庭園でアンビエント、ローラースケート&ブギー、深夜のウェアハウス。RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2019をレポート

音楽を、そしてパーティーをきっかけとして集まり、交歓し、目が合って笑い合う。新たな表現や感情に出会う。4月8日〜20日にかけて、東京都内各所にて計7イベントとして行われた[RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2019]は、“フェスティバル”という手法/現象を今一度捉え直すかのような(ある種、挑発的とも言える)内容で、それはロケーションの選定ひとつとってもそうだろう、遊び心に満ちたものとなっていた。

過去2回の開催よりも、ぐっと先鋭化させることで、そういった狙いを鮮明にさせた2019年。7イベントを順に振り返りながら、読み解いていくことにしよう。

Keisuke Kato/Red Bull Content Pool

Keisuke Kato/Red Bull Content Pool

フェスティバルのオープニングを飾ったのは、イラン人女性シンガー/プロデューサーのセヴダリザの初来日公演。会場となったスパイラルホールは開演前からこのパフォーマンスへの、そしてフェスティバル全体への期待感と緊張感からくる昂揚がハンパない。そのなかをセヴダリザがゆっくりと登場する。ドラム、チェロ、キーボード、そしてコンテンポラリーダンスや映像・照明演出を交えながらステージは進む。トリップホップ〜オルタナティブR&Bを軸とした、ポーティスヘッドを想起させるダウナーな触感ながら、ときに光が差し込み、幻想的/催眠的な光景と艶めかしくパワフルに戯れていく。そうした先鋭のパフォーマンスとともに、フェスティバルははじまったのだ。

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

Yasuharu Sasaki/Red Bull Content Pool

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

続いて行われたのは、アジアの地よりUSヒップホップ界にニュースターを矢継ぎ早に送り出し、アジアン・カルチャーの新たなプラットフォームとして世界中から注視される〈88rising〉とのコラボレートイベント「RED BULL MUSIC FESTIVAL AND 88rising PRESENT: JAPAN RISING」。WWW Xのフロアは熱に満ち満ちていて、Jin Dogg & Young Cocoが最高潮のさらに先へとブチかまし、Awichが聴くものの身を、心を貫いていく。ラストはUSから登場のAUGUST 08まで、新時代のヒップホップに渋谷が揺れた夜となった。

このイベントの冒頭にも上映された、アジアン・ヒップホップの隆盛に迫ったレッドブルの長編ドキュメンタリー『Asia Rising – The Next Generation of Hip Hop』も合わせて観ておきたいところだ。

Yasuharu Sasaki/Red Bull Content Pool

Yasuharu Sasaki/Red Bull Content Pool

セルリアンタワー能楽堂というレアなシチュエーションで開催されたのは、BOREDOMSのコアメンバーであり、OOIOOやSAICOBABとしてもワールドワイドに活躍を続けるYoshimiOによる、自身初となるレクチャーとSAICOBABのライブ。SAICOBABは、YoshimiOとシタール奏者のYOSHIDADAIKITI、SOIL & “PIMP” SESSIONSのベーシストである秋田ゴールドマン、ガムラン&パーカッション奏者の濱元智行というメンバーで、民族音楽と前衛音楽をオルタナティブに貫通していく。ポスト辺境音楽であり、オリジナル。それら音楽が能楽堂に、身体そのものに充溢していく、なんとも得難い体験だ。

聞き手に音楽ジャーナリストの原雅明を迎えたレクチャーの模様は後日、レッドブルより映像作品として公開されるようで期待だ。

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

Yasuharu Sasaki/Red Bull Content Pool

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

Yusuke Kashiwazaki/Red Bull Content Pool

Keisuke Kato/Red Bull Content Pool

そして週末に入るや、能楽堂からのこの温度差たるや。愉しい。上の写真は、東京のLGBTQナイトライフには欠かせない、過剰にハッピーなパーティー「fancyHIM」とのコラボレートナイトの様子だ。現行のボールルームハウス〜ヴォーグカルチャーを代表するMikeQやベルリンのドラァグクイーン/アーティストのHungryらをゲストに迎えながら、出演者もお客さんもすべてが表現者であり主役! な狂騒のフライデーナイトに。

