Breakthrough Music for 2019 #13 Kvi Baba

photography_Mitsuru Nishimura, text_Keita Miyazaki

Breakthrough Music for 2019 #13 Kvi Baba

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気づけばテン年代、最後の年。音楽シーンを振り返ってみてもいくつもの潮流/トピックスがあって、そろそろ総括もしたくなってくる頃だけどそれよりも“これから”に目を向けたい。「未来は過去のなかにある」とも言うけれど、いやだからこそ未来を見据えることが結果、過去(やそこに横たわる文脈)を知れることにもつながるんじゃなかろうか。ということで、本特集「Breakthrough Music for 2019」では、来たる2020年代に向けて、EYESCREAMが追いかけていきたいホットな新世代たちにフォーカス。その音楽や存在そのものでもって、今という時代をブレイクスルーしていくミュージシャンの動向から、2019年とその先を眺めていくことにしよう。

#13 Kvi Baba

Kvi Babaが1stフルアルバム「KVI BABA」をリリースした。内省的でエモーションあふれるリリックが注目されている20歳のラッパーが今回組んだのはBACHLOGIC。全曲のプロデュースとミックスを担当した。今回はアルバムの制作秘話に加えて、Kvi Babaという若者の内面にも迫った。

自分の中に溜まった澱を定期的にアウトプットする

ーー自身の名前を冠した1stアルバムが完成した感想を教えてください。

実は、そもそもアルバムがどういうものかをよく理解してなかったんです。でも今回初めて作ってみて、ようやく自分なりには理解できたと思います。僕にとっては映画みたいな感じ。自分の名前がタイトルになった半自伝的な内容ですね。

ーー非常に内省的で繊細な感情が表現された歌詞が印象的でした。こういった歌詞を書くのは大変なのではないか、と思いました。

歌詞を書くということで悩むことはそんなにないんですが、僕は結構日常的にいろんなことを考えてるんです。そこで悩んだり、傷ついたりすることも多くて。そういうことを普段からスマホのメモに歌詞の断片をたくさん書き留めてます。もちろん歌詞だってすべてがツルッと出てきたわけではないけど、根本的な部分の産みの苦しみの段階を経て書き始めてるというのはあります。あと、なんか僕、そういうのを書いてないとおかしくなっちゃうんですよ。自分の中に溜めておけないっていうか。音楽をやってれば、定期的にアウトプットするし、しかもそれを誰かに届けることができる。それで共感までしてもらえたら最高だし。だから音楽は好きなんです。

ーー具体的にはどんなことを考えているんですか?

なんで自分がここにいるのか、自分は何の下に日々を送っているのか、みたいなことですね。僕自身の存在について考えてます。もちろん答えなんて全然出てなくて。こういうことは小学生の頃から考えるようになってました。別にきっかけというきっかけがあったわけではないんだけど、割と自然に。自分の存在を確かめないと生きていけないような感じだったんです。

ーーKvi Babaさんにとって生きることはしんどいですか?

……しんどいとはもうあんまり思わないです。たぶんみんなそれぞれしんどいことはあると思うから。自分だけが特別厳しい環境だ、みたいには考えていません。極端なことを言えば、俺は今こうして話せるし、考えることができるし、自分の足で歩くこともできる。疲れちゃうこともあるけど、別に苦しいとは思わないんです。

今の僕にとってBLさんは一番フィーリングが合う

ーー実制作はどのように進めていったんでしょうか?

スタジオに行って、ビートを聴かせてもらって、その場で歌詞書いて、録る。みたいな。そのあとそれぞれで意見を出し合って、曲をブラッシュアップしていく。今回のアルバムは4日くらいで完成しました。あと実は事前にBLさんから5曲くらいデモトラックが送られてきてたんですよ。BLさん的には「この中から気に入ったトラックがあったら、選んで歌詞を書いてね」くらいのニュアンスだったみたいだけど、僕からすると全部超カッコよかったんです。だから全部に歌詞を書いちゃって。そしたらBLさんが驚いてた(笑)。

ーー「Rusty Man」ではKvi Babaさんの書いた歌詞を鋼田テフロン a.k.a BACHLOGICさんが歌っていますが、自分の歌詞を別の人が歌うというのはどんな気持ちでしたか?

