okadada x CYK対談。ハウスそのものであるMASTERS AT WORKの魅力からシーンの変遷まで
text_Jun Fukunaga, Photography-Ryuichi Taniura
EYESCREAM編集部
90年代のデビューから現在に至るまでハウス史にその名を燦然と輝かせるMASTERS AT WORK。音楽の可能性を無限に拡げたLouie VegaとKenny Dopeによる史上最強のユニットである彼らが今年も来日、年に1度の「MASTERS AT WORK in Japan」が11月17日(日)、新木場ageHaにて行われる。長きに渡りシーンを支えてきた彼らだけにそのファン層は幅広い年代に広がっていることは疑う余地もないが、今、東京の最前線で活躍する若きDJたちは、MAWについてどのような印象をもっているのだろうか? 本イベントに出演するokadadaとCYKのNari & Kotsuの対談に、イベントのオーガナイズを手がけるPRIMITIVE INC.の大山陽一を交える形で、MAWという存在やその文化の継承、現在の日本における最新のハウスシーン事情などについて話を伺った。
okadada:僕が初めてMAWを意識したのは18歳の頃に買った編集盤の『Masters At Work In the House』を聴いたときですね。ハウスの始祖というか、ハウスを聴いていけば、大体このあたりから派生しているし、MAWの偉大さというよりは、MAW自体がハウスを象徴する存在だと捉えているところがあります。CYKは僕より10歳くらい若い世代ですが、自分を含めてリアルタイムで通過していない人にとって、ハウスとはMAWの上に全部あるみたいな感じに思えるくらい偉大で、いうなれば、もはやその偉大さがわからないくらい偉大な存在なのかもしれません。
okadada:MAWはハウスというより”ニューヨークハウス”の象徴といったイメージがあります。僕はヒップホップから音楽に入ったのでKenny Dopeというと「Get On Down」のイメージが強い。それを聴いたときにカッコいいインストだと思ったし、Kenny Dopeという人が作っているんだということを知り、MAWのことや彼がハウスも作るアーティストだということも知りましたね。
okadada:Kenny Dopeでいえばさっきの「Get On Down」ですが、MAWなら例の編集盤に収録されているDeep Sensation「Somehow, Somewhere (There’s A Soul Heaven)」。今でもDJでたまにプレイするし、MAWを感じる1曲となった場合、僕の中ではやっぱりこの曲になりますね。
Nari:Black Masses「Wonderful Person (MAW Vocal Mix)」です。父親がブラックミュージック好きでジャズドラムをやっていたこともあり、その周辺の音楽をよく聴いていました。その中でもCurtis Mayfieldが好きで、「You Are, You Are」をサンプリングして四つ打ちにしているところがすごくカッコ良かったし、印象に残っています。
Kotsu:僕がハウス自体に出会ったのは、マンチェスターのバンドカルチャーとアシッドハウスが交差した頃の音楽を知ったとき。最初はアシッドハウスから入って、狂える音楽というかギロっとした感じが好きで。なので、自分の中でハウスに明るい要素を求めてなかった部分がずっとあって、もっと暗いテクノとか不穏な感じの音楽が好きでした。
でも明るいハウスが流れているパーティーに行ったときに、そこまで良さがまだわからなかったものの、先輩に「このニューヨークハウスのDJは歌詞も大事にしている」といったようなことを教わって「へぇー、そんなこともあるんだな」と思って。そのパーティーで最後にプレイされていたのがBeBe Winans「Thank You (MAW Mix)」でした。今年のRainbow Disco ClubでJayda Gもプレイしてお客さんを大爆発させていてめちゃくちゃ気持ちよかったし、思わずレコードで買ってしまうくらい気に入っている曲ですね。
大山:その「Thank You」は去年のパーティーの最後にプレイされた曲で、okadadaくんがさっき話してくれたKenny Dopeの「Get On Down」はプロジェクトをスタートさせた2016年のアンコールでかかった曲です。
Nari:1年くらい前なら〈SHALL NOT FADE〉周辺だったと思いますが、今は難しいですね。
Kotsu:僕の中ではUKガラージみたいなノリというか、雰囲気的に甘い感じのテイストはまた戻ってきているように感じますね。今の東京ではレイヴのように激しく騒ぐ感じがトレンドになっているので、その対極にある甘いハウスのようなスウィートな部分は僕ら世代のダンスミュージックからは抜け落ちていると印象があります。自分としてはそのハードだったりディープな部分はしっかりと体験してきたので、今度はその部分にアプローチしていきたい。その中でシンセが気持ちいいドリーミーなハウス、Project PabloのテイストとUKガラージのようなノリはマッチすると考えているので、今はそこを意識的にやっています。曲でいえば、今年、リリースされたJoey G ii「2003, South London」なんかはまさにその感じですね。
Kotsu:そうですね。そういう意味で僕らと同世代のクラブ好きが「MASTERS AT WORK in JAPAN」に遊びにくることには意義があると思います。ロマンチックが強すぎるが故のリアリティのなさみたいなものを感じてもらえるというか、MAWに関していえば全盛期を知らないだけに、ちょっとひねくれた視点で見ているところもありますね。