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

Yusuke Kashiwazaki/Red Bull Content Pool

土曜の夜は、直前まで会場を非公開としたウェアハウスパーティー「METHODS AND MODULATIONS – A WAREHOUSE PARTY」。開催数日前に発表された「35°37’16.0″N 139°44’55.1″E」という緯度と経度を頼りに辿り着くとそこはやはり倉庫。エレベーターで上がっていくほどにビートが段々と大きく聴こえてきて、なかに入るとそこは暗闇の無機質な空間。エクスペリメンタルなテクノが響き、踊り続ける、なかなかディープな体験だ。こうした倉庫や廃墟にサウンドシステムを持ち込んで行うDIYなパーティースタイルこそ、クラブカルチャーの原点であり、今なお可能性を秘めている手法と言えるだろう。

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

Yusuke Kashiwazaki/Red Bull Content Pool

Yusuke Kashiwazaki/Red Bull Content Pool

Yusuke Kashiwazaki/Red Bull Content Pool

この(DJとして出演していたデイム・ファンクを含めて!)笑顔・笑顔・笑顔がすべてを物語っている、東京ドーム ローラースケートアリーナを舞台に行われた「DâM-FunK – A ROLLER SKATE AFFAIR」。70年代後半〜80年代に海外で流行した「ローラースケートディスコ」を再現した一夜だ。ディスコ〜モダンファンク〜ブギーが大音量で流れるなか滑り、流れていく景色。ローラースケートとグッドミュージック、すなわち昂揚と昂揚がかけ合わされば、それはもう、な多幸感しかない。なんてナイスな遊び方。

ちなみにデトロイトにおいて、二年に一度開催されるアメリカ最大規模のローラースケートイベント「Soul Skate」はデトロイトハウス/テクノの最重要人物であるムーディーマンが主催していて、この記事によると3000人以上のローラースケーターが集まるという。こんな遊び場、日本でももっと! と願うばかりだ。

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

Yasuharu Sasaki/Red Bull Content Pool

Yusuke Kashiwazaki/Red Bull Content Pool

Suguru Saito/Red Bull Content Pool

フェスティバルのフィナーレは、江戸時代より続く庭園である浜離宮恩賜庭園において、春の夜にアンビエント・ミュージックを嗜む、という粋。入り口から庭園内へと進んでいくにつれて新緑の匂いが濃厚になってくるが、ふと見やると高層ビルがあたりを囲んでいて、その対比がまたいい。庭園内に3ステージが設けられ、回遊しながらライトアップされた庭園と音楽を思い思いに味わう、という趣向だ。世界的な再評価が高まる日本のアンビエント/環境音楽の先駆者であるINOYAMALANDらが奏でる音楽は、自然のざわめきや人の話し声といった音も、静寂も、プライベートとパブリックの別も、そのうちに溶け合わせていく、あの瞬間。関係性に満ち溢れた、すばらしいエンディングだ。

[RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2019]に通底していたのは、過去・現在・未来を連ねていこうとする志向、文脈へのリスペクト、文化に対するオープンマインドさ。「多様性」という言葉は今日使い古された感もあるが、それをリアリティのある形でフェスティバルへと昇華したもの。次なるカルチャーのきっかけとなるもの。

そうそう、同フェスティバル中にドリンクチケットとして使われていたレコードを模したあれ、実は7インチアナログ、いわゆるドーナツ盤の中心のくり抜かれたところのほう、を素材として作られたんだとか。だからあれも塩化ビニール。使わずに持っている人は確かめてみてください、アダプターと同じ大きさだから。

さて、次は2020年 東京か。

INFORMATION

RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2019

www.redbull.com/tokyo
#REDBULLFESTTYO