Daichi Yamamoto×JJJ対談。その出会いから「She / She Ⅱ」の制作秘話まで

photography_Shiori Ikeno, text_Yu Onoda

Daichi Yamamoto×JJJ対談。その出会いから「She / She Ⅱ」の制作秘話まで

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京都出身のラッパー、ビートメイカーにしてビジュアルアーティストでもあるDaichi Yamamoto。KID FRESINOやVaVa、Aru-2、okadadaといったラッパー、ビートメイカーに加え、シンガーソングライターの中村佳穂、ジャズピアニストのAi Kuwaharaら、ジャンルを超えた才能が集結した話題の1stアルバム『Andless』をリリースしたばかりの若く研ぎ澄まされた才能はどこからやって来て、どこへ向かうのか。その手がかりを探るべく、彼のキャリア最初期である2016年に「She」で共演を果たし、アルバムではその続編にあたる「She Ⅱ」で再び共演を果たしたラッパー、ビートメイカーのJJJを迎えた対談を通じて、依然としてベールに包まれているDaichi Yamamotoの深く蒼い世界に迫った。

─まず、お二人の出会いについて教えてください。

Daichi Yamamoto:最初にFla$hBackSを知って、その後、SoundCloudでJさんの音源を聴いていたら、ちょうど(韓国人ラッパーUgly Duck、Reddyとのコラボ曲)「ASIA」が出て。あの曲のビートとラップがヤバすぎて、そこから一気にハマったんですけど、知り合ったのは3年前かな。当時は留学先のイギリスで曲を作っていたんですけど、ずっと独りでやっていたので、Jさんをはじめ、自分が好きなアーティストに聴いてもらいたくて、自分のビートにラップを入れた音源をあちこちに送っていたんです。

─当時のDaichiくんはそこまで真剣に音楽をやっていたわけではなかったとか。

Daichi Yamamoto:そうですね。アートを学びにロンドンの大学に通っていて、空いた時間に曲は作っていたんですけど、当時は経験も浅ければ、自信もまったくなかったので。

JJJ:当時はロンドンでライブもやったりしてたの?

Daichi Yamamoto:友達に誘われて2回くらいかな。向こうの人からしたら、見た目は現地の人っぽいのに、日本語でラップしてたから、あまりに情報量が多すぎて、何なのかよく分からなかったみたいで、ポカーンとしてましたね(笑)。

JJJ:はははは。英語でラップしようとは思わなかったんだ?

Daichi Yamamoto:当時は英語のスキルが日本語に追いついてなくて、英語だけのリリックは自分のなかで納得出来なかった。

JJJ:なるほどね。ロンドンにいても日本語ラップを聴いてたの?

Daichi Yamamoto:ロンドンに行ってからの方が逆に日本語ラップが気になって、より聴くようになりましたね。

JJJ:俺だったら、ロンドンにいるなら、ロンドンのアーティストと一緒にやりたいって考えそうな気がするな。

Daichi Yamamoto:ロンドンに滞在していた後半くらいから現地のアーティストとコンタクトを取るようになったんですけど、もうちょっと早めに気づけばよかった(笑)。

JJJ:俺に連絡をくれたのはうれしいんですけど、もっと他にいい人がいたんじゃない?(笑)

─Jくんは初めてDaichiくんから送られてきた音源を聴いてどう思われましたか?

JJJ:その時期、国内外から同じようなメールがたくさん来ていて、一応聴いてはみるんですけど、何とも言えないものがほとんどで。そんななか、Daichiの音源を聴いてみたら、英語と日本語のバランスが良かったし、ラップが上手かった。「おっ、なかなか出来るヤツやんけ」って思って。それでDaichiから送られてきた曲にラップを入れて返信しました。

─それが2016年にSoundCloudで公開して、Daichiくんの存在を一躍広めることになった「She feat JJJ」なんですか?

JJJ:いや、その曲以前に変な曲をめっちゃ作ってて。こんなこと言ったら失礼なんですけど、Daichiなら上手く使ってくれるんじゃないかと思って、最初はいらないトラックを実験的に送りまくったんですよ。それに対して、Daichiは律儀に返してきてくれたので、いいヤツだなって思いましたね(笑)。

Daichi Yamamoto:Jさんからドドドドッと送られてきたビートは確かに難しいものだったんですけど、そのときは全部ラップするっていうスタンスやったんで、頑張ってRECして送り返すようにしていましたね。

JJJ:こっちから送った2日後にはラップを入れて返してくる勢いだったので、ラップに対するモチベーションの高さがいいなって。

─はははは。JくんはそうやってDaichiくんの様子を見つつ、鍛えつつという感じ?

