MUSIC 2019.11.07

okadada x CYK対談。ハウスそのものであるMASTERS AT WORKの魅力からシーンの変遷まで

text_Jun Fukunaga, Photography-Ryuichi Taniura
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

90年代のデビューから現在に至るまでハウス史にその名を燦然と輝かせるMASTERS AT WORK。音楽の可能性を無限に拡げたLouie VegaとKenny Dopeによる史上最強のユニットである彼らが今年も来日、年に1度の「MASTERS AT WORK in Japan」11月17日(日)新木場ageHaにて行われる。長きに渡りシーンを支えてきた彼らだけにそのファン層は幅広い年代に広がっていることは疑う余地もないが、今、東京の最前線で活躍する若きDJたちは、MAWについてどのような印象をもっているのだろうか? 本イベントに出演するokadadaCYKNari & Kotsuの対談に、イベントのオーガナイズを手がけるPRIMITIVE INC.大山陽一を交える形で、MAWという存在やその文化の継承、現在の日本における最新のハウスシーン事情などについて話を伺った。

—まず、MAWとはどのように偉大な存在なのでしょうか?

Nari:僕が偉大だと思うのは、そういう話になると必ずMAWの名前が挙げるところですね。CYKでもハウス、テクノに関わらず同世代の海外アーティストを呼んでいますが、彼らも口を揃えてMAWのことを偉大な存在として名前を挙げる印象があります。

Kotsu:逆に日本の同世代のDJとは普段、MAWについて話をすることはありませんが、みんなが知っているし、ハウスのアーティストとして認知されている印象があります。曲が素晴らしいのはもちろん、「これだけの功績を残している」みたいな話がなくてもすんなり入ってくるし、単純に気持ちいい。”ハウス”という名前が表に出てこずともそう思えるような存在ですね。

—okadadaさんはどうですか?

okadada:僕が初めてMAWを意識したのは18歳の頃に買った編集盤の『Masters At Work In the House』を聴いたときですね。ハウスの始祖というか、ハウスを聴いていけば、大体このあたりから派生しているし、MAWの偉大さというよりは、MAW自体がハウスを象徴する存在だと捉えているところがあります。CYKは僕より10歳くらい若い世代ですが、自分を含めてリアルタイムで通過していない人にとって、ハウスとはMAWの上に全部あるみたいな感じに思えるくらい偉大で、いうなれば、もはやその偉大さがわからないくらい偉大な存在なのかもしれません。

—確かにリアルタイムで通過していない人にとっては、そういった存在なのかもしれませんね。そんなMAWですが、音楽だけでなく今に連なるカルチャーに、どういった影響を与えてきたかとお考えですか?

Kotsu:さっきokadadaさんが言われたように、MAWは始祖のようなものだから、彼ら自体がいろいろなものを結びつける、ある種の基準のひとつになっているように思います。今もその構造自体に変化はなく、音の聴き心地がMAWに近い音源はリリースされているし、彼らのことを知らない世代からしても、名前は知らなくても受け入れられています。そういったことに”文化の継承”を感じます。

okadada:MAWはハウスというより”ニューヨークハウス”の象徴といったイメージがあります。僕はヒップホップから音楽に入ったのでKenny Dopeというと「Get On Down」のイメージが強い。それを聴いたときにカッコいいインストだと思ったし、Kenny Dopeという人が作っているんだということを知り、MAWのことや彼がハウスも作るアーティストだということも知りましたね。

Nari:その感じはありますよね。僕も聴き始めた頃は、「Kenny Dopeって何のジャンルの人なんだろう?」と思ったことがあります。

okadada:サルサとかの要素が入っているのも“ニューヨークの伝統“みたいな感じでいいよね。シカゴハウスもよく聴きますが、それはニューヨークハウスを知った後でした。僕の世代だとハウスなら所謂“乙女ハウス“と呼ばれている音が流行っていたんです。それこそageHaでやっていた「HOUSE NATION」もそうですけど、あの手の日本流にアレンジされたポップなハウスミュージックは、ニューヨークハウスや〈Defected〉からの影響下にあるものだと思います。もちろん精神性はまた別の話ですが。

—30代前半のokadadaさん、20代中盤のCYKのNariさん、Kotsuさん、それぞれの世代にとって、MAWを感じる曲を1曲選ぶとしたら?

okadada:Kenny Dopeでいえばさっきの「Get On Down」ですが、MAWなら例の編集盤に収録されているDeep Sensation「Somehow, Somewhere (There’s A Soul Heaven)」。今でもDJでたまにプレイするし、MAWを感じる1曲となった場合、僕の中ではやっぱりこの曲になりますね。

Nari:Black Masses「Wonderful Person (MAW Vocal Mix)」です。父親がブラックミュージック好きでジャズドラムをやっていたこともあり、その周辺の音楽をよく聴いていました。その中でもCurtis Mayfieldが好きで、「You Are, You Are」をサンプリングして四つ打ちにしているところがすごくカッコ良かったし、印象に残っています。

