡がれた歌詞を乗せていくというフローなんですね。
Nick: 大体はね。音楽を聴いてそのフィーリングで歌詞が浮かんで来るんだ。『Dancing Is The Best Revenge』も、制作に着手しだしたときはドラッグクイーンをイメージしていたわけではなかったんだけど曲を聴いていくうちに、彼女たちの堂々と歩く姿が浮かんできた。
―イメージでいうと『The One 2』のMVではダンサーに日本人2人を起用していましたが、何か理由があったんですか?
Nick: その質問されるの初めてだ!なんだか不思議な気持ち。ほら、アメリカって多民族国家だから人種も様々だし、友人でさえ違ったルーツの人なことがほとんどだから、これを聞かれること自体が新鮮だよ。でも日本だと当然、日本人がメインになるからそういう感覚にもなるよね。昨日も、東京の神宮球場で野球を観戦しに行ったんだけど、周り一面が同じ人種なことにカルチャーショックを受けたんだ。アメリカとは大違いさ。だから今回の場合でいうと、日本人だからってわけじゃなくて単純に彼女たちのダンスパフォーマンスに惚れて声をかけただけさ。
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!!! (Chk Chk Chk) – ‘The One 2’ (New album Shake The Shudder May 19)
―最後にニックが思うこれからのバンドとしての展望について教えてください。
Nick: これまでも、実はバンドの大義とか方向性とかが特にない人たちだったから(笑)。とにかくいい曲を作って進化し続けるということが全てなのかな。これからもいいアルバムを作り続けたい。楽しい曲をお届けするから、皆で踊り明かそう。
Profile
!!!(Chk Chk Chk)
1996年にカリフォルニアはサクラメントで結成。NYを代表するディスコ・パンク・バンド。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのツアー全公演にサポート・アクトとして帯同し、2005年に発表した『Myth Takes』で世界的ブレイクを果す。日本では過去に、フジロックフェスティバル、エレクトラグライド、朝霧JAMなどの大型フェスに多数出演。そして今年はソニックマニアにも初出演する。去る5月18日には通算7枚目となる待望のニュー・アルバム『Shake The Shudder』をリリース。
http://chkchkchk.net/