JJJ:ロンドンに住んでて会えないし、どういうヤツか分からないじゃないですか。だから、最初はそういうやりとりをしながら面白い曲をたくさん作ってて。そのなかには(後にC.O.S.A.×KID FRESINOに提供した)「LOVE」のDaichiバージョンもあって、それはそれで結構良かった記憶がありますね。

─Daichiバージョンの「LOVE」はみんな聴きたいと思いますよ。しかし、その時点では会ったことがなく、どういう人間かも分からないまま、2人は音のやり取りをしていたわけですよね? ヒップホップの制作では直接顔を合わせずに音のやり取りだけで曲を完成させるのが当たり前になっていますけど、日本とイギリスでのやり取りは順調でした?

JJJ:直接会わないからこそ、スムーズにやり取り出来るということありますし、自分はああした方がいい、こうした方がいいってことは普段あまり言わないんですけど、そういうやり取りをするなら、会って話して、相手の感情や温度を分かっていたほうがやりやすかったり、どちらの良さもありますよね。でも、Daichiとはイギリス、日本の物理的な距離があったのに、なんか気持ちが近い気がしたんです。

Daichi Yamamoto:僕は人見知りなんですけど、Jさんとのやり取りは違和感なく、不思議とスムーズだったんですよ。

JJJ:その後、しばらくして「She」に取り掛かったんですけど、最初はDaichiが自分で作ったビートを送ってきてくれたよね?

Daichi Yamamoto:その頃は作ったビートをInstagramにアップして、“いいね”が付くかどうかで曲の善し悪しを判断してたんですけど、「She」のビートをアップしたら、Jさんが“いいね”を押してくれたので、Jさんにその音源を送って、「このビートにラップしてください」ってお願いしたんです。

─「She」のビートはネタのチョップの仕方にJくんの影響を感じます。

Daichi Yamamoto:そうですね。あの曲のビートは、Jさんのビートを聴いて、どうやって作っているのかを自分なりに研究、実験しながら作ったものだったので。

─しかも、サンプルネタは、リリースから間もないK-POPシンガーZion.Tの「No Make Up」ですよね。

Daichi Yamamoto:絶対に売り物としてリリースはできないですけどね(笑)。でも、僕はいいメロディだと思ったら、ジャンルに関係なく使ったりしているので、知り合いからK-POPのネタ使いが意外だと言われて、逆に「みんな、K-POPからサンプリングしないんだ?」って思ったんです。でも一点面白いことがあって、アルバム曲の「上海バンド」は韓国のアーティストDPR LIVEの「Jasmine」って曲をサンプルしたと誤解されているんですけど、実はあれは「Splice」というサンプルサイトのネタで、他の曲でもよく使われているフレーズがあって。それを知らずに使ってて驚いたことがあります(笑)。

JJJ:俺はK-POPからサンプリングはしないですけど、メジャーな曲だったり、リリースされたばかりの曲をサンプリングしてみたり、そういうスタンスはDaichiと近いのかもしれないですね。あ、あと、初めて電話で話したのは、この曲を作ってるときだよね? すごい偉そうなんですけど、「もうちょっとイケるっしょ?」って言って(笑)、細かくディレクションしながら、Daichiのフックを何回もやり直してもらったんですよ。

Daichi Yamamoto:最初に書いたヴァースはそのまま残したんですけど、確かにフックは迷走しましたね。でも、傷つかないように、当たり障りないことを言う人はいても、Jさんのように、ズバッと言ってくれる人はいなかったので、自分としては嬉しくて、素直に何度も書き直しましたね。

JJJ:作品というのは一生モノなので、納得いくものを残した方がいいでしょ。

─リリックのテーマに関しては?

JJJ:Daichiからビートが送られてきたときに既に「She」というタイトルが付いていたんですよ。だから、女のことを歌ってほしいかな? と、こちらで勝手に解釈して書きました。「いいテーマをくれた」っていう一節があるんですけど、俺は自分の彼女のことを書いたことがなかったので、そういうリリックを初めて書いてみました。

─そして、「She」でのコラボレーションから3年。JくんはDaichiくんのファーストアルバム『Andless』を聴かれていかがでしたか?

JJJ:アルバムが証明していると思うんですけど、ハウスにトラップ、ブーンバップ、どのジャンルでも自由自在というか、なんでも出来そうな柔軟性が際立っていますよね。あと、古風な日本語使いかな。ちょっと京都を感じるんですよ(笑)。

Daichi Yamamoto:はははは。ラップを乗せられない曲が1曲でもあると悔しくて、乗せられるまでトライし続けているので、どんなタイプの曲であってもラップ出来そうな手応えはあるんですけど、ぶっちゃけ、それが悩みでもあるんですよ。というのも、そういうスタイルだと聴く人にどっち付かずでフワフワした印象を与えている気がして、聴いてすぐにその人のものであることが分かるラップの方がいいんじゃないかなって迷いながら、今回のアルバムを作ったんですよ。

─Jくんが指摘してる古風な言葉は意識して使ったりしているんですか?