今回が初めてじゃなくて、「19」の「Stoic」という曲でもやってるので今回特別何かを感じることはなかったですね。でもBLさんはなんとなく自分と似てるような気がするんですよ。だからBLさんもそんなに違和感なく歌えたんじゃないかと思っています。あの人は音楽のとおり、めちゃくちゃカッコいい人。あと話しててもすごく面白い。そもそも地元が近いんですよ。隣町で。あとノリが近い。笑うポイントとタイミングも同じ。世の中にはたくさんいろんなプロデューサーがいて、みんなそれぞれカッコいいとは思うけど、今の僕にとっては一番フィーリングが合うのはBLさんです。

ーー今回のトラックは今までのBLトラックとはまた違った雰囲気だと思いました。

BLさんはいつも自分がやりたいことを真剣に追求しているから、毎回全然違うテイストなのに全曲カッコいい。芯がしっかり通ってるというか。今回も僕が求めてるものをすぐに理解してくれたので、制作は本当にスムーズでした。

ーーBLさんとはどんなやりとりをしたんですか?

「最近は誰がカッコよかったか」みたいな話は日常会話でよくしてるんですよ。それを踏まえて、僕がビートに対して感想を言って。でも「ここにギターを入れて欲しい」みたいな注文は一切してなくて、お互いに「これとこれならどっちがカッコいいかな」みたいな話をしながら作っていきました。そんな感じでやってたら、お互いの理想に近づいていったって感じでしたね。

ーー僕はてっきり綿密なディスカッションがあったのかと思っていました。

たぶんそういう感じでやってないから、僕っぽい感じの作品になったんだと思います。ガチガチに固めて作っちゃうと、それ以上のものにならない気がするんですよ。だからできるだけ自由に作ろうというのは、普段から思ってることですね。

ーーちなみに制作の時はどんな音楽を聴いてたんですか?

制作に直接関係はないけど、よく聴いてたのはKid Cudi。その前は宇多田ヒカルさんばっかり聴いてた。僕は人間性が出まくっちゃってるタイプのミュージシャンが好きです。声から心の奥が聞こえちゃうような人。ただギターがギャンギャン鳴ってるだけとか、そういうのは全然感動しないです。

本当にネガティブな人はそもそも音楽をやらない

ーー最初に「半自伝的な映画のような作品」と話されていましたが、その構成はどのように固まっていったんですか?

制作時はやりたいことをやってただけだったので、9曲分を録り終えた後に曲順を考えました。そしたら意外とアルバムとしてまとまったんですよ。自分でもちょっと意外でしたね。なんでだろうって考えてみたんだけど、それは多分僕の音楽スタイルが自分の心の中をただ吐き出してるだけだからなんだと思います。空想とかじゃないから、自ずと一貫性も出てくる。今回はこういう並びにしたけど、全然違う曲順にしてもまた違うストーリーとして成立すると思う。それはつまり僕が感じたことをそのまま表現してるから、そういうことが起こりうるんでしょうね。

ーー個人的にはネガティブだった主人公が音楽と出会うことで、徐々にポジティブになっていくような物語のように思いました。

昔から結構ポジティブですよ(笑)。だからこそネガティブなことも言えるんだと思う。確かに言葉自体はネガティブな意味合いのものあるけど、音楽として表現された時点で俺はポジティブに変換されると考えてるんですよ。そもそも本当にネガティブな人は音楽しないと思うし。そう思えるようになったのは最近ですけどね。

ーー前半は自己肯定感が低く、自殺を思わせるメタファーが数多く登場するように思いました。

それは僕自身がこれまでの人生でそういうことを考えることが少なくなかったからだと思います。あと周りで辛い状況の末に自殺してしまうような人も多かった。世の中には踏みとどまれない人がいっぱいるんですよね。そういう現実をわかったうえで、こういうメタファーを使用したという部分はあります。

ーーKvi Babaさんはどんな半生を送ってきたんですか?

いろんなことがありましたよ。周りにはドラッグでめちゃくちゃになってしまった人もいたし。でも生きてればみんなそれぞれに辛い出来事があると思う。だから自分が特別だと思ったことは一度もないです。

ーーその話を聞いた後だと、このアルバムにまた違う意味合いを感じますね。

自分みたいやつの人生でも何か価値のあるものになるっていうか。音楽として聴くことはもちろん、詩として楽しんでもらうこともできる。アルバムを作ることで、僕みたいなやつでも何かできるんだよってことを提示できたのかな、とは思いますね。

人生で出会った人すべてに影響された

ーーKvi Babaさんはどんなきっかけで音楽を始めたんですか?