Kotsu:僕がハウス自体に出会ったのは、マンチェスターのバンドカルチャーとアシッドハウスが交差した頃の音楽を知ったとき。最初はアシッドハウスから入って、狂える音楽というかギロっとした感じが好きで。なので、自分の中でハウスに明るい要素を求めてなかった部分がずっとあって、もっと暗いテクノとか不穏な感じの音楽が好きでした。
でも明るいハウスが流れているパーティーに行ったときに、そこまで良さがまだわからなかったものの、先輩に「このニューヨークハウスのDJは歌詞も大事にしている」といったようなことを教わって「へぇー、そんなこともあるんだな」と思って。そのパーティーで最後にプレイされていたのがBeBe Winans「Thank You (MAW Mix)」でした。今年のRainbow Disco ClubでJayda Gもプレイしてお客さんを大爆発させていてめちゃくちゃ気持ちよかったし、思わずレコードで買ってしまうくらい気に入っている曲ですね。

大山:その「Thank You」は去年のパーティーの最後にプレイされた曲で、okadadaくんがさっき話してくれたKenny Dopeの「Get On Down」はプロジェクトをスタートさせた2016年のアンコールでかかった曲です。

okadada:ファンからすると「あともう1曲!」というところであの曲がプレイされるのはうれしいですよ。絶対に盛りあがるし、みんなの思い出になるはず。

—近年はMAWを含めて90年代に活躍したアーティストたちが生み出したような90sハウスのリヴァイバルやLo-Fiハウスと呼ばれるようなムーブメントも生まれたほか、ハウスから派生した音楽がシーンを賑わせています。MAWという地点から見た場合、実際にDJとしてクラブでプレイされる立場から今の最新のハウスといえるのはどのようなものですか?

okadada:Lo-Fiハウスとハウスクラシックの再評価というのは個人的には別モノだと思いますね。どう思う?

Nari:そうですね、Lo-Fiハウスはもうちょっとテクノ寄りな印象があります。

Kotsu:ハウスのトレンドとしてはドリーミーなものもちょっと前にはありましたが、今はそれも少し落ち着いて、壮大にバン! となるようなものでなく抑え気味というか、夢見心地くらいの感じになっていると思います。

okadada:でも〈THE TRILOGY TAPES〉方面のゴリゴリしたトラックなんかは遡っていけばTheo Parrishみたいなデトロイトハウスになるんじゃない? Lo-Fiハウスでいえば、全部彼の初期作品に結局戻っていくようなものだし、MAWのようなニューヨークハウスとはあまり接点はないと思いますね。それと今でも初期ハウスの再発は行われていますが、あれも直接は関係なく”90sまとめてブーム”になっているような気がします。だから逆に僕からNariくんとKotsuくんにCYK世代のDJが思う最新のハウスついて聞いてみたい。

Nari:1年くらい前なら〈SHALL NOT FADE〉周辺だったと思いますが、今は難しいですね。

Kotsu:僕の中ではUKガラージみたいなノリというか、雰囲気的に甘い感じのテイストはまた戻ってきているように感じますね。今の東京ではレイヴのように激しく騒ぐ感じがトレンドになっているので、その対極にある甘いハウスのようなスウィートな部分は僕ら世代のダンスミュージックからは抜け落ちていると印象があります。自分としてはそのハードだったりディープな部分はしっかりと体験してきたので、今度はその部分にアプローチしていきたい。その中でシンセが気持ちいいドリーミーなハウス、Project PabloのテイストとUKガラージのようなノリはマッチすると考えているので、今はそこを意識的にやっています。曲でいえば、今年、リリースされたJoey G ii「2003, South London」なんかはまさにその感じですね。

okadada:確かに「甘いガラージいいね」みたいにはなってきているところはあるとは思う。でも流行りもいろいろあるし、もっとダークなものが来ているような気がします。今はまだメインストリームではないけど、ダークでも甘いものでもない、そのどちらでもないものをプレイするDJは、ジャンル問わず鋭いなと思います。
今のハウスシーンでいえば「MAWが先鋭的」とかはならないけど、最初に話したようにその手の対象ですらないので、MAWはそこにいてくれたらいい。みんながいずれ帰る“実家“のような。そういう存在だからこそ、パーティーで最後にプレイされるとうれしかったりしますよね。

Kotsu:そういった曲はDJセットに温かみを加えたいと思った場合に1〜2曲かけたりもします。

Nari:それで歓声があがるのは最高だよね。

okadada:日本も含め、ニューヨークハウスが世界的に猛威を振るったという感じで流行ったのは2000年代前半だと思うんです。でもトレンドの順番が今はUKやシカゴハウス。サウンドでいえばMAWのようなグルーヴィーなものでなく、もっと簡素な打ち込みの音楽というか、カチャカチャしたリズムの音楽がトレンドで。今はみんながレイヴやトラップみたいな音楽を聴いていることを考えると揺り戻し的にMAWのような音楽が待望されている部分も少なからずあるのではと。

Kotsu:もしかしたら僕がそのタイミングなのかもしれませんね。本当に毎日クラブに行くので、MAWのような甘い曲を求めているところがあります。

—仮にMAWの曲を知らなくても聴けば身体は動くという感じでしょうか?