Daichi Yamamoto:考えたことなかったです。でも、そう言われて考えてみると、自分は英語の曲かJ-POPかという感じで音楽を聴き始めて、日本語ラップを聴き始めたのは結構遅かったんですよ。だから、出てくる言葉もJ-POPの影響がありそうな気がするし、リリックは英語から日本語に変換して書いたりもするので、英語の曲を聴いてきた経験が他の人とはニュアンスが異なる日本語に反映されているのかもしれないですね。

─J-POPといえば、「She Ⅱ」に出てくる「空も飛べるはず」っていう一節はSPITZから引っ張ってきてるんですよね?

JJJ:SPITZ好きだった?

Daichi Yamamoto:好きっすね。

─こういうアルバムを作るということは好きな音楽も幅広いということですよね?

JJJ:俺もそう思いますね。

Daichi Yamamoto:そう……なのかな。ヒップホップはもちろん、父親がレゲエバーをやっていて、子供の頃、ジャマイカに住んでいたこともあるので、レゲエは昔から聴き親しんできましたし、高校生のときにはハウスを教えてもらって、そういうトラックでラップしたり。最近だと久保田利伸のベストアルバムかな。そのなかでも「北風と太陽」って曲をずっと聴いていたり、あとUKのラップですね。自分のなかではUSのラップより面白くなってきてるんですよ。

JJJ:俺もそうだし、周りでもUKのラップを聴いてるヤツが増えてますね。ちょうどDaichiから電話をもらうようになった頃から、UKの流れを気にするようになったんですけど、歌ったりもするし、ラップのノリがスクエアというか、カクカクしてて、渋い声のラッパーが多い気がする。

─DaichiくんはUKヒップホップのどういうところに惹かれているんですか?

Daichi Yamamoto:雑な言い方なんですけど、USはチャラすぎるというか、3回くらい聴いたらもういいやっていう曲が増えてる気がするんですよ。それに対して、UKはエグみがあって、何回も聴きたくなるし、聴く度にいいなって思う。

JJJ:それ、すごく分かる。

Daichi Yamamoto:あと、気のせいか、音がめっちゃいいというか、綺麗な鳴りの作品が多いっていう印象があります。

JJJ:ミックス、マスタリングがいい?

Daichi Yamamoto:そう。最近だとずっと好きだったKojey Radicalの新しいアルバム『Cashmere Tears』が良かったですね。

─Kojey Radicalって、それこそ声が渋いラッパーですよね。

Daichi Yamamoto:そう。渋い声で、歌も歌えば、ラップはWu-Tang Clanを速くしたような感じで、動きはChildish Gambino(笑)。彼は絵描きでもあって、アートディレクションに力を入れてたり、ミュージックビデオの世界観も統一されているし、結構背が高くて、ファッションはファーコートにブリンブリン。その下に緑のジャケットを着てて、しかも、バキバキに腹筋が割れてるっていう(笑)。

JJJ:情報量が多すぎて、全然想像がつかない(笑)。

Daichi Yamamoto:USにはいないタイプのラッパーですね。

─個人的な印象として、Daichiくんのアルバムのクロスオーバー感覚もUSよりUKのそれに近い気がします。

Daichi Yamamoto:そうかもしれないですね。ロンドンでクラブが何軒もあるエリアではこっちでパンク、あっちでハウス、そっちでレゲエという感じで、いろんな音楽があるのが当たり前の環境で、友達も「俺らは俺らの音楽を聴く」という感じでUSに対抗意識を持ってる人がいたり、逆にUSに対して、めっちゃ憧れている人がいたり。いろんな人から教えてもらった音楽をインプットしていたので、もしかするとそういう影響が表れているのかもしれないですね。

JJJ:あと、今回のアルバムだと佐々木(KID FRESINO)とやってる「Let It Be」が良かった。あの2ステップのビートはまさにUKって感じだし、Aru-2だったり、VaVaだったり、参加しているビートメイカーからDaichiの繋がりが見えて面白かったよ。

─どういう全体像を思い描いて、このアルバムを作ったんですか?

Daichi Yamamoto:最初にJさんと曲を作っていたときと一緒で、自分の気になる人や周りから推薦されたビートメイカーから集めたビートに片っ端からラップを乗せるという作業を延々と続けていました。ただ、デッドラインを決めていなかったので、あるとき、担当のJAZZY SPORTのマサトさんから『そろそろ、まとめないとヤバくない?』って言われて。そこからまとめの作業に入りました。

─では、まとめの段階まで、これといったイメージはなかった?