友達のツレの先輩が大阪の西成でスタジオをやってるんですよ。そこに連れて行ってもらったのがきっかけですね。でも音楽をやるつもりで自発的に行ったというよりは、本当にただ付いて行っただけ。でもなんか場のノリで僕もやることになったんです。そもそも自分が音楽をできるとも思ってなかったんですよ。小学生の頃はリコーダーやカスタネットですらまともにできなかったから。でもなんかラップはできたんですよね。その体験が結構大きくて、その西成のスタジオに通うようなったんですよ。

ーー友達が大阪のヒップホップシーンにいたということですか?

僕自身はシーン、みたいな所にはいませんでした。基本的にはずっと家の中でひとりぼっちでしたし。でも数少ない友達の一人がバカでヤンチャで。そういうやつらはラップしてることが多かったんですよ。僕がスタジオに行ったのもそんな流れでした。

ーーKvi Babaさんが音楽を始めたのは、「運命に導かれて」という言葉がぴったりですね。

本当に運命っすね(笑)。

ーーちなみに仲が良いミュージシャンはいますか?

SALUくん、ZORNくん、KLOOZくん、AKLOくんかな。仲が良いというよりリスペクトしてるって感じ。話してても向こうから期待されてる雰囲気も感じるんですよ。当たり前のことだけど、同世代の人たちは同じ時代を生きてきてるから、感覚がすごく似てるんですよね。考えることも近いし。でもそうじゃない時間を経験してきた人たちと話すほうが今は楽しいかな。別に先輩にかわいがられたいとかそういうことではなく。単純に教えてもらいたいし、僕自身も僕の年だからできる感覚を相手に提示したい。そのほうがおもしろい。あっ、あと、Minchanbaby.さんも。あの人はヤバいです。見るからにヤバい雰囲気を漂わせまくってるけど、実際は本当にクレバーな人で。悟りを開いてる。

ーーMinchanbaby.とはどのように知り合ったんですか?

僕がSoundCloudで曲をあげてる時にMinchanbaby.さんから連絡をくれたのがきっかけですね。「19」というEPで一緒にやってるんですよ。そもそも僕がこうして世の中に出られるきっかけを作ってくれたのがMinchanbaby.さんで、今作のレーベル・ForTune FarmをやってるKLOOZくんも紹介してくれたんです。本当にヤバいし、めっちゃいい人。普段から一緒にお茶したり、LINEしたりもしますよ。

ーー大阪の音楽シーンはすごく重厚で、面倒見のいい先輩が多いイメージがあります。

音楽をやってない先輩にも、いろいろ教えてもらいました。何がイケてるのか、とか。よく言われるのは「いい時だけの関係じゃだめ」ってこと。生きてていろんな人と関係してると、いろんなことが起きますよね。当然、周りにいる誰かが良くない状況になることもある。多くの人は、そういう時に離れていくんです。でもそれじゃダメだって。そこは先輩からはよく言われました。あと礼儀とかも。

ーーアルバムにはそういったいろんな人たちとの関わりも反映されているんですね。

はい。僕はここまで一人で生きてきたわけじゃなくて、本当にいろんな人と関わり合ってきた。それこそいじめてくるやつもいれば、優しくしてくれる人もいた。さらに例えば映画を観て、自分の心が動いたこともあった。それも関わりだと思う。そういういろんなことが僕という人格に影響を与え、さらにアルバムに反映されたんだと思います。

ーーちなみに、「Kvi Baba」という名前にはどんな意味があるんですか?

僕、本名がカイっていうんですよ。アルファベットで書くとKAI。Aを逆さにするVになる。babaっていうのは、トランプのジョーカーのこと。ジョーカーは一枚しかないから、僕もジョーカーのように一人しかいない唯一無二な人間になりたいと思ったんです。でもこれに関しては本当に適当です。読めない人が多いみたい(笑)。

INFORMATION

Kvi Baba

「KVI BABA」
発売日:2019/9/25(水)
CD価格:2,100円+税 ※CDはタワーレコードとForTune Farmオンラインストア限定発売
DL価格:アルバム1,800円 / シングル250円
品番:KVB-003
レーベル:ForTune Farm

TRACKLIST:
1.Crystal Cry
2.Life is Short
3.Rusty Man feat. 鋼田テフロン
4.Nobody Can Love Me
5.Cheat on Me
6.Humanity
7.Decide
8.Hope
9.All Things are Fate

http://kvibaba.com/

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