Kotsu:そうですね。そういう意味で僕らと同世代のクラブ好きが「MASTERS AT WORK in JAPAN」に遊びにくることには意義があると思います。ロマンチックが強すぎるが故のリアリティのなさみたいなものを感じてもらえるというか、MAWに関していえば全盛期を知らないだけに、ちょっとひねくれた視点で見ているところもありますね。

Nari:「何でこんなロマンチックな曲が作れるんだ?」みたいなね。

—リアルタイムでMAWを通過していない世代だからこそのそういった見方がありますが、今回、大山さんはオーガナイザーとしてなぜ彼らのような若いDJをパーティーにブッキングしたのでしょうか?

大山:もちろんMAWは今でも進化を続けていてLouie Vegaの最新アルバムはグラミーにノミネートされたりもしているのですが、個人的にはハウスの王道を越えて伝統芸能の域にきていると思っています。伝統芸能は常に若者が継承していくものでもあるし、さっき話に出た揺り戻しのように、MAWの「Deep Inside」の声ネタがいろいろなトラックに使われていたりと、時代のムードに今、なんとなくフィットしはじめている気がします。
ハウスのスタンダードとしてMAWの音楽はずっと存在し続けていましたが、先駆者たちの良質な音楽を、若い世代やクラブで遊びはじめたばかりの人に届けるためにはシーンの最前線で活躍している人たちと一緒にやることも重要。彼らのフィルターを通して化学反応が起きればおもしろいですね。

—今回のパーティーも大人だけでなくキッズエリアが設けられるなど幅広い層の音楽好きが楽しめる環境になっていますが、今、クラブシーンでは世界的に見てもクラブに遊びに来るすべての人が人種、性差に関係なく安全で楽しめる環境が求められています。現在、日本のクラブシーンにおいてもアンチハラスメントに関するステイトメントを掲げるイベントやクラブも見かけるようになってきましたが、そういったハウスに宿る差別解消の精神性にも通じるアティチュードの部分についてはどうお考えですか?

Kotsu:CYKのイベントではそういったステイトメントを掲げて、それに対する同意をリストバンドで示した上で入場してもらっています。これに関しては、僕らがパーティーを楽しんでいるつもりでも、その中には実は嫌な思いをしている人がいた場合、自分たちが楽しい顔をすればするほど、見て見ぬふりをすることになる。単純に「人に嫌なことはしない」ということを突き詰めていくことで、昔のような「クラブはグレーなところがいい」みたいなことにはならないように。それについて、僕ら世代は理解している人が多い気がしますが、あくまで気がするという話なので、そこはちゃんとコミュニケーションしていく必要があるし、そういった動きをしています。

okadada:昔はもっと単純に物事が動いていたし、曖昧な部分も確かにありました。でも今はそれを見直してもっとちゃんとしようという機運が高まってきているのはすごく良いことだと思います。今は人間が持つ理性でそれをやめようしている時期。僕はダンスミュージックやクラブミュージックは、さまざまな問題について自分で考えることを促す運動だと考えています。

大山:音楽で楽しもうと抑圧された人々が集まり始まったクラブの歴史を考えると、そういったアティチュードはクラブの本質なのかもしれませんね。

Kotsu:僕らは元からあるハウスの精神を参照しているし、”ハウスミュージック・コレクティヴ”と名乗る限りは、そういったスタイルを貫いていきたいですね。

INFORMATION

PRIMITIVE INC. 13th Anniversary
MASTERS AT WORK in JAPAN
‒ Our Time Is Coming –

■DATE:11月17日(日)14:00-21:00
■VENUE:ageHa @STUDIO COAST
■TICKET:
<前売券>
Category4:¥5,500
Group Ticket2(5Persons):¥24,000 -Limited-
U-23 Ticket2:¥3,500
VIP Pass Category2:¥7,500
<当日券>
Door ¥6,500 / U-23 ¥4,000
■INFO:www.mawinjapan.com

■LINE UP
ARENA:
MASTERS AT WORK(Louie Vega & Kenny Dope)
Lighets by Ariel

Manhattan Island supported by Manhattan Portage:
CAPTAIN VINYL(DJ NORI & MURO)
Mayu Kakihata

Romper Room supported by COCALERO:
Kan Takagi
Kaoru Inoue
Yoshinori Hayashi

WATER supported by Red Bull:
CYK
Dazzle Drums
Mayurashka
okadada
Shinichiro Yokota

DANCE CYPHER supported by Lee:
KAZANE (LUCIFER)
KEIN (XYON)
KTea
KYO (VIBEPAK)
OHISHI (SODEEP)
SUBARU (SODEEP)
TAKESABURO (SODEEP)
UEMATSU (SODEEP)

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