Daichi Yamamoto:リリックの内容をどうするか。ちょっと冷たいサウンド、青っぽいイメージにするとか、ざっくりとは決めていたんですけど、それ以上のことはきっちり詰めていたわけではなかったので、作業しながら、途中から考えるようになりました。

─ちなみにJくんはどうやってアルバムをまとめていくんですか?

JJJ:俺の場合、制作のスピードがそんなに速くないし、Daichiみたいにいろんなタイプの曲にラップを乗せたいという気持ちはないから、Daichiみたいに曲のバリエーションがあるのはすごいと思う。自分は1曲1曲決め打ちで曲を作って、アルバムにまとめていく感じです。

Daichi Yamamoto:Jくんのそういうところに憧れます。

JJJ:はははは。

─そういう対照的な2人がアルバムで「She」の続編を作った経緯は?

Daichi Yamamoto:Jさんにはどういう形かでアルバムに参加してほしくて。

JJJ:で、なんかのタイミングで家に遊びに来たとき、ストックしていたビートを聴かせたら、確か、ニューヨークで作ったものだと思うんですけど、あのビートにDaichiが反応したんです。ここ最近は4つ打ちを作ったり、『HIKARI』の頃とは自分のモードが大分変わってきている。

Daichi Yamamoto:で、Jさんの家でそのままフックのラップも録って持ち帰って。どういう曲にしようか考えていたんですけど、今回のアルバムは女性についての曲が多かったので、この曲は女性テーマ以外でいこうとしたんですけど、そのせいか、その後、しばらく迷走したんです。なので、そこは正直に最初にフックが思い浮かんだときのフィーリングを大切にして書くことにしました。そこから「She」の続編にするアイデアを思い付いたんです。

JJJ:このアルバムを聴くと、女が何人か出てくるっぽいじゃないですか(笑)。でも、劇的なことはそうそう起こるわけないから、Daichiから電話で「She」の続編にしたいと言われて、その時点では書くことがないかもしれないって思ったんですけど(笑)、追い詰められつつもDaichの希望に応えられてよかったです。

─そうやって身を削ってリリックを書いた甲斐あって、続編らしい深みのある曲、アルバムになりましたね。

Daichi Yamamoto:僕は自分の音楽に自信がなかったので、褒めてくれる人がいて、ホッとしました。うちの父は『その曲には言霊がないわ』ってズバズバ言う人なんで(笑)。

JJJ:はははは。京都へライブしに行ったときにお会いしたんですけど、Daichiの親父はめっちゃファンキーなんですよ。

─京都のクラブMETROのオーナーであり、それ以前、80年代初期に日本初のレゲエバーを始められた方ですもんね。

Daichi Yamamoto:そういう父なので、言霊がないラッパーはダメだって言うんですよ。「上海バンド」を先行リリースしたときも「ちゃうわ。緩くてフワフワしとる」って(笑)。

─そういう曲を狙って作ったのに!

JJJ:親父はどういう日本語ラップが好きなの?

Daichi Yamamoto:ハードなやつ。だから、JさんがMETROに来たとき、『言霊があるわ』って、めっちゃ絶賛してて(笑)。

JJJ:言霊あるんだ? 嬉しいな(笑)。

Daichi Yamamoto:Jさんのライブを観て、「あれくらい強くいかなアカンで」って言われたりしてたんですけど(笑)、完成したアルバムを聴かせたら、「アルバムの流れで聴くと『上海バンド』もええわ」って言ってもらえました(笑)。父のことはさて置き、このアルバムを出したことで、周りのリアクションに背中を押してもらえたというか、次の作品もまた頑張って作りたいですね。

INFORMATION

Daichi Yamamoto

Daichi Yamamoto
『Andless』
on sale / DDCZ-2237 / ¥2,500+税
Jazzy Sport

Daichi Yamamoto 『Andless』 Release Live
■東京公演
2019年12月13日(金)at 渋谷WWW
Open 19:00 / Start 20:00
Adv. ¥3,000 / Door. ¥3,500 (各1D別)

前売り券:
チケットぴあ【Pコード:168-127】http://t.pia.jp/
ローソンチケット【Lコード:75101】http://l-tike.com/
e+ 【 https://eplus.jp/sf/detail/3122600001-P0030001

■京都公演
2019年12月15日(日)at 京都METRO
Open 18:00 / Start 19:00
Adv. ¥2,000 / Door ¥2,500 (各1D別)

前売り券:
チケットぴあ【Pコード : 164-600】 http://t.pia.jp/
ローソンチケット【Lコード:51677】http://l-tike.com/
e+ 【 https://bit.ly/2jW7s3j

JJJ

https://www.instagram.com/__j_j_j__/

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